GⅠ菊花賞(2017年)に出走するアルアインは長距離と重馬場を克服できるのか?ーーレース展望

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2016年の牡牝クラシックは桜花賞から菊花賞まで6つのGⅠをすべて違う馬が分け合うという結果になりました。そして、今年の3歳クラシックも秋華賞が終わった時点ですべて異なる馬が勝っています。

 

2017年3歳クラシックの勝ち馬

桜花賞:レーヌミノル

皐月賞:アルアイン

オークス:ソウルスターリング

ダービー:レイデオロ

秋華賞:ディアドラ

菊花賞:?

牝馬路線はオークス馬ソウルスターリングを筆頭に2歳時から好素質馬が次々と現れるハイレベル世代でした。それに対して牡馬は傑出馬のいない混戦。

ダービー馬レイデオロが距離適性を理由に菊花賞には不出走のため、2冠の可能性があるのは皐月賞馬のアルアインただ1頭です。

ダービー1〜4着馬が不出走の菊花賞はゴールドシップの勝った2012年以来となります。アルアインとゴールドシップはともに皐月賞1着→ダービー5着とここまでのクラシック成績が共通。アルアインは混戦の菊花賞を勝って2冠馬となることができるのでしょうか?

 

アルアインは3000mの距離に不安が……

菊花賞に臨むアルアインにとって、最大の不安は初めて走る3000mの距離でしょう。同馬を管理する関西の名門・池江寿調教師は「アルアインは遺伝子学的に長距離馬ではない」と明言しています。ただ、近年の菊花賞はスタミナを問われる質のレースになることが少なく、昨年3着のエアスピネルや一昨年2着のリアルスティールなど1800mベストの馬でも走れるレースです。

池江調教師は昨年の菊花賞馬サトノダイヤモンドについても「2400mはやや長く、ベストの距離は2000m」とコメントしていたように、3歳のこの時期であれば能力の高い一流馬は3000mもこなせます。アルアインは厩舎の先輩サトノダイヤモンドに続くことができるのでしょうか。

 

アルアインの母ドバイマジェスティ(Dubai Majesty)はスプリンター

アルアインの母ドバイマジェスティはBCフィリー&メアスプリント(米GⅠ・ダート1400m)勝ち馬。その父エッセンスオブドバイはアメリカの名種牡馬Pulpit直仔のダート血統です。母系は代々パワー型の種牡馬がかけられ、Northern Dancerの血をもたないことが特徴。

Pulpitは北米を代表する名種牡馬で、その仔Tapitやパイロの産駒が日本でも活躍しています。今秋のローズS(GⅡ・阪神芝1800m)を好タイムで快勝したラビットランはTapit産駒。A. P. Indy系は「しなやかさ」を子々孫々に伝えるため、日本の芝でも走れる馬が出ることも。

ドバイマジェスティはRoyal ChargerやNasrullahといったスピード血脈が豊富で、かつ母系が強大なパワーをもつGreat Above×His Majestyですから、北米ダートのスプリンターとして活躍したのは納得です。

アルアインは父ディープインパクト×母スプリンターという配合で、イメージとしてはジェンティルドンナやリアルインパクトと近く、この母系のパワーとスピードが父に足りない筋骨量を補っています。配合としては1800mベストのマイラー。母系にスタミナ血脈を引かないため、血統表のドコを切っても3000mの菊花賞でパフォーマンスが上がるタイプではありません。

ドバイマジェスティの血統表 | 競走馬データ - netkeiba.com

 

リアルスティールやエアスピネルが菊花賞を好走できたのは?

近年の菊花賞は、スタミナに優れた馬が持続力を活かして好走することがほぼなく、リアルスティールやエアスピネルといった1800mベストの馬が馬券内に入線することがままあります。

もちろん、3歳のこの時期は距離適性がはっきりと定まっていないという理由もありますが、それ以上にインコースが有利な高速馬場と中盤で大きく緩む(1F13秒台が続く)流れになることが多いからでしょう。

3〜4コーナーの下り坂をスタミナロスなく回り、スピードの惰性をつけて直線に入った馬がそのままゴールまでなだれ込む。近年の菊花賞や天皇賞・春はいかにコーナーと下り坂を器用に走れるかが勝敗を分け、スタミナの質を問われるレースにはならないのです。

 

今年の菊花賞はどのようなペースになるのか?

今年はグズついた天気が続いていることから、例年のような高速馬場になるのかは不透明。また、ペースのカギを握るダンビュライトと武豊騎手は上りの速いレースを避けるため、全体のペースを引き上げてくる可能性があります。ルメール騎手も前走のセントライト記念で、アルアインが速い脚を使えないことはわかっていますから、この2人の騎手がどのようなレースメイクをするのかは楽しみですね。

 

アルアインは器用さがあるものの下り坂は……

アルアインはコーナーをスムーズに回れる器用さと道中でスッと好位につけられる脚をもっています。ただ、3〜4コーナーの下り坂で、ロスなく走れるのかは未知数です。首を下げ、前脚を軽やかに伸ばして走るフォームからは下り坂がマイナスとは言えないものの、母系に流れる血はスピードとパワーで固められており、強調できない配合なのは確か……。

アルアイン自身は500kgを超える馬格を誇ります。筋骨量が豊かでパワー十分ですから、重馬場は苦にしません。この馬が初めて掲示板を外した「重」馬場のシンザン記念6着は直線での不利が響いてのもの。本来は重馬場もOKで、下り坂をロスなく走れるのか不安があるため、できれば渋った芝でレースがしたいところでしょう。

 

大外枠からのスタートは……

10月19日(木)に菊花賞の枠順が確定し、アルアインは大外枠からのスタートとなりました。スタートしてすぐ前に壁が作れないこと、インに潜り込むまでに脚を使ってしまうことを考えても、これは苦しくなりましたね。1周目の3コーナーまでにルメール騎手がインに潜り込めるのかがポイントです。

 

アルアインは菊花賞への準備は万全

関西馬のアルアインが秋の初戦として神戸新聞杯ではなくセントライト記念を選んだのは、ルメール騎手の予定に合わせるため。その前走はミッキースワローに鮮やかなキレ味に屈したものの、ルメール騎手が本番に向けて脚を計ったような2着。

皐月賞1着→ダービー5着の後に休養に入り、夏の早くからセントライト記念→菊花賞というローテーションが決まりました。秋初戦はダービーから馬体重を+10kg増やして臨み、レース後は本番に向けて順調に調整されています。「3000m」という距離をのぞけば大きな不安はありません。

セントライト記念組は菊花賞での好走例が少ないですが、それは関東馬自体の不振によるもの。一昨年、キタサンブラックはセントライト記念1着から菊花賞を制しました。アルアインが菊花賞で好走できるかどうかは誰にもわかりませんが、少なくとも準備は整っています。

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アルアインはノーザンファーム生産馬

先日の記事にも書いたように、クラシックは社台系ファーム生産馬、とくにノーザンファーム生産馬の好走が目立ちます。

アルアインはノーザンファーム生産馬+池江寿厩舎+ルメール騎手ですから、クラシック最後の1冠に向けて好走する要素はすべて揃いました。同じくノーザンファーム産のレイデオロが神戸新聞杯→ジャパンカップというローテーションになったことで、アルアインの菊花賞の鞍上にルメール騎手を確保できたのも、「準備」という面では他馬よりもリードしています。

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まとめ

アルアインは3000mの距離面では不安が大きく、上位人気になるのであれば馬券的にスパッと切りたくなりますが、陣営の菊花賞に向けての準備は1番と言えます。

「だから」好走できるとは言いませんが、大きなマイナスポイントがないのは強みになるでしょう。抜けて強い馬がいないだけに、菊花賞に向けて大きな不安がないのはプラスです。

昨年に続き、今年のクラシックも勝ち馬がすべて異なるようなことになるのか。今からレースが楽しみですね。

 

以上、お読みいただきありがとうございました。