3歳牡馬クラシックの第1冠・皐月賞(GⅠ・中山芝2000m)は、1人気のコントレイル(矢作芳人厩舎・栗東)が3〜4コーナーの中間から「うっとり」するほどの手応えで大外を捲ると、先に内を抜け出した2人気サリオスをねじ伏せて1着入線を果たしました。勝ちタイムは2分00秒7(稍重)。
コントレイルは昨年のサートゥルナーリアと同じく、「ホープフルS→皐月賞→ダービー」のローテーション。最小のダメージでダービーに迎えるとあって、2冠がなるのかに注目が集まります。
現3歳のクラシック路線に変化が……
皐月賞の前にTwitterにて以下のことをつぶやきました。
皐月賞
— 白三点 (@hakusanten) 2020年4月19日
(前段のお話し)
「ダービー>皐月賞」
この図式があるからこそ、皐月賞に直行する馬がいるわけで、トライアルを使いながらも皐月賞をスキップする馬もいるわけです。
もし図式が反対なら、皐月賞を全力で仕上げて、ダービーは余力で使うとなるわけですからね。
レイデオロでの失敗を活かし
NFはサートゥルナーリアで「直行で皐月賞を制す」ことができました。
— 白三点 (@hakusanten) 2020年4月19日
そして、サリオスは同じく、ダービーに向けての仕上げでここを制するかどうか……。
コントレイルはノースヒルズがNFと同じ芸当ができるのかは不透明。皐月賞直行が成功するかは……。
ヴェルドライゼンテとサトノフラッグは
厩舎の傾向と追い切りから、あきらかに皐月賞を取りに来ている様子が見えます。
— 白三点 (@hakusanten) 2020年4月19日
→狙ったからといって取れるかは半々です
で、先週の桜花賞のように、非NF生産馬が皐月賞を勝てるのかが今年のポイントでしょう。
今年の桜花賞と皐月賞はともに非ノーザンファーム生産馬が優勝。また、デアリングタクトはエルフィンS→桜花賞、コントレイルはホープフルS→皐月賞というローテーションで臨んだことも共通しています。
この2頭のように「トライアル(の重賞)・レースを使わずにGⅠへ向かう」というローテーションが確立されたのは、ノーザンファームの経験と技術(外厩も含む)をフル活用したアーモンドアイとサートゥルナーリアの成功によるものです。
ここ数年のノーザンファームは3歳クラシックにおいて、「いかにダメージを減らして春のGⅠを勝つか?」に注力していました。牡馬を例に上げるなら、「皐月賞→ダービーの2冠」を達成するためのローテーションを数年かけて試行錯誤していたのです。
ドゥラメンテ→サートゥルナーリア
3冠馬ディープインパクトを除き、ノーザンファーム生産馬として初めて「皐月賞→ダービー」の2冠を制したのは2015年のドゥラメンテです。
ドゥラメンテは「共同通信杯→皐月賞」のローテーションで臨み、トライアル・レースをスキップしました。ノーザンファームにとっての大きなターニング・ポイントは、おそらくこの成功によるものでしょう。
その後の2017年にレイデオロが「ホープフルS1着→皐月賞5着→ダービー1着」のローテーションを歩むと、一部のファンから「皐月賞がダービーのトライアル・レース」などと揶揄されたこともありました。
そして2019年、ドゥラメンテに続く春2冠を目指して、サートゥルナーリアが「ホープフルS1着→皐月賞1着」を連勝。いよいよ迎えたダービーを4着と敗退したのは記憶に新しいところでしょう。
非ノーザンファームによるGⅠ直行ローテ
2020年、ノーザンファームの確立した「トライアルをスキップして桜花賞や皐月賞に臨む」というローテーションを実行したのは、非ノーザンファームであるデアリングタクトとコントレイルでした(✳︎)。
✳︎)ノーザンファーム生産馬のサリオスは、これまでに経験がない「朝日杯FS→皐月賞」という新しいローテーションを開拓しています
非ノーザンファーム陣営であっても、トライアルをスキップしてGⅠを制することが可能になったことで、今後は牡馬であればスプリングSや弥生賞、毎日杯などの重賞レースの質が変化するはずです。
JRAの3歳クラシック路線はここ数年でドラスティックに変化しています。それこそ、トライアル・レースやGⅠは「ノーザンファーム生産馬+外厩仕上げを買っておけばOK!」という時期もありましたが、それはもう一昔前の話になりかけています。
これから、どのようにクラシック路線が変化していくのか、私たちは大きな変わり目を注視する必要があるでしょう。
コントレイルに囁かれた不安説
1人気に推されたコントレイルは週中から土曜日にかけて、いくつかの不安説が囁かれました。主なものは以下の3点です。
・道悪の馬場コンディション
・1枠1番からのスタート
・両前脚にエクイロックス
馬場コンディションと枠順
おそらく、勝ちタイムが1分58秒0前後になるような高速馬場のコンディションであれば、コントレイルの1枠1番はこれほどまでに不安視はされなかったでしょう。
2014年の馬場改修以降に行われた皐月賞で、高速決着になったのは以下の4年です。
・2015年
勝ちタイム:1分58秒2
前後半1000m:59.2 - 59.0
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・2016年
勝ちタイム:1分57秒9
前後半1000m:58.4 - 59.5
---------------------------------------------
・2017年
勝ちタイム:1分57秒9
前後半1000m:59.0 - 58.9
---------------------------------------------
・2019年
勝ちタイム:1分58秒1
前後半1000m:59.1 - 59.0
前後半1000mのラップを見てもわかるように、高速馬場で行われる皐月賞はほぼイーブンラップとなるのがデフォルト。3コーナー過ぎからペースアップすることが多い(馬群がばらけやすくなる)ため、道中でインのポジションにいたとしても、「前が壁」になるような不利を受けることは少なくなります。
また、日曜日の「日差し+気温の高さ」によって馬場が急速に回復し、皐月賞の前に行われた芝のレース(8・9R)はあきらかな外差しの馬場へと変化していました。福永祐一騎手が3コーナー過ぎから大外を回って進出できたのも、コントレイルの競争能力の高さと馬場の変化によるものだと思います。
エクイロックスについて
エクイロックスとは釘を打たずに競走馬の蹄鉄を固定する方法のことです。充填剤を用いて蹄鉄を接着することにより、蹄の薄い馬(もともと釘を打てない)や裂蹄(蹄が裂けること)の馬に効果があると言われています。
各競馬メディアが皐月賞のフォトパドックを公開した際に、Twitterにおいてコントレイルのエクイロックスが話題になりました。それまで使用されていなかったエクイロックスが使われていたのですから、蹄の状態を気にする人が出てくるのも仕方のないことでしょう。
ディープインパクト、ウォッカ、アーモンドアイなど高い競争能力をもつ馬たちがエクイロックスを使用していたことは有名ですし、レースにどの程度の影響を与えるのかは厩舎関係者か装蹄師でもないかぎりわかりません。
私たちは「わからないことはわからない」と認識し、それを踏まえた上でのリスクマネジメントをするしかないのです。
1着コントレイル&2着サリオス
1着のコントレイルと2着サリオスは3着を0.6秒引き離しました。上位2頭はここだと競争能力が頭ひとつ抜けていたと言えるでしょう。
1着コントレイル
コントレイルの血統などについてはブログの記事に書いているので、よければそちらをご覧下さい。今回は皐月賞の勝利の要因とダービーの展望を解説します。
皐月賞の勝利について
逃げたキメラヴェリテの1000m通過は59.8。この日の馬場コンディションを考えるとGⅠにふさわしいペースでの通過でした。ただ、800〜1200の2Fでガクンとペースが落ち、これによってレースの質は大きく変わります。
▼皐月賞のレースラップ
12.2 - 11.3 - 12.1 - 11.8 - 12.4 - 12.9 - 12.2 - 11.9 - 11.8 - 12.1
青色の文字で示した1Fが最遅の区間です。1000m通過の手前からキメラヴェリテと2番手以下の距離がグッと縮まり、ここから4コーナーにかけて馬群全体も凝縮していることがわかります。
この「1F12.9」と中弛みが生じたことで、後方に待機していた馬たちは体力を大きくロスすることなく先行集団に追いつくことができました。コントレイルが大外を抜群の手応えで捲れたのも、800〜1400mの区間で「12.4 - 12.9 - 12.2」と12秒台が3F続いたことによります。
ラスト4Fが「12.2 - 11.9 - 11.8 - 12.1」といかにも皐月賞らしいラップとなりました。コントレイルは「11.9 - 11.8」とペースの上がった区間を大外から馬なりで進出したのですから、能力的に頭ひとつ抜けていたパフォーマンスを披露したと言えます。
福永祐一騎手はスタート直後から「外目に出すタイミング」を図っており、レース前に勝負所の3〜4コーナーで大外を回すことを決めていたのでしょう。この勝利は腹を括った福永騎手のレースメイクによるところも大きかったですね。
ダービーに向けて
近年のダービーは「2000mがベスト」の中距離馬が活躍するシーンが多く、その点は1800〜2000mがベストのコントレイルにとって大きなプラス材料。
そもそも、しなやかなストライドで走る馬なので、適性は「東京>中山」です。ダービーは皐月賞よりもパフォーマンスが上がるでしょうから、どのような走りを披露するのかが楽しみな1頭と言えます。
2着サリオス
Twitterでも書いたように、サリオスに騎乗したD・レーン騎手は土曜日と日曜日がまるで別人のような変わり様でした。
D・レーン騎手
— 白三点 (@hakusanten) 2020年4月19日
上手すぎる、というか、落ち着いて騎乗している。
9Rは測ったように外差し、12Rは外差し馬場だと分かっていても、ゴール前までもたせてしまう。
皐月賞は好スタートから逃げ・先行勢を行かせて5番手くらいで流れになると、4コーナーでウインカーネリアンとキメラヴェリテの間をすっと割ってから馬場の外へ誘導するあの動き……あまりにもスムーズ過ぎて「うわっ!」と声が出ました。
先述したように、キメラヴェリテの逃げは3〜4コーナーでスピードを上げて先行勢いに取り付いた中団・後方待機馬に有利な流れでしたから、サリオスとしては噛み合わなかったレースだったと言えるでしょう。不向きな流れでもこれだけのパフォーマンスを出せるのですから、能力の高い馬であることは間違いありません。
血統
母サロミナはドイツ血統の好繁殖牝馬。半姉のサロニカ、サラキアの2頭はともに牝馬クラシック路線に駒を進めました。母はドイツ血統らしいしなやかさを産駒に伝えますが、サリオスの場合は母系のデインヒルが前面に出た「ゴリゴリなマッチョ体型」。姉たちと異なるパワー体型となったのは、牡牝のセックス・バイアスによるものでしょう。
ハーツクライ産駒のA級馬は4歳になってから一皮むけることが多い(ジャスタウェイやスワーヴリチャードなど)ものの、母系にNorthern Dancerのクロスをもつ馬(オークス馬ヌーヴォレコルトやダービー馬ワンアンドオンリーなど)は3歳の早期から活躍することもあります。
サリオスはデインヒルをベースとしたNorthern Dancerのパワーが表現されており、これが中山などの直線の短いコースでも手応え十分に先行できる源です。血統的には奥深さのある馬ですが、デビューから皐月賞までのパフォーマンスを見ると、完成度の高い馬なのだと考えられます。
ダービーに向けて
ストライドも伸びる馬なので東京コースそのものを苦にするわけではありません。ただ、最大の特徴であるパワフルなフットワークからは、ゴール前に急坂のある中山や阪神コースがベストなのでは……と。
ハーツクライ産駒らしいゆったりしたい胴をしているので、距離適性は2000mまでOKでしょう。距離の延びるダービーで大きくパフォーマンスを落とすことはないはずですが、「東京芝2400mはずんどば!」と言えるほどの説得力に欠きます。
皐月賞はあきらかにダービーに向けた仕上げでした。本番に向けて体調そのものはアップしてくるでしょうから、この期間にコントレイルを逆転できるだけの成長を見せられるのかにも注目です。
馬券は……
皐月賞の予想はTwitterにアップした通りです。
皐月賞
— 白三点 (@hakusanten) 2020年4月19日
◎ビターエンダー
◯ヴェルトライゼンテ
△ダーリントンホール
上位人気ではサリオス→サトノフラッグ→コントレイルの順番。
◎は馬体重が470kg以下というのだけが引っかかるけれど、アフリートもちなので大外枠は歓迎。
ビターエンダーはパドックの雰囲気も良かったですし、津村騎手のポジション取りも悪くはありませんでした。ただ、3〜4コーナーで中弛みが起きたときには「う〜ん、これはイヤなペースになったな……」と思った矢先に、外からコントレイルに捲られてしまい、項垂れるしかなく……。
とは言え、◎ビターエンダーは納得してのものですし、おそらく雨の影響のない高速馬場でも◎にしたと思います(パンパンの良馬場なら、ヴェルトライゼンテとダーリントンホールは買い目に入れていなかったですが……)。
まとめ
コントレイルの息を呑むほどの素晴らしい大外捲り、サリオスのエロティックな4コーナーの捌き、この2つを観れただけでも「皐月賞が開催されて良かった!」と思うのです。
JRAの開催が今後どうなるのかは不透明なものの、素晴らしいレースをひとつでも多く施行されることを祈っています。
以上、お読みいただきありがとうございました。