GⅢレパードS('17年)は伏兵ローズプリンスダムが制し、エピカリスは3着にーー回顧

f:id:hakusanten:20170803082502j:plain

出世レースと言われる3歳限定のダート重賞「GⅢレパードS(新潟ダート1800m)」は、11番人気の伏兵ローズプリンスダムがデビュー2年目の木幡巧也騎手の手綱に導かれて1着に入線。人馬ともに嬉しい初重賞制覇を飾りました。好スタートからハナに立った12番人気のサルサディオーネが最後までしぶとく粘って2着に入り、単勝1倍台の圧倒的な人気を集めたエピカリスは3着に敗退。勝ちタイムは1分52秒9(良)。

 

エピカリスは包まれて進路がなく……

好スタートを切ったエピカリスは外から積極的にハナを主張したサルサディオーネを先に行かせて2、3番手の位置を取ろうとしますが、内のタガノカトレアと外のノーブルサターンに挟まれてポジションを下げると、1コーナーを回るところで4、5番手の位置取り。道中は前後左右を他馬に囲まれた馬群のなかでレースを進め、砂をかぶってもイヤそうな仕草は見せずに、リラックスした走りを見せていました。

3〜4コーナー、そして直線に入ってもエピカリスの外にはテンザワールドがぴったりと張り付いていて、前はタガノカトレアとノーブルサターンが壁になって進路が開かず……。もともとシュッとした脚で抜け出すよりも総合的なスピードとパワーで押し切るレースが得意な馬ですから、直線でノーブルサターンとタガノカトレアの間にできたわずかなスペースをルメール騎手が突こうとしたものの、2頭に挟まれ首を上げてしまい馬群を割ることができませんでした。

残り150mを切ってからスペースを見つけると、馬群を縫って伸びてきての3着。エエピカリスは馬群に包まれても終始リラックスした走りを見せ、海外遠征帰り+取消し明け初戦とは思えないレース内容。パワフルかつ伸びのあるストライドはこの世代のダート路線NO.1を感じさせるもので、「もしかして芝もOKなのでは?」という走りでした。

 

仕上がりは問題なく、厳しいマークを受けたことが……

エピカリスはドバイ→アメリカという遠征の疲れや、出走を予定していたベルモントSを右前肢ハ行によって取り消したことの影響が心配されたものの、レパードSの走りを見るかぎり、体調面での問題はほぼなかったと言えます(少なくともこのメンバー相手であれば好走できるだけの仕上がり)。3着という着順は他馬から厳しいマークを受けるレースになったことが最大の原因です。

ルメール騎手がスタートから積極的に出して行って、「逃げ」の形に持ち込んでいたとしたら、3着よりも上の着順になっていたかもしれませんが、それは「タラ・レバ」ですし結果論でしかありません。取消し明け後の1戦とあって、ムリな先行争いをしたくはないというのが本音なのでしょう。

 

ローズプリンスダム 3歳牡馬

父:ロージズインメイ

母:クリスチャンパール(母父:シンボリクリスエス)

厩舎:畠山吉宏(美浦)

前走のジャパンダートダービーは内枠を利して逃げたノーブルサターンの2番手でレースを進めましたが、3コーナー過ぎから鞍上の大野騎手の手が激しく動き始めると直線に向いても伸びはなくズルズルと後退しての8着。3歳ダートOPの鳳雛Sを勝っている実力馬ながら、前走の敗戦が影響したのかレパードSでは11番人気の低評価に甘んじていました。

 

レース内容

五分のスタートを切ると、逃げ・先行馬を先に行かせて好位のインのポケットに入ります。すぐ斜め前にエピカリスを見る形でレースを進め、向正面では騎手が促しながらの追走。3〜4コーナーでインをぴったりと回って来ると、4コーナー中間地点で木幡騎手が後ろを振り返って外への進路を探します。直線に向いて再び木幡騎手が後ろの馬の脚色を確認してから馬場の真ん中へ出すと、そこからは末脚が弾けて2着を突き放してゴール板を駆け抜けました。

レパードSのレースラップは、12.3 - 11.1 - 12.7 - 13.1 - 12.5 - 12.8 - 12.9 - 12.7 - 12.8と2コーナーから向正面にかけて13秒台(青色でマークした区間)があるものの、それ以外は終始緩むことがなく、逃げたサルサディオーネを追いかけた先行勢には苦しい流れ。ローズプリンスダムにとっては、好位のインでロスなく追走したことと直線まで仕掛けを我慢したことが功を奏した勝利だと言えます。

ダート馬としてはストライドが伸びる走りは、母系に入るトニービン、シンボリクリスエスといったしなやかな血の影響を受けているからでしょう。馬群の中での競馬になってもイヤがる素振りを見せず、直線でしっかりと鋭い脚を使えたのは今後につながる1戦になりました。まだ、首さしが長く成長の余地を残す馬体からも、秋以降の成長が楽しみ1頭。

 

血統

父ロージズインメイは強いクロスをもたないため、母系の良さを引き出すタイプの種牡馬です。ローズプリンスダムを含めてロージズインメイ産駒の重賞勝ち馬は3頭いますが、ドリームバレンチノはシルクロードSと函館SSを制した芝のスプリンター、コスモオオゾラは芝の中距離・弥生賞を勝っているように、芝やダート、距離を問わずに活躍馬を出しています。

母クリスチャンパールはシンボリクリスエス×トニービン×リアルシャダイと日本を代表する中長距離の種牡馬が代々配合されており、もてるスタミナは豊富です。また、ローズプリンスダムがダートに向いたのは母がパワーを増幅するRobertoのクロスをもっているからでしょう。ローズプリンスダムが長く良い脚を使えるのは母系の影響が大きいと言えます。

 

2着:サルサディオーネ

父:ゴールドアリュール

母:サルサクイーン(母父:リンドシェーバー)

厩舎:羽月友彦

好スタートから1コーナーに入る前にハナを確定させるとペースを緩めることなく逃げ足を伸ばし、2着に粘り込みました。馬の力もさることながら、この好走は鞍上・吉田豊騎手のファインプレー。レパードSの出馬表に吉田豊騎手の名前を見たときから、予想の上ではサルサディオーネの「サ」の字も気にせずにバッサリと切り捨てていました……。その根拠は今夏、吉田豊騎手が絶不調だからです。

 

吉田豊騎手の特別戦での成績(夏の福島開催7月1日〜)

毎週競馬を楽しんでいるファンの方なら気付かれていると思いますが、関東の中堅・吉田豊騎手は今夏の福島・函館・新潟開催が絶不調……。福島開催の始まった7月1日〜30日終了時点での特別戦の全成績は(0 - 1 - 2 - 18)となかなか苦しいレースが続きました。ところが、GⅢレパードSで12番人気のサルサディオーネを2着にもってくるなど、8月5、6日の特別戦は(0 - 2 - 0 - 2)と復調気配。

直近の特別戦での勝利は5月21日の東京12R丹沢S(1600万下)のスリータイタン、WIN5対象レースで最後に勝ったのは4月16日の中山10R春雷S(OP)のフィドゥーシアと春まで遡らなければなりません。まだWIN5は様子見でOKなものの、レパードSでのサルサディオーネの好走を見ると、普通の馬券ではそろそろケアが必要かもしれません。

 

▼吉田豊騎手の特別戦での成績(7月1日〜)

全成績(0 - 3 - 2 - 20)

日付 開催 馬 名 着順 人気 クラス コース
8/6 新潟 サルサディオーネ 2 12 3歳GⅢ ダ1800m
8/6 新潟 ジュンファイトクン 5 7 500万下 芝1400m
8/5 新潟 マハロマナ 14 10 1600万下 ダ1200m
8/5 福島 シャインカメリア 2 5 2歳OP 芝1400m
7/30 新潟 ワキノハガクレ 8 5 1000万下 ダ1200m
7/30 新潟 メモリーミネルバ 4 11 500万下 芝1400m
7/30 新潟 タガノカムイ 8 10 1000万下 芝1600m
7/23 福島 ノワールギャルソン 7 12 1000万下 ダ1700m
7/23 福島 ヨシノザクラ 2 2 500万下 芝1800m
7/22 福島 ダイトウキョウ 7 2 1000万下 芝1200m
7/22 福島 アポロナイスジャブ 4 7 500万下 ダ1700m
7/16 函館 ツクバアズマオー 10 6 GⅢ 芝2000m
7/16 函館 エクストラペトル 8 13 1000万下 ダ1700m
7/15 福島 クロフネビームス 5 6 1600万下 ダ1700m
7/15 福島 サブライムカイザー 3 3 1000万下 芝2600m
7/9 福島 バーディーイーグル 10 10 GⅢ 芝2000m
7/9 福島 タニセンジャッキー 7 8 1000万下 ダ1700m
7/9 福島 ゴールデンハープ 5 10 500万下 芝2000m
7/8 福島 カカドゥ 5 4 1000万下 芝2000m
7/8 福島 マコトギンスバーグ 5 5 500万下 芝2600m
7/2 福島 ニシノアップルパイ 12 4 GⅢ 芝1800m
7/2 福島 セイウングロリアス 3 5 500万下 芝1800m
7/1 福島 ニシノラッシュ 13 8 1600万下 芝1200m
7/1 福島 アルファアリエス 11 9 1000万下 ダ1700m
7/1 福島 キークラッカー 5 3 500万下 芝2000m

この成績を見ると、重賞ではなかなか手を出し辛い現状でしたが、レパードSでこれほど素晴らしい逃げを見せるとは……。前日に2歳OPのダリア賞をシャインカメリアで逃げて2着に粘った騎乗がきっかけになったのかもしれませんね。

 

サルサディオーネの今後について

先に上げたレースラップを見てもらえればわかるように、これだけ緩みのないペースで逃げて2着に粘るというのは能力があるからこそです。ゴール前では勝ったローズプリンスダムのストライドが際立っていましたが、サルサディオーネも脚が上がってアップアップという走りではなかったことも好感がもてます。重賞2着で賞金を上積みしたことによって、次走のオープン競走でどのような走りを見せられるのかに注目です。

 

◎ノーブルサターン:5着

スタートを五分に出て、枠順からムリには先手を主張せずに3番手の外目を追走する形になりました。この馬は大跳びのストライドで走るので、ダッシュがそれほど速くはありません。今走はスムーズに外目を追走できたので、最後までしっかりと脚を使っての5着。この緩みのないペースだとずっと外目を走らされたのが最後に響いたかなという失速で、現状の力は出し切っています。今走に関してはもう少しペースが速くなれば……というところでしょう。今日の走りを見るかぎりは馬群で揉まれなければ逃げなくてもOKで、大井の外回りコース→新潟コースで5着になったように直線の長いコースの方が向く馬です。今後は中京や東京の中距離ダートで狙いたい1頭ですね。

GⅢレパードS('17年)はDeputy MinisterとSeattle Slewもちのノーブルサターンに◎を - ずんどば競馬

 

2番人気 タガノディグオ:12着

前走からマイナス14kgということから、使い詰めできていた疲労もあったのかもしれません。3〜4コーナーからポジションを押し上げたいタガノディグオにとっては苦しいペースになりました。勝ったローズプリンスダム、4着に入ったブライトンロックと直線で鋭く伸びてきた馬は4コーナーではポジションを押し上げずに我慢していた馬たちですから、このペースを追い込むのであれば、直線まで我慢して……という形がベスト。ただ、それだとこの馬の武器である捲り脚が使えないことになりますから、今日は逃げたサルサディオーネを褒めるしかないという敗戦です。

身体的なダメージの大きい敗戦となりましたから、しっかりと立て直すことができるのか、次走の走りに注目です。

 

まとめ

海外遠征帰り+取消し明け後の1戦というハンデを背負いながら、大きく崩れることなく3着まで押し上げたエピカリスの走りには頭が下がります。それにしても、半兄メイショウナルトよりもパワフルかつ伸びのあるストライド走法は、この世代NO.1と言われるだけの説得力があります。順調ならば今秋のチャンピオンズCでしょうか。古馬との対戦が楽しみな1頭です。

レパードSは創設されてからの過去8年間、1・2番人気のどちらかが必ず勝っていたレースでしたが今年は思わぬ波乱となりました。「レースは生き物」とはよく耳にする言葉で、競馬というのはさまざまな要素が複雑に絡み合っています。エピカリスがあの位置取りになって馬群に包まれたこと、サルサディオーネ鞍上の吉田豊騎手は予想できないほど素晴らしいペースで逃げ(先週の古町特別、タガノカムイでため逃げをした騎手とは思えないほど)たこと、ローズプリンスダムが馬群に揉まれてもOKだったということは、レースが始まるまでは誰にもわからないことです。だからこそ、競馬は面白いのですし、難しいからこそ「公営競技」として成立するのだと言えます。

 

以上、お読みいただきありがとうございました。