GⅠ凱旋門賞(2017年)は「Enableの、Enableによる、Enableのための凱旋門賞」と言える素晴らしいレースに!

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2017年のGⅠ凱旋門賞(96th Prix de l'Arc de Toriomphe シャンティイ芝2400m)は「Enableの、Enableによる、Enableのための」レースとなりました。いかにもパワー・タイプらしい力強い蹴り込みで直線をアッサリと抜け出すと、2着クロスオブスターズ、3着ユリシーズを尻目に悠然とゴール板を駆け抜けました。これで8戦7勝、英オークスからGⅠ5連勝となったEnable。L・デットーリ騎手に導かれた3歳の怪物牝馬の圧巻のパフォーマンスは、溜息が出るほどに素晴らしいもの。デットーリ騎手は、凱旋門賞の勝利数を歴代単独トップとなる「5」と伸ばしました。

 

母系にShirly Heightsを引く馬の1 - 2 - 3

昨年の凱旋門賞はGalileo産駒が1〜3着を独占したことで話題になりましたが、今年は母系にShirly Heightsの血を引く馬たちの1 - 2 - 3。

Shirly Heightsの父として知られるMill Reefの重厚な走りは、シャンティイ競馬場の長い直線に適しています。2着Cloth of Starsと3着Ulyssesはそれぞれの母が全姉妹の関係でKingmambo×Shirly Heightsという配合。Enableの母ConcentricはSadler's Wells×Shirly Heightsですから、いずれも母系に名牝SpecialとMill Reefの血を引くのです。

1着Enableの父NathanielはGalileo×Silver Hawk(Roberto直仔)とあって、この父のパワーとスタミナが重馬場となったシャンティイの直線を駆け上がるのにより適していたのでしょう。直線の坂をパワフルなフットワークで抜け出したEnableは、そのまま後続を寄せ付けずにゴールを駆け抜けました。

エネイブルの血統表 | 競走馬データ - netkeiba.com

クロスオブスターズの血統表 | 競走馬データ - netkeiba.com

ユリシーズの血統表 | 競走馬データ - netkeiba.com

 

Enable 3歳牝馬

父:Nathaniel

母:Concentric(母父:Sadler's Wells)

厩舎:J・ゴスデン(イギリス)

3歳牝馬として牡馬相手のキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスSを圧勝したEnableは、凱旋門賞を下馬評通りの圧巻のパフォーマンスで快勝しました。Enableを管理するJ・ゴスデン調教師は、2015年のGolden Hornに続く凱旋門賞2勝目。同調教師の3歳牝馬としてキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスSを制して凱旋門賞に挑んだタグルーダは1番人気で3着に敗れていたことから、Enableはそのリベンジを果たしたことになります。

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坂を駆け上がるときのパワーは一級品

今年の凱旋門賞は重馬場のコンディションで行われ、A・オブライエン調教師の管理するアイダホとオーダーオブセントジョージが先行し、その後ろにイネイブルがつける展開。直線に入ってスムーズに進路を確保すると、坂を駆け上がるときのパワーはいかにもSadler's Wells3×2のクロスによるもの。イネイブルが直線で抜け出してしまうと、後続はもうなす術なしでした。

 

今年の凱旋門賞1〜3着馬は似たような血統

先にも述べたように、今年の凱旋門賞の2着クロスオブスターズと3着ユリシーズは母が全姉妹の関係。そして、イネイブルの母系も上記の2頭と血統構成が似ています。1〜3着馬の父はすべて名牝アーバンシーの血を引く(イネイブルの父父Galileoとクロスオブスターズの父Sea The Starsはアーバンシーの仔。また、ユリシーズはGalileo直仔)ことから、シャンティイの重馬場を好走するにはこのような配合が「良い」のだと言えますね。

この3頭のなかで早め先頭で抜け出したイネイブルは、その分だけRoberto的なパワーに優れているからでしょう。タフなキングジョージ&クイーンエリザベスSから凱旋門賞をも制したのは、本当に素晴らしいの一言です。

 

来年も現役続行?

J・ゴスデン調教師はイネイブルについて、来年も現役続行するコメントを出しています。ロンシャンで行われる2018年の凱旋門賞にも出走する意思を見せており、この怪物牝馬が古馬になってどのような走りを見せるのかには注目です。

イネイブルはSadler's Wellsの強いクロスを引くだけに、ここからさらに成長して強くなるのかはわかりません。それは来期のお楽しみですね。

 

競馬の風土が違うからこそ価値がある

日本から今年の凱旋門賞に挑戦したサトノダイヤモンドは15着、サトノノブレスは16着と大敗しました。池江寿調教師はレース後に「馬場が合わなかった」ことを敗因に上げました。確かに、日本で重馬場の経験があったとしても、欧州の馬場は厳しかったのでしょう。

凱旋門賞馬が日本のジャパンカップで苦戦しているように、異なる風土のレースを制するのはとても大変なことです。池江寿調教師も凱旋門賞後のコメント(JRA-VAN Ver. World)で、以下のような発言しています。

「エネイブルについては、もし東京でやればうちの馬が勝つと思います。ただ、競馬はそういうものじゃないですから。2017年10月1日、シャンティイ競馬場のこの条件でやって勝ち馬を決める。それがエネイブルだったということですし、それが競馬です」

引用:コメント | 2017凱旋門賞 | JRA-VAN ver.World

池江寿調教師のこのコメントはまさにその通りで、「競馬の文化」が異なる国のチャンピオンが集まる1戦だからこそ、そして「この条件で行われる」凱旋門賞だからこそ「価値」があるのです。もし、ジャパンカップの優勝賞金が世界NO.1に引き上げられたとしても、そこに競馬としての「歴史」が積み重ねられなければ誰もが「芝中距離のワールドチャンピオンを決めるレース」とは認められないでしょう。世界中の誰もが認め、そして欧州や日本からそれぞれの国の「競馬の文化や歴史」を背負ったチャンピオンが集まるレースだからこそ、凱旋門賞は挑戦する価値があるのです。

 

サトノダイヤモンドはフランスではかき込んで走っていた

サトノダイヤモンドのフォワ賞と凱旋門賞での走り(フットワーク)は、日本で走っているときよりも前脚を強くかき込んでいて、これなら欧州の馬場もOKかなと観ていたのですが、どちらのレースでも好結果は出ませんでした。これはサトノダイヤモンド自身が環境に適応するように変化したのか、それとも厩舎の仕上げとしてそうなったのかはわかりませんが、日本に帰国しての初戦は注意が必要ですね。もし、2〜3歳の頃に見せていたあの素軽く優雅な走りが戻らないのであれば、日本の芝のレースだと不安が先立ちます。

サトノダイヤモンドという素晴らしい競走馬は、母系に引く魅力的な血脈と「これでもか!」とエクスクラメーション・マークをつけたくなるほどHaloのクロスが重ねられており、種牡馬としての価値も高い馬です。そのため、活力のある内にスタッド・インすることを考えると、引退までとにかく無事に過ごして欲しい……それだけを祈っています。

 

まとめ

1頭のモンスターが楽勝した2017年の凱旋門賞。日本で発売された馬券でも単勝オッズは1倍台の支持を受け、レース内容も圧勝と言えるほどのもの。ただ、この日のこのレース、この展開での楽勝であって、ひとつボタンがかけ違えられていたらどうなっていたのかはわかりませんでした。もしパンパンの良馬場だったら、もし馬群に揉まれていたとしたら……。直線に入ったところでイネイブルがオーダーオブセントジョージの外へ進路を取り伸び始めたときに「勝負アリ!」だったとしても、あの一瞬のデットーリ騎手の判断が少しでも遅れて外に出せなかったら……そんな想像を巡らせるのも競馬の楽しみのひとつだと言えます。

皆様にとって凱旋門賞はどのようなレースだったでしょうか?

 

以上、お読みいただきありがとうございました。