'17年の皐月賞と'16年の高松宮記念を比較してーー高速馬場の造られ方

f:id:hakusanten:20180322211311j:plain

1:57.8のレースレコード決着になった'17年の皐月賞。一週前の開催では中山競馬場は土日ともに終日の雨となり、芝のコンディションは重馬場まで悪化しました。その影響がどれだけ残るのか心配の声もあった皐月賞ですが、蓋を開けてみればこの開催NO.1の高速馬場へと変貌。

高速馬場の影響をモロに受けた皐月賞は、道中で後方に待機した馬や直線で外に出した馬たちがまったく伸びないという結果になりました。それでは、公正競馬を旨とするJRAはどうしてこのような高速な馬場を造ったのでしょうか?

 

皐月賞は開催の最終週に行われるのに

皐月賞は中山春開催の最終週にレースが組まれています。競馬場の芝は競走馬が走れば走るほど傷み、次第に時計がかかるようになるのが一般的です。開催の最終週であれば、かなりのレースが既に行われているため、芝の痛みが目立ち速い時計は出にくくなります。

ところが、今年の皐月賞の行われた週のレースは、「本当に最終週なの?」と首を傾げたくなるほど時計の速い馬場へと変化していたのです。

 

中山競馬場で'14年に行われた路盤改造工事

中山は東京に較べると上り3Fの時計がかかりやすい競馬場と言われます。これは、小回り(直線が短く、コーナー部分の距離が長い)コースであることと、水はけが悪く芝が傷みやすいことが原因です。

中山競馬場は1年を通して芝の状態を一定に保つため、'14年に排水性の向上を目的とした路盤の改造工事を行いました。これにより雨が降っても陽が差せばすぐに芝が乾くため、傷みにくく時計のかからない馬場へと変化したのです。

 

路盤改造工事だけではない芝の高速化の要因

'17年の皐月賞がレースレコードが出るほどに高速化した原因は路盤改造工事だけではないと考えられます。推測される理由は以下の3点。

 

1. エクイターフの導入とエアレーション作業の実施

中山競馬場は傷みに強いとされるエクイターフを導入しています。小島友美さんの名著『馬場のすべて教えます』によると、導入されている部分は以下の通りです。

15年春の段階では3〜4コーナーの内側11m、直線は内から18mがエクイターフ。

小島友美『馬場のすべて教えます

 多くの馬が通るコースの内側にエクイターフが導入されていることで、芝が極端に傷み時計のかかる馬場になることを防いでいます。

また、中山競馬場では開催前に「柔らかい馬場を造る」ことを目的として「エアレーション作業」を実施しています。馬場を柔らかくする作業を「エアレーション」と呼ぶのですが、そのような作業を行っているにも関わらず開催最終週に時計が速くなるのはなぜなのでしょうか?

エアレーションの作業が実施された柔らかい馬場は、開催が進むにつれてレースを走る競走馬に踏み固められ硬度が上がります。つまり、開催が進むにつれて、少しずつ時計は速くなるのです。

 

2. 皐月賞の前週は重馬場のなかで競馬が行われた

皐月賞の前の週の中山競馬場は土日ともに雨のなかでレースが行われ、馬場は「重」まで悪化しました。'14年の路盤改造工事後、中山競馬場の芝コースが「重」まで悪化したのは初めてのことで、全体と上りの時計を見てもかなりタフなコンディションでのレースに。

さらに、週中の火曜日もかなりの雨量があり、馬場造園課としても土日のレースを良い芝コンディションでレースが行えるように散水などを実施していません。

 

3. 皐月賞の行われる日曜日は雨の予報が出ていた

皐月賞当日の日曜日は週中の時点では「雨」の予報が出ていました。そのため、2でも述べましたが、雨が降って芝の含水率が高いなかでレースを行うことを想定しJRAの馬場造園課は芝の育成のための散水を行わずに、馬場を乾かしました。

2と3の理由によって馬場は乾き、芝が高速化したと言えます。

 

この芝の高速化は'16年の高松宮記念と同じ流れ

'16年の高松宮記念は開催最終週にも関わらず1:06.7のレースレコードが記録されました。この週の中京は高松宮記念以外にも3つのレースでレコードが出る高速馬場。中京の芝がこれほど高速化した理由についてサラブレ3月号のなかで小島友美さんが「当時の中京競馬場の馬場を管理していた本橋賢専門役を取材」したコラムが掲載されているので、その部分を引用します。

「時計が速くなった一番の要因はこの週の馬場が乾燥していた事です。昨年の高松宮記念の前は約1週間、雨が全く降らず、レース当週の3月24日に散水を行ったものの、高松宮記念当日の27日が雨予報だったために24日以降、散水をしませんでした。しかし当日は雨が降らず、陽射しが差し込む天気。結果的に乾いた状態でした」

サラブレ 2017年3月号

 高松宮記念が行われる中京競馬場も中山と同じように、'12年に馬場改造を行っており芝が乾くと時計が速くなる傾向にありました。

'16年の高松宮記念でレースレコードが出たときと同じように、'17年の皐月賞においても馬場が想定以上に「乾き過ぎた」ことが芝の高速化につながったのだと考えられます。

 

開催最終週に高速馬場が造られる流れをまとめると

開幕最終週にも関わらず「高速馬場が造られる流れ」をまとめます。

 

1. 排水性を向上させる馬場改造工事が行われている

2. 開催前にエアレーション作業を実施

3. 開催最終週に向けて芝が踏み固められる

4. 重馬場でレースが行われた場合、その後の散水を控える

5. レース当週に雨が降る予報が出ていた場合、週中の散水は控える

6. レース当週に雨が降らずに日が射す

7. 馬場造園課が想定していた以上に馬場が乾いてしまう

 

GⅠの行われる週に「雨」が降る予報が出ているとしたら、馬場造園課としては馬場を少しでも乾かすために散水を控えます。すると、雨が降らなかった場合に想定した以上に馬場が乾いた状態でレースが行われ時計が速くなってしまうのです。

 

まとめ

来年の皐月賞も同じ条件が揃えば馬場が高速化することは十分に考えられます。GⅠ当日に「雨」の予報が出ている場合はとくに注意が必要です。

 

以上、お読みいただきありがとうございました。