8月20日(日)、サマー2000シリーズの第4戦「GⅡ札幌記念」が札幌競馬場を舞台に行われ、6番人気のサクラアンプルール(6歳牡馬 金成貴史厩舎)が4コーナーで前を走る先行勢を捲り、直線半ばで先頭に立つとナリタハリケーンの追撃を振り切って1着となりました。2着には後方から差してきた12番人気のナリタハリケーン、3着に1番人気のヤマカツエースが入線。勝ちタイムは2分00秒4(良)。
蛯名騎手の捲りが決まる札幌の芝
19日(土)、20日(日)に蛯名騎手は11鞍に騎乗し(3 - 3 - 0 - 5)という好成績。J・モレイラ騎手で湧いた札幌競馬場で気を吐いたレースを見せていました。芝のレースでは(3 - 2 - 0 - 4)と連対率は5割を超えています。この5つの連対の内、19日の2歳新馬戦(ダノングレース 2歳牝馬 国枝栄厩舎)の1着以外はすべて3〜4コーナーからの「捲り」でのもの。
19日、20日の札幌の芝は前週の雨で悪化した影響が残るややタフなコンディション。パワー型の種牡馬を父にもつ馬たちの好走が目立ちました。また、2歳戦や3歳未勝利戦を除くと逃げ馬は前で粘ることができず、3〜4コーナーから外目をスムーズに押し上げて行った馬が好走していたことからも、「良」発表だったとしても重い馬場だったのでしょう。
今年は不調だった蛯名騎手が……
現在(8月20日終了時点)、25勝を上げて全国騎手リーディングの31位につける蛯名騎手。昨年の62勝(リーディング12位)と較べても、今年は苦しい成績になっていることがわかります。
8月6日(日)の札幌6Rダート2400のレースで、単勝31.3倍の7番人気セイカエドミザカから馬連を勝ったのですが、下のTwitterに書いた通り「蛯名騎手だからと切った」ティーラウレアに勝たれてしまいました。この前日の土曜日、蛯名騎手は「出遅れ」を連発していたので、ティーラウレアを切ったのですが……。
札幌6R
— 白三点 (@hakusanten) 2017年8月6日
7.セイカエドミザカは理想的なレースができたものの、蛯名騎手だからと切ったティーラウレアに勝たれてしまうという……。チーン……。 pic.twitter.com/8XW4YJzRhw
もともと勝ち星を固め打ちする傾向の騎手ですから、19日(土)の(2 - 2 - 0 - 0)の時点でケアをしておかなければいけなかったのかもしれませんが、ここで重賞を勝ち切るのは想定外。サクラアンプルールは2着はあっても1着はないと予想していたので、この外捲りにはただただ驚きましたね。
サクラアンプルール 6歳牡馬
父:キングカメハメハ
母:サクラメガ(母父:サンデーサイレンス)
厩舎:金成貴史(美浦)
金鯱賞など重賞を4勝したサクラメガワンダー(父グラスワンダー)の半弟。アンプルールは兄と同じように内回り・小回りをパワーで捲る脚質に出ました。祖母サクラクレアーはサクラチトセオーやサクラキャンドルといったGⅠ馬も出している名繁殖牝馬。GⅡでも格負けしなかったのは、母系の質の良さの表れだと言えます。
この馬のペストパフォーマンスはネオリアリズムやロゴタイプといった強敵相手に2着した今年の中山記念(GⅡ 中山芝1800m)。母系に入るノーザンテーストの影響が出たピッチ走法で、中山の1800mをインからスルッと加速した脚はいかにも内回り・小回り向き。
コーナ距離の長い札幌であれば最内枠を利してイン好位から俊敏に直線で抜け出して来るものとばかり思っていましたが、札幌記念は「まさか」の外から強引に捲っての勝利。4コーナーでいくらか外へ膨れるのは承知の上で、一気にトップスピードに上げる捲りは「いかにも蛯名騎手」らしい乗り方でしたね。内で伸びあぐねるヤマカツエースやエアスピネルを直線半ばで交わして先頭に立つと、ナリタハリケーンの猛追を凌ぎ切っての1着。ノーザンテーストの成長力を見せつける6歳での重賞初制覇となりました。
今後について
サクラメガワンダーをやや細身にした馬体で、1800〜2000mがベスト。直線の長い東京や中京、外回りのコースであれば、OP白富士S(東京芝2000m)のようにドスローで上りだけの競馬にならないと苦しいでしょう。
今後はGⅠ戦線への出走となりますが、この馬が好走できる条件のレースとしては中山1800mのGⅡ中山記念か阪神内回り2000mのGⅠ大阪杯、GⅢ鳴尾記念あたり。今秋の中距離GⅠは東京競馬場の天皇賞・秋ですから、スローにならないと……。とは言え、同じキングカメハメハ産駒でピッチ走法のラブリーデイも天皇賞・秋を制覇していますから、スローの流れになればこの馬の出番もあるかもしれません。
2着:ナリタハリケーン8歳牡馬
ファビュラスラフィンの孫で、ジリジリとした持続力に富んだ脚をもつ差し馬。まず、ナリタハリケーンが好走した要因として、札幌記念のレースラップを見てみましょう。
▼'17年札幌記念のレースラップ
12.7 - 11.0 - 11.7 - 13.0 - 12.3 - 12.1 - 11.9 - 11.9 - 11.8 - 12.0
4F目で大きく緩んでからは残り1200mがすべて11.8〜12.3の範囲におさまる「速くも遅くもない」ペースで、ジリジリとした脚を使うナリタハリケーンにとっては最適な流れ。前走の函館記念は7着に負けたとは言え、2着とはそれほど差がなく、一定のペースであれば芝でも十分に走れるところを示していました。
急加速ができず、スムーズに馬群をさばきたいこの馬にとって、13頭立てのレースは歓迎。内枠からサクラアンプルールが仕掛けた後を追っての追い込みがバッチリとはまりました。
函館記念とこの札幌記念を観ても、トビの大きなナリタハリケーンにとっては小回りコースは割引。内枠からロスなくインを走れたことと有力馬が直線で伸びあぐねた分だけ、札幌コースにも対応できたのでしょう。直線のストライドの伸び脚はこの馬が1番でした。
今後について
8歳馬と思えないほどに馬体は若く、さばきやすい頭数で上りのかかる展開になれば芝のレースもOK。急加速を問われないレースであれば、今後の重賞戦線でも注目の1頭です。
3着:ヤマカツエース 5歳牡馬
1番人気「らしい」レースをした結果の3着。池添騎手はまるでGⅠ馬に乗っているかのように、横綱相撲で挑みましたが、「格」では勝ち切れない結果となりました。
池添騎手が1番人気らしいレースをしたのは以下の2つの点からわかります。
1. スタートしてすぐに進路を外目に取ったこと
2. 3コーナーから積極的に仕掛けたこと
内枠を利して好位のインが取れるほどの好スタートを切りましたが、池添騎手はすぐに外目に進路を取ります。インで包まれるのを避け、勝負所でスムーズに加速するため前のスペースをしっかりと確保しました。
向正面からはペースに緩みもなく、3コーナーから積極的に仕掛けたのはいかにも1番人気らしいもの。休養明けで反応が物足りなかった分だけ仕掛けも早くなったとは言え、人気馬として「自分のレースの形」はしっかりと見せました。
1番人気らしい負け方
休養明けの1番人気馬「らしい」負け方。むしろ、ゴール前でサウンズオブアースに外から並ばれかけた時に「グイっ」と前へ出たのは、さすがGⅡ勝ち馬といったところですね。少なくとも、1〜3番人気のなかでは最先着と力は見せていますし、1、2着馬には巧く乗られてしまったな、という印象。単勝オッズ2.7倍の1番人気らしい乗り方でしたが、このレースを「格」でねじ伏せることはできませんでした。
サウンズオブアース(4着)とエアスピネル(5着)
サウンズオブアースはしっかりと折り合って好位のインを追走。前を走っていたタマモベストプレイが下がってきたところで外へ進路を探している内に、ヤマカツエース、サクラアンプルールに外へ張り付かれてしまい、スピードに乗せたいところで動くことができませんでした。ただ、札幌の短い直線でもしっかりと伸びてきており、復帰戦としては上々の4着。海外遠征のダメージも見受けられず、秋のGⅠへ向けて好スタートの1戦だったと言えます。
GⅡ札幌記念('17年)は横山典騎手の逃げに期待してサウンズオブアースに◎を - ずんどば競馬
札幌コースは「ずんどば」なエアスピネルは好位でレースを進め、直線もジリジリと脚を使っての5着。折り合いもつきましたし、2000mという距離は問題ありませんでした。自厩舎で調整されての1戦で、この後しっかりと休養に入れば。今回はこの馬らしいコーナーでグっとスピードを上げる競馬が見れなかったのは残念です。ただ、この5着で人気に「翳り」も出るはずで、年末の有馬記念に出走してくれれば楽しみですが……。
I Dreamed a Dream 夢は札幌でーーエアスピネルのGⅡ札幌記念('17)展望 - ずんどば競馬
まとめ
上位人気馬を尻目にドンピシャのタイミングで捲った蛯名騎手の好騎乗が光った今年の札幌記念。このまま「ややタフ」な馬場コンディションが今度の土日も続くようなら、芝は「捲り」がドンドン決まるかもしれませんね。
以上、お読みいただきありがとうございました。