5歳牝馬ミッキークイーンとルージュバックは有馬記念(2017年)を好走できるのか?ーー2015年オークスのように

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2015年のオークスは3頭の才女がゴール前で壮絶な叩き合いを演じました。直線早々に抜け出したルージュバックをクルミナルが捕らえにかかり、2頭が馬体を併せて叩き合うところを外からしなやかなストライドで交わしたのがミッキークイーン。

後半1000mが11.9 - 11.9 - 11.3 - 11.6 - 11.9と12秒台が1つもないロングスパート戦となり、ミッキークイーンの「びゅんと加速できないけれど、ズドーンとどこまでも伸び続けられる差し脚」が活きる展開に。ルージュバックは直線の坂下で先頭に立つ積極的な競馬をしたものの、タイトルにあと一歩届かずの2着と敗れました。

5歳になった才女の2頭は、2017年の有馬記念でGⅠタイトルをかけてふたたび争います。ミッキークイーンはオークスの後に秋華賞も制しておりGⅠ2勝、かたやルージュバックはいまだGⅠ「0」勝。この2頭が同じレースに出走するのは、これが「最後」になるかもしれないことを考えると、いくらか寂しさが募ります。

 

ミッキークイーンとルージュバック

牝馬の中距離路線を引っ張ってきた2頭は今秋のエリザベス女王杯に出走し、ミッキークイーンが3着、ルージュバックが9着の成績。インコース+前目のポジションにつけた馬が有利なレースになったことで、4コーナーから直線にかけて外を回した2頭にはノーチャンスの競馬となってしまいました。

有馬記念が行われる中山芝2500mは3コーナーからペースが上がり、末脚を持続させる力と器用さをもち合わせたタイプが好走するコース。2頭ともに「持続力」については牡馬の一線級が相手でもヒケを取らないものの、コーナーで俊敏に加速する器用さの点では不安が残ります。今回の記事では、ミッキークイーンとルージュバックが有馬記念を好走できるのかについて考えてみましょう。

 

ミッキークイーン 5歳牝馬

父:ディープインパクト

母:ミュージカルウェイ(母父:Gold Away)

厩舎:池江泰寿(栗東)

生産:ノーザンファーム

騎手:浜中俊

3歳春のクイーンC(GⅢ・東京芝1600m)のパドックの映像を観たときには「前走からマイナス20kgの馬体で、子鹿みたいに細っそりしている」と肩を落としたものですが、この素質あふれる牝馬と名門厩舎はそこから立て直し、オークスと秋華賞の2冠を制しました。

バンビのようにバネのある美しいストライドで走るミッキークイーンも、もう5歳の秋を迎えることに。脚元が弱いためにレースを使い込むことができないものの、1頭だけ外から差してきた前走のエリザベス女王杯からも能力は間違いなくGⅠ級。

サトノクラウンがロングスパート戦にもち込んだ今夏の宝塚記念で3着と好走しているように、この馬の適性にあった流れになれば牡馬相手のGⅠでもOKです。 

 

血統

母ミュージカルウェイは仏重賞の勝ち馬。母父Gold Awayも仏GⅡミュゲ賞(芝1600m)を制したマイラー。母系を見れば、Northern DancerとIcecapadeのクロス(この2頭は父Nearctic×母父Native Dancerの同配合)、NureyevとBlushing Groom、Mr. Prospectorからスピードを伝えるNasrullah血脈を多く引いています。

ミッキークイーンはそのレースぶりから明らかに中距離馬。これはディープインパクトとNasrullahのスピードとしなやかさが表に出ているからで、「美しいストライド」で差すにはマイルは短すぎます。

この馬はしなやかなスピード血脈を母系に多く引くため、トップスピードに乗るまでに時間がかかるのが特徴。そのため、直線の短いコースだとコーナー部分でスピードを上げなければならず、小回りの中山は適性に合っていません。

 

有馬記念に向けて

ミッキークイーンは有馬記念に出走するにあたり、プラスとマイナスの両面があります。それぞれのポイントを確認しておきましょう。

 

プラスの面

1. 休養明け2戦目のフレッシュな状態

2. ロングスパート戦は得意

3. 高速決着はOK

4. 16分の15戦で浜中騎手とのコンビ

有馬記念は年末のグランプリレースということもあり、出走各馬は休養明け3戦目の馬がほとんど。フレッシュな状態でレースに使えるのは、大きなアドバンテージです。

ロングスパート戦になることがデフォルトの有馬記念は、ミッキークイーンにとってはプラス。持続戦になった宝塚記念で好走していることから、牡馬相手でも流れが向けばチャンスはあります。

秋華賞(GⅠ・京都芝2000m)を1分56秒9の好タイムで勝っているように、高速馬場そのものは得意。ただ、持続戦がベストなので、上り3Fのタイムが速くならなければ……。 

 

マイナスの面

1. 小回り向きの脚質ではない

2. 関東への長距離輸送

ストライドを伸ばして走る馬なので、本質的には直線の長いコースに向いています。昨年の有馬記念5着は4コーナーを抜群の手応えで回りましたが、直線で追われてからもジリジリとしか脚を使えなかったから。びゅんと加速できる馬ではないので、4コーナー手前からコースロスを覚悟(コーナーでスピードを上げると外に膨れる)して浜中騎手が仕掛けられるのかがポイントになります。

小柄な牝馬で、基本的には長距離輸送は苦手。休養明け2戦目+前走から十分な間隔を取っていることから、そこまで心配する要素ではないものの、馬体重やテンションの高さについては注意が必要です。

 

ルージュバック 5歳牝馬

父:マンハッタンカフェ

母:ジンジャーパンチ(母父:Awsome Again)

厩舎:大竹正博(美浦)

生産:ノーザンファーム

騎手:北村宏司

ダイワスカーレットやウォッカのようにパワフルなストライドで直線を伸びてくるというより、「音もなく」スイスイとスピードに乗って外から「あっ!」と言う間に差し切ってしまうルージュバックの走りは、「おおっ!」と身を乗り出してしまうほどのインパクトと美しさがあります。

「ルージュバックのベストパフォーマンスはどのレースか?」と聞かれれば、パッと思いつくのは上り32.8秒の鋭さで牡馬を一蹴した2016年のGⅢエプソムカップ。大外枠から外目を追走したルージュバックは、1頭だけ他の馬とは別のレースをしているような美しいストライドで東京競馬場の長い直線を駆け抜けました。GⅠ級の能力を秘めるアンビシャスと直線で叩き合った16年の毎日王冠(GⅡ 東京芝1800m)も素晴らしいレースでしたが、「美しさ、速さ、強さ」という意味では昨年のエプソムカップがNO.1でしょう。
このGⅠ級の素晴らしい競走能力を秘めた馬も今年(2017年)で「もう」5歳。1番人気の支持を受けた桜花賞から数えてGⅠを9戦したものの、いまだ勝利をつかむことができていません。法人クラブオーナーの所有馬ですから、GⅠを取るチャンスは今年の秋がラスト……。もしこのまま無冠で競走生活を終えるなら、キューっと胸が締めつけられるほどの寂しさが……。 

 

血統

母ジンジャーパンチはBCディスタフ(米GⅠ・ダート1800m)などGⅠ6勝の名競走馬。ルージュバックは父と母の競走能力をストレートに受け継いだ中距離馬となりました。この馬が芝で鋭い脚を使うのは、父マンハッタンカフェの母系に入るドイツ血統とジンジャーパンチのもつBlushing Groomのしなやかさが表現されているから。ストライドが伸びる馬なので、ベストは直線の長いコースです。

 

有馬記念に向けて

今秋の初戦となったオールカマーは「まさか!」のイン差し……直線で大外に出さないと伸びない馬だと考えていたので、驚きました。ただ、小回りコースだとコーナーを器用に回れないので、そこがポイントです。

✳︎)オールカマーでは3〜4コーナーでインを上手く立ち回りましたが、スピードを上げたときに外に膨れ、他の馬を邪魔してしまいました……。

 

インを突いても伸び切れるのか?

中山芝2500mは「外枠からのスタートが不利」と言われるように、道中はインで脚を溜めるのがベター。3〜4コーナーからペースが上がったときに外から捲るのはロスが大きいため、オールカマーのイン突きを再現できるならチャンスも。

この馬はこれまで大外に出さないと伸びがイマイチの馬で、前走のエリザベス女王杯も脚を使ったのは直線で外に進路を取ってから。オールカマーの1戦だけではまだ「インコースを突いてOKか」はわからないので、有馬記念は一か八かの勝負になります。

 

持続戦になってもOK

2015年オークスの内容から、5Fのロングスパート戦はOKです。小回り中山だと3コーナーからペースが上がるので、ここをスムーズに立ち回れるかが鍵。直線の長いコースであればスローからの瞬発力勝負でも好走できるものの、小回りコースだと持続戦のがベターです。 

 

まとめ

ミッキークイーンとルージュバックはともに牡馬相手でもGⅠを好走できるだけの能力をもつ才女。引退までそれほど多くの時間は残されていません。それだけに、この2頭が有馬記念でどのような走りをするのかは注目です。オークスのような叩き合いが有馬記念で再現されるのでしょうか? 

 

以上、お読みいただきありがとうございました。