パシフィックプリンセス牝系が2年連続で制覇したラジオNIKKEI賞ーー’17年回顧

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「夏競馬!」シーズンの開幕を告げる3歳ハンデ重賞GⅢラジオNIKKEI賞が7月2日(日)に行われ、石川裕紀人騎手騎乗の2番人気セダブリランテス(手塚貴久厩舎)が逃げ粘るウインガナドルを直線で捉えて1着となりました。

石川騎手は重賞初制覇、セダブリランテスは新馬からの3連勝と人馬ともに秋への飛躍を約束するような素晴らしいレースでした。

2着には逃げ粘った8番人気のウインガナドル、3着には最後方から追い込んだ9番人気のロードリベラルが入線。勝ちタイムは1分46秒6。

 

セダブリランテス 3歳牡馬

父:ディープブリランテ

母:シルクユニバーサル(母父:ブライアンズタイム)

ディープブリランテ産駒として初の重賞制覇をもたらしたセダブリランテス。母シルクユニバーサルはナリタブライアン、ビワハヤヒデ、キズナなどのGⅠ馬を出した名牝パシフィックプリンセス系の出身で、モンドインテロ(父:ディープインパクト)に続き2頭目のオープン馬を出しました。

 

ディープインパクト×ブライアンズタイムと器用さ

石川騎手はラジオNIKKEI賞のレース後のコメントとして、この馬の「器用さ」を取り上げています。 

「(初重賞勝ちについて)自分としては遅くなってしまったという気持ちもありますが、勝てて良かったです。器用な競馬が出来る馬ですし、自信を持って乗りました、ペースも流れていましたし、いい感じで行けました。まだまだ先のある馬ですし、この馬と一緒にこの先も頑張って行きたいですね」

引用:競馬実況web | ラジオNIKKEI

 500kgを超える馬ながら、ラジオNIKKEI賞に勝利したセダブリランテスは、レースのペースが上がった3〜4コーナーをスムーズに加速して直線で先頭に並びかける器用さを発揮しました。

この「器用さ」は母父ブライアンズタイムの存在が大きな影響を与えているのでしょう。ディープインパクト×ブライアンズタイムという配合の重賞勝ち馬はこれまで、ディーマジェスティ('16年皐月賞・セントライト記念など)とゼーヴィント('16年ラジオNIKKEI賞)の2頭が出ています。この2頭は'16年のセントライト記念、3〜4コーナーの捲りでワンツーを決めたように、良質なパワーとスタミナを伝えるRobert系ブライアンズタイムの血が小回り中山向きの脚質の源になっていると言えます。

セダブリランテスの父ディープブリランテはディープインパクト直仔ですから、同じパシフィックプリンセス牝系出身のゼーヴィントと血統のアウトラインは似ていて、そのレースぶりからも同じようなタイプへと成長するのではないでしょうか。

ゼーヴィントの血統表 | 競走馬データ - netkeiba.com

コーナーで器用に加速できるパワーとスタミナが表現されたセダブリランテスは、このまま無事に秋を迎えれば、GⅠ菊花賞トライアルのセントライト記念に出走する可能性が高く、中山芝2200mという舞台はこの馬にとってずんどな舞台です。また、ラジオNIKKEI賞を勝利し、セントライト記念で2着になったゼーヴィントはコース適性を理由として京都外回り3000mのGⅠ菊花賞を回避したように、セダブリランテスの秋のローテーションも気になりますね。

ラジオNIKKEI賞('17年)展望ーー名牝系出身のセダブリランテスは3連勝なるのか? - ずんどば競馬

 

2、3着馬のレース内容について

2着に8人気のウインガナドル、3着に9人気のロードリベラルが入線して波乱となったラジオNIKKEI賞。この2頭のレース内容を振り返りましょう。

 

2着:ウインガナドル

五分のスタートから1コーナーに入るまでにスッとハナを奪い、ウインガナドル鞍上の津村騎手は2コーナー過ぎから息を入れる逃げを打ちました。3コーナー手前までは後ろを十分に引きつけ、残り4Fを11.7 - 11.9 - 11.6 - 11.9と持続力勝負に持ち込んでの2着。

向正面からは2番手につけたニシノアップルパイのプレッシャーを受ける形にも関わらず、最後までしぶとく粘ったのは立派の一言です。セダブリランテスと1kgの斤量差があったとは言え、直線で並ばれてからもうひと伸びを見せたのは、体調面も十分に整っていたのでしょう。

オルフェーヴルやゴールドシップに代表される父ステイゴールド×母父メジロマックイーンの配合は有名なニックス。ウインガナドルも上りのかかる小回り・内回りを捲るパワーに優れた馬で、東京や外回りなどの直線の長いコースではスローペースが希望のタイプと言えます。

 

3着:ロードリベラル

スタートは五分に切りましたが、鞍上の吉田隼人騎手が意識的に控えて最後方を追走する展開になりました。馬群に入れずに小回りで脚を一気に使う作戦を取り、3コーナー手前からの捲り勝負。直線では「2着に上がれるのでは!?」という脚色を見せ、低評価を覆す3着に入りました。

祖母のジェミードレスらしい小脚の利くピッチ走法で、いかにも小回り向きの脚質。コーナーでの加速力はメンバー随一だったものの、全体として締まったレースラップになったことで、最後は止まってしまいました。

12.6 - 10.9 - 11.8 - 12.2 - 12.0 - 11.7 - 11.9 - 11.6 - 11.9

やや速目の平均ペースにも関わらず、馬群が詰まっていたことがこの馬には功を奏した形で、残り4Fがすべて11秒台のレースラップをあのスピード捲るのですから、コーナー加速力は非凡な馬。今後も内回り・小回りコースでは注意を向けたい1頭ですね。

 

1番人気サトノクロニクルについて

トップハンデ57kgを背負い1番人気に支持されたサトノクロニクルは勝ち馬と0.8差の6着と敗退。斤量差があったことや小回りコース向きの器用さがないことなど、レース前に不安視された点が的中してしまった敗戦となったものの、今日のレースは先に挙げた不安点だけではなく、このペースを追走するのに脚を使わされてしまったのが……。晩成のハーツクライ産駒らしく、まだトモに緩さが残る現状でペースが流れると厳しいのかなという印象。

ダービー2着の半兄サトノラーゼンよりも晩成傾向にあるクロニクルはもう少し成長を待ちたいですね。この馬はハーツクライ×Intikahbという血統からもポンっとスタートを切って先行抜け出しができるようになったときが本格化でしょうし、これから緩やかな成長曲線を描くはずで、先々に期待したいですね。

池江寿調教師はこの敗戦によって福島競馬場の重賞制覇「あおずけ」となりました。う〜ん、レース前からラジオNIKKEI賞にサトノクロニクルを使う池江先生の意図が読み取れませんでしたし、それは今でも変わりません。名門の調教師が今後はどのようなローテーションを組んでクロニクルを成長させるのか、期待したいところです。

 

3番人気クリアザトラックについて

ラジオNIKKEI賞の予想でも書いたように、馬体重を維持するために最終追い切りは「芝コース」の軽めという調整。角居調教師の最善を尽くしての仕上げだったとは言え、重賞レースでこの調整だと4着に入るのがやっとだったと思います。

前走の東京でのレースから再度の福島への長距離輸送もあって、クリアザトラックは本来のデキには一息。それでも4着まで押し上げたのは能力のある証です。父ディープインパクト×母クロウキャニオンの牡馬としては馬体に線の細さが残る現状ですから、もう少し身が入ってくればオープンまでは駆け上がれるでしょう。

秋は1600万下からスタートするのか、それとも3歳限定の重賞にぶつけてくるのか、角居調教師の組むローテーションにも注目です。

 

まとめ

ラジオNIKKEI賞は終わってみれば、関東馬+小回り向きの血統によるワンツースリー。クリアザトラックのマイナス10kgの馬体重を見たとき、この時期の3歳馬にとって長距離輸送というのはやはり大きなリスクになることを痛感した1戦。

また、日本の競馬に着々と子孫の枝葉を広げるパシフィックプリンセス牝系の力強さにも心が震えた7月2日の日曜日、皆様にとってはどのようなレースになったのでしょうか。

そう言えば、来週の福島競馬場で行われる「GⅢ七夕賞」にゼーヴィントが出走予定で、2週連続でパシフィックプリンセス牝系の重賞制覇なるかは興味深いところです。

 

以上、お読みいただきありがとうございました。