淀の1600mでスピードを争うマイルCS(GⅠ)は、秋のマイル王決定戦。京都の外回りコースは、「3コーナーから下り坂→直線が平坦」というレイアウトのため、パワーよりもしなやかなスピードをもつ馬の活躍が目立ちます。
過去10年の勝ち馬を見ても、GⅠレースを「マイルCS」1勝のみの馬が半数以上の6頭を数えます。
▼マイルCS過去10年の勝ち馬と上り3F
2016年:ミッキーアイル 上り35.6
2015年:モーリス 上り33.1
2014年:ダノンシャーク 上り34.1
2013年:トーセンラー 上り33.3
2012年:サダムパテック 上り34.1
2011年:エイシンアポロン 上り34.9
2010年:エーシンフォワード 上り34.3
2009年:カンパニー 上り33.5
2008年:ブルーメンブラット 上り33.9
2007年:ダイワメジャー 上り34.5
2012〜14年の3頭はいかにもな京都巧者がズラリと並びました。トーセンラーは京都の重賞成績が(3 - 2 - 3 - 2)。馬券外の2回とも4着ですから、京都だと「凡走」のないタイプで、菊花賞3着、天皇賞・春2着と距離も問いませんでした。
上り3Fからも「しなやか」にキレる馬が優勢のレース。10頭のなかで「パワータイプだな〜」というのはモーリス、エイシンアポロン、カンパニー、ダイワメジャーくらい……。やっぱりマイルCSは「ストライド」で差す馬に向くレースと言えるでしょう。
マイルCSはしなやかに「差す」馬が優勢
パワーでゴリゴリと先行するような馬より、しなやかにキレる馬がビューンと差すのがマイルCS。過去10年の前後半800mのバランスを並べても、5回が後傾ラップ(前半よりも後半が速い)になっており、ハイペースと呼ばれる1秒以上の前傾ラップは1度しかありません。
▼過去10年の前後半800mのラップ
2016年:(46.1 - 47.0) 1分33秒1
2015年:(47.1 - 45.7) 1分32秒8
2014年:(45.3 - 46.2) 1分31秒5
2013年:(46.8 - 45.6) 1分32秒4
2012年:(46.9 - 46.0) 1分32秒9
2011年:(46.7 - 47.2) 1分33秒9
2010年:(45.3 - 46.5) 1分31秒8
2009年:(47.2 - 46.0) 1分33秒2
2008年:(46.3 - 46.3) 1分32秒6
2007年:(46.4 - 46.3) 1分32秒7
*青色でマークしたのが後傾ラップ、赤色が1秒以上の前傾ラップ
前半800mをゆったりと入り、後半の下り坂からスピードを上げて直線でキレる、これがマイルCSのデフォルトです。そのため、勝ち馬の多くが「しなやか」なサンデーサイレンスの血を引いています。
非サンデーサイレンス(5代血統表にその名前が入っていない)の勝ち馬は2009〜11年の3頭だけ。日本の芝マイルは、パワーよりも「しなやかさ」がないと勝ちきれないのです。
今年のマイルCSは非サンデーサイレンスが1頭のみ
今年のマイルCS出走馬のなかで、サンデーサイレンスの血を引かない馬はマルターズアポジー1頭のみ(✳︎)となります。
✳︎非サンデーサイレンスのメラグラーナは登録があるものの、回避の予定。
コーナーをスムーズに回るのに長けたこの外国産馬は「逃げ」が最大の武器。そのため、前半800mでどのようなペースを刻むのかには注目です。もし、上りのかかるレース展開にもち込むことができれば、サンデーサイレンス系の「しなやかマイラー」たちは苦しむシーンも……。
今年のしなやかマイラーは?
それでは、今年の出走予定馬のなかで「しなやかマイラー」の馬をピックアップしてみましょう。
イスラボニータ
ガリバルディ
サトノアラジン
サングレーザー
ペルシアンナイト
レッドファルクス
(50音順)
意外に少ないですね……。上の6頭をしなやかさの順番で並べると、イスラボニータ>レッドファルクス>サトノアラジン>残りの3頭になります。
古馬になってからのイスラボニータはより筋肉質になり、馬体もマイラーに寄ってきましたが、フットワークの「しなり」は相変わらずうっとりするほどです。
今秋のスプリンターズSを制したレッドファルクスは、1400mベストのしなやかスプリンターで、柔らかみのあるフットワークは6歳という年齢を感じさせません。
サトノアラジンは筋骨量の豊富なディープインパクト産駒で、しなやかな走りは直線の長いコース向きの馬。外からスムーズにスピードに乗らないと直線で伸びきれないのは、瞬時の加速ができないからです。
✳︎サトノクラウンが瞬時の加速を苦手とするのは、しなやかさともう1つ、フットワークの大きさがあります。マイラーとしては胴の長い馬体の造りをしているため、1完歩が大きく、どうしてもスピードに乗るまで時間がかかるのです。
イスラボニータとサトノアラジン、レッドファルクスは距離適性が異なる点に注意
今年のマイルCSで上位の人気に推されるイスラボニータ、サトノアラジン、レッドファルクスの3頭。この馬たちは距離適性がちょっとずつ異なるため、しなやかに「差す」タイプだとしても、得意とするペースが違うのです。
▼3頭の距離適性
イスラボニータ:1800mベストのマイラー
サトノアラジン:1400mベストのマイラー
レッドファルクス:1400ベストのスプリンター
イスラボニータは1400〜2000mまでこなすものの、ベストは1800mのマイラーです。そのため、今春の安田記念のように1分31秒台の決着になると道中の追走で苦しくなってしまいます。
サトノアラジンとレッドファルクスは1400mがベストなので、時計の速い決着になっても道中で脚を削がれるようなことはありません。
今開催の京都は良馬場でも時計のかかるややタフなコンディションですし、週末にかけて雨の予報も出ていることから、1分31秒台にはならない公算が高く、イスラボニータにとって走りやすい条件が整っています。
人気の1頭エアスピネルはピッチ走法
上位人気の1頭エアスピネルは、回転の良いフットワークで走ります。しなやかさよりもパワーの勝ったタイプで、本質的には小回り・内回り向き。
前走、「不良馬場」の富士Sを楽勝したことからも、パワーピッチで走ることがわかります。
✳︎ピッチ走法の馬はストライドを伸ばさない=フォームが沈み込まないため、道悪を苦にしない馬が多い。
エアスピネルは京都の外回りコースがマイナスなものの、時計がかかる+前半のペースが落ち着くことで、びゅんと反応して抜け出せれば好走も……。
馬場がどうなるのかにも注目
エリザベス女王杯は「インコース+前目」を立ち回った馬のワンツー決着だったように、京都の芝は外からしなやかに差す馬にとって「有利」とは言えないコンディションです。
さらに、週末の京都は雨の予報が出ているため、さらに時計がかかることも予想されます。枠順と位置取りが大切になる質のレースになることも考えられ、土曜日の芝レースはチェックが欠かせません。
まとめ
これまでのマイルCSは「しなやかなキレ」をもつ馬に優勢なレースでしたが、今年は微妙なところ……。ややタフな馬場状態がどのように変化するのかによって、好走する馬がガラリと変わることも……。
以上、お読みいただきありがとうございました。