第37回ジャパンカップ(東京芝2400m)は外国調教馬4頭を含む17頭によって争われ、5人気に推されたシュヴァルグラン(5歳牡馬・友道康夫厩舎)が2分23秒7の好タイムで1着となりました。2着には中団から脚を伸ばした3歳馬のレイデオロ、3着に逃げ粘ったキタサンブラックが入線。
現役最強馬キタサンブラックが淀みのないペースで逃げるなか、好位のインのポジションを取ったシュヴァルグランは、4コーナーからスムーズに直線に向くとH・ボウマン騎手のアクションに応えて力強く伸び、GⅠ初制覇を果たしました。
「美しい逃げ」が生んだ好勝負
1コーナーに入る前にスッとハナに立ったキタサンブラックと武豊騎手は、昨年と同じように「馬の気持ちに任せた」ペースでの逃げ。道中で大きく緩むところがなかったため、後続は4コーナーまで武豊騎手のレースメイクに付き合うしかありませんでした。
武豊騎手の刻んだペースは「中距離チャンピオン」らしい堂々としたもの。スタート直後の1F13.0を除けば、すべて12.3秒以内のスピードで逃げたのですから、レースを支配したのは間違いなくキタサンブラックだったと言えます。
▼2017年ジャパンカップの公式ラップ
13.0 - 11.2 - 12.1 - 12.1 - 11.8 - 12.1 - 12.3 - 12.2 - 11.8 - 11.3 - 11.8 - 12.0
このため息が出るほどに美しいラップは昨年よりも淀みがなく、キタサンブラックにとっても苦しい流れに。道中で速いペースの追走になっても脚を削がれることのない「スタミナ」が求められ、持続力に優れたシュヴァルグランにとっては願ってもない展開になりました。
1着シュヴァルグランについて
シュヴァルグランがジャパンカップを好走した理由は大きく3つあります。
1. 好スタート+前目の位置を取れる
シュヴァルグランはおっとりとした性格で、道中で「かかる」おそれがほとんどない馬です。そのため、スタートから出して行っても折り合いの心配はありません。
この馬が前目の位置を取れなかったのは、ハーツクライ産駒の特徴とも言えるトモの非力さによるもの。馬体の完成とともに後肢を踏ん張ってポンとスタートが切れる→前のポジションを取れるようになり、Glのタイトルをつかむことができたのです。
2. 4コーナーからペースが上がった
今年のジャパンカップのラスト4Fは11.8 - 11.3 - 11.8 - 12.0。ちょうど4コーナーあたりからスピードが上がっています。シュヴァルグランは機動力に優れたHalo3×4・5のクロスをもつので、コーナーでスピードを上げるのが大の得意。
トップスピードに乗ってしまえば、それを持続するのに秀でたハーツクライ産駒ですから、直線でキタサンブラックが苦しくなったところを差し切り、レイデオロの追撃も封じ込めました。
ボウマン騎手が3〜4コーナーでジワリとスピードを上げ、直線にかけてキレイに馬群をさばいたのも、ジョッキーの手腕だけではなくこの馬(またはこの牝系)の機動力があればこそです。
3. 前日よりも時計のかかるコンディションに
ジャパンカップ 当日は、前日の土曜日よりも少しだけホームストレッチで時計がかかるようになっており、レースの上りが35秒台になったのはこの馬にとっては大きなプラス。
アルゼンチン共和国杯の行われた週以降、向正面の直線は時計の速いコンディションになっていることも、結果としてキタサンブラックが淀みのないペースを作った要因の1つ。道中で淀みなく流れたので、より上りのかかるレースとなったのです。
名繁殖牝馬ハルーワスウィート
シュヴァルグランの母ハルーワスウィートは、ヴィルシーナ=ヴィブロス全姉妹(父ディープインパクト)に続く3頭目のGⅠウィナーを出し、「名繁殖牝馬」と呼ぶにふさわしい活躍ぶり。
Rahyやシングスピールを産んだ名牝Glorious Songを曽祖母にもつハルーワスウィートは、Blushing Groom→Nureyev→Machiavellianと代々名血・名種牡馬がかけられた名繁殖牝馬。
自身は目立った競走成績を残していないものの、繁殖として高い競走能力を産駒に伝えています。この名繁殖牝馬はダンスパートナー、ダンスインザダーク、ダンスインザムード3頭のGl馬を産んだダンシングキイと肩を並べました。
小回り向きの機動力が武器
ハルーワスウィートは自身がHalo3×4のクロスをもつため、サンデーサイレンス系の種牡馬を配すると、さらにHaloを増すことになります。そのため、シュヴァルグランも本質的には小回り・内回り向きの馬です。この馬のベストパフォーマンスは昨年の阪神大賞典で、あのコーナーでの俊敏な捲りこそが真骨頂。
ハーツクライ産駒らしくスタミナが豊富ですから、持続力とコーナーでの俊敏さを求められる有馬記念はベストの舞台と言えます。これで年末のグランプリが楽しみになりました。
レイデオロは想像以上の強さ
レイデオロの2着は、この流れを考えると驚かされる走り。ストライドが伸びないピッチ走法なので、この馬も本質的には小回り・内回り向きです。直線の長いコースだと、今春のダービーのようなスローからの3F戦がベター。
今年のジャパンカップは道中も淀みなく流れたため、ここで脚を削がれなかったこととキタサンブラックを差して2着を確保したことは、この馬の高いポテンシャルを示すのに十分なもの。
ピッチ走法のキングカメハメハ産駒はラブリーデイがその典型ですが、前目のポジションを取って直線を俊敏に抜け出せるようになれば「完成」したと言えるので、まだまだ成長の余地は十分にあります。
この馬についてはジャパンカップの展望記事で詳しく解説しているため、よければそちらをご覧下さい。
3着キタサンブラックについて
レース中に落鉄していたこと、他馬の絶好の目標になってしまったことなど、今年のジャパンカップはキタサンブラックにとって、展開が100%噛み合ったとは言い切れないレースとなりました。
ただ、それでも4着以下とは決定的な差をつける3着ですから、現役最強馬の名に恥じない、素晴らしい走りだったと言えるでしょう。「名勝負」を演じる「運」には恵まれたものの、「勝利」の「運」が少しだけ足りませんでした。
武豊騎手とキタサンブラックの誤算
今年のジャパンカップは昨年よりも軽い馬場でのレース。武豊騎手は昨年も今年も「馬の気分を損ねない=キタサンブラックが気持ちよく走る」逃げを打ちました。ただ、向正面の芝が想定以上に軽かったのは誤算でした。
後続が4コーナーまでじっとしているしかないほどに美しいペースで逃げており、まさに淡々とした流れ。本来であれば、道中で他馬の脚をある程度削げたはずなのですが、向正面のインの芝が軽かったためほとんどの馬が余力をもって追走できました。
武豊騎手にとっては「いつもの4F戦」にもち込んだものの、シュヴァルグランとレイデオロに差されてしまったのは「肉を切らせて」も骨を断つところまではいかなかったから。もともと京都や阪神のような下り坂でスピードを上げるコースが合っているので、直線で思ったほど我慢できなかったのも致し方なしです。
有馬記念に向けて
キタサンブラックはこの後、ラストランとなる有馬記念へと向かいます。天皇賞・秋とジャパンカップはいずれも「タフ」な競馬となったことから、どれだけ体力が残っているのかがキーポイント。
この馬は休み明け3戦目に成績を落とす傾向があるのは有名なお話。その理由は連戦による疲労もあるのでしょうが、それ以上に、古馬中距離の王道路線はシーズンのラストが小回り・内回りの宝塚記念か有馬記念というのも大きいでしょう。
キタサンブラックはストライドで走るので、どうしても小回り・内回りだとパフォーマンスが下がります。有馬記念までフレッシュな状態を保っていたとしても、舞台としてはマイナスです。
◎サトノクラウンについて
キタサンブラックの逃げは淀みのないペースで、後半5Fを11秒台後半で走りたいサトノクラウンにとっては苦しくなりました。3〜4コーナーから外目をジワジワと押し上げたものの、この馬にとってはまだ時計が速く、直線入口で11.3とペースが上がったところでついて行けず、なし崩し的に脚を使っての10着。
上り3F11.3 - 11.8 - 12.0とまとめられてしまったのもマイナスで、これだけペースが流れてこの上りだと、スタートから押して前目のポジションを取っていないかぎり、難しいレースでした。もう、2〜3歳時に見せたしなやかにギュンと加速する体質ではなくなってきているので、輸送がクリアできるのなら、キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスSを走らせてあげたいですね。
その他の馬について
7着ソウルスターリングはルメール騎手が母スタセリタに似ていると言うように、2000mがベストの中距離馬。道中では前に壁を作ろうとしたものの、折り合いを欠いてしまいました。秋シーズンはレースを重ねるたびに重厚感のある馬体へと成長しており、来年以降が楽しみな牝馬です。
3歳牝馬のソウルスターリングはジェンティルドンナのようにジャパンカップ(2017年)を勝てるのか? - ずんどば競馬
4着マカヒキはこれだけペースが流れると、前々の位置を取って末脚を発揮するのは難しく、後方からソロっと差すしか方法がありませんでした。古馬になってから肉付きが良くなり、3歳の頃のしなやかさが失われつつあるので、今はもう少し短い距離がベストでしょう。
5着アイダホは外国調教馬の最先着。ペースが淀みなく流れたのもGalileo直仔のこの馬にはプラスだったと言えます。この結果から、A・オブライエン厩舎は今後、日本の馬場に適性のある馬をジャパンカップに連れてくるかもしれませんね。
まとめ
ジャパンカップの好勝負を演出したのは紛れもなくキタサンブラックと武豊騎手のコンビ。ただ、その前には遅咲きのハーツクライ産駒と夏を越して急成長した3歳馬がいました。
ボウマン騎手と言えば、22連勝中の女傑Winxの主戦ジョッキー。この名牝の父ストリートクライはMachiavellian直仔ですから、Haloクロスの馬は「お手のもの」だったのでしょう。
素晴らしいジャパンカップを堪能できました。