12月10日(日)、シャティン競馬場を舞台に行われた香港国際競走4レースは日本調教馬8頭が出走し、凱旋門賞に続く海外競馬の「馬券発売」とあって大きな注目を集めました。今回の記事では「ヴァーズ(芝2400m)」、「スプリント(芝1200m)」、「マイル(芝1600m)」、「カップ(芝2000m)」の4レースをそれぞれふり返って解説します。
香港国際競走(2017年)の予想については以下の記事を参照下さい。
香港ヴァーズ(GⅠ・芝2400m)
香港国際競走のなかでもっとも長い距離となる2400mで争われる1戦。香港ではクラシック・ディスタンスの競走が極端に少なく、年間で3レースしか行われないこともあり、地元馬よりも海外遠征組が優勢のレース。
今年も欧州と日本馬が1〜3着の上位を独占しました。以下が馬券圏内に好走した馬と日本馬の着順です。
▼香港ヴァーズの着順
1着:ハイランドリール(愛)
2着:タリスマニック(仏)
3着:トーセンバジル(日)
……
9着:キセキ(日)
(競走馬の調教国名は略称)
アイルランドの名門A・オブライエン厩舎の管理馬ハイランドリール(5歳牡馬)が2015年に続き、今年も香港ヴァーズを制しました。同馬はこれでこのレースに3年連続で出走し、1着→2着→1着と抜群の成績を上げています。
2着のタリスマニックは今年のBCターフ勝ち馬。父Medaglia d'Oro×母父Machiavellianといかにも小回り向きの機動力に長けた配合で、直線の長いシャティンは不向き。しびれる手応えで直線に向いたもののバキューンと弾けなかったのは、この馬がピッチ走法だからでしょう。
3着のトーセンバジルは道中は中団のインを進み、直線で馬群をさばいて3着まで押し上げました。上位の2頭とはやや力差を感じる内容ながら、この馬の能力は出し切ったと言えます。
イン伸び馬場で明暗が分かれる……
今年の香港国際競走も3〜4コーナーで外を回して差してきた馬はほとんどおらず、イン有利の芝コンディションでレースが行われました。香港ヴァーズの1〜3着馬は4コーナーでは内目を走っていたことから、3コーナーで大外を捲り上げたキセキには苦しい馬場でした。
ハイランドリール 5歳牡馬
父:Galileo
母:Hveger(母父:デインヒル)
厩舎:A・オブライエン(愛)
騎手:R・ムーア
来春からはスタッドインが決まっており、引退レースのここで有終の美を飾りました。この勝利を含め、キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスSやBCターフなど世界各国のGⅠを7勝。コース不問の活躍ぶりで、欧州の中距離路線を代表する1頭と言えます。
種牡馬として
Sadler's Wells直仔のGalileo産駒ながら時計の速い硬い馬場を好み、欧州だけでなくアメリカや香港でも好走したのが、この馬の最大の特徴です。ただ、Galileo×デインヒルはコテコテの欧州血統。現在のヨーロッパはこれらの血で溢れかえっているため、種牡馬となってからはイバラの道が待っているかもしれませんね。
Galileo×デインヒルはソウルスターリングの父Frankelと同じ配合ですから、日本の芝にも対応する可能性があります。もちろん、非サンデーサイレンスの血統とあって、日本の繁殖牝馬とは肌が合うはずです。
香港スプリント
世界の主要なスプリント戦をシリーズ化した「グローバルスプリントチャレンジ」の最終戦とあって、芝のトップスプリンターが集まります。
香港競馬はオセアニア産のパワー・スプリンターが続々と輸入されていることから、1200m路線は層の厚い地元勢が優勢。ロードカナロア以降、日本馬は馬券圏内に入ることすらできません。
今年もスプリンターの層が厚い香港勢の上位独占となりました。勝ったミスタースタニングから5着のラッキーバブルズまで香港勢ですから、このカテゴリーでは日本馬がなかなか活躍できません。
▼香港スプリントの着順
1着:ミスタースタニング(香)
2着:ディービンピン(香)
3着:ブリザード(香)
……
6着:レッツゴードンキ(日)
12着:ワンスインナムーン(日)
勝ったミスタースタニングは好スタートからの先行策で、終始スムーズな走り。直線で追い出しを我慢する余裕があり、着差以上の完勝となりました。今後は香港のトップ・スプリンターとしての活躍が期待される1頭です。
2着のディービンピンは直線外から鋭く差してきており、今日の馬場コンディションを考えれば上々の内容。57kgを背負ってのものだけに、来年以降への楽しみが膨らむレースだったと言えるでしょう。
3着のブリザードは日本のスプリンターズS5着の勢いそのままここでも好走。パワースプリンターのため、今日のような前半からペースが速くなるレースが合っています。高松宮記念に遠征してくるようなら、楽しみですね。
日本のスプリント路線は……
スプリンターズSの回顧記事にも書いたように、現在の日本のスプリント路線はゴリゴリとパワーで押し切るピュアスプリンターが不在。レッドファルクス、レッツゴードンキなど1400mベストの馬が高松宮記念やスプリンターズSで上位に入線していることからもそれがわかります。
前半600mを32秒台後半でゆうゆうと先行できるパワーやスピードがないと、香港スプリントで好走するには苦しいと言えるでしょう。しなやかに差すよりも、ゴリゴリとパワーで押し切れる馬が登場することに期待して……。
香港マイル
香港国際競争の準メインを務めるレース。平坦コースのマイル戦とあって、パワーだけではなくコーナーで加速する器用さと瞬発力が求められるコース。
3連単が100万円を超える高配当が飛び出したものの、終わってみれば香港勢のワンツースリー。インベタ馬場を味方につけて6人気ビューティージェネレーションが逃げ切り、2着に13人気のウエスタンパラゴンが入線。
日本のサトノアラジンは4コーナー手前から外目をグーンと捲ったものの、この日の馬場コンディションでは直線でさらに脚を使うことが難しく、11着と敗退。パワーでゴリゴリと押せるマイラーでないと、どうしても馬場に左右されてしまいます。
▼香港マイルの着順
1着:ビューティージェネレーション(香)
2着:ウエスタンエクスプレス(香)
3着:ヘレンパラゴン(香)
……
11着:サトノアラジン(日)
香港マイルのイメージはマイルCSに近い
シャティン競馬場は上り下りのないコースレイアウトのため、直線が平坦な京都競馬場がイメージとしては近いものがあります。京都で行われるマイルCSよりもやや時計のかかるのが香港マイルで、ペースによっては逃げ〜差しまで幅広く決まります。
そのため、マイルCS>安田記念の適性をもつ日本馬ならチャンスも……今年のレースであれば好位で流れに乗れるエアスピネルが出走していれば好走の可能性も……。
香港カップ
芝中距離のチャンピオン決める、香港国際競走のメインレース。昨年はモーリス、一昨年はエイシンヒカリと日本調教馬が2連覇を果たしています。香港やドバイでの活躍からも、日本の芝中距離馬は世界トップレベル。 今年は香港馬タイムワープが逃げ切り、日本馬の3連覇とはなりませんでした。
▼香港ヴァーズの着順
1着:タイムワープ(香)
2着:ワーザー(香)
3着:ネオリアリズム(日)
4着:ステファノス(日)
5着:スマートレイアー(日)
逃げ切ったタイムワープはレース映像からも、前脚でグイグイとかき込んで走るパワータイプ。父Archipenkoは名牝Specialの3×2の濃いクロスをもち、これがこの馬の前進気勢とかき込み走法の源でしょう。また、母系にRoberto直仔のLea Fanを引くため、いかにも小回り向きのパワーに優れた配合です。
シャティンの長い直線でビュンと加速したのは、前半のペースが遅かったから……ネオリアリズムもベストは小回りだけに、コーナーで加速できるタイプが上位にしたことがわかります。
日本の中距離馬はハイレベル
香港カップの内容を観ても、展開や馬場がかみ合っていないなかで、日本馬は大きく崩れることなく3〜5着の上位に入線し、中距離のカテゴリーではハイレベルであることを示しました。
スマートレイアーは武豊騎手がしっかりと番手からの競馬でネオリアリズムにプレッシャーかけたことで、タイムワープの逃げ切りをアシストしてしまいましたが、それは「日本馬の争い」という意識が働いたからでしょう。
ネオリアリズムはモレイラ騎手でも折り合うのが難しい馬……反対に言えば、かかるほどの前進気勢とパワーがあるということですから、まだまだ競走能力に陰りは見られません。
ステファノスはコースやペース不問の実力馬。ただ、どこで走っても2〜5着に入線するというのは、長所でもあり短所でもあり……。このコースと距離なら「ずんどば!」というレースがないため、GⅠを勝ち切れません。
まとめ
1日に4つのGⅠレースが楽しめる香港国際競走が今年も幕を閉じました。日本馬のタイトル獲得こそなかったものの、素晴らしいレースが繰り広げられ「世界の競馬の多様性」を実感することに……。今年もこの「お祭り」に参加できたことが何よりの幸せですね。
日本馬や海外の有力馬については以下の記事に詳しく解説しているので、よければご覧下さい。
以上、お読みいただきありがとうございました。