NHKマイルカップ('17年)回顧ーー1:32.3を余力十分に駆け抜ける牝馬

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GWの最終日、心地よい風が吹きわたる東京競馬場では3歳マイル王を決める、NHKマイルカップが行われました。

桜花賞から参戦した牝馬が1、2番人気に支持された混戦模様のレースを制したのは、大外枠から抜群のスタートを切り直線も余力十分に抜け出したアエロリット。2着にも好位から伸びたリエノテソーロが入線し、牝馬のワンツー決着となりました。勝ちタイムは1:32.3。

 

1頭だけ違うレースをしているように……

ミッキーアイルのような抜群の運動神経でロケットスタートを決めたアエロリットは、内の先行勢を見ながら、外目の3、4番手をスムーズに追走。このポジショニングが取れれば、重厚なストライドで末脚を伸ばすアエロリットと横山典騎手にとって、後は仕掛けのタイミングを図るだけという展開になりました。

パトロールビデオを観ると、アエロリットは1頭だけ内ラチから3頭ほど外(見た目にも少し芝が剥げているところを避けて)を走っていて、そのまま内に入ることなく直線も馬場の真ん中を伸びて来ての1着。

坂下から追い出すと内で粘るボンセルヴィーソをじりじりと交わし、外から迫るリエノテソーロに詰め寄られそうになると再度突き放す強い競馬。スピードに乗ってしまえば、どこまでも伸び続けられるという走りで他馬に付け入る隙を与えない完勝でした。

 

観る者を魅了する1分32秒間

語弊を恐れずに言えば、GⅠとは思えないアエロリットのレースぶりにはただ驚くしかありません。

コースロスもお構いなしにラチから離れた馬場の良いところを追走し、馬なりのまま4角を過ぎると坂下で追い出しての完勝。外から追いすがった2着のリエノテソーロも、内で逃げ粘る3着のボンセルヴィーソもアエロリットと横山典騎手にとっては目に入っていないかのようでした。横山典騎手は「馬の気持ちを損ねないように好きに騎乗してOK」と言われれば、天才としか言いようがないレースを作ることができて、ゴールドシップを勝利に導いた'15年の天皇賞の春のような派手さはないものの、今年のNHKマイルカップも観る者を魅了する素晴らしい1分32秒間に。

 

桜花賞からの巻き返しは2年連続

NHKマイルカップは昨年のメジャーエンブレムに続き、桜花賞を敗退した関東所属の牝馬が優勝。ここ2年ともに1分32秒台という速いタイムの決着になり、牝馬がこのレースを勝ち切るにはメジャーエンブレム級のポテンシャルを持っているかどうかが一つのモノサシになるのかもしれません。

また、桜花賞から参戦したカラクレナイとミスエルテはパドックを見ていてもテンションが高く、汗がお腹から滴っているような状態。関西所属の牝馬にとって中3週のGⅠ連戦に加えて長距離輸送ですから、調整も難しかったのだと思います。

 

桜花賞組をバッサリと切り捨てたのは

予想はハナから桜花賞組をバッサリと切り捨てていて、その根拠は関東馬+メジャーエンブレム級の牝馬でないとNHKマイルカップを勝ち負けするのは厳しいというものでしたが、アエロリットがこれほどの怪物だったとは……。

アエロリットのクイーンCはスタート後手から好位に押し上げるロスの多い競馬で、それにもかかわらず、アドマイヤミヤビと接戦に持ち込んだのは高いポテンシャルがあってこそだと分かってはいたものの、桜花賞の直線を重厚なストライドで差してくるフォームはマイラーというよりも中距離馬のスピードの乗りに見えました。

高速馬場の東京マイルを4角でうなりながら先頭に立つ、かつての名マイラー、タイキシャトルを彷彿とさせる競馬を見せられると、アエロリットのマイラーとしての資質を見抜けなかったと、そして、横山典騎手がマイルGⅠを勝つためにはこうやって乗るんだよというお手本の先行策をしたこと、それらを予想できなかったのは反省というか猛省しなければいけませんね……。

 

2着リエノテソーロ

前走、4着のアネモネSの4角手前ですっと先頭に並びかけるスピードの乗りがいかにもスプリンター然としていて、直線の入口から坂の手前までの加速を見てもマイルの距離は長いだろうと思いましたが、今日はボンセルヴィーソの作ったイーブンペースがスプリンターとしてのスピードを活かしたいこの馬にとってはプラスの結果に。

道中はアエロリット、ガンサリュートの後ろにつけて、この流れですからかかるようなそぶりも見せずに折り合い十分の追走。直線で外に出すと、坂を上りながら一気に加速して前を行くアエロリットに迫りますが、最後の1Fで勝ち馬からは突き放されての2着に入線、やはり、この内容を見ると1200〜1400mのスプリンターなのでしょう。

'09年のNHKマイルカップで3着に入った牝馬のグランプリエンゼルも古馬になってからはスプリントにシフトしたように、3歳のこの時期はスプリンターであってもペースによってはマイルをこなすこともできます。リエノテソーロは距離の不安がある中で積極的に直線で仕掛けたことが好走につながりました。スプリンターが東京のマイルをこなすとしたら、坂を上るところで一気にスピードに乗って、残り200mはその惰性で我慢するという競馬をするしかなく、最後、アエロリットに離されたのは致し方なしです。今後はスプリント路線を目指して行くことになるはずで、アイビスサマーダッシュなどのサマースプリントシリーズが適性として合いそうなタイプ。

 

3着ボンセルヴィーソ

昨年の朝日杯FSと着順は同じでも、中弛みのペースメイクではなく自身の上りを35秒台でまとめる逃げを打っての3着ですから、ベストを尽くした上での3着でした。ただ、残り400〜200mの区間でびゅんと弾ける脚を使ったリエノテソーロに差されてしまったのは止むを得ずで、これはレースのレベルが異なるとしても朝日杯でモンドキャンノに差されてしまったのと同じです。上りに限界のあるダイワメジャー産駒にとって、平均的に後ろに脚を使わせるレースを組み立てたとしても、ラスト2F目で急加速の脚を使える馬にはどうしても弱く……。とは言え、勝つための逃げで堂々と3着に入線したのですから、松山騎手の好騎乗だったことは間違いありません。

レースのラップも前後半の800mが46.1 - 46.2ですからかなり理想的なイーブンペースで、これを35.0の上りで自身の走破時計は32.9でまとめていることからも、今回は勝ったアエロリットが強過ぎたという内容でした。

母父サクラローレルの影響かストライドが伸びる走りで、小回りよりも東京や中京などの直線の長いコースでも好走できる逃げ馬。東京のマイルを1:32.9で乗り切ったことからも時計勝負になってもある程度の力は発揮できますが、どうしても上りに限界があるのでやはり高速馬場はマイナスでしょう。気性的な問題はないことからもハナに拘らないとダメというタイプでもないので、控えても競馬ができるのは強味です。これまでの戦績が示しているように、先行すれば大きく崩れることはない馬ですから今後もマイル戦線での活躍が期待できる1頭です。

 

◎ガンサリュート

道中はアエロリットの直後につけスムーズに流れに乗り、直線では外に出して追いますが反応がなくなってずるずると後退し18着と大敗しました。パドックを見ても気配は悪くなかったので、はっきり言えば完全に力負けという内容でした。ここまで芝が高速化すると、京成杯や毎日杯のペースしか経験のないこの馬には厳しい流れでした。フォームや馬体などからは1800mがベストに見えるので、今後の成長に期待したいところです。

 

◯タイムトリップ

ボンセルヴィーソの作ったペースは本質的に1400mに適性があるこの馬にはベストな流れになりました。道中は先行勢の直後につけ、戸崎騎手が4角手前まで手綱を引っ張り切りでの追走。直線で馬群がばらけたところを追い出しますが、じりじりとした伸びで6着での入線。

勝ったアエロリット、2着のリエノテソーロが坂下から仕掛けたことを考えると、400〜200mの区間でびゅんと弾ける脚を使うには少し溜め過ぎたのと、道中の行きっぷりが良過ぎたのが……。ソツのない騎乗で人気よりは上位の着順だったことからも納得の敗戦ではあります。

早くから賞金を加算できた馬で、NZTを叩いて本番というのがはっきりと分かるローテーションでしたから狙いを定めやすい馬でしたが、やはり、アエロリットと較べるとスケールという点でGⅠを勝ち切れるだけのものがあるのかは不安で◯の印に。

2歳の早い時期からレースに使われていますが、血統的に強いクロスをもたない配合なので秋以降の成長にも期待したい1頭です。

 

他の有力馬について

直線で鋭い伸びを見せたレッドアンシェルはボンセルヴィーソを捕らえることができずに4着。アーリントンCから間隔をとっての参戦で14kgの馬体減だったものの、パドックの雰囲気はそれほど細くは映りませんでしたが……レースを詰めて使えないというのは精神的・馬体的にもまだ成長途上なのでしょう。また、ストライドではなくピッチ走法のため、本質的には東京コース向きではなくこの4着はこの馬のポテンシャルを十分に表しています。

1番人気に支持されたカラクレナイは17着と大敗を喫しました。う〜ん、先にも述べましたが、今日はパドックからテンションが高くかなり汗をかいている状態。中3週のGⅠ連戦+初の長距離輸送というところでレースの前に消耗していたことも大敗の原因だと思います。レースでは早々に手応えがなくなっているのを観ても、力を出し切ったとは言い難く……。やはり、牝馬の調整は改めて難しいものなのだと痛感しました。

 

皐月賞組はトラストの8着が最先着順

レースレコードの決着になった皐月賞から参戦した3頭は掲示板に載ることができませんでした。昨年、同じくレースレコードになった皐月賞からここへ向かったロードクエストが2着になりましたが、やはりGⅠで消耗してからの中2週というのは厳しく、それに加えて1:32.3のマイルの高速決着では出番がなかったという結果に。

来年以降も皐月賞→NHKマイルという路線を歩む牡馬はいると思いますが、ロードクエストのようにマイル重賞勝ちの実績をもっている馬であったり、クラリティスカイが勝った'15年のようにスローからの上り勝負にならない限り、好走するのは厳しい……(クラリティスカイはGⅠ朝日杯FSの3着馬だったので、マイルでの重賞実績はありました)。

もちろん、NHKマイルカップ→日本ダービーとぶっこ抜けるようなポテンシャルをもったキングカメハメハやディープスカイのような馬であれば、皐月賞→NHKマイルカップもOK。そもそも皐月賞で好走してしまったら距離に不安があっても日本ダービーを目指すでしょうしね。

皐月賞を負けてNHKマイルカップを目指す馬であれば、少なくともマイルでロードクエスト級の走りを見せていないと馬券にはなりません。

 

まとめ

GWの最終日、どうしても週明けからの仕事のことを考えるとすっきりとした気持ちになれないなかで、アエロリットのNHKマイルカップでの走りは予想が外れたとしても馬券代として十分に価値のある素晴らしいものでした。

アエロリットのもつポテンシャルの高さと、横山典騎手の天才的な騎乗。人馬が一体となったハイパフォーマンスを東京競馬場で観戦できたことで、競馬の面白さや楽しさや素晴らしさを改めて実感できたGWの日曜日でした。

 

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