不良馬場のGⅠ菊花賞(2017年)は上り3F39.6の脚でルーラーシップ産駒のキセキが1着ーーレース回顧

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3歳牡馬クラシック最後の1冠「菊花賞(GⅠ・京都芝3000m)」は土曜から降り続く雨の影響で、芝に水が浮くほどの「不良」馬場でのレースとなり、スタートしてから体力をロスした馬が順にふるい落とされていくサバイバル戦となりました。

上り3Fが「40.0」と極端に時計のかかったレースは、M・デムーロ騎手のアクションにしっかりと応えた夏の上り馬キセキ(3歳牡馬・角居勝彦厩舎)が直線を力強く伸びて1着。2着には4コーナーから直線の入口で積極的に先頭に立ったクリンチャーがしぶとく粘りこみ、3着に直線の内を突いて伸びたポポカテペトルが入線。勝ちタイムは3分18秒9(不良)。

 

体力のない馬からふるい落とされた今年の菊花賞

今年の菊花賞は2周目の向正面から先頭が入れ替わり、3コーナーからゴール板にかけて体力を失った馬たちがどんどんとふるい落とされていくサバイバル戦となりました。

3コーナー手前から直線入口までにレースの先頭に立った馬は、マイスタイル→ウインガナドル→アダムバローズ→ベストアプローチ→ダンビュライト→クリンチャーの順に6頭。

外から次々と体力のある馬が捲る展開となり、レースへの集中力を保ち続けたキセキがもてるスタミナとパワーをふり絞り、ゴールまで我慢強く伸びての1着。今年の菊花賞は心身ともに粘り強く走れた馬が制したレースだったと言えます。

 

ルーラーシップ産駒が初GⅠ制覇

今年の3歳世代が初年度産駒のルーラーシップは、重賞初制覇がGⅠ菊花賞というサプライズを成し遂げました。キセキは重厚なストライドで走る馬で、3歳の夏を越してグンと成長したことからも父の競争馬時代の特長をそのまま受け継いでいます。

 

ルーラーシップは「非サンデーサイレンス」の種牡馬

ルーラーシップは父キングカメハメハ×母エアグルーヴ(母父トニービン)という血統のため、現代日本の競馬を変えたと言われる大種牡馬サンデーサイレンスの血をもたない種牡馬。菊花賞を制したキセキの母父はサンデーサイレンス直仔のディープインパクトで、ルーラーシップはこの大種牡馬の血を引く繁殖牝馬と交配しやすいという特長をもっています。

ルーラーシップは父系に入るKingmanboのMr. ProspectorやNureyevをクロスしなければ、母父トニービンの影響による重厚なストライド走法を産駒に伝えます。この重厚なパワーがしなやかなサンデーサイレンスの血と好相性ですから、今後もキセキと同じような父ルーラーシップ×母父ディープインパクトという配合から好素質馬は産まれることでしょう。

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母父にトニービンが入るルーラーシップとハーツクライ

ルーラーシップとハーツクライ(父サンデーサイレンス)、このスタミナにあふれた2頭の種牡馬はともに母父がトニービンという配合。もう何度か別の記事で書いているように、ハーツクライは京都のGⅠレースが未勝利。スタミナの豊富なハーツクライ産駒にとって、菊花賞と天皇賞・春の2つのGⅠはベストの距離と言えるはずなのに、未だ勝ち星を上げていません。

(✴︎天皇賞・春はハーツクライ産駒が4年連続で2着と好走はしています)

3〜4コーナーから下り坂+直線が平坦な京都競馬場はスタミナに優れたハーツクライ産駒にとって鬼門のコース。下り坂でスピードに乗せ、その惰性を使って直線で伸び続けるのがベストの京都コースでは、スタミナを利して差すトニービンの血が有利とは言えません。ルーラーシップにもこの傾向が受け継がれているはずで、キセキが菊花賞を勝ち切ったのは、この不良馬場によるところが大きいでしょう。

ルーラーシップの血統表 | 競走馬データ - netkeiba.com

ハーツクライの血統表 | 競走馬データ - netkeiba.com

キセキの血統表 | 競走馬データ - netkeiba.com

 

キセキ 3歳牡馬

春は毎日杯(GⅢ・阪神芝1800m)3着と重賞でも好走したものの賞金を加算することができず、GⅠへの出走が叶いませんでした。夏にハイパフォーマンスで古馬混合の1000万下を勝ち上がると、秋の初戦となった菊花賞トライアルの神戸新聞杯(GⅡ・阪神芝2400m)で2着に入線。

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当初は距離に対する不安から菊花賞へ出走するかは未定だったキセキ。この馬を管理する角居調教師とデムーロ騎手のコンビは、距離と重馬場への不安を口にしながらも、総合力でクラシック最後の1冠を手にしました。

 

菊花賞のレース内容

レースの勝ち時計が3分18秒9。これまでの菊花賞と較べて15秒近く遅いタイムでの決着となったことからも、とにかく身体的にも精神的にもタフなレース。キセキの上り3Fが39.6なので、いかに4コーナーから直線で我慢強く伸びたのかがわかります。

この日の京都の芝コースは、イン+前々でレースを進めた馬が直線で失速するシーンの目立つコンディションとなり、いかに体力を温存して道中をスムーズに走れるのかが問われました。今年の菊花賞は馬場適性というよりも、その馬の総合的な力がもっとも重要な1戦となり、キセキの勝利はこの馬の能力が他馬よりも1枚上だったことを示しています。

 

サバイバル戦を勝ち切った精神力

近年の菊花賞は高速馬場+インコース有利の馬場コンディションでレースが行われ、ほとんどが3〜4コーナー区間からのスパート戦となります。3000mの長距離で争われるレースであっても、ほとんどスタミナを問われることがなく、エアスピネルやリアルスティールといった1800mがベストな馬でも好走できました。

今年の菊花賞はスタミナやパワー、そして我慢強く走る精神力も問われたサバイバル戦となり、向正面から体力をロスした馬が次々とふるい落とされていくシーンは、近年の日本競馬と異質な「総合的な力を問う」レースだったことを物語っています。キセキの走りは長距離の3歳チャンピオンにふさわしいものでした。

 

今後に向けて

菊花賞がタフなレースだったことから、疲労を回復させることが最優先。キセキを管理するのは名伯楽の角居調教師ですから、次にどのレースを目標にするとしても、しっかりと今走のケアをすることでしょう。

重厚なストライド+瞬発力勝負に強いことから、ベストは直線の長いコース。中山芝2500mの有馬記念よりも東京芝2400mのジャパンカップに向いています。ただ、レース間隔として後者を使うのは苦しいでしょうし……次走がどこになるのかは注目ですね。

 

2着に入線したクリンチャーについて

スタートはほぼ五分に出たものの行き脚がつかずに後方からレースを進めます。揉まれ弱いクリンチャーにとって、1周目の4コーナーからホームストレッチにかけてスムーズに外へ出せたのは大きなプラスでした。時計のかかる不良馬場で、1コーナーから外目をするすると上がっていったのは2015年天皇賞・春を制したゴールドシップの走りと似ています。

藤岡佑騎手がクリンチャーの気分を損ねることなく、スムーズなレース運びができたこととこの馬のパワーとスタミナを信じて積極的に前々へと押し上げた騎乗は素晴らしいの一言。父ディープスカイ×母父ブライアンズタイムで、前脚をかき込むように走るパワー型ですから、スタミナをふり絞る直線先頭のレースが合っています。馬群に包まれて動くに動けなかったダービーの悔しさを晴らすような積極的な仕掛けは、パワーあふれるRoberto的なピッチ走法を最大限に活かしたと言えるでしょう。

ディープスカイ産駒の活躍馬はGⅢアンタレスS(阪神ダート1800m)を制したモルトベーネや芝の重賞路線でそこそこに好走するスピリッツミノルなどパワーとスタミナをもつのが特徴です。クリンチャーもスピリッツミノルと似た長距離馬で、パワーとスタミナをふり絞るレースが合っています。

JRAの長距離GⅠは京都コースの天皇賞・春しかありません。クリンチャーが良馬場の天皇賞・春を好走するためには、3コーナーの上り坂からロングスパートを仕掛けて上りのかかる持続戦に持ち込むのがベスト。イングランディーレやビートブラックなどが逃げ切ったような、ゴールまで残り1200mからスタミナをふり絞るレース展開が必要となります。

 

3〜5着に入線した馬について

3着のポポカテペテルは無駄な体力を使わないフォームで走る馬で、兄のマウントロブソンと同じくビュンとした切れる脚をもっていません。俊敏に加速する脚がない反面、バテずに一定のペースを保って走れる馬。今走は外枠からのスタートというのも良かったですし、とにかく無駄な動きをしなかったのが好走の要因でしょう。

4着マイネルヴンシュは父ステイゴールド×母父コマンダーインチーフらしいパワー走法で、クリンチャーと似たようなタイプです。直線ではジリジリと脚を伸ばしました。この馬もポポカテペトルと同じように俊敏に反応して脚を使うのではなく、バテずにジリジリと伸びてきます。この不良馬場が合っていましたね。

5着ダンビュライトはいかにもキャサリーンパー牝系らしい重巧者の走り。この馬が4コーナーで先頭に立ったときは「ここからスタミをふり絞って粘るのか?」と思わせましたが、パワーとスタミナに優れたクリンチャーに外を捲られて苦しくなりました。あの展開で積極的に直線先頭に立つのは武豊騎手らしい好判断で、もし、道中でもう少し後ろの位置取りからジワジワと脚を使う形であれば馬券内もあったかもしれませんが……ただ、今走はベストの騎乗と走りなので、運とスタミナが少しだけ足りませんでした。

 

皐月賞馬アルアインは7着

皐月賞馬のアルアインは中団でレースを進め、直線で追い出されると反応が鈍く、ラスト100mからはしぶとく脚を伸ばしたものの7着。スタミナ面よりも馬場がこたえたような印象でした。

父ディープインパクト×母ドバイマジェスティという血統の字面とは異なる面をもった不思議な馬で、スピードとパワーに優れた中距離馬。5月の遅生まれに加えて5代血統表にクロスをもたないアウトブリードの配合からもまだまだ成長するはずで、どのような馬に完成するのか今後が楽しみですね。

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3人気ミッキースワローは6着

今年の菊花賞でもっとも驚いたのは、ミッキースワローが6着と好走したことです。1周目のホームストレッチはかかり気味の追走になり、不良馬場+折り合いの巧みな横山典騎手がスピードを抑えられないのですから、この馬のパワーは相当なものがあります。折り合いを欠いても直線で「あわや」の伸びを見せていましたし、古馬になって楽しみな好素質馬。

セントライト記念の上り3Fのキレからも、今は瞬発力に優れたレースぶりをしていますが、古馬になってからNorthern Dancerのパワーが発現してくれば、パワーと持続力で粘る脚質に変わってくるかもしれません。イメージとしては、古馬になってからキレよりもしぶとい先行脚質にモデルチェンジしたスマートレイアーに近いですね。

 

◎トリコロールブルーは15着

今年の菊花賞は、1周目の4コーナーで先頭から6番手を走っていた馬が軒並み13〜18着に敗退したことから、先行した馬に苦しい流れとなりました。トリコロールブルーも内枠を利して5番手のインを追走したので、この時点でもう好走は望めませんでしたね。

現時点でGⅠを走るには力不足だったとしても、15着まで大きく敗退するような馬ではなく、今回はノーカウントとしたい1戦。これだけポジション取りで有利不利が出るレースというのも珍しく、今回は内枠が仇になりました。

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まとめ

今年の菊花賞は2017年10月22日(日)、京都競馬場の芝3000mで3歳の長距離チャンピオンを決めるレースとして行われました。近年のJRAではなかなか観ることのできない総合力が問われるタフなレースとなり、上り3F39.6の脚で伸び切ったキセキはチャンピオンにふさわしい走りだったと言えます。

 

以上、お読みいただきありがとうございました。