阪神JFに出走するディープインパクト産駒の5頭をズバっ!と解説ーーマウレア、ラテュロス他

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2歳女王を決める阪神JFは芝1600mの外回りコースで行われるようになってから、ブエナビスタ、レーヴディソール、ジョワドヴィーヴル、レッドリヴェール、ショウナンアデラなど中団・後方からバキューンと脚を使った馬が勝ち切るのがデフォルトでした。

ところがここ2年は、メジャーエンブレム、ソウルスターリングとスピードの持続力に優れた馬が好位から抜け出して勝利を手にしています。この2頭が図抜けた能力をもっている(✳︎)ことも確かですが、馬場とペースによる影響も小さくはないと言えるでしょう。

過去2年の阪神JFの勝ちタイム

2016年

勝ちタイム:1分34秒0

前後半800m:46.7 - 47.3

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2015年

勝ちタイム:1分34秒5

前後半800m:46.9 - 47.6

阪神芝は全体の時計が速く、インコースが伸びるコンディション。また、2年ともに前半800mが46秒台に入る前傾ラップとなっており、バキューンとキレる馬には不利な流れになりました。今年もスピードの持続力に優れた馬が優勢なレースになるのでしょうか?

✳︎メジャーエンブレムはNHKマイルCを好タイム勝ち、ソウルスターリングはオークスを2分24秒台で制したように、3歳クラシックの中心的存在の馬でした。

 

キレる脚ならディープインパクト産駒

「バキューンとキレる脚」と言えば、パッと思いつくのはしなやかなストライドで走る仔を多く出す種牡馬ディープインパクトでしょう。今年の阪神JFに登録しているディープインパクト産駒は以下の5頭。

サウンドキアラ

トーセンアンバー

トーセンブレス

マウレア

ラテュロス

(50音順)

今回の記事では、この5頭について解説します。

✳︎2勝馬のマウレアを除く4頭は1勝馬のため抽選を突破しないと出走ができません。

 

サウンドキアラ 2歳牝馬

父:ディープインパクト

母:サウンドバリアー(母父:アグネスデジタル)

厩舎:安達昭夫(栗東)

生産:社台ファーム

京都芝1400mの新馬戦を快勝し、ここへ臨みます。その新馬戦の2着馬エアアルマスは続く阪神芝1600mの未勝利戦を1分34秒2の好タイムで楽勝しているように、レースレベルは高かったと言えるでしょう。

 

血統

母サウンドバリアーはフィリーズレビュー(GⅡ・阪神芝1400m)を勝ったパワースプリンター。4代母Great Lady M.はスプリントGⅠ馬ビリーヴの3代母にあたり、短距離向きのパワーを伝えます。

ディープインパクトはしなやかさや柔らかな体質を産駒に伝えるので、パワー体質の繁殖牝馬との配合が成功パターンです。サウンドバリアーはスピードとパワーを伝えるNorthern Dancer=Icecapade5×4のクロスをもつので、この成功パターンに当てはまります。

サウンドバリアーやビリーヴなどGreat Lady M.の血を引く馬は距離適性がスプリントに寄ることがあるので、マイルに距離が延びるのはプラスとは言えません。ただ、ビリーヴ産駒のジャンダルムがデイリー杯2歳S(GⅡ・京都芝1600m)を制したように、2歳のこの時期であればマイルもOKでしょう。

 

阪神JFに向けて

京都内回りコースの新馬戦は、4コーナーからスムーズに外を捲り上げ、直線半ばで先頭に立つと2着のエアアルマスを寄せ付けない完勝劇でした。コーナーでの加速力に優れたややピッチの走法から、外回りの阪神JFでバキューンと差せるのかは「?」が付きます。

マイル戦は時計の速い決着になれば1400mベストのタイプが好走できることもあり、締まったペースになればチャンスも。大外からバキューンとキレる脚を使うよりも、インコースをロスなく立ち回るレースが合うため、今の阪神芝もプラスです。抽選を突破して内枠に入れればチャンスも広がります。

 

トーセンアンバー 2歳牝馬

父:ディープインパクト

母:ワルツオブキャット(母父:Songandaprayer)

厩舎:菊沢隆徳(美浦)

生産:エスティファーム

札幌の未勝利戦(芝1800m)で勝ち上がった後、500万下のサフラン賞3着→GⅡ京王杯2歳S6着と賞金を加算することができませんでした。

前走の京王杯2歳Sはスタートで出負けをし後方からの競馬。直線では内を突いて伸びてきたものの、レース上り33.8ではズバッと差し切るには位置取りが後ろ過ぎました。

 

血統

母ワルツオブキャットはSongandprayer×Storm Catという配合で、ディープインパクトと相性の良い血が盛り込まれています。Songandaprayerの父Unbridled's Songはブルードメアサイアーとして優れた血で、サンデーサイレンス系の種牡馬を配すれば、トーホウジャッカル(父スペシャルウィーク)やダノンプラチナ(父ディープインパクト)、スワーヴリチャード(父ハーツクライ)など活躍馬がズラリ。

また、ディープインパクト×Storm Catはエイシンヒカリ、ラキシス=サトノアラジンの全姉弟、アユサンなどのGⅠ馬が出る配合。そのため、ディープインパクト×ワルツオブキャットはオープン級の馬がいつ出ても不思議ではありません。

Unbridled's SongもStorm Catもしなやかなストライドを伝え、トーセンアンバーもその血をしっかりと受け継ぐストライド走法。東京コースは3戦して4着→3着→6着と連対を果たしてはいないものの、直線の長いコースがベストです。

 

阪神JFに向けて

しなやかなストライドで走る馬で、阪神芝外回りコースはほぼベストの舞台。前走はスローペースから11.1 - 11.2 - 11.5と俊敏な加速を求められたため、出負けして後方からの競馬になったこの馬にはノーチャンスでした。

長距離輸送+デビューから5戦していることなど、GⅠに向けて好ムードとは言えない臨戦となるものの、力を出し切れれば好走しても不思議はないだけの地力は秘めています。

 

トーセンブレス 2歳牝馬

父:ディープインパクト

母:ブルーミンバー(母父:ファルブラヴ)

厩舎:加藤征弘(美浦)

生産:社台ファーム

中山芝1600mの新馬戦を34.0の鋭さでひと捲りで快勝し、続くアルテミスSはルメール騎手を配して1人気に推されたものの6着と敗退。1分34秒9の決着になったアルテミスSで思ったほどに弾ける脚を使えなかったことから、高速馬場になっている今の阪神芝のコンディションには不安が残ります。

 

血統

祖母タヤスブルームはどんな種牡馬を付けてもコンスタントに2勝以上の仔を出す好繁殖牝馬。母ブルーミンバーはファルブラヴの牝駒らしくOPまで出世したスプリンターでした。トーセンブレスは父ディープインパクトのしなやかさよりも、母のもつNorthern Dancer3×4・4の強いクロスによって体質が硬めの馬に出ました。

父ディープインパクト×母父ファルブラヴと言えば、桜花賞を制して凱旋門賞に挑戦したハープスターがパっと思いつきますが、この馬は祖母のベガが名牝・名繁殖牝馬ですから、トーセンブレスと較べると奥行きのある配合です。

2頭ともに2歳の早期から馬体に筋肉をつけられるディープインパクト産駒というのは似ていますし、ブルーミンバーもコンスタントに勝ち上がれる産駒を出せる配合ですから、初仔がGⅠの舞台でどのような走りをするのかに注目しましょう。

 

阪神JFに向けて

前走のアルテミスSは出負けしたのも響いたのか、直線で思ったほど弾ける脚を使えずに6着に敗退。体質が硬めの馬なので、直線の長いコースでしなやかにストライドを伸ばすようなレースは合いませんでした。阪神JFも外回りコースなので、しなやかに差せるのかは「?」が付きます。ただ、新馬戦を観てもコーナーでスピードを乗せられるため、インをスムーズに追走できれば……好走の可能性も……。

不安点は1分34秒前半の勝ちタイムになってしまうこと。小回りや洋芝巧者のパワースプリンターの出る母系ということもあって、速い時計+直線の長いコースは割引材料です。ドスローになれば追走に苦労せずに、直線を俊敏に抜け出せるかもしれませんが……。

 

マウレア 2歳牝馬

父:ディープインパクト

母:バイザキャット(母父:Storm Cat)

厩舎:手塚貴久(美浦)

生産:下河辺牧場

新馬戦→赤松賞とスローの上り勝負で連勝し、無傷のまま阪神JFへ駒を進めてきました。2戦ともに芝1600mを1分37秒台の決着となったことから、前半800mが速くなるGⅠで追走に苦労しないかの不安は残ります。しなやかにストライドを伸ばす馬なので、仕掛けられてから俊敏に加速できないのがネック。その反面、スピードに乗り切ってしまってからは素晴らしいストライドでグイグイと伸びてきます。

 

血統

父ディープインパクト×母父Storm Catはエイシンヒカリをはじめ、多くの活躍馬を出すニックス配合。それらの活躍馬たちもしなやかなストライドで走るタイプのため、直線の長いコースで好成績を上げています。今春の安田記念を制したサトノアラジンからも、Storm Catの血を引く馬は本質的に高速決着が得意なのも特徴です。

全姉のアユサンは桜花賞を制し、オークスでも4着と好走した競走馬。3歳春のクラシックで好走できるのは母バイザキャットがAffirmedなどのパワーに優れた血を引くからでしょう。この配合はエイシンヒカリ、ラキシス、サトノアラジンなどからもやや晩成傾向にあるものの、アユサン=マウレア全姉妹は母系のパワーで馬体が締まっているので、早期からの活躍が見込めます。全姉が桜花賞馬ですから、GⅠで格負けをするような配合ではありません。

 

阪神JFに向けて

全姉が阪神JFと同じ舞台で行われる桜花賞を制していることからも、コースにベストと言えます。不安点は緩いペースしか経験していないことと、前半の追走でモタついてしまうことでしょう。阪神の高速馬場で前半800mが47秒を切るようなペースになると、追走で大きく後ろに置かれる可能性が高く、直線大外から差し込めるのかは「?」がつきます。

ここ2戦を観ても俊敏に加速することができない(*)ので、インコースから馬群をさばくよりも大外に出すのがベター。このしなやかなストライド走法は、現状の阪神芝のコンディションからすると割引材料です。ただ、能力は確かですから、極端なインベタにならない+1分34秒台の決着に対応できるならチャンスもあります。

サトノアラジンが典型的で、ストライド走法はビュンと加速でできない反面、スピードに乗り切ってしまえばグイグイと伸び続けられます。

 

ラテュロス 2歳牝馬

父:ディープインパクト

母:スウィートハース(母父:Touch Gold)

厩舎:高野友和(栗東)

生産:社台コーポレーション白老ファーム

2戦目の未勝利戦を快勝し臨んだアルテミスSは好位追走から直線の真ん中を伸びて3着。トモを踏ん張ってポンとスタートを切れるため、道中で好位置を取れるのがセールスポイント。3戦してすべて3着以内の安定感も、このレースセンスの高さによるものでしょう。

 

血統

母スウィートハースは4勝を上げた活躍馬。その父Touch GoldはDeputy Minister直仔ですから、ディープインパクトとは好相性の組み合わせ。父のしなやかさに母父のパワーを補うことで、バキューンと弾ける脚を使える産駒が多く出ています。芝GⅠ馬のショウナンパンドラやマカヒキは父ディープインパクト×母父フレンチデピュティ(Deputy Minister直仔)ですから、ラテュロスの配合もこの線上にあると言えるでしょう。

母父Touch Goldの母系に入るTom Foolはディープインパクトの母ウインドインハーヘアが引くAtticaと血統構成が似ています。ラテュロスが好スタートを切れるのは、このTom Foolの俊敏に加速できる資質がオンになっているからです。また、3代母Anti Socialが主流な血統を引かない(5代血統表だとHyperionくらい)ため、ここが母系の活力を生み出す源になっています。

ディープインパクト産駒としては、3歳春のクラシックに楽しみのもてる好配合。レースセンスの高さと器用に立ち回れるのが最大の長所で、大きく崩れることの少ないタイプです。

 

阪神JFに向けて

外回りのマイル戦でバキューンと弾ける脚を使うというよりは、コーナーをロスなく回って、馬群から俊敏に抜け出すのを得意とするタイプです。競走能力は別として、大まかなイメージはレイデオロに近いと言えます。馬群をさばける馬なので内枠が理想。

前走のアルテミスSは長距離輸送があったにもかかわらず馬体重を増やしての出走となったのは大きなプラス。ゴール前までしっかりと伸び続けていたことから、直線の長いコースも苦にしません。

不安点はハイペースの持続戦になったときくらいで、GⅠに向けて大きな不安もなく、抽選が突破できれば楽しみな1頭。

 

まとめ

阪神JFに向けて、楽しみなディープインパクト産駒が揃いました。オルフェーヴル産駒の強力な2頭ロックディスタウンとラッキーライラックに「待った!」をかけることができるのでしょうか? 今からレースへの期待が高まります。

 

以上、お読みいただきありがとうございました。