ルージュバックはGⅠ勝利に向けてのラストシーズンでどのような走りをするのか?ーーGⅡオールカマー展望

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ダイワスカーレットやウォッカのようにパワフルなストライドで直線を伸びてくるというより、「音もなく」スイスイとスピードに乗って外から「あっ!」と言う間に差し切ってしまうルージュバック(5歳牝馬 大竹正博厩舎)の走りは、「おおっ!」と身を乗り出してしまうほどのインパクトと美しさがあります。

「ルージュバックのベストパフォーマンスはどのレースか?」と聞かれれば、パッと思いつくのは上り32.8秒の鋭さで牡馬を一蹴した2016年のGⅢエプソムカップ。大外枠から外目を追走したルージュバックは、1頭だけ他の馬とは別のレースをしているような美しいストライドで東京競馬場の長い直線を駆け抜けました。GⅠ級の能力を秘めるアンビシャスと直線で叩き合った16年の毎日王冠(GⅡ 東京芝1800m)も素晴らしいレースでしたが、「美しさ、速さ、強さ」という意味では昨年のエプソムカップがNO.1でしょう。

このGⅠ級の素晴らしい競走能力を秘めた馬も今年(2017年)で「もう」5歳。1番人気の支持を受けた桜花賞から数えてGⅠを8戦したものの、いまだ勝利をつかむことができていません。法人クラブオーナーの所有馬ですから、GⅠを取るチャンスは今年の秋がラスト……。もしこのまま無冠で競走生活を終えるなら、キューっと胸が締めつけられるほどの寂しさが……。

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GⅠ級の能力

ルージュバックは2歳新馬戦→きさらぎ賞までの3連勝で、一躍オークスを飛び越えて「日本ダービー候補」とまで騒がれた才女。ただ、圧倒的1番人気に支持された桜花賞で9着に敗れると、それからボタンはかけ違えられたまま……GⅠ未勝利で5歳の秋を向かえることになりました。これだけの馬がGⅠを勝てないという現実に、競馬の難しさを痛感する次第です。

今春、古馬牝馬のチャンピオン・マイラー決定戦「ヴィクトリアマイル」にGⅠ初制覇をかけてルージュバックが参戦しました。コース適性の高い東京競馬場でのレースとあって、この才女が再び輝きを取り戻すことができるのではないか? と期待しましたが、見せ場もなく10着と敗退。その後はノーザンファーム空港で休養し、秋のGⅠに備えることに。

牡馬相手のGⅠでも好走歴のあるミッキークイーンと叩き合って2着に惜敗したオークスの内容からも、ルージュバックはもろもろの条件さえ噛み合えばGⅠを勝てるだけの能力のもち主です。条件が整わないと凡走してしまう、言い換えれば弱点がはっきりとしている馬ですから、それさえケアできればGⅠ制覇も……と期待をしています。

 

ルージュバックの弱点とは?

ルージュバックがGⅠをいまだに勝てないのは、レースの展開や出走メンバーとの力関係、自身の適性に合った舞台でのレースなのか、あるいは体調が万全なのかなどさまざまな原因が考えられます。そのなかでも、この才女が抱えている大きな弱点は2つです。

 

1. 外に馬がいると伸びない

ルージュバックの弱点の1つは、直線で大外に出さないと伸びることはないという点です。馬群を割ることどころか、外からプレッシャーをかけられるような展開だとこの馬らしい伸び脚を発揮できません。ルージュバックは外からのプレッシャーを受けることの少ない7、8枠に入ったときは(3 - 2 - 0 - 1)という好成績を上げています。

2走前の金鯱賞はこの馬にとって最悪とも言える1枠からのスタート。田辺騎手に最初から外に張り付かれてしまい、直線も伸びずバテずの8着に敗退。昨年の天皇賞・秋はM・デムーロ騎手のリアルスティールに外に張り付かれて7着、ジャパンカップは外に出すタイミングがなく直線で最内に突っ込みましたが、まったく伸びる気配がなく9着に敗れました。エプソムカップ→毎日王冠と牡馬相手の重賞を連勝したときは直線で大外にもち出して鋭い脚を使ったように、外に馬がいなければスイスイと伸びてこれるのです。

 

2016年と17年のヴィクトリアマイル

2016年、5着に敗れたヴィクトリアマイルは初騎乗だったルメール騎手が直線で馬群を割るような進路を取ったため、ルージュバックは前へ進もうとせず、外に馬がいなくなった状態(大外を伸びたショウナンパンドラに抜き去られた後)になって初めてエンジンがかかって伸びかかるというチグハグな競馬。ルージュバックの弱点がはっきりと出たレースになりました。

10着に敗れた今年のヴィクトリアマイルは先行馬が内枠に入ったため、やや内目の4枠7番からのスタートであっても、もしかしたら……と思いましたが、スタートで後手を踏むと道中はずっとフロンテアクイーンに外を張り付かれてしまい、直線でも外に出せず……。もう、何度も何度も観たお馴染みのシーンで、勝ち負けは別にしてももう少しだけ彼女を気分よく走らせる方法はなかったのかな、と疑問に残る騎乗。

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大外枠に入れなかったときは、「逃げ」というレースプランも

大外枠に入ったのなら、昨年のエプソムカップや毎日王冠のように牡馬相手でも力を発揮できるので、外目をスムーズに追走して差し脚を活かす競馬でOK。ただ、昨年の天皇賞・秋から今春のヴィクトリアマイルまでスムーズに外目を走れないレースが続いているため、もし内目の枠に入った場合にはレースプランを「逃げ」か「最後方」かの2択に徹底する必要があります。

外に馬を置かないようにレースをするには、「逃げ」るか「最後方」から追い込むのかの2択しかありません。積極的に出して行ってハナを取ったとしても「かかる」馬ではないので、ルージュバックはスタートからの行き脚がつきさえすれば逃げても競馬ができるはずです。もう、中途半端な競馬ではなく、プランを徹底してレースに臨まなければならない時期にきています。

 

2. コーナリングが下手

ルージュバックは東京競馬場に良績が集中しているように、コーナーの緩いコースに向いています。これはコーナーをスムーズに曲がるのが苦手(コーナーでスピードに乗り切れない)だからです。東京競馬場であっても2400m以上の距離だとコーナーを4つ回らなければならないため、ベストは1800〜2000mになります。

 

東京のGⅠは?

コーナーの緩い東京競馬場で行われる秋のGⅠは天皇賞・秋とジャパンカップの2つ。どちらかと言えばコーナーの数が少ない天皇賞・秋がルージュバックにとってはベターです。中距離のトップホースが集まる1戦ですから楽な戦いは望めません。大外枠に入り、距離のロスを覚悟の上でずっと外目を追走する形になれば伸び脚を発揮できます。

ただ、大竹調教師はオールカマー→エリザベス女王杯というローテーションを明言しており、東京競馬場のGⅠを使う可能性はほぼ「0%」となりました。エリザベス女王杯の結果によっては強行軍でのジャパンカップ参戦ですが、カイ食いが細くなかなか体重が増えない馬だけに、難しいでしょうね。

 

エリザベス女王杯は?

牝馬限定のGⅠエリザベス女王杯は一昨年に出走し4着。京都の外回りコースで行われるレースですから、東京競馬場よりもコーナーでのスムーズさが要求される分だけ不利になります。問題は長距離輸送と今年の3歳牝馬のレベルの高さの2つ。

長距離輸送は馬体重が減りやすいルージュバックにとってはリスクのあるレース選択。5歳の秋ですからさすがに長距離輸送で大きく馬体を減らすことは考えにくいものの、ベストの体調でレースに臨めるのかは「?」がつきます。また、今年の3歳馬はハイレベル。コーナーに不安のあるルージュバックにとって、コースロスを承知で4コーナー手前から大外に出して仕掛けたとしてもまとめて前を交わせるだけの脚を使えるのかは……。

ルージュバックの母系に入るBlushing Groomのしなやかな血で京都の下り坂でスピードをつけ、コーナーで外へ大きく膨れるのもかまわずに大外一気に賭けるという一か八かの戦法も、GⅠタイトル手にするためであれば必要かもしれません。

 

オールカマーに向けて

ステファノスに騎乗す戸崎騎手に替わり、ルージュバックの鞍上は北村宏騎手が務めます。今春のヴィクトリアマイルでルージュに蓋をしたフロンテアクイーンの鞍上。今走では外に馬を置かない形で、この馬をエスコートできるのかな注目です。

オールカマーはどうしても3コーナー過ぎからのロングスパート戦になりやすいレースのため、外目を追走して直線で大外に出したいルージュバックにとって、スピードを上げながらコーナーを曲がれるのかは不安が先立ちます。

もし後ろからの競馬をするのであれば、もうコースロスなどお構いなしに4コーナーは大外をぶん回しで、しっかりとこの馬の末脚を引き出して欲しいところです。東京競馬場のようにスイスイと走ることはできないとしても、とにかく直線で大外に出せれば……。

内枠に入ってしまったとしたら、最大目標のエリザベス女王杯のためにも、北村宏騎手にはハナか外目の2、3番手に付けるレースを期待します。今走のオールカマーは逃げ・先行馬が薄いメンバーで、グランアルマダにせよマイネルミラノにせよ、スタートダッシュがそれほど速くはなく、主張しさえすれば好位は取れる組み合わせ。「逃げ」のオプションは前哨戦のここではなくエリザベス女王杯に取っておきたいものの、試すならこのレースしかありません。

 

まとめ

揉まれ弱いという気性的なものとコーナーが苦手という弱点をもっているルージュバック。裏を返せば、弱点が明確だからこそ「勝つために何をしなくてはいけないのか?」がはっきりとしているとも言えます。ウィークポイントをケアするレース運びで、エリザベス女王杯の前哨戦となるオールカマーを好走することができるのか……。GⅠ制覇へのラストチャンスとなる今シーズンは、この馬の力を100%発揮できるレース運びを期待しています。

才女のボタンは今秋もかけ違えられたままなのか、それとも……。

 

以上、お読みいただきありがとうございました。