GⅡオールカマー('17年)は才女ルージュバックが美しいフットワークと「まさか」のイン強襲で勝利ーー回顧

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63回産経賞オールカマー(GⅡ中山芝2200m)は、5番人気のルージュバックが、あの馬群をイヤがるルージュバックが道中でインコースをのびのびと走り、直線の最内を突いて伸びるとステファノスの追撃をしのいで1着でゴールしました。ここまで、少頭数をのぞくと外枠からのスタートとなったレースに好走歴が偏っているルージュバック。この気性的な難しさを抱える才女が馬群のなかで集中を切らさずに走った姿には、驚きだけではなく喜びの感情が湧いてきて……。4コーナー手前でのコーナーリングの不器用さはまだ改善されておらず、そのせいで他馬に迷惑をかけてしまいましたが、オールカマーは才女の輝きを取り戻した1戦だったと言えます。「うわ〜ん、僕たちのルージュバックがついに戻って来たよ〜!」と叫びたくなりましたね。

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オールカマーは中山中距離のレースにまま起こる「アレ」が……

中枠から押して押してハナを取り切ったマイネルミラノが作ったペースは、前半1000mの通過が63.1秒のスロー。後半1200mのラップが12.5 - 12.1 - 11.3 - 11.2 - 11.6 - 12.0のスローからの持続戦になりました。中山で行われる芝の中距離戦は、前半がかなりゆったりと流れているにもかかわらず、なぜか馬群がバラけて縦長になることがままあります。本来、緩い流れになれば道中は馬群が詰まって一団で進むことが多いのですが、今年のオールカマーのように縦長になることがまま見かけることが……。

残り1200mからレースのペースがグッと上がり、後方に位置した馬たちは縦長の馬群が仇となって、ノーチャンスの競馬になってしまいました。前後半の1000mが63.1 - 58.2では後ろのポジションだと厳しいですよね。前半をゆったり入りたい馬の多い1戦で、ペースを引き上げてプラスになるような馬もいませんでしたし、終わってみればさもありなんの展開でしたね。

 

ルージュバックのオールカマーでの好走と今後について

ルージュバックは好スタートからスッと内ラチ沿いにつけ、「もしかして、北村宏は逃げるのか?」と胸をドキドキさせたのもつかの間、すぐに彼女を抑えにかかってインのポケットに入ります。ここからルージュバックには2つのラッキーが訪れました。

 

1. 前に大きなスペースが広がっている好位のポジション

1コーナーから向正面、そして3コーナーと好位のポジションにつけながら、前を走るマイネルミラノとディサイファとマイネルディーンとは距離があり、前のスペースがガラリと空いているシチュエーションが続きました。ルージュバックの外に付けていたステファノスとも馬体を離しての並走でしたから、ほとんどプレッシャーのかからない状態で走ることができたのは大きかったと言えます。

 

2. 4コーナーで他馬と接触しインへ進路をとることに

ルージュバックは4コーナーでディサイファの外へ進路を取ろうとしたときに外のステファノスと間のマイネルディーンを挟んでしまいました。マイネルディーンは大きな不利を受け、この外へ急激に膨れてしまったのはルージュバックの不器用さを示すものです。この後すぐにディサイファのインへ進路を取り、結果として4コーナーを直角に回れたのはプラス。コースロスなくスピードを上げることができました。

 

ただ、いつものルージュバックは直線でインへ潜り込むとまったく伸びないので、これは一か八かの選択だったと思います。一瞬だけ逃げるマイネルミラノのインを突くときに躊躇するような仕草を見せたものの、しっかりと伸びきっての勝利。直線で外に馬がいても伸びたのは大進歩で、一気にエンジンを吹かすよりも少しずつスピードを上げてしまえば、最後まで脚を使えることがわかりました。スピードに乗り切ってしまえば、外に馬がいても集中することができるのでしょう。

 

エリザベス女王杯に向けて

古馬牝馬チャンピオンを決めるGⅠエリザベス女王杯は、オールカマーと同じ右回り芝2200mで行われます。今回、コーナー4つのコースをしっかりと好走できたのはプラスで、スタートから出して行って好位のポジションを取れたのも大きな収穫です。もともとしなやかで美しいフォームで走るルージュバックはレースでガツンとかかるタイプではないため、逃げても追い込んでもスムーズに流れに乗りさえすれば力を発揮できます。

オールカマーのレースぶりを見ると、前に大きなスペースがあればインのポケットでもOK。また、外にぴったりと馬体を併せてプレッシャーをかけられなければ実にのびのびとしたフォームで落ち着いて走れます。今回の好走で「また」他馬からのマークも厳しくなるため、GⅠで今回と同じようにノープレッシャーのレースができるかどうかが鍵になるでしょう。3〜4コーナーからしっかりとスピードを上げて脚を出し切れればチャンスは十分に。

 

2着ステファノスと3着タンタアレグリアについて

1番人気のステファノスは好位のポジションからレースを進め、3〜4コーナからペースアップして捲ると直線の真ん中を伸びての2着。タンタアレグリアはステファノスを前に見る形で道中は折り合いに専念し、3コーナーから動いて捲るものの先に抜け出したステファノスを捕まえることができずに3着となりました。

 

2着ステファノス

前半はゆったりと入りたいステファノスにとって中山芝2200mというコースは合っていましたし、ドスローからの残り1200mのロングスパート戦も「ドンと来い!」の展開でした。戸崎騎手からすればミスらしいミスのない競馬で、ステファノスの力通りに2着にもってきたな〜というレース。この馬が好走した2015年、16年の天皇賞・秋からも、高速馬場+スローからの上り33秒台のレースが合ってるので、中山の馬場がもうちょっとだけ軽ければ……ただ、それでもルージュバックを交わすところまで難しかったかもしれません。

次走の天皇賞・秋は前半のペースが緩くなり、上り33秒台でバキューンと弾ける馬が好走できるレースの質になるのなら、有力な1頭でしょう。中山も阪神内回りも東京でも好走できる器用さがあり、体調さえ整っていればコース不問で能力を発揮できるからこそ、「このレースはずんどば!」と胸を張れる適性がないのが長所でもあり短所でもある馬。メンバー次第では十分に天皇賞・秋も有力とは言え、サウンズオブアースと似たタイプなので……。大きな力の衰えなどはなく今後も楽しみですね。

 

3着タンタアレグリア

蛯名騎手がタンタアレグリアを落ち着き払ってエスコートし、終始スムーズなレース運びで3着。出遅れ+かかる+ダンサブルな早仕掛けという「蛯名騎手の3点セット」は現れることはありませんでした。蛯名騎手は、札幌記念を勝ったサクラアンプルールでの騎乗のように、1番人気の馬を前に置いてマークする形だとスムーズなレース運びができますね。

タンタアレグリアは休み明けに加え、道中でステファノスやルージュバックの後ろから外を回す形でしたから、十分に力を見せた3着だったと言えます。この馬はMr. Prospector4×4のしなやかストライドで走るので、残り1200のロングスパート戦になったとは言え、中山で上り33秒台の決着になるとツライ……。

次走は出走が叶えばジャパンカップへ向かうとのことで、コース適性としてはオールカマーよりも条件が良くなりますし、人気が急落するようならサトノクラウンの相手候補としては面白いかもしれませんね。蛯名騎手がこれほどどっしりと構えて乗れる馬ということは、能力が相当あることを示していますから。体調をしっかりと整えられればぜひジャパンカップに出走して欲しい1頭。

 

◎アルバート7着、◯ショウナンバッハ5着

アルバートの石橋脩騎手はソツなく乗っての7着。もう少し前目のポジションを取っていないと、この上りでは勝ち負けに加わることはできませんでしたね。今日の走りを見ても、本質的に芝2200mが短いということはなく、ここを使って変わり身はあるでしょう。問題は次走をどうするのか……。メルボルンCは名の通ったステイヤーたちが挑戦しても手が届いていないGⅠですから、遠征して勝てるのかどうかは「?」がつきます。ボウマン騎手が確保できるのならいいのですが。私的には国内に専念して欲しい1頭です。

ショウナンバッハは内をソツなく回って直線では大外に出して伸び、5着を確保しました。柴田善騎手らしいマイルドな捲りで、一瞬3着はあるかな〜と思って観てましたが、最後は他馬と脚色が一緒になってしまいましたね。スローからの上り勝負はドンと来いの馬。母系のしなやかさと馬体重の軽さが影響し、ステイゴールド産駒としては中山をパワーで捲るのはイマイチです。しなやかだけれどもストライドがグングン伸びるタイプではないので、東京よりも京都外回りコースに向いています。ただ、長距離輸送があまり得意ではなく、そこが難しいところ……。小回りなら滞在競馬が可能な小倉コースは合いそうですが。

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その他の馬について

逃げて4着に粘ったマイネルミラノは、柴田大騎手らしくスローに落としてからの3〜4コーナーで一気に仕掛ける形で後ろを出し抜きましたが、ゴール前で甘くなり……。行き脚が以前よりはつかなくなり、今はこれくらいの距離の方がゆったりと入れる分、合っているのかもしれません。本来は速いペースで逃げる馬を目標にして3〜4コーナーでジワリと後ろを離し、直線で再加速したいタイプ。今回はペースが緩すぎたのと一気に脚を使ったために直線で余力を残せませんでした。

モンドインテロは9着。スタートしてからポジションを取れない馬ですから、この外枠が大きく響いか結果に。上り33秒台のレースではこの馬のパワー捲りは合わないので、今日は2コーナーあたりから一か八かで早仕掛け(2番手くらいまでポジションを上げる捲り)をするしかなかったと思います。それでも9着よりも上の着順に押し上げられたのかは……。

ブラックバゴはネックだと内田騎手が最後方から何もできずという競馬……。これでまた人気が落ちるでしょうから、小回り・内回りコースのレースに出走してきたら狙いたいですね。

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まとめ

ルージュバックがその美しくしなやかな走りを取り戻したと同時に、彼女「らしく」ない新たな一面もしっかりと観ることができました。エリザベス女王杯では「また」上位人気になるのかもしれませんが、他馬からのマークが厳しくならないことを祈って……。

皆さまにとって素晴らしいレースになったでしょうか?

 

以上、お読みいただきありがとうございました。