菊花賞トライアルのGⅡ神戸新聞杯(阪神芝2400m外回り)は、春の実績馬と夏の上がり馬が牡馬クラシック最後の1冠に向けて争うレース。歴史的な「超」スローペースとなった第84回ダービーを制したレイデオロがここから秋のローテーションをスタートさせます。ところが、3歳世代の頂点に立ったレイデオロは菊花賞へ向かわずにジャパンカップへと出走する見込み。「残念菊花賞」などと揶揄されないためにも、神戸新聞杯に出走する馬たちはレイデオロをここで負かしたいところでしょう。
GⅡ神戸新聞杯('17年)はラブリーデイ的なピッチのレイデオロが好走できるのか?ーーレース展望 - ずんどば競馬
春の実績馬と夏の上がり馬
神戸新聞杯にはダービー2着スワーヴリチャードと3着アドミラブルが不出走。前者は放牧先からまだ入厩していない現状で、菊花賞に出走するかも未定。後者は脚部不安により秋を全休することになりました。ダービーで歴史的なスローペースを演出し自身も4着に粘り通したマイスタイルと、皐月賞3着→ダービー6着のダンビュライトが春の実績馬としてここへ出走します。
夏の上がり馬はここ2走、500万下と1000万下を圧巻のパフォーマンスで連勝したキセキ。春はすみれS3着、GⅢ毎日杯3着と賞金を積み上げることができませんでしたが、角居廐舎の管理馬らしく夏場にグングンと成長を見せ、秋のクラシック・トライアルに間に合いました。先週のセントライト記念で1000万下クラスのミッキースワローが皐月賞馬のアルアインを差し切って勝利を上げたように、今年の3歳牡馬はここまで抜けた能力をもつ馬が不在。夏の上がり馬のキセキが実績馬をまとめて負かすシーンも十分に描けます。
ダンビュライトとキセキはルーラーシップ産駒
神戸新聞杯に出走するダンビュライトとキセキはともに、現3歳世代が初年度産駒となるルーラーシップを父にもちます。初年度産駒からはまだ重賞勝ち馬こそ出ていないものの、ダンビュライトが皐月賞で3着に入るなどGⅠでも好走し、種牡馬として上々のスタートを切りました。
今回の記事では、ルーラーシップ産駒のダンビュライトとキセキの2頭をピックアップし解説します。それではまず、「種牡馬ルーラーシップ」について見ていきましょう。
種牡馬としてのルーラーシップ
ルーラーシップは国内GⅠを制することはできなかった(2着が1回、3着が3回と好走した)ものの、香港の国際GⅠクイーンエリザベスCを制して種牡馬入りを果たしました。父キングカメハメハ×母エアグルーヴというピカピカの良血馬で、血統表の中にサンデーサイレンスの血をもたないのは現代日本の種牡馬として大きなアドバンテージをもっています。
競走馬としてのルーラーシップはガッチリとした好馬体をもち、重厚かつパワフルなストライドで長い直線をズドーンと差すのを得意としていました。大跳びのフォームだったので、バキューンとしなやかに弾けるというよりも1F11.5秒くらいの脚を長く使え、東京と阪神外回りコースがベストの馬。
産駒にもその特徴はしっかりと伝わり、ダンビュライト、キセキといった活躍馬は父に似た好馬体と重厚なストライドが最大の長所です。ダンビュライトは2歳7月にデビューし、早期からマイル重賞でも好走しましたが、産駒の多くは完成が遅めで中距離に適性を見せています。
ダンビュライト 3歳牡馬
父:ルーラーシップ
母:タンザナイト(母父:サンデーサイレンス)
廐舎:音無秀孝(栗東)
生産:ノーザンファーム
2歳7月の新馬戦を勝ち上がると、GⅠ朝日杯FSまではマイル路線のローテーションが組まれました。3歳春はきさらぎ賞→弥生賞→皐月賞とすべて3着と重賞制覇まで今一歩足りない成績。それでも、レースレコードとなった皐月賞では外目をスムーズに回って最後までしっかりと脚を使っていたことから、負けて強しの3着だったと言えます。ルーラーシップ産駒らしい持続力に優れた脚は東京の長い直線でこそ……と期待されたダービーは、スローペースにはまって動くに動けず、直線で盛り返したものの6着まで押し上げるのが精一杯という不完全燃焼のレースでした。
血統
母タンザナイトは、マリアライトやクリソライトを産んだクリソプレーズ(父エルコンドルパサー)の半姉で、豊かなスタミナを伝える名牝キャサリーンパー牝系の出身。仔世代からは重賞馬は出ていないものの、初仔のモルガナイト(父アグネスデジタル)がGⅢ東京新聞杯を勝ったブラックスピネルを出すなど、タンザナイトの優秀な繁殖能力は孫の世代にもしっかりと伝わっています。
母タンザナイトがNorthern Dancerの血ももたないため、ダンビュライト自身は5代血統表ではクロスをもたないアウトブリードの配合。父ルーラーシップの重厚なストライドをそのまま受け継ぎ、祖母キャサリーンパーを通じて豊富なスタミナを補完しています。強いクロスをもたないにもかかわらず2歳の早期から活躍したのは、この馬の競走能力の高さ(もちろん、世代レベルの高低もありますが)を物語り、一夏を越してさらにパワーアップしていることは間違いありません。
父譲りの重厚なストライドで走るため、コーナーがゆるく直線の長いコースがベストの馬。歴史的なスローになったダービーを観ても、上り3Fが10秒台に入るような瞬発力勝負は苦手なので、ゴールまでの1000mを1F11.5前後で走るようなレースが理想です。父系も母系もパワーに優れ、重馬場+急坂は大得意ですから、もし神戸新聞杯で一雨降ればこの馬にとっては「ベスト」の舞台が整ったと言えるでしょう。
ダンビュライトの血統表 | 競走馬データ - netkeiba.com
神戸新聞杯に向けて
2歳〜3歳春にかけて重賞で好走歴がありますが、ダンビュライトはまだ1勝馬。神戸新聞杯は3着内に入って菊花賞への権利を取るだけではなく、今後に向けて賞金を加算しないといけないレース。ノーザンファーム生産馬ですから、休み明けであっても神戸新聞杯に向けてキッチリと仕上げてくるはずです。
阪神芝2400m外回りはダンビュライトにとって願ってもない舞台設定。コースはずんどばです。問題はレースのペースがどこまで緩くなるのか……。歴史的なスローになったダービーは、騎手と廐舎の意識にも残っていますから、あのレースのようなペースは考えられません。ダンビュライトの武豊騎手はこの馬の脚を出し切るレースプランを立てるでしょうしね。
もうひとつの不安点は、阪神の芝がいつもよりやや硬く、直線で速い上りの出るコンディションになっていること。これが続くようだと、ダンビュライトにはキレ負けの心配が出てきますね。
ノーザンファームとしては、賞金の足りているアルアインをセントライト記念に回し、新種牡馬ルーラーシップの価値を高めるためにもここでダンビュライトに賞金を積み上げて欲しいと考えているのでしょう。理想はダンビュライトとレイデオロかサトノアーサー、アドマイヤウイナーのどれかとワンツーですかね。
キセキ 3歳牡馬
父:ルーラーシップ
母:ブリッツフィナーレ(母父:ディープインパクト)
廐舎:角居勝彦
生産:下河辺牧場
3歳春は新馬戦を勝ち上がった後で足踏みし、GⅢ毎日杯3着など重賞でも強敵相手に好走したものの獲得賞金を積み上げることができませんでした。角居廐舎らしくその後は秋に備えてしっかりと休養に入ります。復帰戦となった平場の500万下と前走の1000万下信濃川特別は圧巻のパフォーマンス。
前走の信濃川特別は速い時計の出る馬場だったとしても、勝ちタイム1分56秒9、上り3F32.9を手応え十分に楽々と差し切り、重賞レベルの走りを見せました。このレースで2着に入ったブラックプラチナムはOP級の素材ですから、これを問題にしなかったのは掛け値なしに素晴らしいの一言です。
血統
母ブリッツフィナーレは今春の安田記念で4着に入った素質馬グレーターロンドンの全姉で、競走馬としては未出走。繁殖牝馬としてはキセキ以外に目立った活躍馬は出ていません。
祖母のロンドンブリッジは英ダービーを制した父ドクターデヴィアスよりも父父Ahonooraと母父Dangizのパワーとスピードで「ワァーっ」と先行するパワーマイラーで、産駒にもそのパワーを伝えます。
キセキは脚が長く、いかにもルーラーシップという体型。追い出されると前脚をグングンと伸ばし、重厚かつパワフルなストライドでゴールまで走る姿はいかにも素質馬。前走で上り32.9の脚を使ったように、このキレは父よりも母父ディープインパクトによるものでしょう。
キセキのもつ瞬発力は、キングカメハメハ×トニービンのキレをもつ父ルーラーシップに対して、HaloとSir Ivorのしなやかさをもつディープインパクトの別方向のキレが付加されているイメージ。血統表に引く血の良い部分だけを抽出したような馬で、これは母系に引くAhonooraの異系の血がアクセントになって全体に活力を与えているのかもしれませんね。
キセキの血統表 | 競走馬データ - netkeiba.com
神戸新聞杯に向けて
ルーラーシップ産駒ですから、ダンビュライトと同じように阪神芝2400m外回りは適正としてはずんどばです。キセキは瞬発力も秘めているため、スローからの上り勝負になってもそれなりには対応できます。ただ、前走のように全体的にペースが流れた方が重厚かつしなやかなストライドを活かすにはベストでしょう。
仕上げについては関西の名門・角居勝彦廐舎ですから抜かりはなく、前走よりもさらにパワーアップしているようだと驚異です。精神的な弱さが消えてきたということは、レースで安定して力を発揮できるようになったことを表しているので、大きな弱点はありません。ここでどのような走りを見せるのかが本当に楽しみですね。
まとめ
ルーラーシップ産駒の初重賞制覇となるのか、神戸新聞杯はコース適性としてはベストの舞台ですから、楽しみは広がります。父らしく3歳の夏を境にしてグングンと強くなる仔が多く、ダンビュライトとキセキ以外の産駒にもこれから注目をしたいですね。
以上、お読みいただきありがとうございました。