「キタサンブラックの1強」と言われた今春の宝塚記念(GⅠ・阪神芝2200m)は、主役と目された現役最強馬が直線で「いつもの」粘りを欠くなか、外からしなやかなストライドでグイグイと伸びたサトノクラウンが1着でゴール板を駆け抜けました。
サトノクラウンが歩むシャンティイ2400mへの道ーー宝塚記念('17年)回顧 - ずんどば競馬
宝塚記念で初めて国内GⅠを制した(✴︎)サトノクラウンは今秋、天皇賞・秋→ジャパンカップと古馬中距離GⅠを歩みます。柔らかな体質でストライドを伸ばすサトノクラウンにとって、東京競馬場で行われるこの2つの中距離GⅠは自身の適性を活かせる願ってもない舞台。2歳の早くから素質を高く評価された馬が、充実の5歳秋にどのような走りをするのか注目です。
(✴︎サトノクラウンは昨年末に行われた国際GⅠ香港ヴァーズ1着)
サトノクラウンが歩む「充実の5歳秋」
サトノクラウンがR・ムーア騎手を背に東京スポーツ杯2歳Sを勝った瞬間、「翌年のダービーはこの馬がゴール板を1着で駆け抜けるのでは?」と背筋に電気が走ったのを覚えています。それほどまでに、しなやかにキレた脚は溜息が出るほどに美しかったのです。
現5歳は近年のなかで「最強世代」
2歳新馬→東京スポーツ杯(GⅢ・東京芝1800m)→弥生賞(GⅡ・中山芝2000m)と3連勝して挑んだクラシック第1弾の皐月賞は1番人気に支持されながらも6着に敗退。このレースを勝利したのはサトノクラウンと同厩舎のドゥラメンテでした。皐月賞とダービーの2冠を制したドゥラメンテが同世代にいたことはこの馬にとってアンラッキーとしか言いようがありません。
さらに、2016年の年度代表馬に輝いたキタサンブラックがドゥラメンテに替わる強敵として、4歳時のサトノクラウンに立ちはだかりました。ドゥラメンテ、キタサンブラック、リアルスティール、アンビシャス、ミッキークイーン、ルージュバックなど現5歳は近年のなかで「最強世代」。サトノクラウンの初GⅠ制覇が「香港ヴァーズ」というのも、この世代の層の厚さを物語っています。
充実の5歳シーズン
サトノクラウンの全姉ライトニングパールは英GⅠチェヴァリーパークS(芝1200m)を勝ったスプリンター。同父Marjuをもつ姉と弟がタイプの異なる活躍馬となったのは、それだけ母ジョコンダⅡの繁殖能力が優れていることの証です。
母ジョコンダⅡはMr. Prospector3×4とSir Ivor4×4としなやかさな血のクロスをもち、サトノクラウンが柔らかいフォームで走るのも納得です。弟が姉よりも胴長の馬体の中距離馬に出たのは牡馬と牝馬の差と言えますし、ロングスパート戦に強さを発揮するこの馬の末脚はいかにも男性的。サトノクラウン自身はNorthern Dancer4×5とBuckpasser5×5というクロスをもち、母系のしなやかさだけに加えて、このパワーの部分が古馬になって発現してきました。
5歳秋のシーズンは、東京コースの長い直線をしなやかさとパワーのマッチしたストライド走法でのGⅠ好走に期待がかかります。
サトノクラウン 3歳牡馬
父:Marju
母:ジョコンダⅡ(母父:Rossini)
厩舎:堀宣行(美浦)
生産:ノーザンファーム
母父RossiniはMiswaki直仔のスプリンター。サトノクラウンがフワリと先行して持続的な脚で伸び続ける姿は、父ブラックタイド×母父サクラバクシンオーのキタサンブラックとかぶります。香港ヴァーズも京都記念(GⅡ・京都芝2200m)の連覇も宝塚記念もロングスパート戦からしぶとく脚を使っての勝利。宝塚記念は前半1000mを60.6で通過すると、残り1200mのラップが11.7 - 11.6 - 11.8 - 11.7 - 11.8 - 12.2ですから、サトノクラウンにとってはもち味を活かせるタフなレースとなりました。
ストライド走法なのでコーナーが苦手
サトノクラウンはしなやかなストライド走法なので、コーナーでスピードアップするのが苦手(✴︎)です。そのため、阪神内回り2200mの宝塚記念よりも東京芝2000mは条件が好転します。
(✴︎ストライド走法の馬がコーナーでスピードを上げるには、外に膨れるコースロスを覚悟しなければなりません。器用にコーナーを回れないので、その分体力をロスします)
内回りの宝塚記念は向正面の直線でデムーロ騎手がサトノクラウンを促し、レース全体のペースを引き上げる展開にもち込みました。「コーナーで加速するよりも直線でスピードを上げてしまう」デムーロ騎手のレースプランがズバリとはまり、この仕掛けが結果としてサトノクラウンの得意なロングスパート戦を誘発。4コーナーから抜群の手応えで直線に向き、大外をグイグイと伸びての1着をもぎ取りました。
コーナーが緩く直線の長い東京コースはスムーズにスピードを上げられるので、サトノクラウンの適性に合った舞台。後はこの馬の得意とする持続戦になるかどうかでしょう。
重馬場が得意?
東京競馬場は14日(土)〜22日(日)にかけ、2週続けて雨が降るなかでレースが行われました。超大型の台風21号の影響を受けた21、22日はかなりの雨量があり、芝コースは不良馬場まで悪化。天皇賞・秋の行なわれる29日(日)も雨の予報が出ており、タフなコンディションでのレースとなる可能性もあります。
サトノクラウンは稍重と重馬場でのレースは(4 - 0 - 0 - 1)の好成績。着外となったのは昨年の宝塚記念6着のみと、タフなレースで強さを発揮しています。父と母ともに欧州血統ですから、渋った馬場も得意。
先にも述べたように、母ジョコンダⅡはしなやかな血のMr. ProspectorとSir Ivorのクロスをもつことから、欧州血統としてはコテコテのパワータイプではありません。上りの時計がかかるタフな馬場はロングスパート戦を得意とするサトノクラウンに合っているものの、芝に水が浮くような不良馬場は未知です。
重馬場が得意なのか、それとも、上りのかかるロングスパート戦が得意なだけなのかはまだわかりません。少なくともスローからの瞬発力勝負だけは避けたいので、雨が降るのはプラスでしょう。
「天皇賞・秋」出走馬の重馬場適性については、以下の記事に解説を書いていますので、よければそちらもご覧下さい。
GⅠ天皇賞・秋(2017年)は台風の影響で「重〜不良」馬場でのレースとなるのか?ーー重馬場が得意な馬は? - ずんどば競馬
天皇賞・秋に向けて
天皇賞・秋はサトノクラウンにとって宝塚記念以来の休み明けとなる1戦。堀宣行厩舎+ノーザンファーム生産馬のコンビなので、休養明けは大きなマイナスにはなりません。春の3戦はすべて長距離輸送をともなう関西圏でのレースでしたから、疲労がしっかりと取れているのかがポイント。
天皇賞・秋→ジャパンカップのローテーションが組まれる今秋は東京コースでのレースがメインとなり、環境の変化と長距離輸送が苦手なサトノクラウンにとって、調整面では大きなプラスとなります。自身がもっとも得意とするロングスパート戦になれば、ハイレベルなパフォーマンスを叩き出せるため、その展開になるかどうか……。
サトノクラウンはキタサンブラック、リアルスティールといった強敵相手でも臆することのない力のもち主。2000mの距離はやや短いものの、マイラーの出走によって全体のペースが上がりやすい天皇賞・秋は戦いやすいレースと言えるでしょう。
まとめ
今年の天皇賞・秋はサトノクラウン、キタサンブラック、リアルスティールと力のある5歳馬が顔を揃える楽しみな1戦。その他にもサトノアラジンやマカヒキなどのGⅠ馬が出走し、豪華なメンバーとなりました。
サトノクラウンが年度代表馬に輝くためにも、今秋の初戦となる天皇賞・秋は大切な1戦です。キタサンブラックとの再戦で、もう1度素晴らしいパフォーマンスを叩き出せるのか、今からレースが楽しみですね。
以上、お読みいただきありがとうございました。