2着馬までにオークスへの優先出走権が与えられるフローラS(GⅡ・東京芝2000m)は、横山武史騎手の手綱に導かれたウインマリリン(3歳牝馬・手塚貴久厩舎)が好位のインから抜け出し、人馬ともに初重賞制覇のゴールとなりました。
直線で馬群の狭いとこから抜け出し、ウインマリリンにゴール前まで食らいついたホウオウピースフル(3歳牝馬・大竹正博厩舎)が2着。プラスとワンピースの半妹という良血馬だけに、オークスも楽しみな1頭です。
勝ちタイムの1分58秒7はレースレコード
ウインマリリンのマークした勝ちタイム1分58秒7はこれまでのタイムを0.8縮めるレースレコード。そもそも、フローラSにおいて2分を切ったのは以下の3レースしかありません。
【2020年】
1分58秒7(58.6 - 60.1)
1着:ウインマリリン(4 - 4 - 5)
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【2019年】
1分59秒5(60.6 - 58.9)
1着:ウィクトーリア(12 - 12 - 11)
→オークス4着
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【2018年】
1分59秒5(61.1 - 58.4)
1着:サトノワルキューレ(16 - 15 - 14)
→オークス6着
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【2016年】
1分59秒7(59.7 - 60.0)
1着:チェッキーノ(8 - 8 - 8)
→オークス2着
それぞれのレースの勝ち馬が、その後のオークスでどのような走りだったのかを記載しました。連対したのはチェッキーノのみとは言え、2分を切るタイムをマークした馬は高い競争能力をもつことがわかります。
高速馬場ではあったが……
この日の東京芝は3歳未勝利戦でも好タイムが出るようなコンディションでした。
・2020年(左)|2019年(右)
【3歳未勝利芝1600m】
勝ちタイム:1分33秒2|1分33秒8
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【3歳未勝利芝1400m】
勝ちタイム:1分21秒6|1分21秒3
ただ、2020年と2019年を比べてみても、今年の芝がメチャクチャに速いというわけではありません。間違いなく高速馬場ではあったとは言え、3歳牝馬の芝2000m戦で1分59秒を切るというのは素直に驚きです。
ハイペースを先行してのもの
ウインマリリンは前後半1000mが「58.6 - 60.1」という1.5秒の前傾ラップを4番手で追走(この馬自身の1000m通過は約60秒)し、直線で早めに内から抜け出すと上り35.3でまとめてゴール。騎手が直線でムチを落としていたとは思えないほど、しっかりと末脚を伸ばしていましたね。
1秒近くの前傾ラップにもかかわらず、先行して押し切ったのは高い能力があるからこそ。この日は強風によって内側のダートコースから横殴りの砂煙が飛び、差し馬に不利なコンディションという展開のアシストがあったとしても、横綱相撲での完勝だったと言えるでしょう。
1着:ウインマリリン
フローラSは「内枠+2勝馬(しかも2000m)」の好走率が高いことは十分に承知していたものの、「ウイン」の冠名、デビューから中山コースばかりを走る、父スクリーンヒーローの3点セットを見たときに、2秒で予想の買い目から外していました……。
血統のところでも触れますが、半兄にラジオNIKKEI賞(GⅢ・福島芝1800m)勝ちのウインマーレライがいるだけに、ウインマリリンの父スクリーンヒーローの名前を目にすると、いかにも「小回り・内回り」向きの馬なのだと判断していました。
父:スクリーンヒーロー
母:コスモチューロ(母父Fusaichi Pegasus)
厩舎:手塚貴久(美浦)
生産:コスモヴューファーム
新馬戦→ミモザ賞→フローラSと芝2000mのレースを3勝。この時期の牝馬で中距離のレースばかりを使われおり、陣営からもかなりのスタミナを見込まれているのでしょう。また、中山コースの4コーナーをパワフルな脚さばきで加速できるのは、回転の速いフットワークによるものです。
新馬戦からの3戦を見ても、中山>東京の適性が感じられ、フローラSでさらにパフォーマンスを上げるとは……。もちろん、前傾ラップによって上りのかかる展開に持ち込めたのが勝因のひとつとは言え、素質馬の差し脚を完封したのは見事としか言えません。
血統
母コスモチューロはウインマーレライ(父マツリダゴッホ)とウインマリリン、2頭の重賞馬出した好繁殖牝馬。JRAでデビューした6頭の内の5頭が3勝以上の活躍を見せており、高い競争能力を高確率で産駒に伝えています。
✳︎3勝以上の5頭はすべて種牡馬が異なることからも、コスモチューロは優れた遺伝力をもっていると言えるでしょう
コスモチューロはNashua=ナディア4×4のニアリークロスなど、Nasrullahの血を多く引いています。また、Nasllurahの2代父に当たるPharos×Fairway5×5のクロスなど、この豊かなスピード能力をもつ種牡馬の血を代々重ねているのが大きな特徴です。
ウインマリリンはHalo4×4とDanzig4×4をクロスし、父スクリーンヒーローのもつグラスワンダーとサンデーサイレンスの血を活性化しています。さらに、父母母に入る名牝ダイナアクトレスのNasrullahとHyperionを母コスモチュールが刺激することで、東京に向かくしなやかさも手に入れていると言えるでしょう。
血統的には欧州的なスタミナ血脈をもたないので、ベストは2000m前後だと考えられます。スクリーンヒーローの代表産駒モーリスと同じように、ウインマリリンも燃費の良い走りをすることから、2000mを超える距離であっても大きな不安はありません。
オークスに向けて
フローラSはオークス好走に向けての大きな自信となる1戦でした。不安要素だった東京コースと高速馬場へもしっかりと対応しましたし、オークスに向けての準備という面では万全です。
オークスはどの牝馬にとっても初めての距離となる2400mで行われることあり、「スローペース+上り3F(or 4F)」勝負となるのがデフォルト。そのため、上り3F33〜34秒台の勝負になったときに、対応できるのかな不安が残ります。
たとえ高速馬場であったとしても、フローラSと同じく上りのかかる展開に持ち込めるかどうか……横山武史騎手が勇気を振り絞って前々でペースを作れるのかがキーポイントです。
フローラS時の馬体重450kgはデビュー以来最少。馬体の造りもかなりシャープな印象をもちましたし、オークスに向けてのオツリが残されていた仕上げだったのかは微妙なところ。中間の追い切りなど、ここからさらに状態が上げられるのかをチェックしたいですね。
2着ホウオウピースフルと3着フアナ
馬群を割って伸びてきた2着のホウオウピースフルは配合的にイマイチ(ブラストワンピースの半妹という良血馬ながらも好みではない)なので、予想の上で評価を下げていました。ここで2着になった今でも、その評価はそれほど変わりません。
今走はレーン騎手のソツのない騎乗、馬群のなかでレースを進めたことで横殴りの砂煙の影響をそれほど受けなかったこと、馬群に包まれて仕掛けがワンテンポ遅れて脚が溜められたことなど好走の要因が揃った印象。「ホウオウ」の冠馬はレースレベルが上がるほどに尻すぼみになる傾向があることもオークスに向けての不安材料です。
3着フアナの母イサベルはダービーで1人気になったアドミラブルの全姉。胴長で気品のある馬体はアドミラブルと似て好素質馬のソレです。ただ、この母系のパワーとスタミナは牝駒に伝わりにくく、この馬も馬体重が410kg台ともう少しパワーアップが必要でしょう。
フアナは8枠からのスタートながら、ヒューイットソン騎手の巧みな誘導によって1コーナーを過ぎるときには中団インの位置に収まっていました。直線では外のショウナンハレルヤを強引に外へ押し出しながら伸び続けるパワーは、スカーレット牝系特有のものでしょう。後30kgほど馬体が増えてからが本格化のときです。
5着のスカイグルーヴについて
スカイグルーヴは前走の京成杯から十分に間隔を空けたものの、フローラSの馬体重がマイナス14kg。パドックを周回する姿はお腹の部分が切れ上がり、オークスに向けて余裕のある仕上げに見えませんでした。
直線ではそれなりに脚は使ったものの、鞍上のC・ルメール騎手も無理をしなかった印象。体質の弱いアーモンドアイを育成したノーザンファームをもってしても、この馬の仕上げは難しかったのでしょう。もともとが奥手の牝系だけに、もう少し体質がパンとすれば重賞でも十分に好レース可能な素質馬です。
まとめ
ウインマリリンの異質な強さが目立った今年のフローラS。多くの良血馬が参戦したレースとあって、注目の1戦となりました。
フローラS2(桜花賞馬デアリングタクトを負かせるだけのインパクトをもったレースだったのか、これからじっくりと考えたいところです。
以上、お読みいただきありがとうございました。