成長途上のメラグラーナはGⅠスプリンターズS(2017年)を勝てるのか?ーーレース展望

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今春のGⅠ高松宮記念を10着(3番人気)と敗退したメラグラーナ(5歳牝馬 池添学厩舎)は、巻き返しを期して臨んだCBC賞(GⅢ 中京芝1200m)で1番人気の支持を受けながらも10着と凡走し、秋のGⅠスプリンターズSに向けて大きな不安を抱えることになりました。夏場は心身のリフレッシュために休養にあてることに。

休み明け初戦となったセントウルS(GⅡ 阪神芝1200m)は、内枠から五分のスタートを切ったものの好位を取ることができずに後方へポジションを下げ、直線で32秒台の脚を使って「何とか」4着に入線。GⅠスプリンターズSへの「一叩き」としては、本番に向けて大きなダメージを残さず、上々のレース内容だったと言えます。

3月のオーシャンS(GⅢ 中山芝1200m)を快勝し、その素晴らしい馬体から「スプリント界のトップに立てるのでは?」と騒がれたメラグラーナも、気がつけばもう5歳秋のシーズン。来春の引退を考えると今秋は1戦1戦が大切なレースになります。GⅠスプリンターズSが行われる舞台は、メラグラーナが3戦3勝と得意にしている中山コース。レッドファルクスやセイウンコウセイといった強敵を相手に初GⅠ制覇となるのでしょうか?今回の記事では、メラグラーナがスプリンターズSを「勝つ」ためにはを考察します。

 

吉田和美氏が所有するメラグラーナの苦悩

メラグラーナはモーリスやキンシャサノキセキなど多くのGⅠ馬を所有してきた吉田和美氏名義の南半球産馬。吉田和美氏は日本の馬産をリードするノーザンファーム代表・吉田勝己氏の配偶者で、近年ではメラグラーナやアルビアーノなどアメリカやオーストラリア産の牝馬を多数所有していることでも知られる大馬主です。

 

メラグラーナは来春に繁殖入り?

重賞2勝の活躍馬アルビアーノが5歳の2月に競走馬登録を抹消し繁殖入りしたことからも、ノーザンファーム=吉田和美氏は繁殖馬としての「価値」も含めて海外から牝馬を購入しています。豪州のリーディングサイアーに輝いたFastnet Rockを父にもつメラグラーナは、競走生活を終えた後に「繁殖馬」としての第2の馬生が待っているのです。

南半球産の「遅生まれ」であることから、メラグラーナの引退は来年の2〜3月。春のスプリントGⅠ「高松宮記念」の前に引退する可能性が高く、今秋のスプリンターズSはこの馬にとっての大一番となります。

 

南半球産のため、成長が遅いのがネック

メラグラーナの父Fastnet Rockはデインヒル直仔のスプリンターで、豊かなスピードとパワーを産駒に伝えます。本質的にはパワーでゴリゴリと先行する仔を多く出し、メラグラーナのように中団〜後方からバキューンと差すタイプは「レア」です。

メラグラーナも「ポン」と好スタートを切って前々からレースの流れに乗るような走りが理想。現状、そのような戦法を取れないのはまだトモがパンとしておらず、もさっとしたスタート+二の脚が遅いため、どうしても中団よりも後ろのポジションになってしまうから。メラグラーナは南半球産の遅生まれで、まだパワー・スプリンターとして完成の域に入っていません。この成長の遅さがこの馬の最大のネック……。

 

池添学調教師がメラグラーナをどのように成長させるのか?

メラグラーナを管理する池添学調教師は、高松宮記念→CBC賞→セントウルS→スプリンターズSというローテーションを組みました。メラグラーナが繁殖牝馬としても高い価値をもっていることは調教師もよくわかっているので、今秋が「勝負」という意気込みをもってスプリンターズSへ向かいます。

前走のセントウルSは、戸崎騎手がスタートからメラグラーナを促しましたが好位のポジションが取れず、馬体の緩さは大きく改善されず……。この短期間でグングン成長するとは言えないものの、もう少しトモにボリュームが出るような馬体の造りが欲しいところです。

関西からの長距離輸送を考えても、馬体を成長させながら余裕を残す仕上げというのは難しく、今回は池添調教師の手腕が問われます。

 

メラグラーナ 5歳牝馬

父:Fastnet Rock

母:Ghaliah(母父:Secret Savings)

調教師:池添学(栗東)

牝馬としては恵まれた500kgを超える馬格を誇るパワー型のスプリンター。パドックを歩いている姿は首差しが長くトモの造りも「まだ」薄く見え、このホッソリとしたシルエットからも馬体に身が入っていない(筋肉が付ききっていない)ことがわかります。
南半球産の遅生まれのため、成長曲線も緩やか。本格化はまだ先と思わせる馬体でもGⅢオーシャンSを制したようにスプリンターの資質は一級品です。体質の弱さと馬体の緩さからくるものなのか、レース毎の馬体重の増減が激しいため、ここが解消してこないと成績も不安定なままでしょう。

前走のセントウルSは自身の最高馬体重となる532kgでの出走。ただ、先行することができなかったため、上り32.4の脚で追い込んだとしても内容的には物足りないものがあります。もう少し馬体がギュッと締まって、スタートから前へ出していけるようになれば……。

 

血統

父Fastnet Rockはデインヒル直仔のスプリンターで、オーストラリアのリーディングサイアーに輝いた大種牡馬。日本で走る同馬の産駒にはブラヴィッシモ、アスペンサミットと洋芝や阪神など時計のかかる馬場にフィットするタイプが出ており、短距離をパワーでゴリゴリと先行して押し切る競馬を得意としています。メラグラーナが先行してしぶとく脚を伸ばす競馬ができないのは、馬体の成長が追い付いていないからです。

メラグラーナの血統表 | 競走馬データ - netkeiba.com

母Ghaliahの父Secret Savingsは単調なスピードと前向きな気性がウリのSeeking the Gold直仔で、牝馬BroadwayのクロスとDamascusのパワーによって短距離をガーっと先行するスプリンター。

Secret Savingsの血統表 | 競走馬データ - netkeiba.com

また、母母Elasted LadyはHyperionとDjebelのクロスをもつため、スタミナとパワーに溢れ、古馬になってもジリジリと成長する晩成の傾向を子孫に伝えます。メラグラーナは南半球産の遅生まれというだけではなく、母母のもつスタミナの血がより「完成」を遅らせているのでしょう。

 

高松宮記念とCBC賞の凡走について

メラグラーナがスプリンターズSを勝つために避けて通れないのが、2桁着順に大敗した高松宮記念とCBC賞の原因を突き止めることです。セントウルSでは4着と立て直しがソコソコ成功したと言え、まだ油断はできません。池添調教師がこの凡走した2戦をどのように分析しているのかは気になりますね……。ここでは大敗した高松宮記念とCBC賞について考察します。

 

GⅠ高松宮記念:10着

中京芝1200m 出走頭数:18頭 馬場状態:稍重

レースタイム:1分09秒6

前後半3F:33.6 - 34.9(1.3秒の前傾)

レースラップ:12.3 - 10.3 - 11.2 - 11.4 - 11.3 - 12.2

初GⅠ出走となった高松宮記念は快勝したオーシャンSのレースぶりから、3番人気の支持を受けたものの直線ではいつもの伸びが見られずに10着と敗退しました。

レース当日に雨が降り、見た目以上にタフな馬場。本来パワー型のメラグラーナは渋った馬場もOKの血統と走法とは言え、まだ馬体も完成途上で筋肉がつききっていないため、これだけタフな馬場だと苦しい競馬を強いられました。レースはスタートで出負けして後方からの競馬。まだトモが緩いためにポンとスタートを切ることができず、騎手が思い通りのポジションを取れないのもGⅠでは大きなウィークポイントになってしまいます。

1着になったセイウンコウセイはスムーズな先行から、直線では馬場の真ん中を伸びての押し切り勝ちで、2着のレッツゴードンキ、3着のレッドファルクスは道中から直線にかけてインコースを走っていた馬。中団外目を追走していた馬たちがまったく伸びなかったことからも、スタートで出負けして中団の外目を走らされてしまったメラグラーナにとっては馬場も味方をしてくれませんでした。

高松宮記念のレース前インタビューで池添学調教師が「末脚を活かしたい」と答えていたのを見て、「GⅠで中団から差す競馬をするなら厳しいかな」と思いましたが、馬場を差し引いてもこの敗戦は中団に控えたことによる部分も大きかった……。父Fastnet Rock×母父Secret Savingsというバリバリのオーストラリア血統からも、この馬のもち味は短距離をゴリゴリと先行するスピードとパワーです。そうしたレースができないということは、「まだ」馬体が完成していないからでしょう……。

 

GⅢCBC賞:10着

中京芝1200m 出走頭数:18頭 馬場状態:良

レースタイム:1分08秒0

前後半3F:33.2 - 34.8(1.6秒の前傾)

レースラップ:12.0 - 10.5 - 10.7 - 11.1 - 11.1 - 12.6

このレースは馬場状態は「良」発表でしたが、レースの直前に激しい雨が降り、馬場は滑りやすく緩いコンディションになりました。メラグラーナはトモが緩く後肢でしっかりと踏ん張らないと前へ進めないような湿った馬場は「まだ」苦手。

スタートはほぼ五分に出たものの、他馬の出脚が速く自然と後方のインを追走する形になります。前半3Fが33.2と速く馬群は縦長のまま直線へ。外への進路を探すときにややスムーズさを欠いたものの、進路ができて追い出されてもジリジリとした伸び。馬群が縦長ということもあって、びゅんとキレる脚ではなくパワー・ストライドで走るメラグラーナにとっては位置取りも苦しいものでした。

高松宮記念とは違い、直線ではジリジリと伸びて前との差を詰めていることから、現状での力は出しており、やはりこの馬はゴリゴリと先行して押し切るレースがベスト。この敗戦は致し方なしと言ったところでしょう。

 

GⅠスプリンターズSへ向けて

メラグラーナは馬群に揉まれて集中を欠いたり、折り合いに苦労する馬ではない(むしろ、道中での前進気勢に欠ける)ので、内枠からのスタートになっても問題はありません。スタートから押しても押してもポジションが取れないので、ズルズルと後ろへ下がっているだけ。前走のセントウルSもその典型的なパターンで、上り最速と言っても勝ち負けに加われないポジションからの追い込み。

この馬の本質は重厚なストライドでゴリゴリとパワーで押すスプリンターですから、上りの速いレースを差してくる馬ではありません。スタートをポンと切って好位の2、3番手を楽々と追走できるようにならないといつまで経っても同じようなレースぶりになってしまいます。

血統的には重馬場巧者のはずが、パワーの求められるような馬場で伸び切れないのは馬体に芯が入っていない証です。ここを改善しないことには、展開やら何やらがハマってスプリンターズSを好走することはあっても、香港スプリントはまず勝てないでしょう。

現時点でのメラグラーナがスプリンターズSを勝つには、残念ながら前半のペースが緩い「後傾ラップ」がベター。4コーナー手前から外を回して仕掛け、直線の急坂を利用して前の馬がバテたところをパワー・ストライドで差し切る……この馬の本質とはかけ離れたレースですが、致し方ありません。

前半のペースが緩く「ヌルい」スプリントであれば、しなやかなストライドで差す1400mベストのレッドファルクスが強敵です。メラグラーナは3〜4コーナーをパワーでグンと捲って、レッドに対して優位に立たないかぎり、苦しいレースになりますね。

GⅠスプリンターズS(2017年)は「ビッグアーサー」タイプと「レッドファルクス」タイプの争いにーーレース展望 - ずんどば競馬

スプリンターズSの行われる中山コースであれば、中京や阪神よりも前目のポジションが取れる可能性もあり、そこに期待しましょう。後は馬体がさらにボリュームアップしていれば……。

 

まとめ

競走馬としてメラグラーナに残された時間はもう後わずか……出走できるスプリントGⅠは今秋のスプリンターズSしかないかもしれません。本来であれば、メラグラーナがパワースプリンターとして完成し、ロードカナロアのように前半3F33秒を切るようなペースで先行し、直線先頭に立って押し切るようなレースが観たかったのですが、それはもう叶わないことなのでしょう。それであれば、スプリンターズSで1着を取れるように、「差し」に回ってもOK。戸崎騎手が乗ることからも、ここでの「先行策」はあり得ないですから、バキューンと大外を回して追い込んで下さい。

スプリンターズSでは、メラグラーナが無事にゴールまで走り切り、結果として1着になれることを祈っています。

 

以上、お読みいただきありがとうございました。