素晴らしき天皇賞・春(2017年)ーーHaloクロスを封じ込めたキタサンブラック

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2強対決が注目を集めた'17年の天皇賞・春は、キタサンブラックが3:12.5のレコードタイムで勝利。

 

天皇賞・春の前に行われた特別戦の芝レースは2鞍組まれていて、8Rの鷹ヶ峰特別(芝1400m  1000万下)は最内枠から逃げたレッドリーガルが1:20.0の好タイムで押し切り、9Rの糺の森特別(芝1800m  1000万下  牝馬限定)は最内枠を利してインの3番手をとったエマノンが直線で抜け出して1:46.4での勝利。この2レースを観ても、内枠+先行馬有利の高速馬場だったことが分かります。

 

ヤマカツライデンが1周目の3角過ぎから先手を取り大逃げの形に持ち込んだので、キタサンブラックは離れた2番手を追走し、実質は逃げているのと変わらないスムーズな追走。1角から2周目の3角手前までの区間はヤマカツライデンもペースを落としたものの、3角過ぎの下り坂で再びペースを少しずつ上げたので、レースレコードの出る流れになりました。

キタサンブラックは4角手前からの仕掛けでシュヴァルグランとサトノダイヤモンドを完封。自らレースを作ることができるキタサンブラックだからこそ、高速化した芝+インベタ+内枠のすべてを味方につけることができたと言ってよく、他馬に付け入る隙を与えない「完封」劇でした。

 

キタサンブラック 1着 

ヤマカツライデンの大逃げを無視すれば、キタサンブラックが実質的にレースを作る流れになりました。道中のペースが高速馬場を加味してもやや速く、馬群は縦長のまま直線を迎えたので後ろから差してくる馬はノーチャンス。

昨年に続き今年も4角手前で自ら動き、直線の入り口で後続とのリードを広げての押し切り勝ちですから、キタサンブラックと武豊騎手の「いつもの競馬」ができたと言えます。この「いつもの」がもっとも難しく、コースや距離やメンバーが異なるなかで同じような競馬を再現するのですから、文句なく現役最強のコンビだと思います。

大外枠に入ったヤマカツライデンがどのようなスタートを切り、どこからハナに立つのかはレースが始まってみないと分かりませんから、キタサンブラックが好スタートからハナを切る勢いで飛び出したのはさすがで、ここで揉まれることなく逃げ馬から離れた2番手を取れたのは大きかった。道中は終始スムーズで、2周目の3角手前の上り坂までペースが緩むことはなく、この流れだとさすがに後ろから仕掛けてポジションを上げていく馬はいませんでした。

レコードが出るくらいのペースですから2番手につけたキタサンブラックにとっても楽ではなく、淡々と走っていつものように4角手前から仕掛けての押し切りはこの馬を素直に賞賛するしかない強さを見せつけましたね。

Haloクロスの素軽い捲りと持続的な末脚を武器とするシュヴァルグランとサトノダイヤモンドを、母父サクラバクシンオー譲りのしなやかな走りを武器とするキタサンブラックが淀の2マイルで撃破するというのは競馬の面白さだな、と痛感した次第です。3〜4角の下り坂でスピードに乗せて直線はしぶとく粘る馬に勝機が訪れる天皇賞・春なのだ、と改めて思い知らされました。

 

シュヴァルグラン 2着

好スタートからキタサンブラックのすぐ後ろのポジションを取りに行きますが、1周目の3角でシャケトラがかかり気味に内からしゃくってきたため、アドマイヤデウスの後ろへ福永騎手が誘導して折り合います。2週目の3角の下り坂からすっと進出し、キタサンブラックを追いかけ4角手前で並びかけようとしますが……。

先にも述べたように、シュヴァルグランの仕掛けに合わせてキタサンブラックもペースを上げたため、差を詰めることができずに直線を向きます。ハーツクライ産駒らしく高速馬場+平坦な直線ではジリジリとしか伸びずバテずでの2着。これで、ハーツクライ産駒は天皇賞・春を4年連続で2着という結果になりました。京都の芝レースのGⅠでは1着になれないハーツクライ産駒のジンクスをシュヴァルグランなら打ち破れると思ったのですが……。

それにしても、3角過ぎから4角手前までの捲り脚は痺れるものがあり、この素軽さと機動力がこの馬の最大の武器で、もし阪神内回りの宝塚記念でロングスパート戦になればキタサンブラックを倒せるかも、と期待を持たせる走り。ただ、天皇賞・春がピークのデキだったはずで、宝塚記念までにどれだけ体調を戻せるのかに注目です。

 

サトノダイヤモンド 3着

大外枠を考えれば、ルメール騎手のとった道中のポジションはほぼ完璧。ヤマカツライデンの逃げ、さらにはキタサンブラックもそれほどペースを緩めないまま2番手の追走になったので、有馬記念のように道中でポジションを押し上げるのは難しかったと思います。

シュヴァルグランの仕掛けに合わせるように3角過ぎからペースを上げて下り坂をスムーズに走った直線へ。上位3頭のなかでもっとも外目を回ったこともあり、アドマイヤデウスを交わして3着を確保するのが精一杯。

高速馬場、大外枠など不利が重なったレースですが、それでも崩れずに3着まで押し上げてきており、その強さを再認識しました。ヤマカツライデンの作ったペースはサトノダイヤモンドにとってはプラスで、上りが35秒台の決着になったことが3着に入線した最大の要因です。

どんな条件でも勝つような名馬は歴史的にみてもそうそう現れるものではなく、ディープインパクト、オルフェーヴル、ゴールドシップ、ジャスタウェイ、どの馬にも敗戦はあります。サトノダイヤモンドの天皇賞・春でのひとつの敗戦をとって、この馬の能力をああだこうだ言うのは早計ですし、シュヴァルグランと同じように機動力と持続力に優れているので、宝塚記念の舞台であればキタサンブラックを打ち負かす可能性は十分にあります。また、天皇賞・春の最後の直線、ジリジリと脚を伸ばす姿はいかにもヨーロッパの馬場が合いそうなストライドで、むしろ凱旋門賞が楽しみになりました。

 

アドマイヤデウス 4着

好スタートからキタサンブラックの直後のインのポジションを取りきり、最後の直線まで内ラチぴったりを回り、最後までサトノダイヤモンドに抵抗した4着。上りのかかるレースも合っていましたし、ペースが緩まずに流れたのもスタミナを振り絞れるこの馬にとっては最適な流れでした。成長力に富む配合で、上り勝負の競馬でなければGⅠでもやれるのだ、ということを示した一戦に。ただ、岩田騎手の素晴らしい騎乗をもってしても4着だったことから、上位3頭とは力の差があるなという敗戦ではありました。

 

シャケトラ 9着

最内枠を得たこと、日経賞を鮮やかに勝ち切ったことが評価されて3番人気に支持されたシャケトラは9着と敗退。乗り難しい馬で田辺騎手が出遅れを取り戻そうと促すとかかってしまいました。もちろん、それだけが敗因ではなく、高速馬場と京都の下り坂など決して得意とは言えない条件でのGⅠ初出走ですから、大敗したとしても情状酌量の余地は十分にあります。

もともと、機動力にあふれた配合で、小回りの中山を鮮やかに捲り切った前走の日経賞がベストパフォーマンス。内回り>外回りの適性ですから、宝塚記念に出走できるようであればこちらもチャンスは十分にあるでしょう。

 

ゴールドアクター 7着

まず、スタートで出遅れたのが全てで、今年の天皇賞・春は中団よりも後方にいた馬はノーチャンスでした。ただ、7着まで押し上げているようにこの馬も京都の芝であれば35秒台の上りになれば力は出せます。日経賞は1番人気を裏切る敗退でしたが、そこまで大きな力の衰えがあるわけではないという走りを見せました。

この次のレースをどこに定めるかが難しく、宝塚記念であれば再度の長距離輸送になりますから、陣営がどのような選択をするのかには注目です。

 

キタサンブラックの今後の可能性は?

大阪杯→天皇賞・春とGⅠを完勝し、春シーズンの締めくくり宝塚記念へと向かうキタサンブラック。この2戦のレース振りは他馬に付け入る隙を与えない走りで、現役最強馬の地位を揺るぎないものにしました。また、天皇賞・春はディープインパクトのもっていたレコードを0.9秒更新する走りで、スピード決着に対応できることも示し、弱点らしい弱点が見当たらない馬に。

粗を探すとすれば、ストライド走法の馬なので、阪神内回りの大阪杯を勝ったものの本質的には外回り>内回りの適性。もし宝塚記念がロングスパート戦になるようであれば、シュヴァルグランやサトノダイヤモンドといったHaloクロスの機動力に敗れることもあり得ます。

ただ、レースのペースを作れるのがこの馬の強みで、「いつもの」競馬さえできれば大きく崩れることは考えにくく……。

昨秋の京都大賞典1着→ジャパンカップ1着→有馬記念2着と同じように、今春もピークは天皇賞・春の公算が大きく、3戦目の宝塚記念でどこまで体調を整えられるかは注目です。まぁ、そうした懸念を吹き飛ばすくらいにこの馬が成長しているのかもしれませんが。

 

予想

◎シュヴァルグランの1着固定では何も当たらず……チーン……。

hakusanten.hatenablog.jp

 

キタサンブラック、サトノダイヤモンド、シュヴァルグラン、この3頭の対決を違う舞台でもう一度観たいな、と強く思った天皇賞・春。

 

皆様にとって天皇賞・春はどんなレースになったのでしょうか?