ハーツクライを父にもつ現役(2018年10月現在)のGⅠ馬はスワーヴリチャードとシュヴァルグラン、タイムフライヤーの3頭。GⅠ2着まで広げれば、リスグラシューとフェイムゲームがいます。タイムフライヤーを除く4頭の共通点は東京コースの重賞を制していることです。
母父にトニービンをもつハーツクライはこの重厚な「キレ」をONにするとズドーンと弾ける脚を使える産駒が出ます。そして、その「キレ」を発現させるには繁殖牝馬がNasrullahとHyperionの組み合わせ(✳︎)をもっていることが必要です。
✳︎Nasrullahと血統構成の近いRoyal ChargerでもOK
上記のスワーヴリチャード、シュヴァルグラン、タイムフライヤー、フェイムゲーム、リスグラシューはすべて母系にNasrullahとHyperionの血を引いています。
・スワーヴリチャード
母父Unbridled's Songの母Trolly SongがNasrullahとHyperion
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・シュヴァルグラン
母母父Nureyevの母SpecialがNasrullahとHyperion
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・タイムフライヤー
母ジョリーザザがNasrullahとHyperion(ジョリーザザの父AlzaoがRoyal ChargerとHyperion)
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・フェイムゲーム
3代母ダイナサッシュがNasrullahとHyperion
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・リスグラシュー
祖母Miller's Lilyの父父Mill ReefがNasrullahとHyperion
Halo3×4・5のクロスをもつシュヴァルグランは小回り・内回りコースを器用に立ち回りますが、母系にNasrullahとHyperionをもつハーツクライ産駒は重厚なストライドで「ズドーン」と差すスワーヴリチャードやリスグラシューがスタンダードと言えるでしょう。
母系にNasrullahとHyperionをもつハーツクライ産駒
先週の富士S(GⅢ・東京芝1600m)を制したロジクライも母系に入るThatch(Specialの全弟)からNasrullahとHyperionを引きます。この馬が直線の長いコースで好走するのは、トニービン的なパワフルなストライド走法をもつからです。
✳︎ロジクライは自身がHalo3×4のクロスをもつため、シュヴァルグランと同じく器用さを兼ねているのが大きな特徴です
ハーツクライの母父トニービンはHornbeamがNasrullahとHyperionの組み合わせをもつので、東京コースのGⅠを勝つ産駒を多く出しました。このHornbeamの重厚なキレをONにすることができれば、スワーヴリチャードやリスグラシューのような末脚を発揮できるのです。
それに対して、タイムフライヤーは母父RobertoのパワーとスタミナがONになっている(サンデーサイレンスとRobertoの間でHail to Reasonのクロスが発生)ので、小回り・内回りをゴリゴリと捲るタイプに出ました。これはグレイルなども同じパターンで、Roberto的なパワーが優勢だと東京コースに向くタイプにはなりません。
つまり、非Robertoの母系にNasrullahとHyperionを引くハーツクライ産駒の多くは、トニービン的な資質がONになると言えるでしょう。
アルテミスSに出走するアフランシール
アルテミスSに出走するハーツクライ産駒のアフランシールは、NasrullahとHyperionをもつテスコボーイとTrolley Songを母系に引いています。この牝馬は札幌の新馬戦を上り3F34.5のキレで勝ち上がったように、トニービン的なキレがONになっているタイプです。
新馬戦はゴール前で手綱を抑える余裕を見せました。続く札幌2歳Sは「小回り+ハイペースの消耗戦」を先行しての5着なので、悲観する内容ではありません。東京コースに替わるアルテミスSなら、アフランシールのパワフルなストライドを十分に発揮できるでしょう。
アフランシール 2歳牝馬
父:ハーツクライ
母:ルシュクル(母父サクラバクシンオー)
厩舎:尾関知人(美浦)
生産:ノースヒルズ
母ルシュクルはファルコンS(GⅢ)3着の他、JRAの芝1200mで3勝を上げたスプリンター。その母アジアンミーティアは名種牡馬Unbridled's Songの全妹という良血馬で、新潟大賞典を制したダコールなどを出しています。
ハーツクライ×Unbridled's Songはスワーヴリチャードと同じで、アフランシールはさらにテスコボーイを通じでNasrullahとHyperionを引くので、よりトニービン的な資質がONになっていると言えるでしょう。
ハーツクライ産駒はスワーヴリチャードのように2〜3歳の頃だとトモが緩くスッとスタートを切れない馬が多いのですが、アフランシールは比較的パンとした馬体をしています。これは母ルシュクルのスプリンター的なパワーが活かされているからです。
アルテミスSに向けて
札幌の新馬戦はスローだったとは言え、レースの上り3F11.6 - 11.7 - 11.6をスパッと差し切り、素質の高さを見せました。小回りの洋芝でこの上りを使えるのですから、東京コースならさらにパフォーマンスが上がるでしょう。
リスグラシューと同じく11.5前後のラップがダラダラと続くレースがベスト。アルテミスSは牝馬限定の東京マイルなので、前半のペースがあまりにも緩く、1F11秒台を切るような瞬発力戦だとやや不安があります。
1人気に推されるグレイシアがポンとスタートを切れればそこまでのスローペースにはならないはず(田辺騎手なのでかなりの溜め逃げもあり得そうですが……)で、アフランシールがズドーンとした末脚を引き出せるのなら好勝負。
岩田騎手がいつもの「インをさばいてビュン」ではなく、直線の外からリスグラシューらしい末脚を引き出すなら、グレイシアを差し切るだけの力を秘めています。
まとめ
アフランシールは好配合のハーツクライ産駒。また、実際のレースぶりも血統通りのキレ味を発揮しており、今後が楽しみな素質馬です。半姉ブランボヌールよりもスケールは上なので、阪神JFに向かって欲しい1頭。
アルテミスSの時期が来ると、来年のクラシックの足音が近づきつつある雰囲気が漂い、どこか気分がワクワクしますね。
以上、お読みいただきありがとうございました。