エリザベス女王杯(2018年)はハービンジャー産駒4頭が出走!ーー注目は人気薄のレイホーロマンス

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芝中距離の「女王」を決めるエリザベス女王杯(GⅠ・京都芝2200m)は、牝馬のトップレベルに位置するディアドラとヴィブロスが回避したものの、昨年の同レース覇者モズカッチャン、「GⅠ2着コレクター」のリスグラシューなどの力量馬が揃い、白熱したレースが期待できる1戦です。

今年はM・デムーロ騎手のモズカッチャンとC・ルメール騎手のノームコア、2頭のハービンジャー産駒が上位人気に推されています。今回の記事では、ハービンジャー産駒の特徴と京都芝2200mへの適性を考えてみましょう。

 

ハービンジャー産駒の特徴は?

2014年に初年度産駒がデビューした種牡馬ハービンジャーはこれまで(2018年11月4日現在)に、ディアドラ、モズカッチャン、ペルシアンナイトと3頭のGⅠ馬を出しています。

上記のGⅠ馬3頭は母系にNureyevとNijinskyをもつのが共通点です。ディアドラ、モズカッチャン、ペルシアンナイトが重厚なストライドで走るのは、Nureyevの母SpecialのもつNasrullahとHyperionがハービンジャーの配合と上手く組み合うからでしょう。

もう一つ見逃せないのは、NureyevやNijinskyを引かないハービンジャー産駒が小回り向きのパワフルなフットワークを受け継ぐ点です。イメージとしてはベルーフやドレッドノータス、ヒーズインラブなどがこれに当たります。

 

ハービンジャー産駒のタイプは2種類

種牡馬ハービンジャーは名牝Specialなどを介してNasrullahやHyperionの血を刺激すれば重厚なストライド走法を、DanzigやRobertoを絡めると小回り向きのパワーを産駒に伝えるのです。つまり、2種類のタイプに分けられると言えます。

1. 重厚なストライド走法

2. 小回り向きのパワー走法

これまでにGⅠを制したハービンジャー産駒は「1」の馬のみです。日本の芝向きにカスタマイズするためには、ハービンジャーからパワーよりもしなやかさを引き出さなければならず、それにはNureyevの血をもってくるのが手っ取り早いのでしょう。

DanzigやRobertoをクロスすることにより小回り向きのパワーを獲得すると、皐月賞や宝塚記念を捲れる産駒も出るはずですが、そのタイプからはまだGⅠ級の馬が出ていません。

ハービンジャーの血統や産駒の特徴については以下の記事に詳しく解説しているので、よければそちらをご覧下さい。

 

エリザベス女王杯に出走するハービンジャー産駒

今年のエリザベス女王杯に出走予定のハービンジャー産駒は以下の4頭。

ヴァフラーム

ノームコア

モズカッチャン

レイホーロマンス

(50音順)

この4頭のなかでは昨年の同レースの覇者モズカッチャン、紫苑S(GⅢ・中山芝2000m)を好タイムで快勝したノームコアの2頭が上位人気に推されています。

 

どちらのタイプなのか?

出走予定の4頭を上記の2つのタイプに分類するとどうなるのでしょうか? まずは母系にNureyevを引くかをチェックしてみましょう。

Nureyev

モズカッチャン

ヴァフラーム

レイホーロマンス(Fairy Kingもち)

モズカッチャンは母父キングカメハメハがNureyevとNijinskyをもつので、重厚なストライドで走ります。ただ、クロスのうるさい配合のため、古馬になってグングンと成長するイメージは湧きません。

モズカッチャンの血統や走りの特徴については以下の記事に詳しく解説しています。

レイホーロマンスはNureyevとニアリーな配合のFairy King(祖母がSpecialでNureyevと4分の3同血)をもち、重厚なストライドで走ります。新潟大賞典を制したスズカデヴィアスの半妹とあって、いかにも長い直線に向くタイプ。

ヴァフラームは母父ジャングルポケットがトニービン×Nureyevという配合でNasrullahとHyperionを多く引いています。モズカッチャンやレイホーロマンスよりもさらにスタミナとパワーが勝ったタイプと言えます。

非Nureyev

ノームコア

非Nureyevのノームコアは母クロノロジストが「クロフネ×サンデーサイレンス×Mr. Prospector」と北米血統で固められており、しなやかさよりもパワータイプのハービンジャー産駒です。紫苑Sを好位から捲ったレースこそ、この馬のベストパフォーマンスでしょう。

ノームコアはGⅠを制したハービンジャー産駒と異なり、小回り・内回りコースに特化した配合。外回りコースのエリザベス女王杯は適性として割引ですが、あきらかなスローペースになれば俊敏性で好走するシーンも……。

このタイプのハービンジャー産駒はまだGⅠを勝っていないため、ノームコアの走りには注目です。

 

注目馬はレイホーロマンス

連覇を狙うモズカッチャンは休み明けの不安をのぞけば、コース適性と競争能力に不安はありません。牡馬相手の札幌記念3着からも力の衰えは感じられないので、上位の人気に推されるのも納得の1頭。

モズカッチャンはわざわざ解説をするまでもない力量馬。そのため、ここで注目馬として取り上げたいのは、重厚なストライドを武器にGⅠへ挑戦するレイホーロマンスです。

 

レイホーロマンス 5歳牝馬

父:ハービンジャー

母:スズカローラン(母父サンデーサイレンス)

厩舎:橋田満(栗東)

生産:辻牧場

5歳を迎えた今年は1月の愛知杯(GⅢ)から重賞レースのみに出走し、2着→3着→5着→6着→6着→4着と安定した成績を上げています。ストライド走法のハービンジャー産駒なので、直線の長いコースに向くタイプ。小回り・内回りコースだと最後のひと伸びが……。

 

血統

母スズカローランはスズカデヴィアス、レイホーロマンスと2頭の重賞連対馬を出しており、優秀な繁殖牝馬と言えます。JRAに出走したほとんどの仔が2勝以上していることから、コンスタントに競争能力を伝える繁殖なのでしょう。

3代母ローズオブスズカがNorthern Dancer2×3の強いクロスをもち、その後はSeattle Slew→サンデーサイレンスと非Northern Dancerの種牡馬が付けられて産まれたのが母スズカローランです。

スズカデヴィアスの父キングカメハメハ、レイホーロマンスの父ハービンジャーとNorthern Dancerのクロスをもつ種牡馬との間でオープン級の活躍馬が出ており、配合のポイントとなっています。

レイホーロマンスは母系Fairy Kingを引くハービンジャー産駒とあって、ストライドで走る馬に出ました。また、母系にしなやかなSeattle Slewをもつので「淀の下り坂」もスムーズに走れるタイプです。

 

エリザベス女王杯の傾向

エリザベス女王杯は近2年、「高速馬場+Bコース替わり(イン有利)+スローペース」なことから、前々のインを立ち回った馬が好走しています。しなやかなストライドで差すミッキークイーンが2年続けて3着になっているように、外差しが利きにくいレースです。

中団からレースを進めるレイホーロマンスにとって、この傾向はマイナス。また、出走予定のメンバーを見渡してもスロー濃厚なだけに、中団のインのポジションを取れるかが大きなポイントとなります。4枠よりも内に入らないと苦しくなるでしょう。

 

福永祐一騎手は大きなプラス

福永祐一騎手はエピファネイアで菊花賞を勝つまで、「牝馬のGⅠしか勝てない」と揶揄された時期がありました。確かに、阪神JF3勝、桜花賞2勝、オークス3勝、秋華賞1勝、エリザベス女王杯1勝と牝馬限定GⅠを多く勝っているのも事実です。

福永騎手は馬への当たりが柔らかく、馬体の小さな馬に負担をかけない騎乗が最大の長所。エピファネイアやワグネリアンなどのパワフルなエンジンをもつ牡馬だと前進気勢をなだめるのに苦労するシーンもまま見受けられますが、ヴィブロスなどの馬体重の小さな馬だとキレイに折り合えます。

✳︎今年の天皇賞・秋は福永騎手がヴィブロスをなだめるのに苦労していたものの、アレは3歳時よりも馬のパワーがアップした証拠と言えます。

レイホーロマンスは430kg前後の馬体から、福永騎手にとって得意なゾーンの馬。中団で上手く脚を溜められれば、レインボーラインの菊花賞3着くらいの走りは期待できます。ソツのないレース運びをしてくれることは確かなので、この人気通りなら……。

✳︎レインボーラインも菊花賞時は馬体が444kgと牡馬にしては小さく、いかにも福永騎手の手に合ったタイプでした。

 

まとめ

今年のエリザベス女王杯は上位人気の2頭がハービンジャー産駒という1戦。これまでにGⅠを好走したのはNureyevもちの馬しかいませんから、ノームコアがこれに加わることができるのかに注目です。

✳︎ノームコアは「ノーザンファーム生産馬+関東馬+C・ルメール騎手」という今年のGⅠにおいてトレンドとなっている組み合わせだけに、そこにも注目が集まりますね

スローペース+インベタ馬場にさえならなければ、レイホーロマンスにもチャンスのあるレースですが、さてさてどうなるのでしょうか?

以上、お読みいただきありがとうございました。