4月1日(日)、阪神芝2000m(内回り)で行われた大阪杯(GⅠ)は、1コーナーで後方に位置していたスワーヴリチャードが、向正面から外をスムーズに捲り上げて早目に先頭に立つと、直線に入っても脚色は衰えずにそのまま1着でゴールを駆け抜けました。2着にペルシアンナイト、3着にアルアインが入線し、上位は「ノーザンファーム&追分ファーム生産馬」+「4歳馬」の独占という結果に。勝ちタイムは1分58秒2(良)。
スワーヴリチャードの本格化
15番枠からのスタート、右回りコースに不安を抱えていたこともあって、スワーヴリチャードはM・デムーロ騎手が乗っているにもかかわらず、グリグリの1人気にはなりませんでした。
レース前に多くのメディアで囁かれた不安をものともしないスワーヴリチャードの走りは、遅咲きのハーツクライ産駒が「本格化」しつつあることを示したと言えるでしょう。
後半1000mが57.1のペース
今年の大阪杯は前後半1000mが61.1 - 57.1(4.0秒の後傾ラップ)となりました。スワーヴリチャードは3コーナー過ぎからほぼ先頭に立っていたため、後ろに位置した馬たちにとっては苦しいペース。
▼残り1000mのラップ
11.8 - 11.2 - 11.1 - 11.4 - 11.6(=57.1)
阪神の芝内回りコースは3コーナーから下り坂(残り4F)となり、この区間で11.2 - 11.1と速いラップを刻んでいますから、外から押し上げようとする馬にはノーチャンスでした。
3コーナーから余力をもって先頭に立っていたスワーヴリチャードが残り800mを11.2 - 11.1 - 11.4 - 11.6で上がるのですから、物理的に後ろの馬が捕らえるのはかなり難しかったレースと言えます。
ハーツクライ産駒は瞬発力よりも持続力
ハーツクライ産駒のGⅠ馬はスワーヴリチャードを含めて6頭います。
ジャスタウェイ
ヌーヴォレコルト
ワンアンドオンリー
シュヴァルグラン
タイムフライヤー
スワーヴリチャード
このなかで瞬時にトップスピードへと加速できる「瞬発力」を武器にする馬は1頭もいません。その代わり、産駒の多くは一定のスピードを長く持続させる走りを得意としています。代表産駒のジャスタウェイが1F11秒台の続く流れとなった2013年の天皇賞・秋をぶっち切ったレースこそ、ハーツクライ産駒「らしさ」をもっとも表していると言えるでしょう。
ハーツクライ産駒が本格化するまでは……
2〜3歳の頃のハーツクライ産駒はおおむねスタートが遅く、どうしても後方から追い込む競馬になってしまい、しなやかにキレるディープインパクト産駒に敗れるシーンがまま見られます。ビュンと弾ける脚が使えないのですから、GⅠを勝ち切るには前で受け(先行)ることができるようにならないといけません。
そのため、ハーツクライ産駒が本格化するのは、スタートが安定して先行できるようになってからです。スワーヴリチャードが前走の金鯱賞で見せたレースこそ、この産駒にドンピシャの勝ちパターンだったと言えます。
先行して押し切る!
晩成のハーツクライ産駒がGⅠを勝つのは、ほぼ先行するようになったときです。昨年のジャパンカップを制したシュヴァルグランも、好位のインから抜け出す競馬でした。
スワーヴリチャードが大阪杯を3コーナー先頭から押し切った走りは、本格化を示すのに十分なもの。まだまだ成長するでしょうし、これからが楽しみな1頭ですね。
ストライドで走る馬の捲るポイント
今年の大阪杯の勝敗を分けたポイントは、紛れもなく「前半が61.1のスロー」+「向正面の区間が12秒台のラップ」になったことです。スタートで後手を踏んで後方へ下がったスワーヴリチャードは、内回りコースを直線だけで追い込んでも届きませんから、どこかで前目へとポジションを上げなければなりません。
M・デムーロ騎手が捲った向正面はコース・ロスを最小限の抑えながらポジションを前へと上げられる区間であり、大きなストライドで走るスワーヴリチャードにとってはここで先頭へと取り付けたことが勝因です。ストライド走法の馬がコーナーで捲るのは、遠心力の関係でよりコースをロスしてしまうのです。
これほどのスローになった理由は?
それでは、これほどのスローになった理由はどうしてでしょうか?
今年のレースで「武豊騎手ならペースを引き上げた」などという意見も散見されるものの、昨年の大阪杯は逃げたマルターズアポジーから大きく離された2番手を追走したキタサンブラックは3秒近くのスローバランスで走っていますから、GⅠレースにおいて厳しいラップに持ちこむ騎手などほぼいません。
勝つためにできるだけ直線まで余力を残そうとするのは騎手の心理ですから、「自分以外の誰かが動いてくれ!」と願うのがごく自然なことです。GⅠレースにおいてお互いに牽制してスローになることは、どんな騎手が乗っていても起こり得ると言えます。
例えば、2015年の天皇賞・秋、逃げ馬のエイシンヒカリに乗った武豊騎手はクラレントにハナを叩かれると、前半1000m60.6のスローのペースを引き上げることなく2番手を追走して敗れました。競馬のレースは得てしてこのようなことが起こり、「◯◯騎手だからペースを引き上げる」などは幻想に過ぎないのです。
阪神芝2000mはペースが上がらない
ヤマカツライデンは前走の阪神大賞典を締まったペースで逃げましたが、アレはスタートしてからすぐに3コーナーの下り坂があるから。それに対して大阪杯はスタートしてから2コーナーまでに逃げ馬がスピードを上げるポイントなどありませんから、そもそもペースが緩むことの多い舞台です。
ヤマカツライデンは「好走するため」に逃げたので、あのペースも致し方なしでしょう。そして、先にも述べたように、2番手のダンビュライトが3コーナーまでにペースを引き上げなかったのも、ごくごく自然だと思います。
ダンビュライトの走り
レコード決着となった皐月賞3着のダンビュライトは前半を速いペースで走っても後半でジリジリと脚を使えるタイプです。ただ、コースやメンバーの異なる今年の大阪杯を、皐月賞と同じようなレースラップで走ったときに「好走できるのか」は誰にもわかりません。
「ペースを引き上げておけばスワーヴリチャードに捲られることはなかった」というのは、スワーヴの勝ち負けにかかることであって、ダンビュライトの好走とはまた別の話です。レースはそもそも出走した16頭で作るものですしね。
8人気6着のダンビュライトの騎乗が批判されるなら、2015年の天皇賞・秋のエイシンヒカリと武豊はもっと批判されてしかるべきだと言われても仕方がないのでは……。
ノーザンファーム+追分ファームの上位独占
予想記事や展望でも書いたように、短距離とダートを除くGⅠでは「社台系ファーム」の強さが際立ちます。
今年の大阪杯はノーザンファーム生産のスワーヴリチャードとアルアインが1着と3着、追分ファーム生産のペルシアンナイトが2着と、社台系ファーム生産馬がワンツースリーを決めました。
ノーザンファームからは7頭がこのレースに出走しており、ここから高い確率で1着馬が出ると予想できます。社台系ファームの強さについては大阪杯の予想記事に詳しく書きましたので、よければそちらをご覧下さい。
2〜5着馬について
2着のペルシアンナイトは福永騎手らしいソツのないレース運びで、直線に向いたスワーヴリチャードが後続を突き放したところを見計らっての差し込み。1800m前後の距離であればOKとあって、今後の選択肢の広がる1戦だったと言えるでしょう。
3着のアルアインはミッキークイーンと似た「仕掛けどころで俊敏に反応できない」タイプとあって、これだけスローだと4コーナーをモタモタと走ってしまうのが難点……。パドックの馬体も素晴らしく、いよいよ阪神1800mマスターへ成長してきたな、という印象です。
4着のヤマカツエースは内を立ち回って伸びてのもので、スローペースだった昨年とほぼ同じような内容。力は出し切っていますから、前走を叩いて順当に良化していました。
5着のミッキースワローはスタート後手から後方での競馬となったため、どう乗っても難しかった……。終始外を回してのこの着順ですから立派です。ただ、レース当日は474kgとデビュー以来最低の馬体重となっており、これ以上の成長があるのかは「?」がつきますね。
名繁殖牝馬のピラミマ
スワーヴリチャードの母ピラミマはバンドワゴン、エマノン、カレンオプシスなど「大きなストライドで走る先行馬」を産んでいる名繁殖牝馬。
その父Unbridled's Songは北米を代表する名血・名種牡馬で、ドバイワールドカップを圧勝したArrogateなどを出しています。日本では母父(BMS)として優秀な成績を上げ、JRAのGⅠを制したのは3頭となりました。
・ダノンプラチナ(父ディープインパクト)
→朝日杯FS
・トーホウジャッカル (父スペシャルウィーク)
→菊花賞
・スワーヴリチャード(父ハーツクライ)
→大阪杯
サンデーサイレンス直仔の種牡馬と相性が良く、母系に入ってより力を発揮します。日本に輸入されて種牡馬生活を送っていた(現在はアメリカへ帰国)エンパイアメーカーはUnbridled's Songと同じUnbridled直仔とあって、これも母系に入ってからが楽しみな種牡馬です。
まとめ
競馬は人と馬が行う競技ですから、予想もできないないことが起こり得ます。スワーヴリチャードから馬券を買っていた人は「願ってもない捲り頃でシメシメ……」と思ったでしょうし、買っていなかった人は「どうしてこんなスローにするの?」と肩を落としたことでしょう。
すべての人が納得するレースというのはほんの少しで、それこそ「競馬」なのだと言えます。そして、またレースは休むことなく続いていく……。
来週からはいよいよ3歳クラシックの幕開けとなる桜花賞。今度はどんなレースを観ることができるのか、今から楽しみが広がります。
以上、お読みいただきありがとうございました。