夏の函館シリーズを締めくくる「GⅢ函館2歳S」が7月23日(日)函館競馬場の芝12000で行われ、1番人気のカシアス(2歳牡馬清水久詞)が道中6番手から直線で鋭く伸び、現2歳世代の初めてとなる重賞を制覇しました。勝ちタイムは1分10秒0(良)。
イン優勢の馬場を真ん中から伸びたカシアス
土曜日に「重」まで悪化した馬場も函館2歳Sのレース前には「良」まで回復。馬場の内側から乾いた影響があったのか、日曜日はイン優勢の決着が目立ちました。
函館2歳Sはキタノユウキ、スズカマンサク、ウインジェルベーラ、カシアスが好スタート切り、内からパッセが押して押して先手を主張します。ウインジェルベーラは控えて2番手を追走し、スタートが決まらなかったダンツクレイオーはハナを取り切ることができずに3番手のポジション。前の2頭パッセとウインジェルベーラが後続を引き離し、カシアスは先行勢を見る形で外目を追走、スタートが決まらなかったアリアは中団に控え、ナンヨープランタンは後方からレースを進める展開になりました。
4コーナーの手前でパッセを交わしてウインジェルベーラが先頭に立ち懸命に粘り込みを図るところを、馬場の真ん中からグイグイと伸びたカシアスがゴール前でアタマ差だけ捕らえて1着。2着には積極的なレースが実ったウインジェルベーラ、3着には外から脚を伸ばしたアリアが入線。ナンヨープランタンはさすがに1200m戦で前からあれだけ離されると、掲示板付近まで追い上げるのが精一杯という6着。
1着:カシアス 2歳牡馬
父:キンシャサノキセキ
母:ラブディラン(母父:ディラントーマス)
厩舎:清水久詞(栗東)
騎手:浜中俊
カシアスの曾祖母ピュアグレインはアイルランドとヨークシャーオークスに勝った名牝で、GⅠ高松宮記念を制したファイングレイン(父:フジキセキ)の母ミルグレインの全姉にあたります。カシアスの父キンシャサノキセキはフジキセキ直仔ですから、カシアスとファイングレインは8分の3は同血の間柄。
母ラブディランは父父デインヒルと母母父Polish PrecedentのDanzigのクロスが特徴的で、この間にアメリカ血統のMr. Prospector系の種牡馬Gone Westが入るのも好感のもてる配合です。
ラブディランの血統表 | 競走馬データ - netkeiba.com
デインヒルとPolish PrecedentはDanzigを父にもち、母系にBuckpasserが入るところが共通しており似たような血統構成をしています。カシアスはデインヒルとPolish Precedentを通じてDanzigをクロスすることで、よりそのパワーとスピードが発現していると言えるでしょう。
デインヒルの血統表 | 競走馬データ - netkeiba.com
Polish Precedentの血統表 | 競走馬データ - netkeiba.com
カシアスは長手の体型からも1200mは少し忙しく、ファイングレインのように1400mベストのスプリンターに成長していくのだと考えられます。
函館2歳Sのレース内容
勝ち時計は1分10秒0(良)、レースのラップは以下の通りです。
12.1 - 10.7 - 11.7 - 11.6 - 11.6 - 12.3 =70.0(1分10秒0)
この日の函館はやや時計のかかる馬場コンディションで、1分10秒0はほぼ標準の時計。同日の2歳未勝利戦(芝1200m)が1分10秒5、1000万下の潮騒特別(芝1200m)が1分9秒1ですから、遅くも速くもありません。過去3年間と較べてみましょう。
レース | 17年勝ち時計 | 16年 | 15年 | 14年 |
函館2歳S | 1分10秒0 | 1分9秒2(R) | 1分10秒6 | 1分10秒2 |
カシアス | レヴァンテライオン | ブランボヌール | アクティブミノル | |
潮騒特別 | 1分9秒1 | 1分8秒8 | 1分10秒4 | 1分9秒7 |
2歳未勝利 | 1分10秒5 | 1分9秒9 | 1分12秒0 | 1分10秒0 |
(*'14年は函館2歳Sが土曜日、潮騒特別と2歳未勝利戦は日曜日という番組編成)
表を見ても分かるように、3歳時にセントウルSを勝ったアクティブミノルは2歳未勝利戦の時計に劣っていますし、レコードタイムの出た昨年のレヴァンテライオンは函館2歳S後は冴えないレースが続いているので、カシアスの今後はどうこうということを時計面だけで計ることはできません。
直線で真っ直ぐ走らせた浜中騎手の騎乗
カシアスは直線に入ってゴールまで残り200mを切った地点で左にヨレ、その後は浜中騎手が重心を右に置いてしっかりと真っ直ぐ走らせていたように、今日のレースはただ勝つだけではなくしっかりと競馬を「教える」という側面が強かったことがパトロールビデオを観てもわかります。それだけに、着差以上の完勝というレース内容でした。
鞭も一発しか使用しておらず、しっかりと外を回して走り切ることがこの日の目的だったのでしょう。それくらい浜中騎手はこの馬に期待をしているのかもしれませんね。馬群に入ってもOK、外からも脚が使えることから次走への期待が高まります。
2着:ウインジェルベーラ 2歳牝馬
父:アイルハヴアナザー
母:コスモマーベラス(母父:フジキセキ)
厩舎:金成貴史(美浦)
騎手:丹内裕次(松岡騎手が落馬負傷により乗り替わり)
母コスモマーベラスは中山マイルのOPターコイズSを連覇し、GⅢ愛知杯を2着と好走した活躍馬。母からは目立った活躍馬はまだ出ていないため、重賞で2着と好走したウインジェルベーラには大きな期待がかかりますね。
現在(7月23日終了時点)、JRAで2勝以上のアイルハヴアナザー産駒はハイパーノヴァ(母父スペシャルウィーク)とアナザートゥルース(母父フジキセキ)の2頭。いずれも母父がサンデーサイレンス直仔で、ダートで活躍を見せるパワー型です。ウインジェルベーラも前脚の捌きなどはパワー型に見え、中山のマイルで行われるGⅢフェアリーSなどが適性として合っているのかな、という印象。
函館2歳Sのレース内容と今後について
函館2歳Sのレース内容は新馬戦よりもパフォーマンスを上げており、ストライドが伸びないパワー型のウインジェルベーラにとっては4コーナーでパッセを交わして先頭に立った積極策も合っていました。土曜日に降った雨の影響でやや時計がかかり、タフな馬場になったこともこの馬にとってはプラスに働いたと言えます。
好スタートを切るセンスと二の脚の速さは馬体に緩さがない証で、パワーが勝っているからでしょう。今後は、内回り・小回りで上りのかかるレースがベストの舞台なので、中山のマイル戦に出走することがあれば注目したいですね。
3着:アリア 2歳牝馬
スタートで出負けして、道中は中団で馬群に揉まれる形になりました。母系に入るVaguely Nobleの影響で揉まれ弱さがあり、直線で大外に出してからはグイグイと伸びて3着に入線イン優勢の馬場コンディションだったことを考えると、3着まで押し上げたのは立派です。
ダイワメジャー産駒らしいパワーを感じさせるストライドで、ウインジェルベーラの最後の直線の走りと較べるとしなやかに前脚が伸びていることがわかります。走りのフォームが大きいために瞬時に「びゅん」と反応することができず、直線の長いコースに向いたタイプ。現状ではあまり馬群に揉まれるのは良くないので、外枠からスムーズに流れに乗るレースが理想です。
東京や中京、あるいは外回りコースに出てくるようであれば注目したい1頭。
◎デルマキセキ 2歳牝馬:4着
少し遅れ気味のスタートから内枠を利して好位のインのポケットを取り、カシアスの仕掛けに合わせて4コーナーから動いて直線に向くとしぶとく伸びての4着。
スタート以外は終始スムーズなレースで、現時点での力を出し切っての4着ですから、◎にした甲斐はありました。
パワーとピッチを活かせる小回りコースはずんどばで、この後はすずらん賞に出走するなら……器用さが魅力なので、小回りでもう1勝しておきたいところです。
GⅢ函館2歳S('17年)は友道康夫厩舎のデルマキセキに◎をーー予想 - ずんどば競馬
◯パッセ 2歳牝馬:5着
内枠で包まれないようにハナを主張したのは岩部騎手の好騎乗。4コーナーからウインジェルベーラに捲り切られてしまいましたが、そこからもう1度盛り返しての5着は2歳馬として上々の内容です。
前駆の力強い動きが魅力で、走らせるとしなやかさも感じさせるのは父パイロのA.P. Indyと母系に入るWoodman(その母プレイメイトに入るTom Fool)の影響でしょうか。次走は直線の長いコースでのレースを観たくなります。
▲ナンヨープランタン 2歳牡馬:6着
スタートで大きく後手を踏んでしまい、前から大きく離されてしまいました……。新馬戦は好スタートを決めていたので、う〜ん……難しいものですね。
1200mは本質的に短いのだろうとは思いますが、今日のペースで置かれてしまったのは距離適性だけではないものもあったのかな、という印象。
大きなダメージのない敗戦ですからすぐにレースに使えるはずで、次走での巻き返しが楽しみです。
まとめ
カシアスは母系の血統を見ているとなかなか奥が深く、浜中騎手のレースでの騎乗を見ていると先々も楽しめそうな2歳馬です。おそらく、休養してから京王杯2歳S(東京芝1400m)などがローテーションの候補として上がるのでしょうが、今度は直線の長いコースでの走りを観てみたくなりますね。
以上、お読みいただきありがとうございました。