GⅢ小倉記念('17年)はサンマルティンの捲りをインから差したタツゴウゲキの勝利にーー回顧

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8月6日(日)、サマー2000シリーズの第3戦として小倉競馬場を舞台に行われた「GⅢ小倉記念(芝2000m)は、好位のインでレースを進めた5歳牡馬のタツゴウゲキがM・デムーロ騎手の落馬負傷によって急遽の乗り替わりとなった秋山真一郎騎手の手綱に導かれて、直線先に抜け出した2番人気サンマルティンをゴール前でハナ差競り落とし1着になりました。

全場所重賞制覇のかかった戸崎騎手のサンマルティンは重賞初挑戦で2着と力のあるところを見せ、3着には6番人気のフェルメッツァが入り、1番人気のストロングタイタンは8着と敗退。勝ちタイムは1分57秒6(良)。

 

直線はタツゴウゲキとサンマルティン2頭の叩き合い

3コーナーから母親譲りの俊敏なピッチ走法でズバーンと捲った戸崎騎手のサンマルティンが直線で先頭に立ったところに、イン好位から最内を突いて伸びたタツゴウゲキが並びかけ、ゴールまで残り100mを切ったところでは2頭が馬体を併せての叩き合いになりました。

ピッチ走法の◎サンマルティンにとってはこのペースを外から一気に捲り切って、そこからゴール前でもうひと伸びというのはさすがに苦しく、イン好位をロスなく立ち回ったタツゴウゲキに差されてしまったのは納得の2着。4コーナーから直線入口にかけて、戸崎騎手がツーテンポくらい仕掛けを遅らせていたのはさすがで、適正としてずんどばの小倉記念でもてるパフォーマンスは十分に発揮したと言えます。

 

タツゴウゲキ 5歳牡馬

父:マーベラスサンデー

母:ニシノプルメリア(母父:シングスピール)

厩舎:鮫島一歩(栗東)

騎手:秋山真一郎

好スタートからいくらか促して前目のポジションを取り、外からヴォージュとバンドワゴンを先に行かせて好位のインをしっかりと確保。前半1000mが58.3秒のペースを終始余裕の手応えでスイスイと追走し、4コーナーでヴォージュのすぐ後ろのポジションを取った秋山騎手の判断も見事で、苦しくなって下がったバンドワゴンとヴォージュの間をスパっと抜けてきての勝利。

ストライド走法のバンドワゴンにとっては向正面でスピードを抑えることができず、前後半の1000mが58.3 - 59.3のハイペースを作ってしまいました。後半の5Fが11.5 - 11.9 - 11.9 - 11.8 - 12.2とゴールに向かって少しずつ減速し、上りのかかる決着になったことも母系にSadler's WellsやCure the Bluesといった豊富なパワーが入るタツゴウゲキにとっては願ってもない流れでした。

タツゴウゲキの小回りコースのコーナーを楽々と追走する俊敏さはHaloのクロスと母系に入るパワーによるものでしょう。それにしても、この馬が小倉競馬場の2コーナーと3コーナーにある下り坂をスイスイと駆け下りれるのは……父マーベラスサンデーの母系に入るTom Foolなのか、3代母リメンバーミッドナイトのHabitatによるものなのか……。

 

サマー2000シリーズチャンピオンに向けて

陣営からは次走の候補として「GⅢ新潟記念」という名前も挙っているように、タツゴウゲキは小倉記念の勝利によってサマー2000シリーズのチャンピオンが狙えます。七夕賞を勝ったゼーヴィントは骨折によって戦線を離脱、函館記念を制覇したルミナスウォリアーは次走の予定として新潟記念を目指すとのことなので、チャンスも十分に出てきました。

ただ、上りの速くなる新潟の外回り芝2000mは、俊敏さを活かして前々から粘り込みたいタツゴウゲキにとって割引の舞台。スローペースであれば俊敏さで抜け出すシーンも描けますが……。また、新潟記念はスローからの前残りが近年のトレンドになっていることもあり、ペースによっては好走の期待ももてますね。

 

サンマルティン 5歳騸馬

父:ハービンジャー

母:ディアデラノビア(母父:サンデーサイレンス)

厩舎:国枝栄(美浦)

サンマルティンを◎にした甲斐のある2着。1周目のホームストレッチと向正面で折り合いにスムーズさを欠いたところを除けば、ほぼ完璧なレース内容だったと言えます。この馬の俊敏さを活かすには3〜4コーナーのところで外から加速していくか、タツゴウゲキのようにインのポケットから鋭く抜け出すかの2択しかなく、1コーナーを回るときに後方の位置取りになったので、もう外からズバーンと捲るしか選択肢はありませんでした。

GⅢ小倉記念('17年)は母譲りのピッチ走法・サンマルティンに◎をーー予想 - ずんどば競馬

それにしても……去勢したとは言え、このペースでも折り合いを欠いてしまうのですから、もうこれは競走能力が衰えないかぎり根本的に解決しないこの馬の気質なのでしょう。今夏の福島競馬場でもそうでしたが、戸崎騎手は小回りを捲らせたら「名手」の域で、本当に溜息が出るくらいに惚れ惚れとする騎乗を見せてくれますね。

マーメイドS他重賞を3勝した姉ディアデラマドレはキングカメハメハ産駒の牝馬ですから、それはもう母ディアデラノビアにそっくりな小気味の良いピッチ走法。弟のサンマルティンは父がハービンジャーに替わり、姉よりも少しだけストライドが伸びるのでバキューンと弾けるというよりズドーンと捲れるのが長所です。姉と同じように直線の長いコースであればスローが希望のタイプ。

 

3〜5着馬について

ここからは3〜5着馬について簡単に触れておきます。

 

3着:フェルメッツァ

前走のGⅢ七夕賞と同じように前半のペースが流れたことで、ここでも好走することができました。フェルメッツァはディープインパクト産駒ながらスパッとキレる脚をもっているわけではなく、名繁殖の母スキッフルのパワーが走りにはっきりと現れています。小回りを器用にこなすのも母譲りのパワーで捲る脚があるからでしょう。GⅢ中京記念を連覇した兄フラガラッハ(父:デュランダル)よりも器用な脚が使える分だけ、「この条件はずんどば!」と言えるコースがないのはこの馬の長所でもあり短所でもあります。名繁殖スキッフルの仔どもだけに、どこかで重賞を制して欲しいのですが……。

前走から斤量は据え置きの55kg。勝ったタツゴウゲキと3kgのハンデ差がついていたのは……。ただ、今走でも自身の力はしっかりと発揮しており、安定して走れるようになってきたのはまだまだこの馬が成長しているからだと言えます。

フェルメッツァについては以下の記事で詳しく書いているので、そちらもご覧いただければ幸いです。

七夕賞('17年)は◎フェルメッツァと2桁人気馬の好走に期待してーー予想 - ずんどば競馬

 

4着:ベルーフ

2年連続小倉記念を2着しているように、ベルーフは小回りをパワーで捲るタイプのハービンジャー産駒。昨年の56kgから今年は57kgと斤量も1kg増えたなかで4着まで押し上げたのですから、ペースとコースが噛み合えばまだまだ重賞でも好走できるだけの力はもっています。ベルーフ自身は強いクロスをもたないので、5歳となっても大きな力の衰えはないでしょう。

不器用な馬なのですが、東京や外回りコースなどの直線の長いコースではキレ負けしてしまうので、上りのかかる小回り・内回りの中距離で狙いたい馬です。

 

5着:カフジプリンス

今年の小倉記念のレースを観て、もっとも驚いたのはカフジプリンスの5着。とにかくズブく速い脚に欠けるため、この馬が2000mという中距離を1分58秒台で走ったのは……。カフジプリンスが上り36.0で5着に追い込めるほど、今年の小倉記念はハイペース+ロングスパートの持続戦になったのだと言え、ここでの掲示板は立派です。今回のペースが刺激になって、次走以降の追走が楽になるようだと好走のシーンも描けますね。

 

8着:ストロングタイタン

外から積極的にバンドワゴンがハナを奪う展開。1番人気を背負ったストロングタイタンは後ろに下げるわけにはいかず、3コーナーからはサンマルティンが捲ってきたのに合わせての仕掛けたものの、直線ではずるずると後退しての8着と敗れました。

パワー・ストライドで走る馬なので、カーブのきつい1〜2コーナーを速いペースで走るとどうしても体力の消耗が大きくなります。ストライド走法というのは直線のスピードを維持するのには向いていますが、大きな動きをする分だけ消耗度は大きくなるのが特徴です。

ストロングタイタンはハイペースそのものがダメなのではなく、前半1000mの通過が58.8秒の修学院S(京都芝2000m内回り)を勝ったときのようにコーナーでは動かずに直線でストライドを伸ばす走りの方が好走できます。

ストロングタイタンだけではなくバンドワゴンもそうですが、大きなストライドで走る馬は緩→急や急→緩の動きをするとどうしてもロスが大きくなり、レースの間で簡単に速度を変えるようなことは苦手です。結果としてヴォージュがかなり積極的に前を突つく展開になりましたが、1番人気の川田騎手が1コーナーに入る段階でそれを読み切って後ろへ下げるにはリスクが大きすぎる……。ストロングタイタンはレースの途中で騎手がペースの上げ下げをするにはフォームがダイナミック過ぎるのです。

 

池江寿厩舎は夏の小倉でイマイチ

昨年、夏の小倉で好調だった池江寿厩舎は今開催(2 - 2 - 2 - 9)とイマイチの成績。確率としてはもっと勝っておかしくない厩舎ですから3週目以降の巻き返しに期待したいですね。

 

◯フェイマスエンド

好スタートを切ったものの、外からバンドワゴンやストロングタイタンが押し上げて先行体勢を取ったため、下げて中団の位置を取ります。ベルーフの仕掛けに合わせて3〜4コーナーで押し上げて直線に向きますが……残り200mで脚が上がり7着と敗退。前走大敗の影響を感じさせない走りで、この馬らしいレースはできました。もう少し内枠に入って、タツゴウゲキの後ろのポジションを取れていれば、入着はあったかもしれませんね。とは言え、次走が長期休養明け3戦目となり、どのレースに出るのか注目をしたい1頭。タツゴウゲキと同じ厩舎ですから、新潟記念に出走するなら……もう一度期待をかけたい馬です。

 

まとめ

多くの人が道中はスローになるのではと予想した小倉記念は、バンドワゴンの和田騎手が積極的に運んで締まったペースを作りました。レースというのは生き物で、ペースも展開も予想をするのは難しい……。だからこそ、競馬というのは面白く、飽きることがありません。

M・デムーロ騎手から乗り替わった秋山騎手にとっては、結果としてフェルメッツァから下ろされたことが功を奏した形になり、本当に競馬というのは馬券を買うファンにとっても、関係者にとっても難しく楽しいコンテンツですね。

 

以上、お読みいただきありがとうございました。