今年の3歳世代はハーツクライ産駒の当たり年と言われています。
クラシック1冠目の桜花賞2着リスグラシュー、クイーンCを好内容で勝ったアドマイヤミヤビ、共同通信杯を完勝したスワーヴリチャードなど牡牝馬ともにハーツクライ産駒の活躍馬が揃った'17年の3歳クラシック。
5月21日(日)には牝馬クラシックの第2冠、オークス(優駿牝馬)が東京競馬場で行われます。この大一番に出走登録をしているハーツクライ産駒は6頭(内1頭は抽選対象)。今回の記事ではその中でも上位の人気を集めると予想されるリスグラシューとアドマイヤミヤビを取り上げて、東京芝2400mのオークスで好走することができるのかを検討します。
ハーツクライ産駒は2つのタイプに分けられる
ハーツクライ産駒のGⅠ勝利は4つあり、その内クラシック制覇は'14年ヌーヴォレコルトのオークスとワンアンドオンリーのダービー。残りの2勝は天皇賞・秋と安田記念を制したジャスタウェイによるものです。
このことをからも大レースで活躍するハーツクライ産駒は大きく2つのパターンに分けることができます。
1. 3歳時にクラシックで活躍
2. 古馬になって成長して活躍
ヌーヴォレコルトやワンアンドオンリーが登場するまでは、全体的にハーツクライ産駒は晩成的な傾向にあり、少なくとも3歳の秋以降、多くは古馬になってから力を発揮する馬が多くいました。
ジャスタウェイなどが特徴的ですが、馬体に身が入っていない3歳時はスタートでどうしても後手を踏んでしまい、後方からジリジリと追い込んでくるというイメージがハーツクライ産駒「らしい」走りと言えます。
クラシックで活躍するハーツクライ産駒はウインバリアシオンもヌーヴォレコルトもワンアンドオンリーもそれほど馬体に緩さがなく、早目の仕掛けでもしぶとい脚を使えるのが特徴です。
オークスに出走を予定しているリスグラシューとアドマイヤミヤビも好位〜中団で流れに乗れるハーツクライ産駒で、パワーに富んだ走りとフォームからも馬体の緩さを感じさせません。
ハーツクライ産駒は京都の大レースが…
'17年の天皇賞・春はシュヴァルグランが2着に入線し、これで同レースはハーツクライ産駒が4年連続の2着という結果になりました。
京都芝で行われるGⅠレベルの大レースだと詰めの甘さが目立つのがハーツクライ産駒の特徴です。好走したとしても勝ちきれないのはどのような理由があるのでしょうか?
下り坂+直線が平坦
京都の芝は内回りと外回り2種類のコースがありますが、どちらも3コーナーから下りの坂があり、最後の直線は平坦(緩やかな下り坂)というレイアウトです。長く良い脚を使うハーツクライ産駒にとって、ホームストレッチが平坦で瞬発力を要求されるような競馬は苦手です。また、下り坂でスピードに乗るのがあまり得意ではないため、どうしてもGⅠクラスの大きなレースになると、その適性の差が出てしまいます。
秋華賞は京都コースで行われる
牝馬クラシックの3冠目の秋華賞は京都の内回りコースで行われます。この条件はハーツクライ産駒にとってはマイナス。
京都の内回りコースはホームストレッチが短く、平坦、3コーナーから下り坂があるため、直線で長く良い脚を使いたい馬にとっては三重苦のコース設定です。
リスグラシューやアドマイヤミヤビにとっては秋華賞よりも最後の直線が長い東京芝2400mのオークスが適性としては合っているので、陣営としても力の入り方が違うはず……。
リスグラシュー
父:ハーツクライ
母:リリサイド(母父:American Post)
厩舎:矢作芳人(栗東)
阪神芝1800m(外回り)の未勝利戦でレコードを出したように、スピードとパワーに長けた末脚が最大の武器。
アルテミスSは前半スローペースをなだめながらの追走で、直線馬場の真ん中へ持ち出すと坂を駆け上がる時のパワーに溢れるストライドが素晴らしく、後ろから迫る素質馬フローレスマジックを問題にしない走りで快勝。いかにも長い直線で末脚の持続力を活かすハーツクライ産駒らしい勝利でした。
阪神JFは前後半の800mがほぼイーブンのラップで、大外枠のリスグラシューは最後の直線でこの馬らしい伸び脚は見せたものの、最内枠の利を活かしたソウルスターリングを捕まえられずに2着。この日の阪神はインコースを通った馬が有利な馬場状態だったこともあり、致し方なしの敗戦と言えます。
3度目の対決となった桜花賞は、ソウルスターリングをぴったりとマークする形でレースを進め、最後の直線はこの馬らしいパワーを活かしたストライドで伸びてきましたが、先に抜け出していたレーヌミノルを捕まえきれずに2着。
アルテミスSから桜花賞まではすべてマイル戦を歩んだリスグラシューは本質的には中距離馬です。ここまでの好走はこの馬のポテンシャルと外回りや直線の長いコースだったことが最大の要因と言えるので、東京芝2400mのオークスはこの馬にとっては願ってもない舞台。
血統
母のリリサイドはクロスのうるさいマイラーで、その影響が出ているのか姉のプルメリアスターは気性が激しく鞍上がなだめるのに苦労するほど。リスグラシューはその姉に比べると胴が長く気性もそこまでうるさくはないので、2400mという距離は苦にしないはずです。
母父のAmerican Postは仏2000ギニーを勝ったマイラーで、父ハーツクライ×母父マイラーはオークス馬ヌーヴォレコルトなども同じ配合です。むしろクラシックを狙う上では父に足りないスピードとパワーを補う役割をAmerican Postが担っているとも言えます。
オークスに向けて
リスグラシューは明らかにオークス>秋華賞という適性の馬で、母リリサイドのクロスのうるささを考えると古馬になってグングンと成長するイメージはありませんから、ここがGⅠ制覇の大きなチャンス。
見た目は馬体重ほどの小ささは感じませんが、やはり細身の馬ですから、長距離輸送などで大幅に体重を減らすのはマイナスです。また、オークスに向けて仕上げ過ぎてしまうとテンションが高くなって……という危険は血統的には十分にあり得るので、当日の気配には注意が必要。
アドマイヤミヤビ
父:ハーツクライ
母:レディスキッパー(母父:クロフネ)
厩舎:友道康夫(栗東)
アドマイヤミヤビがクラシック候補として注目を集めたレースは、カデナやアウトライアーズといった素質のある牡馬を相手に完勝した百日草特別。2歳の時点で東京芝2000mを牡馬相手に勝つというのはなかなかできることではなく、パワーのあるストライドで長い直線を差し切った内容は見た目以上にインパクトのあるものでした。
3歳の年明け初戦となったクイーンCは後にNHKマイルカップを完勝するアエロリットを下したもので、勝ちタイムの1:33.2とともに価値の高い内容でした。坂を駆け上がるパワーと長く良い脚が使えるところがこの馬の最大の武器で、走るフォームや馬体を見てもマイラーではなく中距離馬。
2番人気に支持された桜花賞ではスタートで後手を踏み、馬場の影響なのか精神的な面によるものなのかは分かりませんが、鞍上のM・デムーロ騎手がいくら促しても反応せずに12着と大敗しました。マイルの桜花賞よりも2400mのオークスでは追走が楽になるので、クイーンCで見せた末脚が使える可能性は高いものの……大敗によるダメージが心配ですね。
血統
母レディスキッパーは曾祖母ウインドインハーヘアー(ディープインパクトの母)にデインヒル→クロフネと名血・名種牡馬がかけられ、血統表の至るところにNorthern Dancerが配されています。ハーツクライの母アイリッシュダンスは父トニービン×母父Lyphard(Northern Dancer直仔)ですから、アドマイヤミヤビはNorthern Dancerの血がぎゅっと詰め込まれ、これが卓越したパワーの源になっているのでしょう。
半兄のグランアルマダ(父:ダイワメジャー)とミッキーシャンティ(父:ダノンシャンティ)が2000m以上の長い距離に適性を見せていることからも、アドマイヤミヤビにとって東京芝2400mの舞台はドンと来い!
オークスに向けて
血統や今までの走りからオークスの舞台はアドマイヤミヤビにとってずんどばな舞台設定です。ひとつ心配なのは桜花賞での大敗。牝馬は身体・精神的なダメージからの回復が長引くことがあり、オークスに向けて厩舎がどのように立て直しを図ってくるのかに注目しましょう。兄のグランアルマダは気難しく好走と凡走の差が激しい馬で、嫌気がさすとまったく競馬にならないのですが、そうした面がアドマイヤミヤビにも共通していなければ……。桜花賞のレースで「走る」ことそのものに前向きになれない状態でなければよいのですが……オークスを予想する上ではそのリスクも頭に入れておかなければ鳴らない要素になりますね。
まとめ
リスグラシュー、アドマイヤミヤビともにこのオークスでこそ、という中距離馬です。先にも述べたように秋華賞はハーツクライ産駒にとっては鬼門ですから、陣営にとってもなおさら「ここが本番」という意識が強く働きます。2頭ともオークスに向けて不安な面はあるものの、それを補って余りある血統的な魅力があるのも事実。
3歳牝馬の「優駿」を決めるオークスが今から楽しみになりますね。
以上、お読みいただきありがとうございました。
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