エリザベス女王杯(GⅠ・京都芝2200m)に出走予定の4歳馬リスグラシューは、これまでに阪神JF、桜花賞、秋華賞、ヴィクトリアマイルを2着と好走しているものの、後1歩のところでGⅠに手が届いていません。
昨年のエリザベス女王杯は「Bコース替わり+スローペース」によって、「前々+インコース」のポジションを取らないとノーチャンスのレース。スタートで後手を踏んだリスグラシューにとって、上り3F11.6 - 11.2 - 11.6のラップを後方から追い込むのはムリでした。
近年のエリザベス女王杯は3F戦になる?
京都芝2200m外回りは3コーナーの下り坂からペースアップすることが多いコース。ただ、近年のエリザベス女王杯は道中のペースが上がらず、上り3Fの速いレースがまま見受けられます。
▼エリザベス女王杯の上り3F
・2017年
上り3F:11.6 - 11.2 - 11.6
1着:モズカッチャン(4)
2着:クロコスミア(2)
3着:ミッキークイーン(11)
-----
・2016年
上り3F:11.5 - 11.2 - 11.4
1着:クイーンズリング(7)
2着:シングウィズジョイ(3)
3着:ミッキークイーン(5)
-----
・2015年(稍重)
上り3F:12.0 - 12.6 - 11.7
1着:マリアライト(6)
2着:ヌーヴォレコルト(12)
3着:タッチングスピーチ(12)
-----
・2014年
上り3F:11.5 - 11.3 - 11.3
1着:ラキシス(7)
2着:ヌーヴォレコルト(3)
3着:ディデラマドレ(12)
-----
・2013年(重)
上り3F:11.7 - 11.6 - 11.2
1着:メイショウマンボ(7)
2着:ラキシス(2)
3着:アロマティコ(9)
✳︎()内は4コーナー順位
雨の影響でタフな馬場だった2015年こそ持続戦となりましたが、近年は上り3Fの速いレースばかりです。また、好位からレースを進めた馬が好走しており、4コーナーで2桁番手の馬は苦しんでいることがわかります。
牝馬らしい「キレ」味の勝負になるからか、エリザベス女王杯はスローペースになるのがデフォルト。淀の下り坂からペースが上がっての持続戦になることはほぼありません。
今年の菊花賞「でさえ」上り3F12.2 - 10.7 - 11.2なのですから、タフな馬場にでもならないかぎり、もてるスタミナを削るような持続戦は期待できないのでしょう。
リスグラシューが好走する上り3Fは?
リスグラシューはハーツクライ産駒らしい(トニービン的な)重厚なストライドが最大の特徴で、しなやかにキレるディープインパクト産駒と異なり、1F11.5前後の脚を持続するのに長けています。
そのため、リスグラシューはレースの上り3Fと好凡走が直結するタイプです。この馬がこれまでに走ったGⅠでのレース上り3Fをチェックしてみましょう。
・2016年
阪神JF:2着
レース上り3F:11.5 - 11.5 - 12.2
2017年
桜花賞:2着
レース上り3F:11.5 - 11.9 - 12.8
-----
オークス:5着
レース上り3F:11.3 - 11.2 - 11.6
-----
秋華賞:2着
レース上り3F:12.5 - 12.1 - 12.4
-----
エリザベス女王杯:8着
レース上り3F:11.6 - 11.2 - 11.6
2018年
ヴィクトリアマイル:2着
レース上り3F:11.1 - 11.2 - 11.7
ヴィクトリアマイルを除くと、上り3Fを1F11秒台のラップでまとめられると馬券外になり、ラスト1F12秒台だとしっかりと差し込んできていることがわかります。
ヴィクトリアマイルは「高速馬場+1600m」とあって、上りの速い決着でも2着と好走しています。ただ、上り3Fはゴールまで失速するラップとなっており、この点が重厚なストライドで走るリスグラシューにとってプラスに働きました。
ラスト1F12秒台なら好走できる
リスグラシューはトニービンとMill Reefから持続的な末脚を受け継いでおり、ディープインパクト産駒のようなバキューンと弾ける脚は使えません。レースのラスト1Fが12秒台になるような持続戦であれば、パワフルなストライドで好走できるでしょう。
✳︎ヴィクトリアマイルから、上り3Fを1F11秒台でまとめたとしても、ゴールに向けて失速するラップであれば好走する可能性はあります。ただ、エリザベス女王杯は中距離のレースとあって、「11.5 - 11.7 - 11.9」あたりのラップならリスグラシューが差し込む可能性も十分です。
ハーツクライ産駒は京都のGⅠだと2着まで
リスグラシューがGⅠを勝つために乗り越えなければならないことは、上り3Fのラップだけではありません。そう、「ハーツクライ産駒は京都のGⅠだと2着まで」という大きな壁です。
京都の芝コースで行われるGⅠは天皇賞・春、秋華賞、菊花賞、エリザベス女王杯、マイルCSの5レース。この内、スタミナに優れたハーツクライ産駒は天皇賞・春を5年続けて2着好走しているものの、勝ち切ることができていません。
エリザベス女王杯においても、ヌーヴォレコルトが2年続けて2着。あと1歩のところでGⅠを逃しています。では、なぜハーツクライ産駒は京都コースのGⅠを勝てないのでしょうか?
トニービンの血は上り坂に向いている
今年の天皇賞・秋の回顧記事でも書いたように、トニービンの血はスタミナと持続的なストライドを子孫に伝えます。天皇賞・秋を制したジャスタウェイ、トーセンジョーダン、カンパニーなどトニービンの血をもつ馬たちは、直線の坂をパワフルに駆け上がりました。
ハーツクライはトニービンに由来するスタミナやパワフルなストライドを産駒に伝えるため、上り坂を得意とします。京都の外回りコースは3コーナーの「淀の下り坂」をスムーズに下ることが求められるため、トニービンの坂を上る力が必要ありません(✳︎)。
✳︎トニービンをもつビートブラックが2012年の天皇賞・春を大逃げで制していますが、これは3コーナー手前の上り坂からスパートしたもの。スタミナに優れ、上り坂を得意とするトニービンやRobertoの血をもつ馬は、下り坂ではなく上り坂で勝負をしないと京都のGⅠを勝てないのです。
リスグラシューは上り坂を活かすのがベター
リスグラシューがハーツクライの血を活かしてエリザベス女王杯を勝つためには、3コーナー手前の上り坂で2・3番手に取り付き、そこからペースアップして持続戦にもち込まなければなりません。イメージとしては、サトノクラウンの勝った昨年の宝塚記念のレースができれば……。
今年のエリザベス女王杯はプリメラアスールくらいしか逃げ馬がいないため、スローペースが濃厚なメンバー。過去5年と似たような緩い流れだとリスグラシューが好走する可能性は低くなります。後は、鞍上のモレイラ騎手がスローを見越して向正面で前へ押し上げていけるのか……ここがポイントになりますね。
まとめ
リスグラシューは1800mベストの中距離馬ながら、牡馬相手のマイル重賞を制し、高速馬場のマイルGⅠでも2着と好走しています。それだけに、もてる競争能力の高さは折り紙付きです。
ただ、上り3Fの勝負になることの多いエリザベス女王杯は、この馬のもてる能力をフルに発揮しにくい舞台。GⅠを勝てる力のある馬だけに、持続戦になりさえすれば好走のチャンスも十分にあります。
今年のエリザベス女王杯は例年通りに上り3Fの勝負になるのか、それともマリアライトの制した2015年のような持続戦になるのか、そこがリスグラシューが好走できるかの大きな分かれ目です。
以上、お読みいただきありがとうございました。