ジャパンカップは同じ東京コースで行われる天皇賞・秋に較べ、牝馬の好走率が高い芝中距離GⅠと言われます。2000年代に入ってから、ウォッカ(09年)、ブエナビスタ(11年)、ジェンティルドンナ(12・13年)、ショウナンパンドラ(15年)の4頭が勝っている(計5勝)ことからも、ジャパンカップが牝馬と相性の良いレースだとわかるでしょう。
牝馬特有のキレが活きるレース
ジャパンカップは「スロー+上り3〜4F勝負」になることが多く、男性的な「スタミナ&パワー」よりも、女性的な「しなやかなスピード&キレ」が活きる舞台です。2000年代に入ってから名牝と呼ばれる競走馬が多く登場したことに加え、ジャパンカップが「スピードとキレ」を求められるレースになったことも忘れてはいけません。
2000年以降の牝馬が制したジャパンカップ
2000年代に入って牝馬が制した5つのジャパンカップを振り返ってみましょう。
▼牝馬の制したジャパンカップ
・2009年
1着:ウォッカ
勝ちタイム:2分22秒4
レース上り3F:35.1
12.7 - 10.5 - 12.0 - 12.0 - 11.8 - 12.2 - 12.1 - 12.0 - 12.0 - 11.4 - 11.4 - 12.3
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・2011年
1着:ブエナビスタ
勝ちタイム:2分24秒2
レース上り3F:34.5
13.0 - 11.7 - 12.4 - 12.5 - 12.2 - 12.3 - 12.5 - 11.9 - 11.2 - 11.0 - 11.5 - 12.0
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・2012年
1着:ジェンティルドンナ
勝ちタイム:2分23秒1
レース上り3F:34.7
12.8 - 11.0 - 12.0 - 12.3 - 12.1 - 12.1 - 12.2 - 12.0 - 11.9 - 11.7 - 11.5 - 11.5
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・2013年
1着:ジェンティルドンナ
勝ちタイム:2分26秒1
レース上り3F:34.1
12.8 - 11.4 - 12.8 - 12.8 - 12.6 - 12.8 - 12.8 - 12.4 - 11.6 - 11.1 - 11.1 - 11.9
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・2015年
1着:ショウナンパンドラ
勝ちタイム:2分24秒7
レース上り3F:35.1
12.7 - 10.8 - 11.7 - 12.1 - 12.0 - 12.3 - 12.6 - 12.7 - 12.5 - 11.8 - 11.5 - 12.0
ウォッカの制した2009年は道中で1F12.0〜12.2が並ぶ淀みのないペースとなり、牝馬のキレというよりもスタミナとパワーを求められるレースでした。このペースを好位から抜け出したウォッカは規格外の名牝と言えるでしょう。
ブエナビスタとジェンティルドンナのレースは、後半1000mにおいて1F11秒台が4つマークされ、上り3Fが34秒台とキレの活きる流れとなりました。また、ショウナンパンドラの2015年は「スロー+上り3F勝負」で、これも牝馬にとってプラスのペースだったと考えられます。
2013年のレースは勝ちタイムが2分26秒1と遅く、「上りのキレ」に特化したもの。この年は1着ジェンティルドンナ、2着デニムアンドルビーと牝馬のワンツー決着。ジャパンカップはペースが遅くなればなるほど牝馬の好走率が高まることがわかります。
今年の牝馬はアーモンドアイのみ
今年のジャパンカップに出走する牝馬はアーモンドアイ1頭のみ。経験の浅い3歳馬ということもあって、ウォッカの制した09年のような淀みのないペースになったときに弾ける脚を使えるのかはわからないものの、例年と同じくスローからの上り3〜4F勝負であればまったく不安はありません。
この馬については詳しい解説記事を書いているので、よければ以下をご覧下さい。
今年の天皇賞・秋は淀みのないペース
今年の天皇賞・秋は川田騎手のキセキが押し出されるようにハナへ立つと、道中を淀みのないペースで逃げ、1分56秒8の好タイム決着となりました。
▼天皇賞・秋(2018年)のレースラップ
12.9 - 11.5 - 11.8 - 11.5 - 11.7 - 11.6 - 11.3 - 10.9 - 11.6 - 12.0
このレースは1F最速が4コーナーから直線にかけてのラスト3F目とあって、スピードだけではなくスタミナも問われたレースとなりました。ゴール前の1Fは12.0とかかっていることから、最後はどれだけスピードを落とさずに我慢できるかな勝負だったと言えるでしょう。
川田騎手はキセキのもつトニービンのスタミナと上り坂に適したパワーを十分に振り絞った逃げを打ったことがわかります。しなやかなキレを武器とするディープインパクト産駒のサングレーザーをゴール前まで苦しめたのは、紛れもなくトニービンの血です。
キセキの逃げとトニービンの血については、天皇賞・秋の回顧記事に詳しく書いているので、よければそちらをご覧下さい。
キセキはジャパンカップに出走
天皇賞・秋を素晴らしいペースで逃げたキセキはジャパンカップに出走します。今走はもう1頭の逃げ候補ウインテンダネスが出走するとは言え、どちらも逃げなくてOKのタイプなだけに、どのようなペースになるのかがキーポイント。
ウインテンダネスもキセキと同じくトニービンの血を引く馬で、こちらも上り3F勝負のレースは避けたいクチです。この2頭が全体のペースを引き上げる先行策を打つ、あるいは残り5〜6Fの持続力戦にもち込むようだと、アーモンドアイの弾ける末脚が封じられることも……。
ハーツクライ産駒のスワーヴリチャードもトニービン
ジャパンカップでアーモンドアイに次ぐ人気となるのは、今春の大阪杯を制してGⅠ馬の仲間入りを果たしたスワーヴリチャード。この馬もトニービンの血を引くハーツクライ産駒とあって、上り3F勝負よりも持続戦に強いタイプです。
前走の天皇賞・秋はスタートでマカヒキと接触して後方からのレース。キセキの逃げは後方からの馬には苦しいペースでしたから、M・デムーロ騎手も直線の半ばでは追うのを諦めました。レースでのダメージを受けずにジャパンカップへ向かうあるのはプラスでしょう。
スワーヴリチャードはトニービンを振り絞れるのか?
スワーヴリチャードはハーツクライ産駒らしく、3歳時にはまだトモに緩さが残っていました。古馬になって馬体もしっかりとしたことで、スタートから大きく出遅れることも少なくなっています。
トニービンの血を振り絞るためにも、ジャパンカップではスタートをしっかりと決めて中団よりも前の位置を取りたいところです。アーモンドアイを後ろから差すのは難しいので、M・デムーロ騎手がスタートから出して行けるかが最大のポイントでしょう。
ペースはスワーヴリチャードに向く?
キセキとウインテンダネスの2頭の先行馬がスタミナと持続力に優れたトニービンの血を引くため、ペースはそれほど緩まない可能性も十分にあります。キセキが天皇賞・秋のようなペースメイクをするなら、ハーツクライ産駒のスワーヴリチャードにとっては願ってもない質のレースとなるでしょう。
同時に、アーモンドアイ にとっては未体験のペースとなるため、トニービンの血を引く上記の3頭にとっての利害が一致します。スワーヴリチャードがトニービンのスタミナを振り絞るレースをするのかどうか、今からレースが楽しみですね。
スワーヴリチャードの不安点は?
スワーヴリチャードにはジャパンカップに向けての不安点が2つあります。
1. スタート
2. 距離適性
先にも述べたように、アーモンドアイを後ろから差すのは難易度が高くなるため、スタートをしっかりと決めなくてはなりません。M・デムーロ騎手はリーディングジョッキーでしてはスタートが巧くなく、これは大きな不安です。
もうひとつは、距離適性について。母ピラミマは軽快なスピードを伝えるマイラーで、その仔は1800〜2000mをもっとも得意としています。スワーヴリチャードは前半800mが45秒台だったら安田記念をかかり気味に追走していたことから、古馬になって2000mベストへとシフトしている可能性も……。
もし、昨年のジャパンカップと同じく、2400mのスタミナを問われるレースとなったときに、思ったほど末脚が伸びない恐れもあります。
まとめ
今年のジャパンカップはアーモンドアイのキレか、それともトニービンのスタミナを活かすスワーヴリチャード、キセキ、ウインテンダネスに向くレースとなるのか、今からレースが楽しみですね。
以上、お読みいただきありがとうございました。