第63回有馬記念は2018年12月23日(日)に発走。今年のJRAの競馬を彩った馬たちが中山芝2500mの舞台に集い、私たちの「記憶」に残るレースがそこで繰り広げられます。
2018年のクライマックスとなるレースは、どのような結末を迎えるのでしょうか?
今秋のGⅠはノーザンファーム生産馬
今秋、JRAのGⅠはこれまでに10レース行われ、短距離のスプリンターズSとダートのチャンピオンズCを除くと、すべてノーザンファーム生産馬が制しています。
▼2018年・秋のGⅠ
スプリンターズS:ファインニードル
秋華賞:アーモンドアイ
菊花賞:フィエールマン
天皇賞・秋:レイデオロ
エリザベス女王杯:リスグラシュー
マイルCS:ステルヴィオ
ジャパンカップ:アーモンドアイ
チャンピオンズC:ルヴァンスレーヴ
阪神JF:ダノンファンタジー
朝日杯FS:アドマイヤマーズ
*青色でマークしたのが非ノーザンファーム生産馬
3冠牝馬アーモンドアイの存在があったとは言え、ここまで「ノーザンファーム、ノーザンファーム、ノーザンファーム」がゴリ押しすることになるとは……。この結果を見てしまうと、非ノーザンファーム生産馬がGⅠを勝つには、キタサンブラック級のズバ抜けた競争能力をもっていないと難しいことがわかります。
今秋のGⅠのトレンドは?
今秋のGⅠにおけるトレンドは以下の通りです。
1. ノーザンファーム生産馬
2. C・ルメール騎手(or 外国人騎手)
3. 関東馬
1〜3がすべて揃うと、菊花賞を制したフィエールマンのように、5人気以内の支持を受けてなくとも好走してしまいます。1600m以上の芝GⅠを勝つためには「1&2」が必須事項です。つまり、ノーザンファームが騎手をどのように配置するのかは、今秋のGⅠを予想する上で大切なファクターと言えるでしょう。
有馬記念もこのトレンドは続く
上記の1〜3のファクターがすべて揃ったグランアレグリアが朝日杯FSを3着と敗れたものの、1着となったアドマイヤマーズは「ノーザンファーム+M・デムーロ騎手」の組み合わせ。朝日杯FSの記事でも書いたように、「蓋を開けてみればノーザンファーム生産馬」という結果となりました。
有馬記念は「1年の総決算」と言われるレースですから、このトレンドはそのまま続くのでしょう。有馬記念にも「1〜3」のファクターをすべて揃えたレイデオロが出走しますし、「2018年の秋、芝GⅠはノーザンファームの独り勝ち」となるのかもしれませんね。
非ノーザンファーム生産馬がポイント
今秋のGⅠのトレンドから、有馬記念を制するのはおそらくレイデオロでしょう。もう少し広げたとしても、ボウマン騎手を配したシュヴァルグランがギリギリのラインです。
となると、有馬記念を予想する上でのポイントは、「2・3着に好走する非ノーザンファーム生産馬はどれか?」となります。席が2つあるので、ここに座ることのできる馬を探すのが高配当ゲットへの近道と言えるでしょう。
キセキとモズカッチャン
非ノーザンファーム生産の内、単勝オッズ10倍以下の支持を集めるのはキセキとモズカッチャンの2頭。今回の記事ではこの2頭について解説します。
キセキ 4歳牡馬
父:ルーラーシップ
母:ブリッツフィナーレ(母父ディープインパクト)
厩舎:中竹和也(栗東)
生産:下河辺牧場
騎手:川田将雅
今秋の毎日王冠からキセキとコンビを組んだ川田騎手は、「いかにトニービンの血を振り絞るか」に焦点を当てたレース・メイクをしています。今年のジャパンカップの勝ち時計2分20秒6は、キセキの高い競争能力を信じた川田騎手のペースメイクがなければ、現れなかったものと言えるでしょう。
トニービンの血
トニービンはハーツクライとルーラーシップの母父として、エアグルーヴやジャングルポケットの父として、現代の日本競馬に枝葉を広げている大種牡馬です。この血は天皇賞・秋やジャパンカップなど東京の大レースを得意とし、直線に上り坂のあるコースに向いています。
ハーツクライやルーラーシップが産駒に伝える「重厚なストライド(パワフルなストライド)」は、1F11秒台の脚を長く使うのに適していて、「直線が長く、ゴール前が上り坂」の東京コースはずんどばの舞台です。この2頭の種牡馬はトニービンのもつHornbeamを刺激することで重厚なストライドを獲得しています。
キセキのスタミナはHyperionから
Hornbeamが引くNasrullahとHyperionの組み合わせが、このストライドの源泉です。また、Hyperionは何世代を経ても豊かなスタミナと成長力を子孫に伝えるほどの名種牡馬。近年ではキタサンブラックがこの特質をもっとも受け継いでいると言えます。
トニービンの血を活かすにはいかにHornbeamの血を刺激するのかが大切で、それは代を経ても変わりません。キセキの母ブリッツフィナーレはHyperionを多く引く繁殖牝馬。このスタミナこそがキセキの粘り強い走りを支えています。
秋4戦目のローテーションは不安?
どの競馬メディアも取り上げているのでしょうが、キセキが有馬記念を好走できるかの最大のポイントは秋4戦目というローテーション。昨年まで日本の芝中距離路線のチャンピオンだったキタサンブラックでさえ、秋のGⅠ路線は3戦しか走りませんでした。
速い時計のマークされる芝のGⅠを走ることはそれだけ馬の身体にかかる負担が大きく、今では「いかにフレッシュな状態でレースに出走できるか」が大きなポイントとなっています。常識的には、秋4戦目のローテーションは大きくマイナスです。
有馬記念への適性は?
先にも述べたように、キセキは重厚なストライドで走るため、コーナー距離の長いコースに向いていません。これまで直線の長い大箱コースだと(4 - 2 - 3 - 1)と好走していることからも、直線の短い中山コースはマイナスです。
ただし、3コーナーからのロングスパート戦になることの多い有馬記念は、全体的に淀みのないペースで逃げるキセキに合っているレース。ここも川田騎手が勇気をもってペースメイクをするなら、チャンスはあるかもしれませんね。
もしペースを引き上げるのなら、向正面からのロングスパートがベスト。3〜4コーナーからの加速はストライドの大きなキセキにとって、スタミナを大きく消耗する恐れが……。
時計のかかる馬場への適性は?
キセキは今年の天皇賞・秋とジャパンカップを速い時計で走破しており、「高速馬場向きなのでは?」と考えられています。とは言え、不良馬場だった昨年の菊花賞を制していることから、時計のかかる馬場もOKの馬です。これはどうしてなのでしょうか?
この馬は母父ディープインパクトと祖母ロンドンブリッジの長所が上手く噛み合わさっています。前肢のしなやかさは母父譲りで、これが高速馬場への適性を高めている一因です。それに対して、後躯のパワーは母系に入るDanzigに由来し、これが重馬場への適性をアップさせています。
キセキは父から重厚なストライドを受け継ぐだけではなく、母父と祖母の良いところを取り出し、さまざまな馬場に対応できるオールラウンダーとなりました。そのため、時計のかかる馬場そのものを苦にすることはありません。
モズカッチャン 4歳牝馬
父:ハービンジャー
母:サイトディーラー(母父:キングカメハメハ)
厩舎:鮫島一歩(栗東)
生産:目黒牧場
騎手:M・デムーロ
好位のインでスムーズにレースの流れに乗れるのがこの馬の最大の長所で、スローから上り4Fの勝負になればまず凡走のないタイプです。
好位のインにスッと付け、直線でしっかりと先に抜け出したクロコスミアを捕えたエリザベス女王杯がモズカッチャンの勝ちパターンと言えます。
血統
父ハービンジャーについては以下の記事に詳しく解説しているので、ここでは簡単に触れておきましょう。
モズカッチャンの母サイトディーラーは北米を代表する種牡馬Mr. Prospector3×4とSecretariat5×5のクロスをもちます。このしなやかなスピードに長けた血は、道中でロスなく走る能力を産駒に伝え、モズカッチャンにもそれが現れているのです。
「しなやか」過ぎるとスピードに乗るまで時間がかかってしまうものの、モズカッチャンはDanzig4×5のクロスによってパワーを補っている分だけ、コーナーを器用に加速する俊敏性を獲得しています。
ハービンジャー産駒は叩き良化型?
ハービンジャー産駒のGⅠ馬はこれまでに3頭おり、ディアドラ、モズカッチャン、ペルシアンナイトともに「叩き良化」のタイプです。
とくにモズカッチャンとペルシアンナイトはそれが顕著で、これまでの戦績からも叩き2戦目にパフォーマンスを上げていることがわかります。
モズカッチャンは今走の有馬記念が叩き2戦目。前走のエリザベス女王杯3着からさらにパフォーマンスを上げることは間違いなく、楽しみな1戦となりますね。
M・デムーロ騎手を確保
スワーヴリチャードが回避したことで、モズカッチャンの鞍上はM・デムーロ騎手となりました。有馬記念という大一番に向け、主戦騎手を確保できたことは大きなプラスです。
M・デムーロ騎手は今秋のGⅠにおいてやや精彩を欠いていたものの、チャンピオンズCと朝日杯FSを制してリズムを取り戻しつつあります。有馬記念は外国人ジョッキーの活躍するレースでし、モズカッチャンは心強いパートナーをゲットしました。
有馬記念に向けて
好位のインを取り切れる枠の並びになるのかどうか……モズカッチャンが今年の有馬記念を好走するには、まずこのポイントをクリアする必要があります。また、M・デムーロ騎手は出遅れの確率が高く、スタートをしっかりと出せるかも気になる点です。
モズカッチャンは同じハービンジャー産駒のディアドラやペルシアンナイトと異なり、小回り向きの器用さを兼ね備えたタイプ。また、「スロー+ロングスパート戦」がベストなだけに、キセキの作るペースもそれほど苦にしません。
まとめ
今回の記事では非ノーザンファーム生産の上位人気馬2頭について解説しました。さて、この2頭が有馬記念を好走することができるのか、今からレースが楽しみですね。
以上、お読みいただきありがとうございました。