JRAは「競馬はレジャー」というコンセプトを若者に伝えられるのか?

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2017年のJRAのプロモーションCM『HOT HOLIDAYS!』は木村カエラのポップな曲をバックに、松坂桃李、土屋太鳳、高畑充希、柳楽優弥の若者4人が休日を競馬場で過ごすシーンが描かれています。

『HOT HOLIDAYS!〜春編〜』では、初めて競馬場を訪れた若者たちがレースだけではなく、その場所の雰囲気も楽しむというコンセプトがはっきりと映像を通して伝わる仕上がりに。

 


jraofficial - YouTube

 

YouTubeのJRAオフィシャルページには、このCMについての解説が付されていて、高齢化している競馬ファンのなかに若者を取り込みたいという意図がその文章からも伝わってきます。

本CMでは、「HOT HOLIDAYS!、友情、愛情、ケイバ場!」を合言葉に、仲間たちが初めて訪れた競馬場で体験する感動・興奮にフォーカスを当てながら、競馬が、休日の最大級のレジャーであることを表現していきます。

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競馬を楽しむファンの人口減少はJRAにとって喫緊の問題。競馬業界だけではなく、「若者の◯◯離れ」に悩むすべての業界がライト層=若者層の囲い込みに取り組んでいるものの、なかなか成果が出ないのが現状です。

 

「競馬はレジャー」というコンセプト

競馬には馬券を購入するだけではなく、他にもさまざまな楽しみ方があることを若者に伝えたいJRAは、「休日の最大級のレジャー」というコンセプトをCMのなかで大々的に打ち出しています。競馬場のなかで楽しげに振る舞う4人の若者の姿はそれを象徴的に表しているのです。

 

CMにおけるレジャー感の演出

『HOT HOLIDAYS!〜春編〜』には若者やカップル、そして子供連れの家族が競馬場で楽しそうに笑い、ハシャギ、馬やレースに歓声を上げる姿が描かれています。特徴的なのは以下のシーン。

 

1. さまざまなシーンで写真を撮る

東京競馬場の入口で土屋太鳳と高畑充希、柳楽優弥が自撮りするシーンはいかにも「今風の若者感」が溢れています。

CMの最後で4人の若者たちが競馬場で撮った写真を画面に映し出し、SNSに写真や動画を投稿する若者へアピールする演出もバッチリです。

 

2. 競馬場で美味しそうにモノを食べる

とにかく4人の若者たちは美味しそうにモノを食べまくります。パン、フライドチキン、ラーメン、アイスクリーム……。

これらのシーンがちょいちょいと挟まれるので、競馬場でのレジャー感が画面から溢れてきますね。

 

3. 若い人たちの画面専有率

松坂桃李、土屋太鳳、高畑充希、柳楽優弥の4人だけではなく、CMに登場するカップルや家族連れは若い人ばかりです。

40〜60代のコアなファンの姿が画面にまったく映らないことで、競馬場が若い人たちに人気のレジャー施設であるかのようなイメージに。

 

上記のシーンを観ると、競馬場に来れば「こんなに楽しいことが待ってる!」という若者へのアピールが「あざと過ぎるかな?」と危惧するほどに詰まっています。CMで描かれているように、競馬場にはその雰囲気を楽しめるさまざまなアクティビティが揃っているのも確かです。

 

競馬場の雰囲気を楽しむ

競馬場はレース観戦や馬券購入以外にも、ライト層の楽しめるものが揃っています。

 

1. 芝生の上で座ったり寝転んだりできる

2. ピクニック気分でご飯が食べられる

3. グルメ巡りができる

4. 馬車に乗れる

5. 馬やポニーに触れられる

6. スターターの体験ができる

7. 子供が遊べる遊具がある

 

写真を撮ってインスタグラムなどのSNSに投稿するのが生活の一部になっている若者たちにとって、競馬場はアクティビティの宝庫。これ以外にも、各地のラーメンや餃子などを集めたグルメフェスタが開催されていることもあり、200円の入場料を払えば一日中楽しめる場所なのは間違いありません。

 

他のレジャーとの差別化

競馬場は若者が楽しめるアクティビティが揃っています。ただし、他のレジャーやテーマパークと差別化できるものがなければ、若者層が競馬場に足を運ぶことは期待できないのです。

他のレジャーと差別化できる「競馬場にしかないもの」とは何でしょうか?

 

競走馬、そして、レースこそ

競馬場にしかないもの、あるいは競馬場だからこそ体験できるコンテンツは競走馬を間近で見ることができ、白熱したレースを観戦できることです。

競馬が他のレジャーやテーマパークともっとも差別化できるところは競走馬やレースにあるので、それを競馬場の楽しい雰囲気と合わせてどのように若者へアピールしていくのかが重要になります。

 

レースで盛り上がるシーンには工夫を

CMの最後は、4人の若者たちがレースに歓声を上げ、飛び跳ねて興奮しているシーンが描かれます。競馬場のメインコンテンツであるレースのシーンはワーキャーと盛り上がる映像ではなく、違ったテイストで攻めた方が若者たちへのアピールになるのではないかと思います。

 

レース・シーンの演出例

「それまで楽しそうにワーキャーと盛り上がっていた4人組が、レースが始まると魅入られたような表情になり、ほとんど声が出ないくらいに食い入るように馬が走るところを観ている」

このようにテイストの異なるシーンを挿入することで、楽しく盛り上がるだけではない、レースをライブで観た時のかけがえのなさやその素晴らしさをアピールすることができます。他のレジャーとの差別化を考えると、楽しいだけではない、さまざまな感情を揺さぶる何かが競馬にはあることを若者に向けて伝えることが大切です。

 

レジャーとしての費用

「競馬はレジャー」という意識をライト層に定着させるには、レジャーとしての費用がいくらぐらいかかるのか?をうやむやにしないことが必要です。

若者だけではなく日本全体の可処分所得が減少していること、インターネットなどによってすぐさま価格の比較ができることなどから、近年「費用」に対する意識は高まっています。

 

20代の可処分所得

SMBCコンシューマーファイナンス株式会社が実施したインターネットリサーチ「20代の金銭感覚に対する意識調査2016」のなかで、20〜29歳男女が「毎月自由に使えるお金」は約3万円と回答。

20歳〜29歳の男女1000名(全回答者)に対し、毎月自由に使えるお金はいくらあるか聞いたところ、全体の平均額は30,422円、未婚者は32,997円、既婚者は19,376円となりました。

若者のアンテナ|20代の金銭感覚についての意識調査2016|ビンカンステーション

20代が自由に消費できるお金が約3万円/月。1ヶ月に使えるレジャー費用に対して若者がシビアに判断することはこの調査からも十分に窺えます。

 

競馬はレジャーとしてどれくらいの費用がかかるのか?

次に、競馬がレジャーとしてどれくらいの費用がかかるのかを考えてみましょう。かかる1人当たりの費用項目は以下の通りです。

 

交通費:〜2000円(往復として)

競馬場への入場料:200円(指定席代金は除外)

飲食代:〜3000円

グッズ代:0円〜

競馬情報代:0〜500円(競馬新聞の購入代金)

馬券代:0円〜

 

馬券を購入しないとしても、少なくとも4000円ほどは競馬場で消費をすることになります。これがレジャー費用として高いのか安いのかは一概には言えません。競馬場は9時に開門し、18時前にはすべてのイベントが終了するため、ほぼ1日中遊べてこの金額に収めることができます。

 

馬券代について

上記の費用項目のなかで、「一般的にこれくらいかかる」とはっきりと言えないのが馬券代です。馬券には単勝、複勝、馬連、3連単複などの種類があり、そのすべてが100円(100円単位)から購入が可能です。

競馬は1日に最大3つの競馬場でレースが開催されており、12Rが行われます。そのため、3場所開催ですべてのレースに100円ずつ参加すれば「100円×3競馬場×12R=3,600円」の費用がかかることに。

また、購入した馬券はレースの結果によって「当たり」と「外れ」に分かれ、購入した3,600円の馬券が0円になることもあれば、配当として払い戻されることもあります。

 

一般的に競馬ファンが使うお金は?

競馬の初心者ではなく、ファンの人が1つのレースに使う馬券代は平均で500〜1,000円と言われています。もし、最低の500円だとしても全36Rに参加すれば18,000円の出費になり、1,000円だと36,000円になってしまいますから、これだけでもレジャー代金としては破格です。ただし、かなりコアな競馬ファンの人でない限り、全レースの馬券を購入することは稀です。

また、馬券が当たり払い戻しが発生することもあるため、必ずしも馬券代金がすべて0になるとは限りません。

 

競馬にかかる費用をアナウンスすること

競馬のメイン・コンテンツは競走馬によるレースです。競馬場がどれほど楽しい場所であっても、他のレジャーと差別化できるのは「競走馬がレースで走ること」以外にはありません。

そのため、レースを楽しむためにかかる費用については若者や競馬初心者の人にアナウンスをすることが大切です。先に引用した20歳代の金銭感覚の調査からも可処分所得は決まっています。自分たちの生活をより豊かにするために可処分所得を消費するのですから、どれくらいの費用がかかるのかが分からないとお金を使うに使えません。

 

馬券を購入すること=レースに参加することではない

レースに参加することで、私たちは競馬の魅力を知ることになります。ただし、馬券を購入することだけがレースに参加する方法ではありません。

 

1. お気に入りの競走馬や騎手、調教師を応援する

パドックに行けば、競走馬や騎手、調教師を応援する「横断幕」が多く出ています。お気に入りの馬や騎手、調教師を応援することで、馬券を購入しなくてもレースに参加することができます。

 

2. 競走馬の走り、騎手の騎乗する姿を鑑賞する

サラブレッドは「走る芸術品」と言われるようにその走るフォームは美しく、また、馬を速く美しく走らせる騎手の技術を鑑賞することもレースに参加することになります。

 

上記に挙げたことだけではなく、レースを観ることで感情を揺さぶられる(共感する)ことがあれば、馬券を購入していなくてもそれだけで競馬に参加していることになります。

 

まとめ

楽しみ方は人それぞれですから、若者が競馬に共感できるモノを見つけられるようにJRAが手助けをするとともに、競馬場に足を運びやすい環境を作ることは大切です。そのきっかけ作りとして今年のCMは役割を果たしていると思います。

JRAの『HOT HOLIDAYS!〜春編〜』は「競馬はレジャー」というコンセプトを観ている人に伝える効果は十分にあります。後は、そのコンセプトに基づいてリアルの若者が抱える「低い可処分所得」を、競馬に振り分けてもらうためにはどうすればよいのかを考える必要があります。

競馬場でレースを観ることで感情が揺さぶられれば、その馬の血統についてもっと知りたいとか馬券を買って応援したいという気持ちになるのは自然なことで、「競馬はレジャー」路線に進むとしても、そのなかで「レース」に焦点を当てたCMが観たいと思うのです。