3歳牡馬クラシック最後の1冠「菊花賞(GⅠ・京都芝3000m)は、神戸新聞杯を完勝したレイデオロなどダービーの1〜4着馬が不出走。春の実績馬は皐月賞1着アルアインと同3着のダンビュライトが務めます。それに対して、夏の上がり馬はセントライト記念1着のミッキースワローと神戸新聞杯2着のキセキの2頭。この上位4頭が上位の人気に推される今年の菊花賞はどのようなレースになるのでしょうか?
ダンビュライトとキセキはルーラーシップ産駒
菊花賞に出走するダンビュライトとキセキはともに、現3歳世代が初年度産駒となるルーラーシップを父にもちます。初年度産駒からはまだ重賞勝ち馬こそ出ていないものの、ダンビュライトが皐月賞で3着に入るなどGⅠでも好走し、新種牡馬として上々のスタートを切りました。
今回の記事では、この2頭のルーラーシップ産駒が菊花賞を好走することができるのかについて考察します。まずは「新種牡馬ルーラーシップ」について、その特徴をおさらいしておきましょう。
新種牡馬ルーラーシップ
ルーラーシップは国内GⅠを勝つことはできません(2着1回、3着3回と好走)でしたが、香港の国際GⅠクイーンエリザベスCを制して種牡馬入りを果たしました。父キングカメハメハ×母エアグルーヴというピカピカの良血馬で、血統表の中に「サンデーサイレンス」の血をもたないことが最大の特徴です。日本競馬の歴史を変えたと名種牡馬サンデーサイレンス。その血をもつ多くの繁殖牝馬と交配できる種牡馬ルーラーシップは、大きな大きなアドバンテージをもっています。
競走馬としてのルーラーシップはガッチリとした好馬体を誇り、重厚かつパワフルなストライドでズドーンと差す競馬を得意としていました。大跳びのゆったりとしたフォームのため、瞬時にギアチェンジをして加速することはできないものの、直線の長い東京や外回りコースで1F11.5ほどの速い脚を長く使うタイプの馬でした。
産駒にもその特徴はしっかりと伝わり、ダンビュライトとキセキの活躍馬2頭は父に似た好馬体をもち、重厚なストライドで走ります。ダンビュライトは2歳の7月にデビューし、早い時期からマイル重賞でと好走しましたが、産駒の多くは完成が遅めで中距離に適性を見せています。
ルーラーシップ | 競走馬データ - netkeiba.com
菊花賞が重馬場になればチャンス?
競走馬時代のルーラーシップは「稍重〜不良」馬場の成績が(3 - 0 - 1 - 0)で、その内「不良」の金鯱賞とAJCCを完勝しているように、道悪馬場を大の得意としていました。パワフルな走法とともに産駒にも道悪適性は受け継がれていて、ダンビュライトは「不良」のデビュー戦を圧勝しています。
今年の菊花賞は道悪馬場に?
今年の秋華賞はレース史上初めて「重」馬場での開催となりました。その日曜日から菊花賞まで京都はグズついた天気が続く予報(日照時間が少ない)で、馬場の回復がどうなるのかは不透明。また、週末に雨が降るようだと秋華賞と同じ重馬場になる可能性は十分にあります。
近年のJRAの競馬場は排水設備が整っているため、降雨により馬場が悪化しても日差しが出ればすぐに「良」へと回復します。レースレコードの出た今年の皐月賞は前週に「重」まで悪化した芝が急速に回復し、高速の芝になったのは記憶に新しいところです。
ダンビュライトは重馬場がずんどば!
ダンビュライトの母タンザナイトはマリアライトやクリソライトなどを産んだ名繁殖牝馬クリソプレーズ(父エルコンドルパサー)の半姉で、豊かなスタミナを伝えるキャサリーンパー牝系の出身。「稍重」のエリザベス女王杯と宝塚記念を制した重巧者マリアライトを筆頭に、この牝系は道悪馬場に適性をもつ馬が多く出ています。
ダンビュライトは「不良」になった2歳新馬戦を楽勝したことと、重巧者の父と母の配合からも「重馬場」はずんどばです。上り3Fの速さに限界のあるタイプで、時計のかかる馬場になるのも大きなプラス。高速馬場になりやすい京都の芝に不安があるだけに、ダンビュライトにとっては「恵みの雨」となるでしょう。
ルーラーシップはハーツクライと同じ母父トニービンという血統
ルーラシップはすでにGⅠ馬を出している種牡馬ハーツクライと同じく母父がトニービンという血統です。もちろん、父も母系も異なるので一括りにできないものの、トニービンが伝えるスタミナと重厚なストライドは似ています。
ハーツクライ産駒はスタミナとスピードの持続力に優れ、ジャスタウェイ、ワンアンドオンリー、ヌーヴォレコルトと東京コースのGⅠを4勝。また、京都競馬場で行われる長距離GⅠ天皇賞・春は4年連続で2着と、スタミナを求められるレースに強いのが特徴です。
先週の秋華賞2着に好走したリスグラシューを含めて、ハーツクライ産駒はこれまで京都芝GⅠの2着が9回あるものの勝利はありません。3コーナーから下り坂+直線が平坦で上り3Fの速い京都のGⅠは、スタミナと持続力に優れたハーツクライ産駒にとって鬼門と言えるレースです。
ルーラーシップも母父トニービンの影響が強く出ており、スタミナと持続力に優れます。そのため、京都のGⅠを好走したとしても勝ちきれるのかは「?」がつきます。
ダンビュライト 3歳牡馬
父:ルーラーシップ
母:タンザナイト(母父:サンデーサイレンス)
厩舎:音無秀孝(栗東)
生産:ノーザンファーム
皐月賞3着→ダービー6着という成績を上げた春の実績馬。秋の初戦となった神戸新聞杯は好スタートから積極的に2番手でレースを進め、直線早々に先頭へ立ったものの、レイデオロにアッサリと交わされて4着と敗退。上り3Fが34秒ソコソコのレースとなり、速い脚を欠くダンビュライトには苦しいレースとなりました。菊花賞は主戦の武豊騎手がどのように「上りのかかる」展開へもち込むのかに注目です。
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血統
母タンザナイトは仔世代に重賞馬が出ていないものの、初仔のモルガナイト(父アグネスデジタル)がGⅢ東京新聞杯を勝ったブラックスピネルを出すなど、その優秀な繁殖能力は孫の世代にもしっかりと伝わっています。
母がNorthern Dancerの血ももたないため、ダンビュライト自身は5代血統表ではクロスをもたないアウトブリードの配合。父ルーラーシップの重厚なストライドをそのまま受け継ぎ、祖母キャサリーンパーを通じて豊富なスタミナを補完しています。強いクロスをもたないにもかかわらず2歳の早期から活躍したのは、この馬の競走能力の高さ(もちろん、世代レベルの高低もありますが)を物語っています。完成が遅めのルーラーシップ産駒+アウトブリードな配合ですから、ダンビュライトの成長力は抜群です。
父譲りの重厚なストライドで走るため、コーナーがゆるく直線の長いコースがベストの馬。歴史的なスローになったダービーを観ても、上り3Fが10秒台に入るような瞬発力勝負は苦手なので、ゴールまでの1000mを1F11.5前後で走るようなレースが理想です。父系も母系もパワーに優れ重馬場は大得意ですから、もし菊花賞で雨が降ればこの馬にとっては「ベスト」の舞台が整ったと言えるでしょう。
菊花賞に向けて
叩いた上積みが見込め、重馬場でのレースとなれば、父母から受け継いだパワーとスタミナをフルに活かせます。武豊騎手が上りのかかる展開にもち込むレースプランをしっかりと立てて臨むでしょうから、馬場が回復したとしても高速馬場にさえならなければ……。
先にも述べたように、ルーラーシップはハーツクライと同じように京都の大レースを勝ちきれるのかは「?」がつくだけに、スタミナを問われるような流れのレースにもち込めるかどうかが鍵になります。
キセキ 3歳牡馬
父:ルーラーシップ
母:ブリッツフィナーレ(母父:ディープインパクト)
厩舎:角居勝彦(栗東)
生産:下河辺牧場
3歳春は新馬戦を勝ち上がった後で足踏みし、GⅢ毎日杯3着など重賞でも強敵相手に好走したものの獲得賞金を積み上げることができませんでした。角居廐舎らしくその後は秋に備えてしっかりと休養に入ります。復帰戦となった平場の500万下と前々走の1000万下信濃川特別は圧巻のパフォーマンス。
信濃川特別は速い時計の出る馬場だったとしても、勝ちタイム1分56秒9、上り3F32.9を手応え十分に楽々と差し切り、重賞レベルの走りを見せました。このレースで2着に入ったブラックプラチナムはOP級の素材ですから、これを問題にしなかったのは掛け値なしに素晴らしいの一言です。
前走の神戸新聞杯は後方からレースを進め、直線で馬群を割るように鋭く伸びての2着。レイデオロとは現時点で力差を感じさせるレース内容でしたが、この馬だけが上り3F33秒台の脚を使っており、母父ディープインパクトらしい瞬発力を見せました。ルーラーシップ産駒としては上りの速いレースもOKの馬ですから、京都コースはダンビュライトよりも合っています。
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血統
母ブリッツフィナーレは今春の安田記念で4着に入った素質馬グレーターロンドンの全姉で、競走馬としては未出走。繁殖牝馬としてはキセキ以外に目立った活躍馬は出ていません。
祖母のロンドンブリッジは英ダービーを制した父ドクターデヴィアスよりも父父Ahonooraと母父Dangizのパワーとスピードで「ワァーっ」と先行するパワーマイラーで、産駒にもそのパワーを伝えます。
キセキは脚が長く、いかにもルーラーシップという体型。追い出されると前脚をグングンと伸ばし、重厚かつパワフルなストライドでゴールまで走る姿はいかにも素質馬。前走の神戸新聞杯で上り33.9の脚を使ったように、このキレは父よりも母父ディープインパクトによるものでしょう。
キセキのもつ瞬発力は、キングカメハメハ×トニービンのキレをもつ父ルーラーシップに対して、HaloとSir Ivorのしなやかさをもつディープインパクトの別方向のキレが付加されているイメージ。血統表に引く血の良い部分だけを抽出したような馬で、これは母系に引くAhonooraの異系の血がアクセントになって全体に活力を与えているのかもしれませんね。
菊花賞に向けて
母系にHaloとSir Ivorを引くので、ルーラーシップ産駒としては京都の下り坂をそこまで苦にしない配合。瞬発力もあるだけに、直線が平坦な京都もOKです。
前走の神戸新聞杯2着後に、陣営は中距離路線へ進むのか菊花賞に進むのかを協議し、結果として後者へ臨むことに決まりました。上り3Fの鋭さやレースぶりを見てもやはり中距離馬で、菊花賞が重馬場+上りのかかる展開になったときには不安が残ります。例年通りの高速馬場であれば、スタミナの質を問われないため問題はありません。
キセキの馬体はルーラーシップそのものですが、走りはディープインパクト。例年通りの高速馬場の菊花賞であれば、この馬の鋭い瞬発力を存分に活かせるでしょう。後は重馬場にさえならなければ……。
まとめ
重馬場の得意なルーラーシップ産駒として、ダンビュライトとキセキはタイプが異なります。前者は重馬場がドンとこいで上りの速いレースは苦手。後者は上りの速いレースが得意で馬場が渋ると不安が……。今年の菊花賞は重馬場になる可能性が5分5分なだけに、ダンビュライトとキセキのどちらに向くレースになるのかが興味深いですね。
以上、お読みいただきありがとうございました。