高松宮記念(2018年)は前傾ラップをしぶとく伸びたファインニードルが勝利ーー回顧

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春のスプリント・チャンピオンを決める「GⅠ高松宮記念(中京芝1200m)」はステップレースのシルクロードSを快勝してここへ臨んだファインニードル(5歳牡馬)が、直線の坂下で先に抜け出したレットゴードンキをゴール前で捕らえて1着。馬主の名称を「ゴドルフィン」に変更した直後のGⅠ勝利となりました。

レッツゴードンキは直線の坂下から小気味の良いピッチ走法で抜け出し、ゴールまで粘りに粘ったものの2着。3着には直線で渋とく脚を伸ばしたナックビーナスが入線。牝馬の2頭が馬券圏内に好走し、スプリントGⅠらしい決着になったと言えます。

 

スプリントGⅠらしい前傾ラップ

今年の高松宮記念は時計のかかる馬場だったことから、前後半3Fが33.3 - 35.2と1.9秒の後傾ラップになり、1400mがベストのスプリンターにとって苦しいペースでした。予想記事にも書いた通り、1人気のレッドファルクスは後傾ラップを得意とする馬なので、前傾ラップ+上りのかかるタフな芝での凡走は自然なことです。

上位の人気に推されたレッドファルクス、ダンスディレクターは1400mがベスト(2頭の母父が「しなやかさ」を伝えるサンデーサイレンスであることは偶然ではありません)のタイプだけに、タフな馬場で前半3F33.5を切るラップになると、ラストでビュンとキレる脚を使うのは難しくなります。

 

レッツゴードンキも1400mベストなのに……

2着に好走した桜花賞馬のレッツゴードンキは古馬になって馬体がより筋肉質になると、ベストの距離が1400mへとシフトしてきました。昨年のヴィクトリアマイルで「折り合い」を欠いたのもその影響でしょう。この馬は1400mベストのタイプながら、レッドファルクスやダンスディレクターとは異なり、小気味の良いピッチで走ります。

ピッチ走法の馬は筋肉質の馬体をもち、パワー・タイプの馬が多く、前傾ラップになってもソコソコには耐えられるのです。また、レッツゴードンキの好走は、年齢を重ねるにつれて距離適性がスプリントに寄ってきているのもあるのでしょう。

 

ピッチ走法は中京コースがベストではない

レッツゴードンキは直線の長いコースでも好走しているものの、本質的には小回り・内回り向きの差し馬です。前走のフェブラリーS(東京ダート1600m)も直線に入って一瞬だけ鋭い脚を使っていたように、ビュンと加速できる反面、その脚が長く続きません。

高松宮記念においても先頭に立つまでの加速力は「さすがGⅠ馬」と言えるもの。ただ、中京の長い直線だとゴール前まで粘りきれないのは、この馬が素晴らしい加速力をもった「ピッチ走法」だからです。

 

ファインニードル 5歳牡馬

父:アドマイヤムーン

母:ニードルクラフト(母父:Mark of Esteem)

馬主:ゴドルフィン

厩舎:高橋義忠(栗東)

初重賞制覇となった昨夏のセントウルSの後に挑んだスプリンターズSは、春〜夏にかけて休みなくレースに使われていた疲れが影響し、12着と大敗しました。リフレッシュして臨んだ前走のシルクロードSを大幅な馬体増で快勝し、準備万端な状態で高松宮記念へ出走。

アドマイヤムーン産駒はハクサンムーンなどを見ても古馬になってから本格化することが多く、ファインニードルもひと冬を越してGⅠを好走できるだけの力を付けたのでしょう。今走のパドックでもパワー・スプリンターらしい体つきになっていたと言えます。

 

「前傾ラップでもドンと来い!」のアドマイヤムーン産駒

昨年のセイウンコウセイに続き、アドマイヤムーン産駒は2年連続で高松宮記念を制覇となりました。ここ2年ともに前傾ラップとなっている(17年は稍重馬場)ことから、この種牡馬は速いペースでもOKのパワー型の産駒を出します。

現役時代はジャパンカップやドバイデューティーフリーなど直線の長いコースをしなやかなストライドで差し切ったアドマイヤムーンですが、自身の産駒は父のように中距離をしなやかに差すタイプは少なく、GⅠ級はハクサンムーン、セイウンコウセイ、ファインニードルとスプリントを得意とするパワー型。

サンデーサイレンスよりもフォーティナイナーやSharpen Upのスピードとパワーが前面に出た産駒が多く、時計のかかる芝1200mのレースで強さを発揮しています。ハクサンムーンが前傾ラップを好む逃げ馬だったことも、この種牡馬が伝えるパワーの大きさがわかるでしょう。

 

ファインニードルの今後は?

昨年のセントウルSや今年のシルクロードSのように好位のインで脚をため、直線で抜け出して粘りこむのがファインニードルのベストパフォーマンス。今走の高松宮記念は追い出しを待ち、馬場の外からジリジリと差し込む競馬をしたことから、この馬のパワーと器用さを活かし切ったとは言えません。

この馬がスプリント・チャンピオンになるためには、もっと前々から強気に抜け出す競馬ができるようになってからでしょう。川田騎手もこのレースで「キレる脚はない」ことがわかったはずですから、今後はパワー・スプリンターらしい競馬をしてくれるのでは、と期待します。

 

3着〜5着の馬について

2着レッツゴードンキについては先に述べたので、ここでは簡単に。パワーに優れたピッチ走法の馬で、今なら1400mより短い距離で折り合えればビュンと弾ける脚が使えます。時計のかかる馬場がベターで、小回り…内回りコースがベスト。今走の内容からは大きな力の衰えはなく、短距離重賞では目が離せない存在です。

3着のナックビーナスは500kgを超える馬体を誇る牝馬。こちらもパワーのあるタイプですが、ダイワメジャー産駒とあって上りの脚に限界のあるタイプなだけで、重馬場よりも良馬場がベストです。器用さのあるタイプで、上りの時計がかかりさえすれば、コースやペースは不問。相手なりに走れることから、OP〜重賞レースで掲示板を外すことは少ないものの、勝ち切れるかどうかは微妙なところ……。

4着ダンスディレクターは1400mベストのタイプなので、3コーナーで武豊騎手が手綱を引っ張ったことを差し引いても、この流れだと馬券圏内は難しかったはずです。ベストはペースが緩むことの多い京都の1200〜1400mで、1400mの距離であれば先行もできますし、前傾ラップでもOKのタイプ。

5着ブリザードは「昨夏のティータン騎手」のリプレイを観ているような既視感に襲われました。「スタートから押して行く→かかりそうなので手綱を引く→4コーナー手前から仕掛ける→直線で伸びず」というアレです。「ガックンガックン騎乗」などと不名誉なネーミングが付くほど、日本でのティータン騎手はスムーズなレースができないのが難点……。日本の馬場にも適性のあることは昨年のスプリンターズSでも証明されていたので、5着は残念な結果となってしまいましたね。

 

高配当を狙った3連単は?

今年の高松宮記念は「ゴリゴリの前傾ラップ」になると「妄想」し、3連単で100万円を超える配当を目指しました。

買い目は1着ファインニードル→2着ナックビーナス・ネロ→3着ラインスピリットの2点で臨んだものの、ラインスピリットが出遅れた時点で馬券は終了……。

自身の馬券は外れたものの、久しぶりにスプリントGⅠらしい前傾ラップになったので、気持ちとしてはスッキリとしています。来週はドバイと大阪杯がありますから、ズドーンと馬券を当ててウハウハしたいですね。

 

まとめ

以前のスプリントGⅠは前半33秒0を涼しい顔で先行し、直線で抜け出してくるパワー・スプリンターが輝く舞台でした。ところが、近年はレッドファルクスやダンスディレクターなど、サンデーサイレンスの血が近い代にある馬がこの路線を代表するようになり、パワーよりもしなやかさが優勢なレースに……。

緩いペースから鋭くキレた者勝ちというスプリント戦を全否定するつもりはないものの、やはり、そればかりだと食傷気味になってしまいます。

レッドファルクスやダンスディレクターが上り3F33秒台で鋭く差し切るレース(✳︎)があっても良いですが、もともと1200mは33.0 - 34.5(1分7秒5)のペースでも勝てるわけですから、レースの流れを作れるパワー・スプリンターに有利な舞台。サンデーサイレンスの血が薄くなるにつれ、そのようなパワー・スプリンターがこれから続々と現れることを期待しています。

✳︎ダンスディレクターは前半のペースが速くならない京都芝1200mで行われるシルクロードSを連覇。

以上、お読みいただきありがとうございました。