マイルCS(2017年)はM・デムーロとR・ムーアの叩き合い! 3歳馬ペルシアンナイトが秋のマイル王に輝くーー回顧

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秋のマイル王を決めるGⅠマイルCS(京都芝1600m)は、M・デムーロ騎手の手綱に導かれた3歳馬のペルシアンナイトが、R・ムーア騎手のアクションに応えて先に抜け出したエアスピネルをゴール前で捕らえて1着。3着にも3歳馬サングレーザーが入線し、世代交代を印象付けるレースとなりました。勝ちタイムは1分33秒8(稍重)。

 

ハービンジャー産駒が京都芝のGⅠで3連勝

マイルCSをペルシアンナイトが制し、これでハービンジャー産駒は今秋に行われた京都芝のGⅠを3連勝。秋華賞→エリザベス女王杯→マイルCSとタフな馬場になったことも味方をしたとは言え、今春のクラシックではあと一歩の馬たちがしっかりと結果を出したのですから、ハービンジャーの今後の活躍がますます楽しみになりました。

参照記事

ハービンジャー産駒の特徴については、以下の記事に詳しく書きましたので、そちらをご覧下さい。

2017年版ハービンジャー産駒の特徴を解説!ーーディアドラが産駒として初GⅠを制覇 - ずんどば競馬

 

マイルCSのレース回顧

今年のマイルCSは注目のポイントが3つありました。

1. 1分33秒台の決着

2. 外差し馬場

3. 3歳馬のレベル

それぞれ1つずつ解説します。

 

1. 1分33秒台の決着

京都の芝は前日に降った雨の影響が残り、ややタフなコンディション。マイルCSの勝ちタイムは1分33秒8ですから、1800mベストの馬たちが追走に脚を削がれにくい流れに。そのため、ピュアなマイラーではないペルシアンナイトとエアスピネルのワンツーとなりました。

 

2. 外差し馬場

マイルCS当日の京都芝レースは逃げ・先行馬に苦しく、外からの差しが決まりやすい馬場。4コーナーから直線で馬場の真ん中より外へスムーズに出せた馬が好走するレースになったと言えます。

 

3. 3歳馬のレベル

1着ペルシアンナイトと3着サングレーザー、4着レーヌミノルはともに3歳馬。ここまで3歳牡馬は「レベルが低いのでは?」と揶揄されることが多かったものの、アルゼンチン共和国杯のスワーヴリチャード、マイルCSのペルシアンナイトと古馬相手に好走していることから、世代レベルの評価が上方修正されるのでしょう。

ただ、モーリスが去った後のマイル路線は、昨年のマイルCS→今春の安田記念→今年のマイルCSと、1〜3着がすべて入れ替わるほどの混戦。香港マイルを勝てるレベルのトップマイラーがいるわけでもなく、3歳馬の台頭する余地はあったと言えます。

 

ペルシアンナイト 3歳牡馬

父:ハービンジャー

母:オリエントチャーム(母父:サンデーサイレンス)

厩舎:池江泰寿(栗東)

生産:追分ファーム

ハービンジャー産駒としては重厚なストライドで走り、直線が長く上り坂のあるコースに向くタイプ。現状では1800mがベストのため、マイルなら時計がかかるレースがベターです。

参照記事

ペルシアンナイトについては、詳しい解説を書いているので、よければ以下の記事をご覧下さい。

ハービンジャー産駒のペルシアンナイトはマイルCS(2017年)で好走できるのか? - ずんどば競馬

 

マイルCSのレースについて

ペルシアンナイトは大外枠からのスタートとあって、後方からのレースとなりました。前後半800mが46.6 - 47.1のため、中団より後方に位置した馬たちの多くが3〜4コーナーの中間で動かざるを得なかったことから、コーナーで「イン」→直線で外とコースロスなく最適な進路取り。

パトロールビデオを観るとよくわかりますが、ミルコ騎手は直線に向くまで仕掛けておらず、今回はしっかりと我慢できたことがゴール前でのひと押しにつながったのでしょう。先に抜け出していたのが、直線の長いコースだとラストで甘くなるエアスピネルだったというのも、この馬には向いていました。

✳︎ペルシアンナイトの上り3F33.9で、重厚なストライドで走る馬をグンと加速させる技術にミルコ騎手は長けているので、「だから」直線まで仕掛けを我慢できたとも言えます。

 

今後に向けて

今後、マイルのチャンピオンと呼ばれるためには自分から動いて行ったときにレースを勝ち切れるのかがポイントになります。今回は大外枠が嫌われたこともあって、単勝4人気8.8倍にもかかわらず複勝が290円もつく立場での競馬。ミルコ騎手が直線に入るまで仕掛けを待てたのも、挑戦者の立場としてレースに臨めたことも大きかったはずです。

タイキシャトル、エアジハード、ダイワメジャー、モーリスなどの名マイラーは、直線で他馬をねじ伏せるように抜け出すレースをしていました。ペルシアンナイトが「マイル王」となるには、自ら動いたときにGⅠを勝ち切れるのかがポイントとなるでしょう。

 

エアスピネル 4歳牡馬

父:キングカメハメハ

母:エアメサイア(母父:サンデーサイレンス )

厩舎:笹田和秀(栗東)

生産:社台ファーム

エアスピネルは俊敏さと器用さが最大の長所ですから、京都の外回りコースは本質的には不向きです。ピッチ走法を伝えるアイドリームドアドリーム牝系の出身ですから、ベストはコーナーが4つの中山1800m。

JRAのマイルGⅠは直線の長いコースで争われるので、ピッチ走法の馬にとってはモーリス級の馬でないと勝ち切るのは難しい……この馬のようなコーナーでの器用さと俊敏な加速を武器とするタイプにはそもそも苦しい戦いになります。

参照記事

エアスピネルについては、血統などを詳しく解説している以下の記事をご覧下さい。

I Dreamed a Dream エアスピネルの「夢」はどこにあるのか?ーーマイルCS(2017年)展望 - ずんどば競馬

 

マイルCSのレースについて

エアスピネルはスタートを決めて先行勢のすぐ直後のポジションを取り、4コーナーから直線の入口にかけてロスのないコース取りで2着と好走。このコーナーでの器用さこそ「アイドリームドアドリーム牝系」の長所で、ピッチ走法走法だからコーナーを立ち回れる反面、直線でどうしても甘くなってしまいます。

この馬が京都の外回りコースで勝負するとしたら、コーナーでの器用さと俊敏な加速を活かすしかないわけで、その点でR・ムーア騎手の仕掛けは完璧です。「もう少し仕掛けを遅らせて」という意見もあるかもしれませんが、ピッチ走法なのでジワーっと加速するのはそもそも苦手。もしラスト2Fのキレを活かすなら、今春の安田記念のような後方待機しかありません。

 

今後に向けて

マイル路線に向かうと直線の長いコースになってしまうので、GⅠ大阪杯(阪神芝2000m内回り)をグーンと捲る馬に育てるのがベター。2000mの距離はこなせるので、わざわざイバラの道と言えるマイルにこだわらなくとも。

または、今春の安田記念のようなレースの組み立てで「展開待ち」というのも1つの手ですが……残念ながら中山芝1800mのGⅠがないので、今後も苦難の道のりは続きます。

 

3〜5着の馬について

サングレーザーは内枠からロスのない競馬で、ペルシアンナイトとほぼ同じような仕掛けのタイミングだったものの、ゴール前の脚が鈍っての3着。ディープインパクト産駒らしいしなやかなストライドで走る馬なので、京都の外回りはベストの舞台です。将来的にはダノンシャークやフィエロのようなタイプになるでしょう。

4着レーヌミノルの直線での粘りには驚かされました。マイラーとしての完成度が高く、スムーズに流れに乗っての掲示板内。力は出し切っていますし、「ややタフ」という馬場コンディションはこの馬にぴったりなのでしょう。

5着イスラボニータは1分33秒台のレースですから、安田記念よりも着順を上げることができました。この日のルメール騎手は7Rムーヴザワールドや9Rシグナライズなど、4コーナー手前から外を回って捲り差すレースをしていたので、マイルCSも同じような騎乗。

直線でウインガニオンと接触するシーンもあったものの、今日は馬場が噛み合いませんでしたね。コースロスは覚悟でストライドロスなく乗ろうとした結果なので……今春の安田記念のように、前目のポジションにつけてなし崩し的に脚を使うことを避けたいという意図は見えました。

 

ダノンメジャーは13着、レッドファルクスは8着

馬券の軸にしたダノンメジャーは13着と大敗。好スタートからマルターズアポジーを先に行かせて2番手の外で流れに乗りました。今日の馬場だと前に馬を置いて競馬をしたかったですね。直線で先頭に立ちかける競馬ができたので、この経験は次走以降に活かされるでしょう。

上位の人気を集めたレッドファルクスは8着。中団のインで脚を溜める形でレースを進め、騎手が4コーナーから仕掛けましたが、グンと伸びるシーンはありませんでした。1400mベストのしなやかスプリンターなので、マイルで時計のかかる馬場だと能力が発揮できないのも致し方なしです。

 

まとめ

M・デムーロとR・ムーアの素晴らしい騎乗が観れただけでお腹いっぱいになってしまった今年のマイルCS。馬券は盛大に外れましたが、見応えのあるGⅠだったと言えます。

ハービンジャー産駒のペルシアンナイトが古馬になってさらなる成長を見せることができるのかも、今後の楽しみの1つですね。

 

以上、お読みいただきありがとうございました。