クイーンS('17年)はアエロリットが「逃げて完勝」、その代償は?ーー回顧

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7月30日(日)、札幌競馬で行われた牝馬限定の重賞「GⅢクイーンS(芝1800m)」は、2番人気の3歳馬アエロリットが好スタートからすんなりとハナを切ると、道中も緩みのないマイペースの逃げで完勝しました。2着には中団のインから抜け出したトーセンビクトリー、3着に中団から押し上げたクイーンズミラーグロが入り、1番人気のアドマイヤリードは6着と敗退する結果に。勝ちタイムはコースレコード・タイとなる1分45秒7(良)。

 

アエロリットと横山典騎手

デビューから7戦のすべてでアエロリットの手綱を取っている横山典騎手は、クイーンSでパートナーの力を信頼しきった騎乗を見せました。

好スタートを切ると外から先手を主張しようとするシャルールとクロコスミアを制して、アエロリットがスピードの違いでハナヘ。ハナを取りたかったクロコスミアにとっては内のシャルールを捌けなかったのが響いて3、4番手の追走に。アエロリットはペースを緩めることなく気持ち良く逃げ脚を伸ばし1000mの通過は58秒3。3〜4コーナーで後続を引きつけてから直線で再加速するという味のある競馬で、他馬は手も足も出ないという完勝になりました。

NHKマイルCと同じく「馬を気持ちよく走らせた」らアエロリットがハナに立っていただけで、横山典騎手にとっては「インで包まれるくらいなら」くらいの感覚で乗っていたのでしょう。重厚なストライドで走るアエロリットにとっては内枠で包まれて窮屈な走りになるのがもっとも避けたいことで、スムーズに走らせるための最善手は逃げだったと言えます。

 

アエロリットの血統

クロフネ産駒はスリープレスナイト、カレンチャン、ホエールキャプチャとGⅠで活躍した馬の多くが牝馬。アエロリットも上記の馬と同じようにスピードとパワーで先行するマイラーで、母系もパワーに溢れています。
祖母アイルドフランスは本馬の母アステリックスやGⅠ馬ミッキーアイルの母スターアイルを出している名繁殖牝馬。アエロリットがNHKマイルCでミッキーアイルのようなロケットスタートを切れたのは、運動神経の良さと後肢をしっかりと踏ん張れるトモの力強さがあるからです。この筋肉は祖母の父Nureyev譲りのパワーによるものでしょう。

走法からは明らかに長い直線に向いたストライドなので、本来は小回り向きではありません。この後はどのようなローテーションが組まれるのかはわかりませんが、もし秋華賞に出走するとなれば、内回りコースはアエロリットにとって割引です。

 

逃げた代償は?

クイーンSのアエロリットの勝利はレース内容としてケチのつけようがないほどに素晴らしく、この馬の今後も大きく拓ける1戦となりました。

アエロリットはここまでの全7戦の内、馬群に揉まれた経験がありません。そのため、このクイーンSの内枠はインのポケットで競馬をするチャンスの1戦。結果としてはスイスイと逃げてしまったので、馬群の中での競馬はできませんでしたが、この代償をGⅠの舞台で払うようなことにならなければ……。

馬を気分良く走らせるのはレースにおける理想の形とは言え、いつもいつもそのようなレースができるとは限りません。ストレスを受けながらのレースになったときに、本来の力を発揮できるのか? それを試すにはクイーンSは絶好の機会ではあったものの、横山典騎手の見事な手綱捌きで「回避」してしまったアエロリット。できれば馬群の中でどのような競馬をするのかが見たかったですね……。

 

2、3着馬はピッチ走法の馬たち

2着にトーセンビクトリー、3着にクイーンズミラーグロが入り、アエロリット以外は「いかにも小回りの合うピッチ走法」の馬が上位に入線しました。この2頭は中山牝馬Sの1、3着馬で、詳しくはそのレースの回顧と予想記事を参照して頂くとしてここでは簡単に。

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2着:トーセンビクトリー 5歳牝馬

福永騎手らしい好スタートから最内枠を利してインのポケットでレースを進めると、この兄妹の最大の特徴である「俊敏なピッチ走法」で直線を抜け出して2着に上りました。小回りコースはトーセンビクトリーのコーナー加速力を活かせる舞台ですから、この走りは順当。

トゥザグローリー=トゥザワールド=トーセンビクトリーの全兄妹は、兄の2頭が有馬記念でも好走しているようにコーナーの加速力が抜群で、母トゥザビクトリー〜母母フェアリードールのNureyev的なピッチ走法がしっかりと表現されています。トゥザグローリーが鳴尾記念(阪神芝2000m 内回り)で、トゥザワールドが弥生賞(中山芝2000m)でベストパフォーマンスを叩き出したことから、トーセンビクトリーも内回りであれば重賞級の馬だと言えます。

古馬牝馬路線は内回りのGⅠがないため、今後の目標となるレースが難しいのがピッチ走法の馬にとっては苦しいところですね。

 

3着:クイーンズミラーグロ

スタートでやや後手を踏んだものの、すぐにリカバリーしてトーセンビクトリーの直後のインを取れたのが3着に押し上げられた要因のひとつです。4コーナーではトーセンビクトリーが抜け出した後を追って伸び、3着を確保。いかにもピッチ走法らしい器用さで、小回り・内回り+内枠という条件が揃えばこれくらいはいつでも走れる馬です。

 

◎シャルール 5歳牝馬:13着

四位騎手らしくしっかりとスタートから出して2番手の位置を取り切ったのは収穫のあった1戦。アエロリットの素晴らしい逃げのペースに手も脚も出なかったこと、4コーナーでトーセンビクトリーから不利を受けたことを考えるとこの着順は致し方なしですね。

それにしても、四位騎手はこのアエロリットの逃げを3〜4コーナーにかけて自ら捕まえに行くのですからそこはさすがで、この馬は次走に向けてソコソコの走りができました。直線ではほぼ追うところなく後退したことからも身体的に大きなダメージはないはずで、トーセンビクトリーに寄られた精神的なダメージがなければ巻き返しを期待したいですね。

今日のアエロリットの逃げ切りを演出したのは紛れもなくシャルールと四位騎手。クロコスミアを前へ出させない壁役になったこと、四位騎手の技術であればシャルールがかかり気味になってもしっかりと制御してアエロリットとの逃げ争いにはしないこと、それらを横山典騎手は読み切っていたと思います。

GⅢクイーンS('17年)は洋芝+小回りがずんどばなシャルールに◎をーー予想 - ずんどば競馬

 

6着:アドマイヤリード 4歳牝馬

スタートを五分に出て自然と後方へ下がり、道中はほぼ最後方の位置取り。3〜4コーナーから大外を回って直線ではソコソコの伸び脚で6着まで押し上げました。ルメール騎手にしては馬群を割らずに終始大外を走らせたのは……。ヴィクトリアマイルのようにインからするするとポジションを押し上げて差す競馬をするのかなと思いましたが、この人気ではそれはできなかったということでしょう。

もう少し前半のペースが緩い方が力を発揮できる馬で、アエロリットが後続を引きつけた3〜4コーナーでクイーンズミラーグロの後ろに付けていれば入着はあったかな、という走り。今日の走りからも小回りはそれほど問題なく、俊敏な脚さばきは母父に入るNumerous(ジェイドロバリーの全弟)の影響。直線の長いコースをストライドでグイグイと伸びるというよりはヴィクトリアマイルで見せた器用な脚が真骨頂の馬で、次走東京コースなどに出走するようであれば嫌いたいですね(ただし、スローペースになるようなメンバーであればこの馬の俊敏さが活きるため、直線の長いコースもOK)。今秋はエリザベス女王杯がこの馬にとって最大目標になりますが、京都の外回りコースのGⅠで鋭い脚が使えるのかは「?」がつきます。

 

まとめ

1分45秒7の好タイムはクイーンS→秋華賞を連勝したアヴェンチュラのタイムよりも1秒近く速いもの。アエロリットはこのメンバー相手にこれだけの完勝劇を見せつけたわけですから、秋のGⅠへ向けて視界は良好です。ソウルスターリングが天皇賞・秋へ出走することからも、アエロリットの今後のローテーションは注目が集まります。

そうそう、書き忘れていたことを1つ。NHKマイルCのパトロール映像を観ているときから気になっていたのですが、アエロリットは右前脚を外側へ張り出すような走り方をする馬で、これは今回のクイーンSでも変わっていませんでした。この脚さばきはは真っ直ぐに走るのにやや負担がかかることを考えると、アエロリットが距離をさらに延ばしたときによりパフォーマンスを上げられるのかはしっかりとチェックしたいところですね。

 

以上、お読みいただきありがとうございました。