GⅠ大阪杯(2018年)に有力馬4頭を出走させる池江寿厩舎の戦略は?

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2017年からGⅠに格上げされ、春シーズンの古馬・芝中距離チャンピオンを決めるGⅠ大阪杯(阪神芝2000m)は、キタサンブラックがターフを去った後、中長距離路線の「王者」に君臨する馬が現れるのかを占う重要な1戦です。

今年はジュヴァルグラン、サトノダイヤモンド、アルアイン、ペルシアンナイトのGⅠ馬に加え、前哨戦の金鯱賞を快勝したスワーヴリチャード、3連勝で小倉大賞典を制した4歳馬トリオンフなど豪華なメンバーが揃ってチャンピオンを決定します。

そのなかで、関西の名門・池江泰寿厩舎はアルアイン、サトノダイヤモンド、ペルシアンナイト、サトノノブレスの「4頭」出しを予定。今回の記事では、このトップ・トレーナーがどのような戦略をもって大阪杯に臨むのかを考察します。

 

関西の名門・池江泰寿厩舎

池江泰寿調教師は競馬一家の出身です。父・泰郎氏は3冠馬ディープインパクト、名ステイヤー・メジロマックイーンなどを管理した調教師。父子2代にわたって3冠馬を出すなど、競馬界に多大な貢献を果たしています。

池江泰寿厩舎はサトノダイヤモンドやアルアイン、ペルシアンナイトなどの現役GⅠ馬がおり、その陣容は関西と関東を通じても屈指と言えるでしょう。

また、この厩舎は3歳クラシックに強く(3冠馬オルフェーヴルの例を出すまでもなく)、昨年の皐月賞でワンツーを決めたのも記憶に新しいところです。古馬になってから息長く活躍する馬も多く、今年の金鯱賞で2着と好走したサトノノブレスも気が付けば8歳の高齢馬。

管理馬の質・量ともに「名門」と呼ぶにふさわしい実績を残してきた厩舎と言えますね。

 

大阪杯に出走予定の4頭について

今年の大阪杯は池江寿厩舎の管理馬4頭がスタンバイ。その内の3頭がGⅠ馬とあって、層の厚い陣容となりました。出走予定馬は以下の通りです。

アルアイン 4歳牡馬

サトノダイヤモンド 5歳牡馬

サトノノブレス 8歳牡馬

ペルシアンナイト 4歳牡馬

(50音順)

このなかで上位の人気に推されるのは昨年の皐月賞馬アルアインと一昨年の有馬記念でキタサンブラックを破ったサトノダイヤモンドの2頭。どちらも年明け初戦となった前走で馬券圏内に入線し、ステップラースの走りとしては合格点と言える内容でした。

 

アルアイン 4歳牡馬

昨年の皐月賞を1分57秒8のレースレコードで制し、世代トップレベルに位置する1頭。その後はダービーと菊花賞のクラシック路線を歩んだものの、前者は歴史的なスローペース、後者は未曾有の不良馬場でのレースとなり、この馬の力を発揮することができませんでした。

前走の京都記念はダービー馬レイデオロを破る2着。休み明け初戦としては上々の内容で、大阪杯に向けて楽しみの広がる1戦だったと言えます。

 

大阪杯に向けて

阪神芝内回りコースは皐月賞の行われる中山コースと似たレイアウト。また、現在の阪神芝は速い時計が出ていることから、高速馬場向きのこの馬にはプラスでしょう。

ディープインパクト産駒としては小回りコースを苦にしないパワーがある反面、母系ひRoyal ChargerやNasrullahなどのしなやかなスピード血脈を多く引くため、トップスピードに達するまでに時間がかかります。皐月賞の4コーナーでややもたついたのも、その血の影響によるものでしょう。

京都記念から引き続き川田将雅騎手が手綱を取るのもプラス。この騎手ならビュンと加速できる馬ではないアルアインを積極的に動かし、3コーナー過ぎからのスパート合戦にもち込めます。マルターズアポジーの逃げを活かし、自分のタイミングで動くことができるのかが好走のポイントです。

 

サトノダイヤモンド 5歳牡馬

一昨年の有馬記念ではキタサンブラックを破り、中長距離のチャンピオンとして大きな期待をかけられました。昨秋に挑戦した凱旋門賞を15着と大敗したことで、その後は海外遠征による心身へのダメージが懸念されています。

前走の金鯱賞はこの馬がもっとも輝きを放っていた3歳時の「素軽い」フットワークが影を潜め、海外帰り初戦としてはギリギリの及第点といった走り。まだ体調面での不安を抱えたままの調整となっており、有馬記念を制した走りがどこまで戻っているのかは……。これだけの実績を積み重ねてきた馬だけに、池江寿調教師としても「良い頃の走りを取り戻したい」という気持ちをもっているでしょう。

 

早熟なのか?

サトノダイヤモンドはHalo3×5・4の強いクロスをもち、この器用さとスピードを伝える血の影響が出た「素軽い」走りがセールスポイントです。3歳時は3〜4コーナーを軽やかに捲る脚が圧巻でしたが、古馬になってムキムキの筋肉が付くようになってからは重厚さが目立つようになり、素軽さが失われつつあるのは確かです。早期に素軽いスピードを開花させていることから、その意味では早熟馬なのでしょう。

母マルペンサから伝わるHaloのクロスがダイヤモンドの代でも累進され、古馬になってからもメキメキと力をつけるタイプなのかは「?」が付きます。ただ、早熟であったとしても、それが凱旋門賞以降の不振の走りと繋がるわけではありません。

 

昨秋の海外遠征について

サトノダイヤモンドの今後の走りによっては「凱旋門賞挑戦」の是非が問われることになるでしょう。マカヒキなどもそうですが、凱旋門賞で好走できず、日本の競馬でもハイ・パフォーマンスを出せなくなると、「海外遠征」へ否定的な意見が散見されます。

日本とヨーロッパでは馬場の質やレースのペース、その他の多くの点で「競馬」が異なります。それぞれの「多様性」こそ、競馬の豊かさを象徴しているのですから、日本馬がリスクを背負って凱旋門賞を走ることそのものが素晴らしいことなのです。

「好走できないなら海外遠征するべきではない」のなら、「競馬文化」の異なる国の馬が競う「多様性」や「豊かさ」を感じるチャンスを失うことになります。それはとても悲しいことです。

 

大阪杯に向けて

海外遠征のダメージがどれほど残っているのかはわかりません。今後、サトノダイヤモンドの競走成績が落ちていくことも十分に考えられます。大阪杯を好走できるかは走ってみないことには……。馬券としてはもっとも買い難い1頭と言えるでしょう。

阪神芝2000mの内回りコースは、ムキムキの馬体になっている今のサトノダイヤモンドであれば、むしろプラスの舞台です。素軽さが失われつつあるので、3〜4コーナーで俊敏な反応ができるのかは微妙なところ……。ルメール騎手から戸崎騎手への乗り替わりは、「初騎乗」という点ではマイナス。前走の金鯱賞のように一周をクルッと回ってきてどこまで上位に来れるのか……というレースになりますね。

 

サトノノブレス 8歳牡馬

昨秋はサトノダイヤモンドの帯同馬としてフォワ賞と凱旋門賞へ出走しました。ディープインパクト産駒ながら、上りが12秒台になるような持続戦に強いのが特徴です。ヨーロッパの芝での走りも悪くなく、それだけに日本だと速い時計の決着に不安が残ります。

京都の外回りコースで行われた日経新春杯をルメール騎手のスーパーファインプレーで逃げ切っていますが、小倉大賞典と中日新聞杯、鳴尾記念などの内回りや上りのかかるコースで重賞を制しているように、本質的にはパワータイプです。

前走の金鯱賞を含め、ここまで息の長い活躍を続けており、本当に無事これ名馬の代名詞と言える馬。8歳になっても大きな力の衰えはなく、大阪杯でも上りのかかる展開になるようなら……。阪神の内回りコースは合っている舞台です。

 

ペルシアンナイト 4歳牡馬

3歳の春はクラシック路線を歩み、皐月賞2着→ダービー7着とその高い素質をしっかりと示しました。昨秋からはマイルへ路線を変更すると、M・デムーロ騎手の好騎乗に導かれてGⅠマイルCSを制覇。今年はどのような路線を歩むのかが注目される1頭です。

ハービンジャー産駒としては重厚なストライドで走り、小回りよりも直線の長いコースに向いています。コーナーで俊敏に加速するよりも、直線で弾ける脚を出し切りたいタイプですから、大阪杯では内回りコースがカギになるでしょう。

この馬はスピードとパワーを兼ね備えているので、時計が速くても遅くても対応でるのが強み。ただ、2000mの距離であれば、スタミナのロスが少ない高速馬場がベターです。

 

大阪杯に向けて

前走の中山記念はミルコ騎手が時折見せる「スタート後手」によってポジションが悪くなり、それに加えて「隊列が縦長にもかかわらず緩いペース」になったことから、後半で追い上げたものの5着と敗れました。馬券圏内を外したものの、前哨戦と割り切れば悲観する内容ではありません。

福永騎手への乗り替わりは「テン乗り」という面ではマイナス。ただ、スタートの速さと折り合いの巧さには定評のある騎手ですから、大きな不安はありません。後は池江寿厩舎がこの馬をどこまで仕上げているのかによりますね。

 

池江寿厩舎の戦略は?

実績的に大将格のサトノダイヤモンドは、池江寿調教師としても手探りの調整となっており、「このレースでピークに仕上げる」ような状況ではありません。馬へのアタリが柔らかい戸崎騎手をオーダーしたのも、サトノダイヤモンドへの負担を少なくするための表れでしょう。

前走の金鯱賞のようにサトノダイヤモンドの気持ち任せで走らせ、どこまで伸びて来れるのか……池江寿調教師としては勝つための「スペシャルな作戦」を騎手に指示することはないはずです。

アルアインとペルシアンナイトはいずれも順調にステップレースを消化し、大阪杯に向けての準備はできています。枠順や道中の隊列にもよりますが、この2頭は同世代のスワーヴリチャードをいかに封じ込めるのかを考えてのレースになりそうです。ともに極端に上りの速いレースは不向きですから、3コーナーからしっかりとペースを引き上げられるのかがカギになります。

サトノノブレスは自身も高速馬場での瞬発力勝負では分が悪いので、全体のペースをコントロールする先行策。逃げ馬のマルターズアポジーがダービー卿CTに回るのであれば、どの馬が逃げるのかわからない(ヤマカツライデンが出走するのかにもよります)ので、この馬がペースを作る可能性も十分です。

 

池江寿厩舎の3頭は社台系ファーム生産馬

サトノダイヤモンドとアルアインはノーザンファーム、ペルシアンナイトは追分ファーム生産馬ですから、この3頭はすべて社台系の馬になります。そして、1人気が想定されるスワーヴリチャードもノーザンファーム生産馬……。

日本の競馬を支える社台系ファーム生産馬同士ですから、池江寿厩舎の馬がスワーヴリチャードを徹底マークして競り落とすことは考えにくく……。ただ、レースの流れによっては、インに入るのが好きなミルコ騎手を内に閉じ込めるくらいのことはあるかもしれませんね。

 

まとめ

池江寿厩舎はJRAのGⅠに複数頭を出走させることで有名です。GⅠを勝つには出走することが必要条件。多くの管理馬を目標とするレースに出走させ、しっかりとGⅠを勝ち切る……。う〜ん、本当に素晴らしい厩舎ですね。

大阪杯がどのようなレースになるのか、今から楽しみですね。以上、お読みいただきありがとうございました。