芝中距離の「女王」を決めるエリザベス女王杯(GⅠ・京都芝2200m)は、今年の秋華賞で1〜3着に入線したディアドラ、リスグラシュー、モズカッチャンの3歳馬が、強豪の揃う古馬と対戦します。
「ハイレベル」と呼ばれた今年の3歳牝馬が、ヴィブロス、スマートレイアー、ミッキークイーン、ルージュバックといった古馬を相手に好走することはできるのでしょうか?
今回の記事では、エリザベス女王杯に出走する3歳馬の3頭について解説します。
3歳牝馬はハイレベル?
今年の3歳牝馬は、春のクラシックが始まる前から、ソウルスターリングやアドマイヤミヤビ、リスグラシュー、アエロリット、ファンディーナなどの素質馬が次々と登場し、「ハイレベル世代」と呼ばれました。
3歳牝馬は古馬混合重賞を2勝
11月5日(日)終了時点で、3歳牝馬は古馬混合の重賞を2勝しています。
ジューヌエコール:函館スプリントS
アエロリット:クイーンS
アエロリットの勝ったクイーンSは、アドマイヤリード、クロコスミア、トーセンビクトリー、マキシマムドパリなど重賞勝ちのある古馬が揃っていたレース。
このレースの結果を見れば、3歳牝馬のトップレベルであれば古馬と互角に戦えることがわかります。
3歳馬の3頭を1頭ずつチェック!
それでは、3歳馬の3頭ディアドラ、リスグラシュー、モズカッチャンを1頭ずつ見ていきましょう!
ディアドラ 3歳牝馬
父:ハービンジャー
母:ライツェント(母父:スペシャルウィーク)
厩舎:橋田満(栗東)
生産:ノーザンファーム
牝馬3冠のすべてに出走し、桜花賞6着→オークス4着→秋華賞1着と春からメキメキ力をつけ、ハービンジャー産駒として初のGⅠ制覇を飾りました。
ハービンジャー産駒としては上品かつパワフルな馬体をもち、秋華賞出走時の490kgはデビューから比べると40kg近く馬体重を増やしています。
2017年はすでに8走をしており、心身ともに目に見えない疲れが心配されますが、これだけタフに走り続けている馬なので、もう1走は辛抱できるのでは……と期待をかけたい1頭。
秋華賞の展望と回顧については以下の記事をご覧下さい。
血統
母ライツェントはスペシャルウィーク×Machiavellian×Nureyevと母系に入って優秀な種牡馬が代々配された好繁殖牝馬。祖母のソニンクはランフォルセやノーザンリバーなどのダート重賞馬を出し、産駒にはスピードとパワー、そして前向きな気性を伝える名繁殖牝馬です。
ディアドラは母のもつHalo3×4の機動力とNureyevのスピード&パワーが表に出ており、小回りコースではコーナーを俊敏に立ち回り、直線の長いコースでは重厚にキレるという欠点の少ない馬として完成しつつあります。
エリザベス女王杯に向けて
主戦の岩田騎手へと手がもどり、鞍上に不安はありません。ここ2戦は外枠のスタートということもあって、後方からの競馬となりましたが、本来はどのポジションでもレースを組み立てられる馬。春先あたりから揉まれ弱さが解消され、インをそつなく回ることもできます。
機動力に優れた馬なので、本質的には内回り>外回りの適性ですが、重厚なストライド走法なら直線の長い京都芝2200mも苦にはしないでしょう。
不安点は体調面。ここまでかなりタフなローテーションとなっており、さらなる上積みがあるのかどうかは心配ですね。とは言え、目に見えない疲れは誰にもわかりません(✳︎)から、気にしても仕方はありません。
✳︎今年の宝塚記念で9着に敗れたキタサンブラックは、目に見えない疲れがあったと言われています。武豊騎手にしても敗退に首をひねっていたくらいですから、走ってみないとわからない部分でもあるのです。
リスグラシュー 3歳牝馬
父:ハーツクライ
母:リリサイド(母父:American Post)
厩舎:矢作芳人(栗東)
生産:ノーザンファーム
ディアドラと同じく、牝馬3冠をすべて走りきりました。阪神JF、桜花賞、秋華賞といずれも2着……GⅠ制覇まであと一歩が詰め切れていません。
小柄な牝馬ながら、重厚なストライドで走り、直線の長いコースに向くタイプです。上りが速くなると鋭さ負けしてしまう持続力型なので、上り3F34.5秒ソコソコのレースになると強さを発揮できます。
血統
母リリサイドはMill Reef5×3、Lyphard4×3などのクロスがうるさく、ハーツクライ産駒としては完成が早めです。半姉プルメリアスター(父ゼンノロブロイ)は気性のコントロールが難しいスピード馬ですが、リスグラシューは気性的なコントロールが効くので、中距離馬に出ました。
母系に引くMill Reefのクロスが表に出た重厚なストライドで走るため、外回り>内回りの適性。上りがかかるなら、直線が平坦の京都でも好走できるでしょう。
エリザベス女王杯に向けて
リスグラシューにとって、内回りの秋華賞よりも外回りのエリザベス女王杯はパフォーマンスを上げられる舞台。ペースの対応幅も広く、GⅠ制覇へチャンスは広がりますが……。
不安点は3つあり、1つずつ解説していきます。
1. 福永騎手がテン乗り
武豊騎手から福永騎手への乗り替わりは、「テン乗り」という部分では不安があります。乗り難しい馬ではないものの、他の有力馬がテン乗りではない分だけマイナスです。
2. 馬体重の維持
ローズSは細っそりとしたギリギリの馬体。秋華賞は+2kgでの出走となったものの、エリザベス女王杯で馬体を減らすようならマイナス。
3. ハーツクライ産駒は京都のGⅠ未勝利
ハーツクライ産駒はヌーヴォレコルトが秋華賞2着、エリザベス女王杯を2年連続で2着、さらには天皇賞・春も4年連続で2着と好走しています。ただ、それでも勝ち切れていません。3コーナーから下り坂になり、直線が平坦の京都だとどうしても切れ負けしてしまいます。
1〜3の不安点を克服できるのなら、ここでもチャンスは十分です。
モズカッチャン 3歳牝馬
父:ハービンジャー
母:サイトディーラー(母父:キングカメハメハ)
厩舎:鮫島一歩(栗東)
生産:目黒牧場
オークスでソウルスターリングの2着。今秋はローズSを凡走したものの、秋華賞ではきっちりと巻き返して3着と好走。その秋華賞は、4コーナーから素晴らしい捲り脚を見せ、「あわや!」のシーンを作りました。
馬群を嫌がらずにインをそつなく回れる器用さと、ハービンジャー産駒としてはスローの上り勝負にも対応できるのが長所です。
血統
ディアドラと同じハービンジャー産駒で、母系にNureyevを引くのも共通しています。そのため、直線の長いコースに向いたストライドで走ります。
母サイトディーラーがMr. Prospectorのクロスをもち、このしなやかさがスローペースでも体力をロスすることなく走れる源でしょう。自身はDanzig4×5のクロスとなり、ディアドラよりも馬体の完成は早目です。
全体としてはスピードとパワーの勝ったタイプで、前走から距離が200m延びるエリザベス女王杯はプラスにはなりません。
エリザベス女王杯に向けて
前走の秋華賞は4コーナーから素晴らしい捲りを見せたように、ストライドロスなく走れるコースが向いています。
スローペースであればMr. Prospectorの器用さでロスなく走り、ペースが流れれば末脚で差せるタイプ。外回りコースに替わるのはプラスで、距離延長に対応できるのならここでも有力です。
ペースへの対応幅が高い馬で、それは他馬に較べて完成度が高いからでしょう。ただ、理想はスローからの4F戦がベター。そういう意味では、ペースが緩みがちなエリザベス女王杯はチャンスがあります。
まとめ
古馬との力関係は走ってみないことにはわかりません。ただ少なくとも「3歳馬だからノーチャンス」という世代レベルではないことは確かです。
この3頭がヴィブロス、スマートレイアー、ミッキークイーンなどの古馬を破ることができるのか、今からレースが楽しみですね。
以上、お読みいただきありがとうございました。