2歳のマイル・チャンピオンを決める「朝日杯FS(GⅠ・阪神芝1600m)」は、「大物」と称されるタワーオブロンドンとダノンプレミアムの2頭が出走を予定しており、来春のNHKマイルC(GⅠ・東京芝1600m)やクラシックを占う意味でも重要な1戦です。
タワーオブロンドンは藤沢和雄厩舎+C・ルメール騎手の「ゴールデン・コンビ」が自信をもって朝日杯FSへと送り出す素質馬。OPききょうSと京王杯2歳S(GⅡ・東京芝1400m)を圧巻のパフォーマンスで2連勝し、ルメール騎手が「ロードカナロア級」と賞賛する馬だけに、そのレースぶりに注目が集まります。
ダーレー・ジャパンの代表を務めるH・H・シェイク・モハメド殿下の所有馬(海外からのもち込み馬)とあって、タワーオブロンドンの配合の「オシャレさ=上品さ」は頭ひとつ飛び抜けたもの。今回の記事ではその血統構成も含め、この馬が朝日杯FSで好走できるのかを解説します。
タワーオブロンドン 2歳牡馬
タワーオブロンドンはまだまだ「顔」が大きく、現時点ではコロンとしたアンバランスな馬体のもち主です。ただ、走り出すと実にパワフルで、いかにも欧州風なマイラーといった趣のある馬。プロフィールは以下の通り。
父:Raven's Pass
母:スノーパイン(母父:Dalakhani)
厩舎:藤沢和雄(美浦)
生産:ダーレー・ジャパン・ファーム
騎手:C・ルメール
タワーオブロンドンは、スピードが上がるとピッチ→ストライドへと走法が変わり、前脚をグンと伸ばせるのが最大の長所です。前走の京王杯2歳Sは直線の坂をパワーピッチで駆け上がると、仕掛けられたラスト200mでビュンとストライドを伸ばしました。
レースの上り33.8(11.2 - 11.1 - 11.5)をこの馬自身は33.2の脚で差し切っているのですから、ビュンと加速するときの「パワー」が飛び抜けています。このパワーはポジティブに言えば重厚感のある、ネガティブに言えば重苦しさの残る馬体によるものです。
血統
Raven's PassはGone West系でも底力を伝えるElusive Qualityを父にもち、母Ascutneyが主流の血脈(Northern DancerやMr. Prospector)を引かないため、活力にあふれた好配合の種牡馬。
Elusive QualityがGone West系らしい軽いスピードだけではなく、大レースを勝ち切る底力をもつのは、その母Touch of Greatnessの優れた繁殖能力によるものでしょう。
✳︎)この名牝はショウナンアデラ(母父Elusive Quality)とサトノクラウン(母父Rossini:母がTouch of Greatness)などのGⅠ馬の母系に入ることで、優れた血を伝えています。
母スノーパインは英ダービー馬ジェネラスを産んだDoff the Derbyにさかのぼり、日本においても皐月賞馬のディーマジェスティなどを出している牝系の出身。2代母のシンコウエルメスがSadler's Wells×Master Derbyとコテコテの欧州的なパワーとスタミナを伝える配合だけに、そこに重厚なキレをもつDalakhani(父Darshaan×母父Miswaki)がかけられているのは好印象です。
タワーオブロンドンは好配合
父Raven's Passも母スノーパインも5代アウトブリードの配合で、タワーオブロンドン自身はNorthern Dancer4×5とMr. Prospector5×4のクロスをもちます。父のしなやかなスピードと母の重厚さがマッチしており、もしタワーオブロンドンが牝馬であれば、ディープインパクトを付けてGⅠ馬が産まれるほどの好配合。
この馬はルメール騎手が「1400mがベスト」と評しているように、強大なパワーを誇る母系から重厚な馬体を、父から豊かなスピードを受け継いだ「パワー・マイラー」です。日本の芝にも対応できるのはTouch of Greatnessと父の母Ascutneyに流れるしなやかなNasrullahの血によるもの。
H・H・シェイク・モハメド殿下の所有馬の配合が上品なのは、タワーオブロンドンを含めて主流ではない血をしっかりと取り込んでいることで、父Raven's Pass(シェイク・モハメド殿下の第2夫人ハヤ王妃の所有馬)も母スノーパインもその思想が反映されていることがわかります。だからこそ、世界有数のオーナーブリーダーとして大成功を収めているのです。
過去4走の内容
タワーオブロンドンは札幌芝1500mの新馬戦でデビュー勝ちを上げ、ここまでの4戦は(3 - 1 - 0 - 0)。ノー・ステッキで2着馬を0.6秒ちぎったOPききょうS、上り33.2の鋭さで差し切った京王杯2歳Sの2走は、この馬の底知れぬポテンシャルを示しています。
ここまでは持続戦(消耗戦)になったききょうS、3Fの瞬発力勝負になった京王杯2歳Sと異なる質のレースで2連勝を上げていることから、ペースに左右されずに力を発揮できることは間違いありません。ただ、1500mまでしか経験がないことを考えると、「マイルの距離に対応できるか」は「?」が付きます。
朝日杯FSに向けて
ダノンプレミアムやステルヴィオなどの上位人気馬と較べて、タワーオブロンドンのポテンシャルが見劣ることはありません。ゴール前に急坂のある阪神コースは、パワーピッチで走るこの馬の適性に合った舞台。
関東からの長距離輸送については、2走前のききょうSで経験済みですし、デビューから手綱を取るC・ルメール騎手を確保できたことも大きくプラスです。
不安点は?
不安は「マイルへの距離延長」、この1点だけ。現時点では1400mベストの馬ですから、1600mのレースであれば時計の速い決着になるのがベター。1分33秒0前後の勝ちタイムなら、この馬にも好走のチャンスは十分にあります。
1400mベストの馬がマイルを勝つには?
マイルもこなせる1400mベストの現役馬はレッドファルクスがパッと思い浮かびます。この馬が3着に好走した今春の安田記念は1分31秒5の高速決着でした。この他にも、1400mベストの馬が古馬マイルGⅠを勝つときは、ほとんどが1分31秒台の決着になります。
▼1400mベストのマイルGⅠ馬
・ストレイトガール
2015年ヴィクトリアマイル1着
1分31秒9
2016年ヴィクトリアマイル1着
1分31秒5
------------------------------------------
・ロードカナロア
2013年安田記念1着
1分31秒5
ストレイトガールとロードカナロアはスプリントGⅠ馬で、1400mがベストのタイプ。この2頭はいずれもマイルGⅠを1分31秒台で制しています。スタミナよりもスピードを求められる質のレースになれば、スプリント色の強い馬でもマイル戦を乗り越えられ、そのためには全体の時計が速くなることが「マスト」。
タワーオブロンドンは2歳馬なので、1分31秒台の時計で走るのはムリがあるものの、高速馬場となっている阪神芝のコンディションを考えると、1分33秒0の2歳レコードを更新するような速い時計の決着がベター。理想は前後半800mが46.5 - 46.5のイーブンなバランス+中弛みのないペースです。
スタミナを問われるレースだと苦しい
タワーオブロンドンが最も苦しくなるのは、スタミナを問われるレースになること。それは前半3Fを36.0くらいで入り、残り5F(1000m)が11秒台後半のラップが続くような持続戦です。
このような持続戦になると、スピードではなくスタミナをもつ馬が優位になるため、1400mベストの馬には苦しい流れと言えます。タワーオブロンドンにとっては1分33秒0を切るような勝ち時計になるかがポイントとなります。
まとめ
上品な配合のタワーオブロンドンはサンデーサイレンスの血を引かない競走馬ですから、種牡馬としても高い価値を有しています。ディープインパクト×Elusive Qualityの組み合わせから阪神JFを勝ったショウナンアデラが出ているように、将来は父タワーオブロンドン×母父ディープインパクトが「ニックス配合」となる日も来るかもしれませんね。
✳︎)サトノクラウンとの配合なら、名牝Touch of Greatnessのクロスが生じる
種牡馬への展望を拓くためにも、朝日杯FSはこの馬にとって重要な1戦となります。今からレースが楽しみですね。
以上、お読みいただきありがとうございました。