8月20日(日)、小倉競馬場のメインはサマースプリントシリーズ第4戦となる「GⅢ北九州記念」が行われました。
500万下からの3連勝でこのレースに臨んだ3番人気ダイアナヘイローが、逃げたアクティブミノルの2番手をスムーズに追走し、直線で抜け出すと後続の追撃を振り切っての1着。2着に14番人気のナリタスターワン、3着に15番人気のラインスピリットが入り、波乱の決着となりました。勝ちタイムは1分07秒5(良)。
今年も前後半3Fが1.9秒差のハイペースに
北九州記念は今年も前後半3Fが32.8 - 34.7と1.9秒差のハイペース。ただ、先行馬には苦しいはずのペースにもかかわらず、中団より前にいた馬同士の決着となりました。今年の北九州記念で記録されたJRA公式のレースラップは以下の通りです。
▼北九州記念 レースラップ
11.7 - 10.0 - 11.1 - 11.5 - 11.2 - 12.0 = 67.5(1分07秒5)
前後半3F:32.8 - 34.7(1.9秒の前傾ラップ)
4F目が11.5といくらか緩んでいるものの、最後が12.0と大きく落ち込んでいることからも先行勢にとっては苦しい流れ。
4F目は下り坂にあたり、先行馬はオーバーペースにならないように、差し・追い込み馬はスピードを乗せて前へと追い上げたい区間になります。今回のレースでは前半3Fが32.8とソコソコ速かったため、差し・追い込み馬が4F目でスピードを上げるのに手間取り(3〜4コーナーにあたるので加速がしにくい)、そこで一息つけた先行馬がゴールまで粘り込んだという結果に。
JRAのHP上で公開されているレース映像を観ると、2着に好走したナリタスターワンは幸騎手が手綱を動かし、この3〜4コーナーで前に取り付いていることがわかります。結果的には、ハイペースを積極的に前々で立ち回った馬にチャンスがくるレースでした。
19日(土)、20日(日)の小倉芝1200mは先行有利な馬場
19日(土)、20(日)の小倉は2歳戦と3歳未勝利戦を除くと、芝1200m戦は計4鞍が組まれました。その4レースすべてで勝ち馬は直線5番手以内か抜け出してのもので、先行有利な馬場コンディションだったことがわかります。
8月19日(土) 9R小郡特別(3歳以上500万下)
レースラップ:11.8 - 10.5 - 11.2 - 11.6 - 11.4 - 11.8
前後半3F:33.5 - 34.8(1.3秒差の前傾)
出走頭数:15頭
勝時計 | 着順 | 人気 | 馬 名 | 通過順位 | 上り |
1:08.3 | 1 | 7 | ダイメイプリンセス | 2 - 2 | 34.8 |
2 | 1 | タイセイブレーク | 13 - 11 | 34.2 | |
3 | 3 | イサチルホープ | 6 - 4 | 34.7 |
1.3秒の前傾ラップを2番手から直線で伸びたダイメイオウリンセスが押し切り勝ち。2着には後方から伸びたタイセイブレーク、3着には前目の内々を立ち回ったイサチルホープが入線。
8月19日(土) 12R3歳以上500万下
レースラップ:12.1 - 10.5 - 11.4 - 11.6 - 11.4 - 11.5
前後半3F:34.0 - 34.5(0.5秒差の前傾)
出走頭数:17頭
勝時計 | 着順 | 人気 | 馬 名 | 通過順位 | 上り |
1:08.5 | 1 | 3 | ベルディーヴァ | 4 - 4 | 34.2 |
2 | 6 | ウインソワレ | 1 - 1 | 34.5 | |
3 | 1 | メイショウラバンド | 10 - 9 | 34.0 |
4鞍のなかでこのレースだけが前後半3Fの差が1秒差以内の前傾ラップ。1着は外目をスムーズに先行したベルディーヴァ、2着には逃げたウインソワレ、3着には中団から伸びたメイショウラバンドが入線。
8月20日(日) 9R戸畑特別(3歳以上1000万下)
レースラップ:11.8 - 10.2 - 10.9 - 11.2 - 11.6 - 11.8
前後半3F:32.9 - 34.6(1.7秒差の前傾)
出走頭数:12頭
勝時計 | 着順 | 人気 | 馬 名 | 通過順位 | 上り |
1:07.5 | 1 | 4 | スマートグレイス | 2 - 2 | 34.3 |
2 | 2 | グレイトチャーター | 6 - 4 | 33.9 | |
3 | 6 | タガノカムイ | 5 - 4 | 34.5 |
前後半3Fが1.7秒差の前傾ラップながら、1着になったのは道中2番手を手応えよく追走したスマートグレイス。2着のグレイトチャーター、3着のタガノカムイともに前々で流れに乗ってのもので、後ろから差して来る馬はいませんでした。このレースは北九州記念と同タイムでしたが、後半3Fが11.2 - 11.6 - 11.8とゴール向けて減速していくラップ推移のため、より先行馬には苦しい流れでした……。
8月20日(日) 11R北九州記念(GⅢ)
レースラップ:11.7 - 10.0 - 11.1 - 11.5 - 11.2 - 12.0
前後半3F:32.8 - 34.7(1.9秒差の前傾)
出走頭数:18頭
勝時計 | 着順 | 人気 | 馬 名 | 通過順位 | 上り |
1:07.5 | 1 | 3 | ダイアナヘイロー | 2 - 2 | 34.6 |
2 | 14 | ナリタスターワン | 7 - 4 | 34.4 | |
3 | 15 | ラインスピリット | 4 - 3 | 34.7 |
前後半3Fが1.9秒差の前傾ラップだったにもかかわらず、直線に向いて2、4、3番手にいた馬がゴールまで粘ってのワンツースリー。これで前崩れにならないのは後方に控えた馬たちの実力が足りる足りない以前に、「何か」理由があるのでしょう。
ダイアナヘイロー 4歳牝馬:1着
父:キングヘイロー
母:ヤマカツセイレーン(母父:グラスワンダー)
厩舎:福島信晴(栗東)
前走、小倉の芝1200m戦だった佐世保S(1600万下)とほぼ似たようなレース内容でGⅢ北九州記念を快勝しました。参考までに、その佐世保Sのレースラップを見ておきましょう。
▼佐世保S(3歳以上1600万下)
レースラップ:11.8 - 10.5 - 11.2 - 11.5 - 11.2 - 11.5
前後半3F:33.5 - 34.2(0.7秒差の前傾)
出走頭数:16頭
このレースは前後半3Fの差が1秒以内におさまった前傾ラップで、道中2、3番手にいたダイアナヘイローとニシノラッシュがワンツーを決めました。4F目の下り坂でいくらか緩んでいるのは北九州記念と同じ。ただ、前半3Fが33.5だったために、ラスト1Fが11.5と大きくは落ち込まなかったレースです。これだと後ろから差すには33秒台の脚を使わないと苦しく、先行有利な流れだったと言えます。
北九州記念は前半3F32.8の数字が表すよりも負荷が軽かった?
北九州記念が前残りになった要因は、2つ考えられます。1つは前半3F32.8の数字以上に先行馬への負荷が軽かった(負担が少なかった)こと、2つ目は直線が軽くバキューンと差せる馬場ではなかったことです。
1つ目は1秒以上の前傾ラップに好走歴のないラインスピリットがこのペースを先行して3着に粘っていること、そして、2着に入ったナリタスターワンが前半32.8を楽々と追走して3〜4コーナーでポジションを押し上げていることから想像できます。
2つ目は前傾ラップに強いプレイズエターナルなどの差し馬が直線で伸びて来なかったことと、19日(土)に差してきた馬たちはペースが緩んだところを34秒ソコソコの脚で2、3着になっていることから、直線の馬場はキレる脚をもっている馬に向いていたコンディションだったと考えられます。
ダイアナヘイローの機動力とパワー
ダイアナヘイロは父キングヘイロー×母父グラスワンダーですから、Haloの機動力とRoberto的なパワーで走るスプリンター。コーナリングの巧さ(速さ)と直線をパワーで踏ん張るのがもち味で、前走と今走の直線での粘りを見てもいよいよ本格化を迎えたのでしょう。母系は名門牝系のゴールデンサッシュ→ダイナサッシュに遡り、Princely Giftが小倉の下り坂をロスなく走るのに向いています。今夏の小倉開催ではPrincely Giftが入るサクラバクシンオーの血をもつ馬の好走が目立っているのも、この系統に合う馬場になっているからです。
今走でハイペースをこなしたように、ダイアナヘイローは父キングヘイローのスピードよりも母系のグラスワンダー×フジキセキのパワーと機動力がオンになっており、小回り・内回りで後続の脚を削ぐような先行ができれば今後もこの路線で好走できるかもしれません。
下り坂の小倉芝1200mをこなしたことから、中山芝1200mで行われるスプリンターズSも適性としては合っていて、父キングヘイロー×母父グラスワンダーから直線に坂のあるコースもOK。前傾ラップになりやすい中山芝でどのようなレースを見せられるのかにも注目です。
2着:ナリタスターワン
好スタートから逃げ・先行馬を前へ行かせて好位の外目を追走。とにかく、3〜4コーナーで幸騎手が仕掛けて外目の4番手まで押し上げたところが見事で、ここが2着に好走した最大の要因です。3秒以上の前傾ラップになった中山ダート1200m(ブラッドストーンS 1600万下)に勝ち鞍があるように、ゴールに向かって失速していく流れにも十分対応できるスプリンター。
秋華賞3着プロヴィナージュ(父フレンチデピュティ)の半弟。父がショウナンカンプに替わり、距離の適性もスプリントにシフトしています。ここで前傾ラップに対応できたように、上りのかかる展開をジリジリと伸びてくるのがこの馬の長所。これを活かすことのできるコースと展開がばっちりと合えば、重賞でも力は足りるところを今走で示しました。
GⅢ北九州記念('17年)は2秒以上の前傾ラップをジリジリと差すナガラオリオンに◎を - ずんどば競馬
3着:ラインスピリット
高松宮記念、CBC賞、アイビスサマーダッシュと3戦続けて◎にしたラインスピリットがこれだけの前傾ラップを3着に粘り込むとは……。「ラインスピリット・マニア」としては悔しい好走となりました。
CBC賞('17年)予想ーー高松宮記念で◎の馬に期待して - ずんどば競馬
GⅢアイビスサマーダッシュ('17年)はラインスピリットに◎ーー予想 - ずんどば競馬
この馬が3着に来たことで、北九州記念はレースラップ32.8 - 34.7の数字以上に前半の負荷が軽かったレースだということがわかります。好スタートから森一馬騎手が押して押して先行策をとり、上りを34秒台でまとめたわけですからグウの音も出ない好走。ただ、6歳馬のラインスピリットが新しい一面を見せたとは言い切れないレースです。
この馬も母系にPrincely Giftを引き、上位の3頭はいずれも下り坂をロスなく走れる血をもっています。ということは、スタートしてすぐと3〜4コーナーにかけての下り坂をロスなく走れる馬たちが上位を独占した形になりますね。下り坂が勝負の分かれ目となる天皇賞・春でPrincely Giftもちが好走するように、今年の小倉芝1200mは「下り坂をロスなく走れる馬」がキーポイント。
キングハート(4着)とファインニードル(5着)
キングハートは2着のナリタスターワンの直後を追走し、3〜4コーナーで同じように上がっていったものの、直線入口の手前で少し離されてしまったのはナリタよりも下り坂をロスなく走ることができなかったからでしょう。その分直線でスピードに乗り切れずの4着。この馬は現時点での力はしっかりと出しており、決して凡走したわけではありません。それにしても、これだけ使い詰めにもかかわらず掲示板を外さない安定感は素晴らしいの一言。さすがにもう「オツリ」が残っているとは思えず、休まずに続けて使うようなら次走は割り引きたいですね。
ファインニードルは直線で進路がなくスムーズに仕掛けられなかった分の5着。上位とはそれほど差のない競馬をしており、欲を言えばもう1列前で競馬ができていれば…という内容でした。ダメージの少ない走りでしたから、次走の巻き返しに期待したいですね。
まとめ
2秒近い前傾ラップにもかかわらず、先行馬が上位を独占した今年の北九州記念。この結果はエアレーションとエクイターフの影響が出ていると考えられるので、別の記事で小倉の芝1200mについては書く予定です。残り2週、小倉の芝1200mで「ウハウハ」できるように傾向をつかみたいですね。
ハイペースからの前残りとなった北九州記念は、例年の「傾向」とは異なる結果となりました。きっと「何か」理由があるはずですから、今後に活かすためにも考察しましょう。そうしましょう……。
以上、お読みいただきありがとうございました。