サマースプリントシリーズの第5戦「GⅢキーンランドC」は8月27日(日)、藤沢和雄厩舎の9歳馬エポワスが後方から直線で一気に差し切って1着となり、重賞初制覇を飾りました。2着に外枠からスムーズに先行して流れに乗ったソルヴェイグ、3着に好スタートから逃げ粘ったナックビーナスが入線。12番人気→2番人気→5番人気という組み合わせながら3連単が11万馬券と、少頭数ながら混戦模様のレースだったことが配当からもわかります。勝ちタイムは1分9秒0(良)。
2.0秒の前傾ラップで先行有利
キーンランドCは2.0秒以上の前傾ラップになったのは過去に1レースしかなく、イーブンな流れになるのがデフォルトです。2.6秒の前傾ラップになった'11年は4コーナーで先行していた馬が1〜3着を独占したように先行有利の展開。今年は前後半の3Fが33.5 - 35.5と2.0秒の前傾になり、2番手で先行したソルヴェイグが2着、逃げたナックビーナスが3着と上位に入ったのは納得の結果です。以下はこれまでに行われたキーンランドカップのレースラップをまとめた表になります。
▼キーンランドカップ 過去の成績
年 | 勝時計 | 着順 | 人気 | 歳性 | 馬 名 | 通過順位 |
2017 | 1:09.0 | 1 | 12 | 9セ | エポワス | 13 - 8 |
2 | 2 | 4牝 | ソルヴェイグ | 2 - 2 | ||
33.5 - 35.5 | 3 | 5 | 4牝 | ナックビーナス | 1 - 1 | |
2016 | 1:08.5 | 1 | 2 | 3牝 | ブランボヌール | 5 - 5 |
2 | 1 | 3牡 | シュウジ | 1 - 1 | ||
34.1 - 34.4 | 3 | 3 | 4牝 | レッツゴードンキ | 7 - 8 | |
2015 | 1:08.6 | 1 | 8 | 5牝 | ウキヨノカゼ | 16 - 7 |
2 | 9 | 6牝 | トーホウアマポーラ | 14 - 11 | ||
34.0 - 34.6 | 3 | 1 | 5牡 | ティーハーフ | 10 -11 | |
2014 | 1:09.4 | 1 | 3 | 4牝 | ローブティサージュ | 7 - 6 |
2 | 1 | 4牝 | レッドオーヴァル | 10 - 9 | ||
34.1 - 34.9 | 3 | 5 | 7牡 | マジンプロスパー | 2 - 2 | |
2012 | 1:07.6 | 1 | 3 | 5牡 | パドトロワ | 1 - 1 |
2 | 1 | 5牡 | ダッシャーゴーゴー | 3 - 3 | ||
33.5 - 34.1 | 3 | 4 | 4牡 | テイエムオオタカ | 2 - 2 | |
2011 | 1:08.6 | 1 | 1 | 4牝 | カレンチャン | 2 - 2 |
2 | 6 | 7牡 | ビービーガルダン | 6 - 3 | ||
33.0 - 35.6 | 3 | 4 | 4牡 | パドトロワ | 2 - 1 | |
2010 | 1:08.4 | 1 | 2 | 4牝 | ワンカラット | 3 - 2 |
2 | 6 | 6セ | ジェイケイセラヴィ | 3 - 4 | ||
33.7 - 34.7 | 3 | 8 | 5牝 | ベストロケーション | 7 - 7 | |
2009 | 1:08.4 | 1 | 2 | 5牡 | ビービーガルダン | 3 - 2 |
2 | 13 | 6牡 | ドラゴンウェルズ | 11 - 10 | ||
33.8 - 34.6 | 3 | 1 | 3牝 | グランプリエンゼル | 5 - 4 | |
2008 | 1:08.4 | 1 | 16 | 8牡 | タニノマティーニ | 4 - 4 |
2 | 2 | 4牡 | ビービーガルダン | 1 - 1 | ||
33.8 - 34.6 | 3 | 1 | 5牡 | キンシャサノキセキ | 8 - 9 | |
2007 | 1:08.6 | 1 | 4 | 3牝 | クーヴェルチュール | 2 - 2 |
2 | 2 | 6牝 | アグネスラズベリ | 9 - 7 | ||
33.9 - 34.7 | 3 | 3 | 6牡 | ワイルドシャウト | 11 - 10 | |
2006 | 1:08.4 | 1 | 4 | 6牝 | チアフルスマイル | 11 - 8 |
2 | 1 | 6牝 | シーイズトウショウ | 3 - 2 | ||
33.5 - 34.9 | 3 | 2 | 5牝 | ビーナスライン | 12 - 12 |
高齢馬には不利なレースで、それに加えて前傾ラップになったところを後方から差し切ったエポワスは素晴らしいの一言ですね。上り3Fが11.6 - 11.7 - 12.2とジリジリと失速する流れを後方からロスなく進めて差し切ったのは、この馬場が合っていただけではなく、仕掛けのタイミングと通ったコースがバッチリだったからでしょう。
エポワス 9歳騸馬
父:ファルブラヴ
母:マニックサンデー(母父:サンデーサイレンス)
厩舎:藤沢和雄(美浦)
母マニックサンデーはフローラSの勝ち馬で、そこにファルブラヴがかけられたエポワスは明らかに中距離×中距離の配合。ファルブラヴは良績が牝馬に偏るフィリーサイアーで、これで牝馬以外の重賞勝ち馬は騸馬のトランスワープとエポワスの2頭となりました。また、ワンカラットやアイムユアーズ、フォーエバーマークと牝馬の重賞勝ち馬は1000〜1400mを得意とするのもこの父の大きな特徴です。
エポワスはピュアなスプリンターではないため、追走に脚を使ってしまうような時計の速い決着には不向き。そのため、勝ち時計が1分9秒0になった今年のキーンランドCはエポワスには絶好の時計だったと言えます。2着ソルヴェイグ、3着ナックビーナスともに1400mでも良績のある馬で、パワーとスタミナの問われるレースになったのも、この馬が好走できた要因でしょう。
C・ルメール騎手は馬群を割るのを好む騎手で、だからこそレパードSのエピカリスも最後まで冷静に進路を探しての3着。キーンランドCのエポワスも3〜4コーナーでしっかりとスピードを乗せ、下がって来る馬をさばきながらロスのないコース取り。さすがはルメール騎手というソツのない騎乗でした。
2着ソルヴェイグと3着ナックビーナスについて
2着のソルヴェイグ、3着のナックビーナスともに4歳牝馬+先行馬+ダイワメジャー産駒。この時計のかかる馬場もスタミナを問われる前傾ラップもこの2頭にぴったりとマッチしました。器用に脚を使えることで、コーナーでしっかりとペースを上げながら後ろを引き離した2頭。ここで先行馬や外を回した差し馬は苦しくなりました。
ソルヴェイグ 4歳牝馬
好スタートから川田騎手が馬場の良いところを選んで走らせ、逃げるナックビーナスを捕らえに出たところを内からエポワスに差し切られての2着。
今年はシルクロードS6着、高松宮記念9着、ヴィクトリアマイル5着となかなか好走することができませんでしたが、ここにきてしっかりと立て直してきました。スプリンターズSに直行のローテになるはずで、この調子を維持できれば……。ただ、今年のキーンランドCの結果を見ても、ソルヴェイグはピュアなスプリンターではなく、1分7秒台前半+前傾ラップになるようなレースは不得意。スプリンターズSが33.5 - 34.0くらいのレースラップになると好走の可能性が高まります。
ナックビーナス 4歳牝馬
好スタートから横山典騎手がしっかりと前半3F33秒台のペースを作っての逃げ。この馬場で後続の足を削ぐ素晴らしい好走を見せました。ソルヴェイグの追撃を振り切ろうと懸命に粘るところをゴール前でエポワスに交わされてしまいましたが、スプリンターズSに向けての視界は良好。
逃げ〜差しと器用に立ち回れる馬で、コースロスなくインを立ち回れればGⅠでも十分に好走できる下地は十分です。ただ、この馬もピュアなスプリンターではなく1400mがベストの馬で、ソルヴェイグと同じようにスプリンターズSが33.5 - 34.0くらいのレースラップになれば期待がもてます。
その他の有力馬について
1番人気のモンドキャンノ、4番人気のメイソンジュニアともに外枠のスタートから中団に構え、4コーナー手前から仕掛けるもスパッとは伸びず、ジリジリと脚を使っての敗退。もう少しメリハリをつけた乗り方であれば、掲示板はあったかもしれませんが、2頭ともに勝ちに行ってのもの。外を回してなし崩しに的に脚を使ってしまったのは人気を考えれば致し方なしと言ったところでしょう。この敗戦はそれほど身体的・精神的なダメージも少ないはずで、次走の巻き返しに期待したいですね。
心配なのは3番人気に支持されたものの最下位に敗れたシュウジ。道中はかかるそぶりも見せずにスムーズに追走していたものの、4コーナー手前で手応えがなくなりズルズルと下がってしまいました。走りに集中できないのか、立て直しに時間がかかりそうな敗戦。北九州記念を制した半兄のツルマルレオンも母カストリアのパワーが前面に出たスプリンターで、前傾ラップになればなるほど強さを発揮しました。かかるのを恐れて折り合いに専念するあまり、母譲りの前進気勢が影を潜めたのは心配です。重賞レースで一流の騎手が乗ってもかかってしまうということはそれだけエンジンが優れている証拠ですから、それが見られなくなったのは気がかりです……。
◎ノボバカラは10着、◯フミノムーンは4着
ノボバカラは6〜8枠に入って、外から他馬に被されない位置でレースの流れに乗りたかったですね。前走は大きく出遅れたのが幸いして馬群に揉まれることなくスムーズな追走。今回は外に馬がいると気負った走りを見せていたことから、気性の難しさは相変わらず……。
フミノムーンはスタートで出負けして勝浦騎手がすぐに外目へ進路を取ったことからも、馬群をさばいてという競馬は初めから想定していなかったのでしょう。1番人気のモンドキャンノ+戸崎騎手がすぐ前にいて、その後ろから合わせて仕掛けたのは自然なことで、直線入口でちょっとスムーズさを欠いたものの、あそこでスッとギアチェンジできる馬なら頭まで突き抜けているはずです。また、内に進路を取ったからと言って着順を上げられたのかは「?」が付きます。モンドキャンノやメイソンジュニアよりもワンテンポ早く外から捲っていれば違った結果になったかもしれません。ただ、それだと4着に入れなかったかもしれませんしね。
まとめ
ルメール騎手の素晴らしい騎乗で9歳騸馬のエポワスが重賞初勝利。これでファルブラヴ産駒はキーンランドCを3勝と抜群の相性を誇っています。また、ファルブラヴ産駒が制覇した15の重賞レースの内、7勝が函館・札幌でのもの。牝馬と騸馬のファルブラヴ産駒が洋芝の北海道シリーズに出て来たらチェックをしておく必要がありますね。
以上、お読みいただきありがとうございました。