第62回有馬記念(2017年)はキタサンブラックが有終の美を飾る

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第62回有馬記念(GⅠ・中山芝2500m)は、ここがラストランとなる1人気キタサンブラックが優勝。好スタートから武豊騎手が押してハナに立つと、4コーナーまで後続を釘付けにしての逃げ切り勝ちを上げ、GⅠ7勝+獲得賞金歴代1位の記録をマークした。

武豊騎手は1〜2コーナーから1F13秒台のペースに落とし、2番手シャケトラ以下の後続が突いてこないのを尻目にレースを完璧にコントロール。残り1000mを12.2 - 12.1 - 11.7 - 11.2 - 12.1と少しずつペースアップし、他馬に付け入る隙を与えなかった。

 

不運の名馬を象徴するラストラン

ラストランとなった2017年の有馬記念は、キタサンブラックという名競走馬の「不運さ」を象徴したレースだったと言える。

上位人気馬のなかでこの馬だけが1桁馬番の1枠2番からのスタート。好枠を活かした逃げで、他馬のもち味を削ぐ展開にコントロールし、美しく淀みのないラップを刻んだジャパンカップからは一転した「勝ちに徹する逃げ」で勝利をもぎ取った。

キタサンブラックは天皇賞・春や有馬記念など、「内枠有利」と言われるレースでことごとく好枠を引くため、勝利を上げたレースでも「恵まれた」という印象を周囲に与えてしまう。

もちろん、キタサンブラックが「名馬」と呼ばれるにふさわしい強さをもっていることは、歴史的な不良馬場になった天皇賞・秋などの勝利がはっきりと示している。それだけに、「内枠で恵まれた」というイメージを競馬ファンにもたれてしまうのは不運としか言いようがない。

 

武豊の確信犯的なスロー逃げ

「武豊騎手なら、前走のジャパンカップと同じく、1F12.5前後のラップを淡々と刻むようなペースにもち込むのではないか?」と競馬ファンの多くが予想したのとは裏腹に、今年の有馬記念はキタサンブラックにとって楽なペースでの逃げ。

武豊騎手は今年のジャパンカップで淡々と美しいラップを刻んでいるだけに、ラストランとなる大一番で見せた「勝つための逃げ」は確信犯と呼べるもの。前走が布石となって、他の騎手は動くに動けない展開となった。

ジャパンカップ→有馬記念を1本の線として見るならば、前走はラストランを勝つための「布石」のような淡々とした逃げだったと言える。今走はその前走とは一転して、他の有力馬の長所を削ぐ逃げ。「キタサンブラックによる、キタサンブラックが勝つため」の逃げだったのだから、このレースにかける陣営の執念をまざまざと見せつけられることになった。

 

単勝1.9倍の重さ

ラストランとなったキタサンブラックの単勝は1.9倍の1人気。ラストランや1枠に入ったことを抜きにしても、グランプリ・コースで勝ち星のない馬が2倍を切るオッズに支持されたのは驚きだった。

ファンの期待に応えて勝利をもぎ取ることーー内容よりも結果を求められるレースだっただけに、主戦の武豊騎手へのしかかるプレッシャーは相当なものがあったはずで、この「重さ」を人馬ともに乗り越えたことは素晴らしいの一言。「勝たなければならないレースを勝つ」というのは本当に難しいことで、それを成し遂げてしまうのは武豊騎手とキタサンブラックのそれぞれに、「根本的な強さ」があったからだろう。

競走馬としてのキタサンブラックのベストレースは、歴史的な不良馬場でサトノクラウンと叩きあった天皇賞・秋が上げられるが、「みんなの愛馬」としてのベストレースは、1倍台のファンの期待の応えたこの有馬記念。この馬のラストランを観れただけでも、私たちは幸せなのかもしれない。

 

外国人ジョッキーと乗り替わり

今年のGⅠ路線はM・デムーロ、C・ルメールなどの外国人ジョッキーが大活躍。そのため、1年の総決算である有馬記念で、2〜4着を外国人ジョッキーが占めたのは、ごく自然なことだったと言える。そして、この2〜4着の馬はすべて前走、または前々走からの乗り替わりなのだから、「騎手と馬とがパートナーとしてお互いの理解を深める」ことの難しさが浮き彫りになった。

シュヴァルグランをジャパンカップで勝利に導いたH・ボウマン騎手の手綱さばきは賞賛に値するものだが、この馬を完成形に導いたのは紛れもなく元主戦の福永祐一騎手。昨年の有馬記念や今年の阪神大賞典で積極的な「捲り」をしたからこそ、GⅠに手が届いたと言えるのだ。

今年の有馬記念で福永騎手が騎乗したシャケトラは、3〜4コーナーでの加速が最大の武器で、4着と好走した宝塚記念のように直線で先頭に立つレースが合うタイプ。福永騎手がキタサンブラックを4コーナーで交わしに行くレースをしなかったのは、まだコンビを組んで2戦目だからだろう。

騎手が勇気をもって積極的に仕掛けることができるのは、パートナーの能力や長所を深く理解しているからこそ。今年の有馬記念は2年近くコンビを継続したキタサンブラックと武豊騎手が勝利を上げたことからも、騎手と馬とがお互いを理解する時間をかけることの大切さを痛感させられた1戦だった。

 

サトノクラウンは13着

「今年の有馬記念はもっとも好きな馬サトノクラウンに◎」ということで、単勝を買って応援したサトノクラウンは13着。小回りの中山コース+時計の速い馬場は不向きとは言え、ここまで負けるのは、体調が整ってなかったことが大きな敗因。

「宝塚記念のように向正面で押し上げれば」や「R・ムーアよりもM・デムーロが合っている」などの意見を目にするものの、今走はそれ以前にデキが今春の好調時とは異なっていたな、という印象。

サンデーサイレンスの血をもたないことから、種牡馬としての価値が高い馬なので、来年も現役を続行するなら、とにかく無事に走ってくれることを願っている。

 

ハーツクライ産駒は3、4着

ハーツクライ産駒は東京競馬場のGⅠしか勝ち鞍がなく、有馬記念で上位の人気に推されたシュヴァルグランとスワーヴリチャードは3着、4着に敗れる結果になった。

4コーナーからスパートしたキタサンブラックを、外を回して差し切るのは容易なことではなく、直線でびゅんと加速するのが武器ではないハーツクライ産駒の2頭にとっては苦しい流れだったと言える。

コーナーでの加速力はシュヴァルグラン>スワーヴリチャードだから、この着順は納得。ただ、前目のポジションを取れなかった時点で、2頭ともに「勝ち切るまでは難しかった」だろう。

 

まとめ

「無事是名馬」の言葉がこれほど似合う馬は近年、キタサンブラックをおいて他には見当たらない。この名馬がターフを去り、そして、2018年の競馬が幕を上げる。

 

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参照元:℃-ute - YouTube