スロー走行でマルターズアポジーが後続を完封ーーGⅢ関屋記念('17年)回顧

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8月13日(日)、新潟競馬場を舞台に行われたサマーマイルシリーズ第2戦「GⅢ関屋記念」は、ロケットスタートを決めた7人気のマルターズアポジーが前半の800mを46秒6のゆったりとしたペース・メイクであれよあれよの逃げ切り勝ち。2着には2番手を追走したウインガニオン、3着に先行したダノンリバティが入り、関屋記念は今年も先行決着になりました。勝ちタイムは1分32秒2(良)。

 

スローペースにもち込んだマルターズアポジー

前走の七夕賞はフェイマスエンドとの先行争いで前半3Fが33.9というハイペースの逃げになったマルターズアポジー。今走はロケットスタートを決めたことで、他馬に競りかけられることなくマイペースの逃げにもち込みました。レースの前後半800mのラップは46.6 - 45.6と1.0差の後傾バランス。ただ、ホームストレッチの長い新潟の外回りコースで上り3Fの勝負にもち込んでしまうと分の悪いマルターズアポジーは、前半600mをゆったりと入り、3コーナーから少しずつペースを上げるレース・メイク。これによって上り3Fが34秒台の決着となり、「前後半の800mはスロー・バランスにもかかわらず、上りがかかる」レースを演出し、後続の追撃を振り切りました。マルターズアポジーはコーナーでロスなくスピードを上げられる器用さに優れた馬で、3〜4コーナーを淡々としたペースで駆け抜けられたのが一番の勝因だったのでしょう。

 

もうマルターズアポジーには誰も競りかけてはこないから……

フェイマスエンドの強引な競りかけにもかかわらず、マルターズアポジがスピードの違いでハナに立った前走の七夕賞は11着と大敗したものの、「競りかけることができない」逃げ馬というイメージを周囲に植えつけるには十分にインパクトのあるレースだったと言えます。そのため、ロケットスタートを決めてマルターズアポジーがハナへ立った瞬間に、他の騎手は折り合いとポジション取りに専念するしかありませんでした。前走のハイペース逃げが「仕込み」となって、お好みのペースを作れるというアドバンテージをもっていたのは武士沢にとって何よりも大きかったはずです。スタートで後手さえ踏まなければ、少なくともレース序盤で競りかけられることは100%ない、そんな状況は逃げ馬にとっては好都合。このシチュエーションを活かし切った武士沢騎手とマルターズアポジーの好走が今年の関屋記念のハイライトでしょう。

 

マルターズアポジーの今後は?

マルターズアポジーが関屋記念で1着になったことから、京成杯オータムハンデに出走してサマーマイルシリーズチャンピオンを狙うローテーションも現実味が帯びてきました。これでマイルは(2 - 0 - 1 - 0)と好成績ですが、ベストは1800mの馬。中距離からマイル路線へシフトするのかどうかは注目です。

 

2着:ウインガニオン 5歳牡馬

好スタートから津村騎手が促して2番手を確保。二の脚の遅いウインガニオンを積極的に出して行きつつなだめてポジションを取り切り、スムーズに流れに乗ります。前のマルターズアポジーをそれほど突つかなかった津村騎手ですが、これは致し方がありません。逃げていたのは単勝7番人気で新潟の外回りコースがベストとは言えないマルターズアポジー、ウインガニオン自身は「サマーマイルシリーズ・チャンピオン」がかかっているレースですから、逃げ馬よりも後ろの馬をケアするのは当然です。前のマルターズアポジーを捕まえられなくても2着は確保できるわけですから……。

マルターズアポジーの作ったペースは12.4 - 11.1 - 11.7 - 11.4 - 11.3 - 11.1 - 11.0 - 12.2(46.6 - 45.6)で、後ろの馬が前へ取り付きにくい絶妙な逃げ。ウインガニオンが仕掛けるとしたら残り5〜4F目の区間(青色でマーキング)ですが、ここで突つきに行くのはリスクが高過ぎます。マルターズアポジーが後半800mを45.6で走破したのはあくまで「結果論」であって、レース中にそれを感じ取って「強気に仕掛けろ!」というのは難しい……。マルターズアポジーの単勝が1,210円、複勝が900円ついたわけですから、多くの人が「粘れない」と考えていたのであって、しっかりと自分自身のペースを守って2着に入ったウインガニオンの津村騎手は十分に及第点の騎乗を見せました。

 

大人びたレース振り

ウインガニオンは関屋記念のレースを含めて全成績が(8 - 1 - 1 - 13)。1回ある3着は2歳新馬戦でのものですから、「ピンかパーか」のレースをしながらオープンまで上がってきたことがわかります。気性的に難しい馬が2戦連続で2番手から大人びたレースでの好走を果たしたわけで、5歳にして今が充実期と言えるのでしょう。

「前に馬がいるとどうしても追いかけてしまう」というリスクがあるなかでしっかりと前とのスペースを空けてレースをした津村騎手の判断は素晴らしく、今日のレース振りであれば今後は近くに馬がいても折り合いもつくはずです。

 

ウインガニオンの今後は?

今年の4月初めから復帰し、関屋記念まで5戦を消化しました。前走の中京記念がピークかな?と思えるデキだったことからも、休養を挟んで秋に備えたいところでしょう。京都の外回りコースで行われるマイルCSよりは安田記念の方が適性のあるタイプなだけに、今後はどのようなローテーションを組むのかに注目。

 

3着:ダノンリバティ 5歳牡馬

好スタートからマルターズアポジー、ウインガニオンを先に行かせて3〜4番手でスムーズに追走。直線も前を行く2頭を目標にしっかりと脚を使って3着を確保しました。う〜ん、松若騎手は10R豊栄特別のブリクスト、11R関屋記念のダノンリバティと2レース続けて直線でスムーズに追えないシーンが……。

 

 

パトロールビデオを観ても、前が詰まっているのかは微妙でスペースはソコソコあるので、松若騎手が馬群を割るのが苦手なのかは今後チェックをした方がいいかもしれません。

昨年の関屋記念で2着、そして谷川岳Sでウインガニオンの2着に入っている力は今年も十分に見せました。ちょっと馬群をさばくところでロスがあったとは言え、1着まで突き抜けていたかは微妙なところなので納得の3着です。

 

◎ヤングマンパワー:4着

外から被されるとイヤ気を差してしまうタイプで、今回は上手く外のウインガニオンとマイネルハニーを行かせて、しっかりと先団で流れに乗ります。4コーナーから石橋脩騎手が促しながら前を追いかけ、ジリジリと脚を伸ばしての4着。2、3着とは道中のポジション取りの差が出たこと、昨年勝利した関屋記念のときよりも1kgの斤量増を考えるとしっかり力を出し切ったの好走だったと言えます。

関屋記念は3年連続で馬体重が+10kg以上での出走となり、この馬もこの時期は合うのでしょう。直線では外にぴったりとロードクエストに張り付かれてしまい、そこで馬が力んだ分もあったかな、という走り。直線に向いてからは◎ヤングマンパワーと◯マルターズアポジーの馬連が当たるかな〜と観ていましたが、今日のレースであれば納得。

GⅢ関屋記念('17年)予想ーースローペースを抜け出すヤングマンパワーに◎を - ずんどば競馬

 

その他の有力馬について

1番人気のメートルダールは12着。内回り小回り向きの中距離馬なので、道中はもう少し緩まないと追走で脚を使ってしまいます。この後は新潟記念に向かう可能性があるとのこと。ストライドをグイグイと伸ばして走るタイプではなく、距離が2000mになったとしても外回りコースではスローが希望です。

2番人気のロードクエストは6着。今日は出遅れから中団まで押し上げたところで脚を使い、びゅんと加速するシーンが見られませんでした。もう少し全体的にペースが流れるか、もっとどスローにならないと厳しかったですね。ただ、しっかりと力は出しているので、後は対戦メンバーと展開がはまれば好走のシーンも十分に。ただ、いつまでも人気が落ちないのが難点ですが……。

 

その他の注目馬について

5着のダノンプラチナはしなやかにストライドを伸ばして差す馬なので、展開を問わずに直線の長いコースではほぼ好走します。脚元と体調面が整えば、GⅠ級のマイラー。なかなか詰めてレースに使えないのが苦しいところです。加齢とともに、しなやかさよりもパワーが現れてきています。今であれば前で受けてもしぶとい脚が使えるかもしれませんね。

△に期待したトーセンデュークは上り最速32.7を出して11着。ひとつ前の10R豊栄特別で同じ藤原英厩舎のヴェネトが1着になりましたから、ここでもと期待しましたが……。出遅れて最後方。本質的に1800mがベストなこの馬にとっては苦しい流れと展開になってしまったと言えますね。藤原英先生にしては珍しく詰めて使っているので、ソロソロ休養に出す可能性が高く、馬柱も8→8→11着とは大きな着順が増えてきましたから、次走は期待をかけたいところです。

 

まとめ

スローペースの決め打ちは予想として合っていたものの、ドスローまでには落ちずに「外回りがピッチでスルスル」という展開にはなりませんでした。レッドレイヴン、ロサギガンティアなどの直線の長いコースだと苦しくなる馬たちには合わないペースに。

それにしても、武士沢騎手とマルターズアポジーは素晴らしい逃げ切り勝ち。追い込みで穴を出すイメージの強い武士沢騎手ですが、スタートはかなり速い方で、現役では福永騎手に次いで上手いのではないかな、と思うほどです。武士沢騎手のスタートはウォッチングすると面白いかもしれませんね。

皆様にとっては素晴らしいレースになりましたでしょうか?

 

以上、お読みいただきありがとうございます。