アルゼンチン共和国杯(GⅡ・東京芝2500m)は、今春のダービー2着馬スワーヴリチャードが直線インからスムーズに抜け出し、1人気に応えトップでゴール板を駆け抜けました。2着以下に0.4秒差をつける快勝劇。初の古馬との対戦もアッサリとクリアし、最高の形で秋の初戦を飾ったと言えます。
2着は好位からレースを進め、直線でしっかりと伸びたソールインパクト、3着は好位のインをロスなく立ち回った3歳馬のセダブリランテスが入線。勝ちタイムは2分30秒0(良)。
スワーヴリチャード 3歳牡馬
父:ハーツクライ
母:ピラミマ
厩舎:庄野靖志(栗東)
生産:ノーザンファーム
ハーツクライ産駒としては「バネ」を感じさせる美しいフットワークで走ります。抜け出すときの脚も素晴らしいですし、道中で体力をロスせずに走れることも長所の1つ。
母父Unbridled's Songのしなやかさ
スワーヴリチャードの母父Unbridled's Songは、菊花賞馬のトーホウジャッカル(父スペシャルウィーク)や朝日杯FSを勝ったダノンプラチナ(父ディープインパクト)の母父としても知られます。この2頭はともに美しいストライドで走る馬で、それは母系に入るGrey Sovereign系のCaroがしなやかさを伝えるからでしょう。
しなやかさは加速をするときに全身をより伸縮させるため、体力を大きくロスします。その反面、一定のスピードで走る場合は身体の柔らかさがクッションとなるため、地面をキックするときにダメージは少なくなるのです。
スワーヴリチャードはステイヤータイプ?
アルゼンチン共和国杯の行われた日曜日の東京の芝は、土曜日よりも時計面で「軽く」なっていました(✳︎)。
✳︎9R百日草特別(2歳500万下・芝2000m)の勝ちタイムが2分00秒9。上り3F33.6の脚でハーツクライ産駒のワンツーでした。速い時計が出るにもかかわらず、瞬発力よりも持続力に優れた父をもつ馬が好走するという「ややこしい」馬場。
そのため、逃げたマイネルサージュは道中で1F12.5秒より落とすことなく、淡々とした流れを作れたと言えます。最後の5Fは11.8 - 11.8 - 11.9 - 11.6 - 12.1ですから、瞬発力よりも持続力を問われるレースになりました。
見た目の時計以上に走りやすいペースとなり、3〜4コーナーでも11.8 - 11.8と大きくは緩みませんでしたから、いかに体力のロスなくスムーズに走れたのかがポイント。
しなやかなフットワークのスワーヴリチャードにとって、この緩みのないペースを中団のインで淡々と走れたことは、体力のロスを最小限に抑えるのに適していました。
1F12.0秒前後を淡々と追走してもOKということは、それだけこの馬のステイヤー色が強いことを示しています。ハーツクライ産駒ですから、古馬になってもっと成長するでしょうし、来春の天皇賞・春は(右回りを克服できるのなら)チャンスも十分でしょう。
3歳牡馬のレベルは?
スワーヴリチャードが古馬と対戦するこのレースで、今年の3歳牡馬のレベルがはっきりすると思いましたが、ここまでインコースが優勢の馬場だと、「よくわからない」というのが本音です。このレース3着のセダブリランテスが勝ったラジオNIKKEI賞3着馬のロードリベラルは、古馬1000万下で好走できていませんし……。
スワーヴリチャードが古馬混合のGⅡを勝ったことで、相対的にジャパンカップに出走するレイデオロの評価も上がるでしょう。今年のダービー馬がジャパンカップで好走できるのかは、しっかりと考えたいところです。
次走は……?
ジャパンカップへの出走となると、中2週+長距離輸送となるため、体調面でのケアが難しくなります。また、近年のジャパンカップはショウナンパンドラやジェンティルドンナなど牝馬の活躍が目立ちますが、それは牝馬のキレが活きる展開になりやすいから。
スワーヴリチャードはスローペースでも対応できる馬なものの、瞬発力勝負では分の悪いハーツクライ産駒なので、ジャパンカップよりも天皇賞・春がベター。有馬記念は3コーナーで加速できる機動力の問われるレースなので、ストライドで走るこの馬にはマイナスです。
七夕賞3着のソールインパクトが2着
今夏の七夕賞(GⅢ・福島芝2000m)3着ソールインパクトが、アルゼンチン共和国杯を2着と好走しました。そして、今走3着のセダブリランテスは七夕賞を制したゼーヴィントと同牝系で血統構成が似ています(✳︎)
✳︎セダブリランテスは福島芝1800mのラジオNIKKEI賞の勝ち馬でもある
つまり、福島芝2000mを好走するような馬が東京芝2500mのアルゼンチン共和国杯の2、3着になるのですから、今年のレースは小回りコースでよく見られる持続戦になったと言えるでしょう。
アルゼンチン共和国杯と七夕賞の不思議な関係
過去10年、七夕賞を勝った後にアルゼンチン共和国杯を制した馬は、2013年のアスカクリチャンと2009年のミヤビランベリの2頭。今年と2013年のレースラップを較べると、似たような流れだったことがわかります。
▼2017年と2013年のアルゼンチン共和国杯
2017年:2分30秒0(勝ちタイム)
7.4 - 11.3 - 11.2 - 12.2 - 12.1 - 12.3 - 12.2 - 12.1 - 11.8 - 11.8 - 11.9 - 11.6 - 12.1
2013年:2分30秒9(勝ちタイム)
7.5 - 11.0 - 11.4 - 12.5 - 12.6 - 12.1 - 12.4 - 12.2 - 12.1 - 11.9 - 11.8 - 11.6 - 11.8
どちらのレースも後半1200mは1F11.5秒よりも速い脚を問われることなく、その代わりダラダラと脚を使わされています。これは、小回り福島の七夕賞が3〜4コーナーからのロングスパート戦になるときのラップに近いのです。
そして、ソールインパクトもセダブリランテスも小回り向きの器用さがあるタイプ。日曜日のインコース有利の馬場コンディションと淀みのないペースが、この2頭には幸いしましたね。
◎サラトガスピリット16着、◯レコンダイト15着
◎と◯が16着、15着を揃って取ってしまうのですから、もうグウの音も出ないアルゼンチン共和国杯になりました。
◎サラトガスピリットは、前半から積極的に好位の外を追走する形。もともと持続戦に強い馬だけに、これほど負けてしまうのは、体調面が整ってなかったのでしょう。ただ、この日のように、前々好位で流れに乗るレースが合っているので、これが刺激になれば……。
◯レコンダイトは、11秒台後半のラップが続くレースを得意としているものの、終始外目を回ってしまったため、体力をロスしてしまいました。内枠だったらまた違った結果だったかもしれませんね。
東京芝コースはイン有利が顕著に
東京競馬場は天皇賞・秋まで道悪のレースが3週にわたって続きました。各馬がインコースを避けて通っていたため、現在はインが復活しています。
また、傷みに強い野芝のエクイターフは、踏み固められると速い時計が出るので、このままの状況が続くと、よりイン有利が顕著になるでしょう。今後の馬場状態はチェックが必要です。
まとめ
今後に向けて大きく展望が拓けたスワーヴリチャード。体質の弱さと手前を替えずに走る癖など、まだまだ課題の多い馬ですが、ステイヤーとしての資質は一級品です。ハーツクライ産駒の素質馬が、この後どのような成長曲線を描くのかが楽しみになりました。
以上、お読みいただきありがとうございました。