「キタサンブラックの1強」と言われた昨年の宝塚記念(GⅠ・阪神芝2200m)は、主役と目された現役最強馬が直線で「いつもの」粘りを欠くなか、外からしなやかなストライドでグイグイと伸びたサトノクラウンが1着でゴール板を駆け抜けました。
宝塚記念で初めて国内GⅠを制した(✳)サトノクラウンは連覇をかけて同レースに臨みます。しなやかにストライドを伸ばすこの馬にとって、阪神競馬場の内回りコースで行われる春のグランプリは自身の適性に合っているとは言えない舞台。昨年の勝利は鞍上のM・デムーロ騎手がロングスパート戦にもち込む「ミラクル」な騎乗あってのもの。本質的には直線の短いコースは不向きなだけに、グランプリ・ホースらしい走りができるのかに注目です。
✳︎サトノクラウンは4歳時に国際GⅠ香港ヴァーズを制しています
現6歳は近年の「最強世代」
サトノクラウンは2歳新馬→東京スポーツ杯(GⅢ・東京芝1800m)→弥生賞(GⅡ・中山芝2000m)とデビューから3連勝を飾りました。クラシック・タイトルをかけて挑んだ皐月賞は、1番人気に支持されながらも6着に敗退。このレースを勝利したのはサトノクラウンと同厩舎の2冠馬ドゥラメンテでした。「怪物」と呼ばれる傑出馬が同世代にいたことは、この馬にとってアンラッキーとしか言いようがありません。
さらに、2016年の年度代表馬に輝いたキタサンブラックがドゥラメンテに替わる強敵として、4歳時のサトノクラウンに立ちはだかります。ドゥラメンテ、キタサンブラック、シュヴァルグラン、リアルスティール、ミッキークイーン、ルージュバックなど現6歳は近年のなかで「最強世代」。サトノクラウンの初GⅠ制覇が「香港ヴァーズ」というのも、この世代の層の厚さを物語っています。
今年の宝塚記念に出走を予定している馬のなかで、GⅠタイトルをもつ6歳馬はサトノクラウンのみ。同世代のシュヴァルグランが不出走ですから、最強世代の1頭としてこの馬の走りに期待しましょう。
サトノクラウン 6歳牡馬
父:Marju
母:ジョコンダⅡ(母父Rossini)
厩舎:堀宣行(美浦)
生産:ノーザンファーム
サトノクラウンがR・ムーア騎手を背に東京スポーツ杯2歳Sを勝った瞬間、「翌年のダービーはこの馬がゴール板を1着で駆け抜けるのでは?」と背筋に電気が走ったのを覚えています。それほどまでに、しなやかにキレた脚は溜息が出るほどに美しかったのです。
古馬になってから、その美しいストライドは「キレ」よりも現役屈指の「持続力」をもつ末脚となりました。ゴールまで残り1000mであれば、1F11.5前後のスピードで実直に駆け続けられるスタミナとパワーはキタサンブラックに勝るとも劣らないもの。歴史的な不良馬場となった昨年の天皇賞・秋でのキタサンブラックとの叩き合いは、サトノクラウンの強靭な持続力を物語っています。
ロングスパート戦なら現役屈指
母父RossiniはMiswaki直仔のスプリンター。サトノクラウンがフワリと先行して持続的な脚で伸び続ける姿は、父ブラックタイド×母父サクラバクシンオーのキタサンブラックとかぶります。香港ヴァーズも京都記念(GⅡ・京都芝2200m)の連覇も宝塚記念もロングスパート戦からしぶとく脚を使っての勝利。宝塚記念は前半1000mを60.6で通過すると、残り1200mのラップが11.7 - 11.6 - 11.8 - 11.7 - 11.8 - 12.2ですから、サトノクラウンにとってはもち味を活かせるタフなレースとなりました。
ストライド走法はコーナーが苦手?
サトノクラウンはしなやかなストライド走法なので、コーナーでスピードアップするのが苦手(✳︎)です。そのため、阪神内回り2200mの宝塚記念よりも東京芝2000mは条件が好転します。
✳︎ストライド走法の馬がコーナーでスピードを上げるには、外に膨れるコースロスを覚悟しなければなりません。器用にコーナーを回れないので、その分体力をロスします
内回りの宝塚記念は向正面の直線でデムーロ騎手がサトノクラウンを促し、レース全体のペースを引き上げる展開にもち込みました。「コーナーで加速するよりも直線でスピードを上げてしまう」デムーロ騎手のレースプランがズバリとはまり、この仕掛けが結果としてサトノクラウンの得意なロングスパート戦を誘発。4コーナーから抜群の手応えで直線に向き、大外をグイグイと伸びての1着をもぎ取りました。
コーナー区間の長い阪神内回りコースはスムーズにスピードを上げられず、ストライド走法のサトノクラウンには苦しい舞台。後はこの馬の得意とする持続戦になるかどうかでしょう。
重馬場が得意?
サトノクラウンは稍重〜不良馬場でのレースは(4 - 1 - 0 - 1)の好成績。着外となったのは一昨年の宝塚記念6着のみと、タフなレースで強さを発揮しています。不良馬場となった昨年の天皇賞・秋を2着と好走したように、水が浮くような馬場もOKです。
母ジョコンダⅡはしなやかな血のMr. ProspectorとSir Ivorのクロスをもつことから、欧州血統としてはコテコテのパワータイプではありません。この馬が日本の馬場にフィットするのはこれらの血を引くからでしょう。ただ、上りの速いレースは不得意ですから、高速馬場なら一雨が欲しいところです。
宝塚記念に向けて
昨年の同レースは「少頭数の大外枠+非高速馬場+ロングスパート戦」とサトノクラウンにとっては願ってもない条件が揃いました。内回りコースでストライドを活かすためには、距離のロスを承知の上で外目をスムーズに押し上げる必要があり、頭数の揃う今年はそれが叶うのかどうか……。
ノーザンファーム生産馬+堀厩舎とあって、ドバイからの遠征帰りはそれほど心配しなくてもOKです。すでに関西への長距離輸送も経験していますし、昨秋に崩した状態面が上がっていればチャンスもあります。
高速馬場だと……
現在の阪神芝はかなりの高速馬場。近畿地方はこの1週間グズついた天気になる予報が出ているものの、どこまで馬場が悪化するのかはわかりません。ただ、20日(水)にはかなりの雨量が想定されるため、少なくとも時計の速い馬場でのレースにはならないと考えられます。
上りの速いレースを不得意とするサトノクラウンにとって、多少でも馬場が渋るのはプラス。昨年のようなタフなコンディションは大歓迎と言えるでしょう。
まとめ
サトノクラウンは自身の得意とするレースになれば現役屈指の競争能力をもつ馬だけに、ロングスパート戦→上りのかかる競馬になるのかどうかが、好走に向けての大きなポイントです。今年は出走メンバーの多くがGⅠ勝利に色気をもって臨むはずで、その分だけペースが速くなる可能性も十分にあります。
ゴールドシップ以来となる宝塚記念の連覇をサトノクラウンは成し遂げることができるのでしょうか?
以上、お読みいただきありがとうございました。