GⅢ富士S(東京芝1600m)は1着馬にGⅠマイルCS(京都芝1600m)への優先出走権が与えられるステップレース。秋のマイルチャンピオンを決めるGⅠに向け、今年はイスラボニータ、エアスピネルなどJRAのトップマイラーが顔を揃えました。
東京競馬場は道悪馬場でレースが行われる可能性が高い
10月14日(土)、東京競馬場のメインレース「GⅡアイルランド牝馬S(東京芝1800m)」は雨の影響が残り、「稍重」のコンディションでレースが行われました。翌15日(日)のメインレース「OPオクトーバーS」は「重」まで馬場コンディションが悪化。東京は今週も雨が降ったり止んだりのグズついた天気が続き、競馬場の芝は乾きにくい状況になっています。
東京競馬場の芝コースは排水性が良いけれど……
東京競馬場の芝コースは排水性が良いことで知られ、雨が降ったとしても日差しが出ればすぐに乾くのが特徴の1つ。2002、06年に「暗渠排水管」を設置したことで馬場の排水性が向上し、1年を通して芝が荒れにくくなっています。
馬場が乾くためには日差し(日照時間)が必要で、どれほど東京競馬場の芝の排水性が優れていたとしても、雨が降り続くようだと回復は見込めません。東京はグズついた天気となっており、このままだと富士Sの行われる土曜日は「重」馬場での開催となるでしょう。
富士S出走馬のなかで重馬場が得意な馬は?
富士Sに出走する15頭のなかで、重馬場が得意な馬は以下の通りです。
▼重巧者
エアスピネル
クラリティシチー
グランシルク
サトノアレス
ペルシアンナイト
ミュゼエイリアン
(✳︎上から50音順)
赤色でマークした2頭は3歳馬のため、斤量が古馬よりも軽くなります。重馬場でのレースは斤量の軽重による影響が大きく、サトノアレスとペルシアンナイトにとって古馬との斤量差はプラスです。
サトノアレス 3歳牡馬
父:ディープインパクト
母:サトノアマゾネス(母父:デインヒル)
厩舎:藤沢和雄(美浦)
生産:社台ファーム
2歳牡馬チャンピオンを決める朝日杯FSを制したGⅠ馬。3歳春はGⅡスプリングS4着→GⅠ皐月賞11着と体調面などが噛み合わずに敗退しました。その後はダービーやNHKマイルCを回避して休養に入ります。復帰戦となったOP巴賞(函館芝1800m)を古馬相手に完勝し、続くGⅢ函館記念(函館芝2000m)は1人気に推されたものの直線で伸び切れずに6着と敗退。3ヶ月の休養を挟んで富士Sに臨みます。
血統
母サトノアマゾネスは福島芝1200mで初勝利を上げ、JRA通算3戦1勝で繁殖入り。牝馬ながら550kgを超えるムキムキの馬体を誇り、いかにもデインヒル産駒らしい筋骨量の豊富なタイプでした。繁殖牝馬としてはJRAに出走した4頭がすべて勝ち上がり、ディープインパクトを父にもつ全兄弟サトノヒーロー、サトノフェラーリ、サトノアレスは3勝以上と好成績を上げています。サトノアレスの曽祖母にあたるCrimson Saintは種牡馬ロイヤルアカデミーやStorm Catの母Terlinguaを産んだ名繁殖牝馬で、活力のある母系です。
父ディープインパクト×母父デインヒルという組み合わせはマイルCSを2年連続で2着と好走したフィエロと同じで、サトノアレスも筋骨量が豊富なパワーマイラーに出ました。この2頭は瞬発力が「並」のディープインパクト産駒で、その分グンと加速できるパワーをもっています。後方から差すよりも先行して粘り強いタイプですから、少しでも上りのかかるレースになれば能力全開となります。
ムキムキの馬体を誇った母サトノアマゾネスのパワーがONになっている分だけ、サトノアレスはフィエロよりもパワー型で、坂のあるコース+重馬場はずんどばです。
サトノアレスの血統表 | 競走馬データ - netkeiba.com
フィエロの血統表 | 競走馬データ - netkeiba.com
富士Sに向けて
ペルシアンナイトよりも1kg軽い54kgの斤量で走れるのは有利。3歳時は差す競馬ばかりをしていますが、本質的には好位からパワーあふれるフットワークで抜け出したい馬。先行馬が少ない今年の富士Sであれば、好位のポジションを取れるはずで、この重馬場を味方につけて直線で抜け出したいですね。
今年の3歳牡馬は古馬混合のOP競争を勝ったのが巴賞のサトノアレスだけですから、世代間レベルに疑問がつきます。今後マイル路線を歩んでいくこの馬にとっても、富士Sは試金石のレース。ルメール騎手を確保できなかったのはマイナスですが、それ以外に大きなマイナスはありません。
ペルシアンナイト 3歳牡馬
父:ハービンジャー
母:オリエントチャーム(母父:サンデーサイレンス)
厩舎:池江泰寿(栗東)
生産:追分ファーム
2歳時から期待をかけられた素質馬。GⅢアーリントンC1着から臨んだGⅠ皐月賞はデムーロ騎手の好き騎乗もあり2着と好走しました。ハービンジャー産駒としてGⅠでの連対はこの馬が初。ディアドラ、モズカッチャンなどとともに今年の3歳クラシック路線を賑わせたハービンジャー産駒の1頭です。
歴史的なスローペースになった今年のダービーでは、道中でかかってしまい直線も見せ場なく7着と敗退。今秋、ペルシアンナイトはマイル路線を歩むこととなります。大目標のマイルCSに向けて、富士Sは試金石となる1戦です。
血統
母オリエントチャームはダートGⅠ馬ゴールドアリュールの全妹で、JRAに出走した仔はすべて2勝以上を上げている好繁殖牝馬(それらの仔は父が異なるにもかかわらず一定の活躍をしていることから、オリエントチャームは繁殖として優秀)。
ペルシアンナイトと同じく母系にサンデーサイレンス×Nureyev×Nijinskyを引くハービンジャー産駒と言えば、秋華賞を勝ったディアドラがパッと思い浮かびます。ペルシアンナイトとディアドラの重厚なストライドは、ハービンジャー×Nureyevによるところが大きいのでしょう。ディアドラはその母ライツェントがHalo3×4のクロスをもつことから、内回りコースで行われた秋華賞の4コーナーを器用にさばきましたが、ペルシアンナイトはストライドの活かせる長い直線が向くタイプです。
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重馬場だった秋華賞をパワフルな脚取りで差したディアドラを見ても、ハービンジャー×Nureyevは道悪適性がかなり高く、ペルシアンナイトもこれに当てはまるでしょう。また、上り3Fのタイムが速すぎると鋭さ負けしてしまうタイプですから、時計のかかる馬場はプラスです。
ペルシアンナイトの血統表 | 競走馬データ - netkeiba.com
富士Sに向けて
サトノアレスよりも1kg重い55kgの斤量はやや見込まれました……。パワー型のハービンジャー産駒としてはキレるタイプで、直線の長い東京コースならその重厚なストライドを活かせます。重馬場で行なわれた3歳春のシンザン記念3着からも道悪適性は十分ですし、上りがかかるのはプラス。道中でインからするするとポジションを上げた皐月賞の内容から、馬群を割って伸びてこれる馬。重馬場+スローペースが想定される今走では脚を使ってポジションの取れる器用さは有利に働きます。
池江寿厩舎がデムーロ騎手を確保して関東に遠征してくるのですから、このレースに向けた準備はしっかりと整っており、後は重馬場適性を活かしてこのメンバーを相手にどこまで走れるのか……。朝日杯FSとNHKマイルCを3着と好走した3歳馬ボンセルヴィーソが古馬重賞で通用していないのは、やや不安な材料です。3歳馬 vs 古馬は走ってみないとその力関係はわかりませんから、ペルシアンナイトにとっても今走が試金石となりますね。
まとめ
富士Sに出走する古馬の中には「重馬場がずんどば!」という馬が少なく、重馬場に適性のある3歳馬の2頭サトノアレスとペルシアンナイトにとっては、「恵みの雨」となりました。今年の3歳牡馬は「レベルが低い……」と言われており、古馬重賞で力が通用するのかはわかりません。とは言え、好走してもおかしくない下地は揃ったので、土曜日のレースが楽しみですね。
以上、お読みいただきありがとうございました。