ディアドラは父ハービンジャーに初GⅠをプレゼントできるのか?ーーGⅢ紫苑Sの展望

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今春のクラシックは、3つのポイントがありました。1つは「牝馬がハイレベル」、2つ目は「ハーツクライ産駒の当たり年」、そして3つ目が「ハービンジャー産駒の当たり年」です。このなかでも今年の3歳が4世代目となるハービンジャー産駒はクラシック路線で好走する馬が少なく、「大きな舞台に弱いのでは?」と言われたほどで、皐月賞2着のペルシアンナイト、オークス2着のモズカッチャンと4着のディアドラの活躍は大きなサプライズだったと言えます。

 

2017年、ハービンジャー産駒に変化が?

ハービンジャー産駒は'17年9月3日終了時点で重賞勝ちは「5」を数え、その内の2つがペルシアンナイトのGⅢアーリントンCとモズカッチャンのGⅡフローラSと今年に上げたもの。この2勝はそれまでのハービンジャー産駒のイメージを大きく変えるものでした。以下はハービンジャー産駒の重賞勝ちをまとめた表です。

 

ハービンジャー産駒の重賞勝利

馬 名 重賞 コース
2015 ベルーフ GⅢ京成杯 中山芝2000m
2015 ドレッドノータス GⅢラジオN杯京都2歳S 京都芝2000m内回り
2016 プロフェット GⅢ京成杯 中山芝2000m
2017 ペルシアンナイト GⅢアーリントンC 阪神芝1600m外回り
2017 モズカッチャン GⅢフローラS 東京芝2000m

ペルシアンナイトとモズカッチャンの勝利した重賞は直線の長い「阪神外回り」と「東京」コースでのもの。それまでは小回り・内回りをパワーで捲る馬が活躍していましたが、今年は長い直線を重厚なストライドや瞬発力勝負で勝ち切ったのが大きな変化です。

ハービンジャーは欧州のパワー型マイラー・デインヒル直仔のDansiliを父にもち、Northern Dancerのクロスがうるさいコテコテのヨーロッパ血統。日本の芝では「素軽さやスピードが足りない」と言われがちな血統構成だけに、時計の速い日本の芝で瞬発力勝負に対応したのは、今後が大きく拓ける結果だったと言えます。

ハービンジャー産駒の特徴の「変化」については、すでに過去の記事にてまとめてありますので、よければそちらをご覧下さい。

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ハービンジャー産駒はまだGⅠ未勝利

今春のクラシック戦線を沸かせたハービンジャー産駒もまだGⅠでの勝利はなく、皐月賞とオークスで好走したペルシアンナイト、モズカッチャン、そしてディアドラには大きな期待がかかります。以下は「ハービンジャー産駒の獲得賞金上位の10頭」をまとめた表です。

 

ハービンジャー産駒の獲得賞金上位10頭

順位 馬 名 歳性 厩舎 重賞勝
1 ベルーフ 5牡 池江泰寿 栗東
2 ペルシアンナイト 3牡 池江泰寿 栗東
3 モズカッチャン 3牝 鮫島一歩 栗東
4 トーセンバジル 5牡 藤原英昭 栗東  
5 マイネルサージュ 5牡 鹿戸雄一 美浦  
6 テルメディカラカラ 5牝 石橋守 栗東  
7 サンマルティン 5セ 国枝栄 美浦  
8 ディアドラ 3牝 橋田満 栗東  
9 プロフェット 4牡 池江泰寿 栗東
10 ヴァフラーム 5牡 吉村圭司 栗東  

7位にランクインしたサンマルティンは今夏のGⅢ小倉記念2着などの活躍を見せており、小回りコースへの出走であれば重賞級の能力を発揮できます。

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ただ、GⅠとなると小回り・内回りの中距離のレースは大阪杯と宝塚記念しかなく、これから実績を積んで来年には……というところでしょう。

 

GⅠ勝利に近いのは3歳牝馬の2頭

このなかでもっともGⅠ勝利に近いのはやはり3歳牝馬のモズカッチャン、ディアドラの2頭。オークスを制したソウルスターリングが秋華賞には向かわないことから、少しだけチャンスも広がりました。今年の3歳牝馬はハイレベルのため、アドマイヤミヤビ、リスグラシュー、ファンディーナなど強敵も揃いますが、ノーチャンスというわけではありません。

 

ディアドラは紫苑Sでも上位人気に

秋華賞トライアルのGⅢ紫苑S(中山芝2000m)に出走するディアドラは上位の人気に支持されそうなムード。オークス4着後は休養し、夏の札幌の1000万下で復帰すると、レースでは古馬を相手に快勝して紫苑Sに挑みます。

その他の上位人気馬、ホウオウパヒューム、ルヴォワール、サロニカなどが長期休養明けだと考えると、夏の札幌から始動したディアドラのローテーションは大きなアドバンテージ。この時期に牡馬混合の1000万下を勝ち上がった牝馬は秋華賞でも十分に通用するだけの力があり、ディアドラが紫苑Sで上位の人気に押されるのも納得です。

 

ディアドラ 3歳牝馬

父:ハービンジャー

母:ライツェント(母父:スペシャルウィーク)

厩舎:橋田満(栗東)

生産:ノーザンファーム

2歳時はファンタジーS3着など重賞でも活躍したものの、馬群を割るのが苦手なために直線で外に出さないと伸びてこない不器用さがありました。

桜花賞トライアルのOPアネモネS(中山芝1600m)は、差しに回ると味のないシュタルケ騎手を背にインから猛然と伸びて2着。ここから馬がガラリと変わり、桜花賞6着の後に出走した500万下の矢車賞(京都芝1800m)では直線しなやかにキレて2勝目。

間隔が詰まった厳しいローテーションにもかかわらず、オークスは直線の最内を突いて4着を確保したように今春からの急成長は眼を見張るものがあります。

 

血統

ライツェントは名牝ソニンクの娘で、自身は競走馬として未勝利に終わりましたが、母になってからはオデュッセウス、ディアドラとJRAで2勝を以上を上げる仔を出しています。ソニンク牝系は今夏の函館スプリントSを勝ったジューヌエコール、小倉2歳ステークスでも上位の人気に支持されたヴァイザーなど現在でも活力があるラインです。祖母のソニンクはMachiavellian×Nureyevらしいパワーとスピード、そして前向きな気性を伝える繁殖牝馬で、仔や孫にもダートと芝の短距離をゴリゴリと押して行くパワーが受け継がれています。

ディアドラはこの牝系のなかでも胴の長い体型で、これは母ライツェントの父スペシャルウィークの影響が出ているのでしょう。桜花賞6着→矢車賞1着→オークス4着の走りは、重厚なストライドでしなやかにキレたもので、ペルシアンナイトと同じく母系のNureyevの重厚さがONになっていると考えられます。

母ライツェントはNorthern Dancerのクロスをもたないので、クロスのうるさいハービンジャー産駒との相性はよく、今春に急成長したディアドラもまだまだ強くなる余地は十分。

 

紫苑Sに向けて

ディアドラは重厚なストライドで走る馬なので、本質的には小回りの中山よりは直線の長いコースに向いています。ただ、ソニンク牝系らしいパワーと器用さももち合わせ、コーナーでスムーズに加速できることから、牡馬相手となった前走の札幌コースでも好走しました。

体型的には1800mがベストの中距離馬で、中山の芝2000mはベストとは言えないもののベターなコース。紫苑Sは有力馬の多くが長期の休み明け初戦とあって、札幌戦を叩いたローテーションにも好感がもてます。

その前走で2着に下したラヴィエベールは1600万下で好走歴のある降級馬ですから、この勝利はディアドラにとって胸を張れるものです。強敵の待つ秋華賞に向けて、結果だけではなくレースの内容も問われる1戦となりますね。

 

秋華賞に向けて

ディアドラが紫苑Sで好走すれば、次走はいよいよGⅠ秋華賞。牝馬クラシックの3冠目は京都芝2000m内回りで行われ、器用さの問われるコースです。ペースが流れればミッキークイーンのようなストライドで走る馬が勝ち切れてしまうレースで、キレと器用さを兼備したディアドラにとっては不安の少ない舞台。

秋華賞は京都競馬場でのレースとなるため、関西馬のディアドラにとっては長距離輸送がないのはプラス。ただ、主戦の岩田騎手がこのレースではファンディーナに乗る可能性が高く、大舞台で乗り替わりとなるのはマイナスです。

ソウルスターリングが抜けたとは言え、秋華賞はアエロリット、ファンディーナ、アドマイヤミヤビ、リスグラシュー、モズカッチャンといった素質馬がズラリと揃い、ハービンジャー産駒の初GⅠ制覇への道のりは険しいものがあります。

ディアドラが父ハービンジャーに初めてのGⅠをプレゼントすることができるのか?今から紫苑Sが楽しみですね。

 

以上、お読みいただきありがとうございました。

 

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