エリザベス女王杯(2017年)はイン+前目に付けたモズカッチャンが抜け出して1着ーー回顧

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2017年のエリザベス女王杯(GⅠ・京都芝2200)は、好位のインをスムーズに進めたモズカッチャンがM・デムーロ騎手のアクションに応え、直線で先に抜け出したクロコスミアを交わして1着。2着にクロコスミア、3着に外から差し込んだミッキークイーンが入線しました。

昨年のエリザベス女王杯のリプレイを観ているようなワンツースリーとなり、京都の外回りコースでインコース+前目のポジションが有利のレースだと、ミルコ騎手は抜群の強さを発揮しますね。

 

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参照:jraofficial - YouTube

 

時計はかかるけれどイン+前有利の京都芝

近年のJRAの芝レースは、開催が進むにつれて「インコース」+「前目のポジション」+「速い時計」になることが多く、雨が降った後にその傾向が顕著に……。

秋の京都開催は雨が続き、不良まで悪化した馬場でのレースとなりました。その影響によって、エリザベス女王杯の週もやや時計がかかるタフな馬場。

現在の京都芝は、インが「伸びる」というより、外が「伸びにくい」コンディションのため、4コーナーから直線入り口のポジションがそのままゴールまで続く結果に。

 

エリザベス女王杯も「イン+前」の決着に

今年のエリザベス女王杯は、直線入口で2〜4番手を走っていた馬たちが、そのまま1、2、4着ですから、いかにスムーズに前目のポジションを取れるかの勝負となりました。

 

ハービンジャー産駒のGⅠ馬2頭はともにNureyevを母系に引く

ハービンジャー産駒の2頭のGⅠ馬ディアドラとモズカッチャンは母系にNureyevの血を引いています。

✳︎今年のアーリントンCを勝ち、皐月賞2着のペルシアンナイトも母系にNureyevを引きます。

ディアドラは母母母父に、モズカッチャンは母父父母父にNureyevを引き、いずれもストライドが伸びる馬です。欧州血統の父を日本の芝向きにカスタマイズするには、Nureyevの母である名牝Specialのしなやかさが「ミソ」になっています。

Nureyevのパワーではなくスピードを取り入れることで、ハービンジャー産駒は日本向きのストライドを手に入れることができたと言えます。

 

エリザベス女王杯の1〜3着馬について

1〜3着馬の騎手は、パートーナーの能力を信じてそれぞれの得意とする「走り」を引き出しました。モズカッチャンもクロコスミアもミッキークイーンも「ストライド」で走る馬ですから、直線の長い外回りコースを味方につけ、ゴール前まで素晴らしい叩き合い……。それでは、1〜3着馬についてふり返ってみましょう。

 

モズカッチャン 3歳牝馬

父:ハービンジャー

母:サイトディーラー(母父:キングカメハメハ)

厩舎:鮫島一歩(栗東)

生産:目黒牧場

好位のインでスムーズにレースの流れに乗れるのがこの馬の最大の長所で、スローから上り4Fの勝負になればまず凡走のないタイプです。

秋華賞は好位のインにスッと付け、直線でしっかりと先に抜け出したクロコスミアを捕えました。

 

Mr. ProspectorとSecretariatのしなやかさ

モズカッチャンの母サイトディーラーは北米を代表する種牡馬Mr. Prospector3×4とSecretariat5×5のクロスをもちます。このしなやかなスピードに長けた血は、道中でロスなく走る能力を産駒に伝え、モズカッチャンにもそれが現れているのです。

先週のアルゼンチン共和国杯を快勝したスワーヴリチャードも、ロスなく好位のインを走っていましたが、これは母系にMr. Prospector、Caro、Seattle Slewなどのしなやかな血が入るからでしょう。

ただ、「しなやか」過ぎるとミッキークイーンのようにスピードに乗るまで時間がかかってしまいますが、モズカッチャンはDanzig4×5のクロスによってパワーを補っている分だけ、ほんの少しだけ俊敏に反応できるのです。

 

ペースを支配したのは和田騎手、レースを支配したのはM・デムーロ騎手

クロコスミアを2着に粘らせたように、ペースを上手く支配したのは和田騎手でしたが、レース全体を支配したのはM・デムーロ騎手だったと言えます。

3コーナーまでの緩いペースは誰しも(競馬ファンも騎手も)が想定していたでしょうから、勝負は3コーナーから。もし、下り坂で誰かが動いたとしても対応できるように、この一流騎手は前とのスペースを空けました。

結果として誰も動かず、4コーナーから仕掛けたミルコは、強敵のミッキークイーン、ヴィブロス、スマートレイアーの追撃をふり切り、クロコスミアを捕まえれば1着という状況を作ったのです。

 

今後に向けて

馬体や走りから中距離馬なので、来春のヴィクトリアマイルを目標にするのは「?」がつきます。また、ハービンジャー産駒は古馬になってからグングンと成長するタイプが出ていないので、モズカッチャンはその「壁」を超えられるのかに期待したいところです。

*同じハービンジャー産駒でも、ディアドラと較べるとモズカッチャンはクロスがうるさいので、その分だけ馬体の完成は早めです。来年はどれだけ現状の力を維持できるのかの勝負になります。

来年は牡馬混合の中距離路線を歩むのか、それとも牝馬のマイル路線へ向かうのか、今後のローテーションには注目ですね。

 

クロコスミア 4歳牝馬

父:ステイゴールド

母:デヴェロッペ(母父:ボストンハーバー)

厩舎:西浦勝一(栗東)

生産:小島牧場

昨年のローズS(GⅡ・阪神芝1800m)2着、今年の府中牝馬S(GⅢ・東京芝1800m)1着と、クロコスミアが重賞で連対したのはいずれも直線の長いコースです。先行脚質なので小回りでも好走しているものの、本質は今走や前走のようにストライドを伸ばせるコースでこその馬です。

今走は最内枠のクイーンズミラーグロを先に行かせて、2番手でレースの流れに乗ると、スローにペースをコントロール。下り坂から少しずつスピードを上げ、直線では「あわや!」のシーンを演出しました。

 

血統

3代母のアルヴォラは凱旋門賞馬Sea the StarsやGolden Hornを出した名種牡馬Cape Crossの半姉。クロコスミアはそこにボストンハーバー×ステイゴールドがかけられ、血統構成の近いノーザンテーストとVice Regentを通じてNorthern Dancerのクロスが発生しています。このクロスがクロコスミアのパワーの源です。スタミナも豊富な中距離馬なので、1800m以上の距離がベスト。ステイゴールド産駒としてはストライドも伸びるので、直線の長いコースに向いています。

母系にBlushing GroomやSeattle Slewといったしなやかな血を引くため、父ステイゴールドのゴールデンサッシュと相まって、この馬は京都の下り坂をスムーズに走れるのが特徴です。

 

今後に向けて

馬場や枠順に恵まれ、展開が向いたからとは言え、GⅠでの2着はこの馬の能力の高さを示しました。ただ、マイラーではないので、来春のヴィクトリアマイルを目指すようだと「?」が付きます。

京都の外回りコースであれば、フーラブライドやメイショウベルーガのように牡馬相手でも、と思える馬ですから、来年の活躍が楽しみですね。

 

ミッキークイーン 5歳牝馬

父:ディープインパクト

母:ミュージカルウェイ(母父:Gold Away)

厩舎:池江泰寿(栗東)

生産:ノーザンファーム

直線外から1頭だけ伸びてきて、2着争いに加わったのは……もう、「素晴らしい」という言葉の他にありません。今年の上り3Fは11.6 - 11.2 - 11.6をマーク。去年よりもやや時計がかかったため、ここまで差し込むことができました。

ミッキークイーンはBlushing GroomやMr. Prospectorが母系に入り、とてもしなやかに脚を伸ばすことができます。ただ、びゅんと反応するためのパワーが少しだけ足りなかった……。

それにしても、どのコース、どの展開でも大きく崩れないのはこの馬の能力の証です。うっとりするほどに美しいストライドで走り、直線の長いコースがベスト。1度、体調が万全の彼女の走りを観たいものです。

 

今後に向けて

引退までとにかく無事に走り切って欲しいですね。脚元の弱さがつきまとい、なかなか万全の状態でレースに出走することが少ないものの、能力は牝馬同士だと飛び抜けています。

牡馬相手のGⅠでも好走できるため、次走はどのレースに向かうのかに注目です。ストライドを伸ばす馬なので、有馬記念で好走するためには騎乗方法を工夫するしかありません。

✳︎昨年の有馬記念のようにインから抜けようとすると伸びないですし、ストライドロスなく乗るにはコースロスを度外視で外をぶん回すしか方法がなく……。

 

上位人気の馬たちについて

1人気のヴィブロスは5着、2人気のルージュバックは9着と敗れました。その他の馬についても簡単にふり返ります。

 

ヴィブロスとルージュバックについて

ヴィブロスは好スタートから先行態勢に入ったものの、道中は力んだ走り。3コーナー手前では口を割るシーンも見られ、レースのペースを考えると体力を大きくロスすることに。

この馬はHalo3×4・5のクロスをもつので、コーナーを加速しながら回れます。今走は道中でかかったことと3〜4コーナーでスペースを作れなかったことから、コーナーで仕掛けることができないまま直線に向きました。

スロー向きの馬といっても、今日の馬場だと4コーナーからスピードに乗せたかったはずで、ジリジリとなだれ込んでの5着。1800mがベストの馬ですから、外枠スタートが結果に大きく響きました。

ルージュバックは右回りのコーナーをスムーズに回れましたが、やはり伸びてきたのは大外に出してから……2走続けてのイン突きは難しかったですね。

今日の馬場だと3コーナーの位置取りではノーチャンスだったので、致し方なし。5歳になってレースぶりに器用さが出てきていますし、引退までの残りのレースが楽しみになりました。

 

ディアドラとスマートレイアー

4人気のディアドラはスタートして後方へ下げ、3コーナーでは後ろから2番手の位置取り。ルージュバックと同じで、この位置だとノーチャンス。

この馬はヴィブロスと配合のアウトラインが似ているので、コーナーの加速で勝負するタイプですから、外回りの京都のスローペースを後方からどうこうする馬ではありません。今走でのダメージは少なく、次走を楽しみに待ちましょう。

スマートレイアーは好スタートからヴィブロスの後ろに付けて流れになったものの、3〜4コーナーでスピードを上げられず、直線だけの競馬になってしまいました。

この馬はストライド走法ですから、直線入口では俊敏に加速できるクイーズリングやトーセンビクトリーに出し抜かれ、直線残り200mから伸び返す形に。この展開だと、もう少し下り坂で勢いをつけられれば……というところでしょう。

 

エリザベス女王杯はスローになりやすいけれど……

今年のエリザベス女王杯の予想は◎ミッキークイーン、◯リスグラシューと持続戦になることを期待しましたが、今年もスロー。スノーフェアリーが連覇を達成した2011年のような上りのかかる持続戦になることもあるわけですから、いつかは……。

 

まとめ

3コーナーから動きがなく、リスグラシューが差すのは難しい展開になりましたから、後はもうミッキークイーンだけをずっと観ていました。

浜中騎手は「コースロス」をできるかぎり少なくする騎乗をし、4コーナーは大きく外に膨れることのないコーナリングは100点満点。

ただ、コーナーを速く回るために、ストライドはロスしています。「外ラチに向かって追え」(✳︎)ではないですが、ミッキークイーンはしなやかすぎるので、4コーナーを「直線的」に回るところを観たかったですね。

✳︎2001年、アグネスデジタルを天皇賞・秋に出走させた白井寿昭元調教師が、鞍上の四位騎手にパドックで話したとされる名言。

ミッキークイーンの美しいストライドを観ていると、そんな言葉を思い出します。