1:57.8のレースレコードになった皐月賞(2017年)はアルアインが1着ーー回顧

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クラシック1冠目のGⅠ皐月賞は時計の速い芝で行われ、池江寿厩舎のアルアインが直線で馬群を割って伸び、内で粘るペルシアンナイトを差し切りました。勝ちタイムは1:57.8のレースレコード。鞍上の松山弘平騎手はGⅠ初制覇となりました。

 

中山芝の高速化

皐月賞は中山開催の最終週に番組として組まれているため、レースを重ねて芝が傷んだコンディションになるのがデフォルト。

2014年に「排水性の向上」を目的とした路盤の改修工事が施され、15年以降は雨量があっても傷みにくい馬場へと変わってきています。

2017年、皐月賞の前週に開催された中山は土日ともに終日雨が降る中でのレースとなり、路盤の改修工事が施されて以降、初めて重馬場まで芝のコンディションが悪化しました。全体と上りの時計がかかる馬場となり、その影響が皐月賞の週にも現れるのではないかと考えた人も多かったのではないでしょうか。ところが、蓋を開けてみれば、皐月賞の行われる週の土曜日から速い時計が連発する高速の馬場へと変化。日差しが出て気温が上がればあっという間に芝が乾いてしまい、高速馬場になることを再認識させられた皐月賞でした。

 

ディープインパクト産駒の連覇

2016年までディープインパクト産駒が勝てないクラシックと言われたのが皐月賞と菊花賞。皐月賞は上り時計のかかる小回りコースへの対応、菊花賞は長距離の壁とそれぞれに理由がありましたが、昨年のディーマジェスティ、サトノダイヤモンドの勝利によってそのジンクスも破られました。

皐月賞に関しては路盤改修工事によって開催の最終週でもそれほど上りのかからない馬場へと変化したことが大きく、これで、ディープインパクト産駒はディーマジェスティ、アルアインと連覇を達成。

 

社台系ファーム生産馬の1〜3着

2017年の皐月賞は1〜3着までを社台系ファームの生産馬が独占しました。

2017年GⅠ皐月賞(中山芝2000m)

1着:アルアイン ノーザンファーム

2着:ペルシアンナイト 追分ファーム

3着:ダンビュライト ノーザンファーム

そのなかでもノーザンファームの勢いは目覚ましく、'14〜'17年まで3年連続して馬券圏内に2頭を送り込むという離れ業をやってのけています。今年の皐月賞に出走したノーザンファーム生産馬は6頭ですから、3分の1の確率で走っているわけで空恐ろしい……。

春の牡馬クラシックは生産者にも注目です。これは来年以降にも使えると思うのでメモメモ。

 

レース内容

それではレースについて張り切って回顧してみましょう。

 

展開

大外のトラストが好スタートでしたが、ファンディーナ、アルアイン、アダムバローズが一カタマリとなってゴール板前を通過し、1角でアダムバローズが注文をつけてハナに立ちます。2番手にトラスト、ファンディーナは3番手のインのポケットにおさまり、外からアルアインとクリンチャーが先行勢を形成して向こう正面へ。前半の1000m通過が59秒フラットの平均ペースで流れ、M・デムーロ騎手のペルシアンナイトと福永騎手のカデナが内をするすると上がっていき、スワーヴリチャードは少しずつポジションを後ろへ下げてしまいます。

4角手前からトラストとクリンチャーが抜群の手応えでアダムバローズを交わしにかかり、その後ろをファンディーナが捲り気味に進出、アルアインは各馬が外目を捲り出したところでポジションを少し下げてしまい、そこから松山騎手が手綱を激しく動かして直線へ。

ファンディーナとダンビュライトが馬場の真ん中へ出し、その外をウインブライト、スワーヴリチャード、ペルシアンナイトが内に突っ込み、アルアインはファンディーナとクリンチャーの間を割って伸びてきます。今日の馬場状態だと外へ出した組は苦しくなってしまい、残り100mではアルアインとペルシアンナイトの池江寿厩舎2頭が抜け出しての叩き合い。アルアインが半馬身でたところがゴールでした。

 

全体のラップは?

JRAの発表している公式のラップ推移はーー

12.1 - 10.8 - 12.2 - 11.7 - 12.2 - 12.4 - 11.9 - 11.4 - 11.4 - 11.7

前半と後半の1000mが59.0 - 58.8とイーブンのペースで、3〜4角からの捲り合戦というのはいつもの皐月賞とほぼ同じ流れ。とくに、残り800mからの持続戦になりました。この流れを外目から捲って3着に入線したダンビュライトの持続力はかなりのもので、1、2着馬には離されてしまったものの好内容のレースと言えます。レースの上りが35.0と速く、内をスルスルと縫ってポジションを押し上げたペルシアンナイト以外は先行勢の決着になったことからも、高速馬場で外目を捲り差す馬たちにとっては厳しい展開になってしまいました。

 

アルアイン 1着

3〜4角にかけてファンディーナに前へ入られたところで手応えが悪くなり、ずるっと後退してポジションを下げたものの、そこから立て直して馬群を割って伸びてきたのは素晴らしいの一言。有力馬はファンディーナをマークする形で外目を捲る形になったので、直線は内目を走れたことが大きかったとは思います。ストライド走法の馬なので4角でそれほどスピードが落ちなかったのは驚きでした。スピードに乗ってしまえばバテずに脚を使えるタイプで、坂を駆け上がるときの走りはいかにもパワー型らしい重厚なストライドを見せました。

 

血統

父:ディープインパクト

母:ドバイマジェスティ(母父:エッセンスオブドバイ)

厩舎:池江泰寿(栗東)

生産:ノーザンファーム

母のドバイマジェスティはBCフィリー&メアスプリント(GⅠ ダート1400m)勝ち馬。その父エッセンスオブドバイはアメリカの名種牡馬Pulpit直仔のダート血統です。母系は代々パワー型の種牡馬がかけられ、強いクロスをもたないのが特徴。母に受け継がれた血がしなやかなディープインパクトに足りないパワーを補っているのでしょう。父と母それぞれが高い競走能力をもっていた馬で、その能力が上手く掛け合わさったのがアルアインだと言えます。

アルアインは重厚感のあるフォームからも「スパッ」と斬れる脚ではなく、持続力に優れた脚を武器にするタイプ。時計のかかる馬場はそれほど苦にしませんが、Pulpitの父A. P. Indyはストライド走法を伝える種牡馬のため、この馬も本質的には直線の長いコースに向きます。

 

ダービーに向けて

今年の皐月賞は、2着にペルシアンナイトが入線したことからも1600〜1800mで好走してきた馬がスピードを活かすことのできる展開と馬場だったと考えられます。現時点で、アルアインは1800mがベストのタイプに見えるので、さらに距離が伸びるダービーでどうなのかは微妙なところ……。ただし、ストライド走法ですから直線の長い東京コースに替わるのはベターで、ダービーが中弛みの瞬発力勝負のようなレースになればチャンスは十分にあるはずです。

 

ペルシアンナイト 2着

向こう正面でM・デムーロ騎手がインからするするとポジションを押し上げて行ったのは圧巻で、3角手前でファンディーナの直後につけたのはさすがの一言です。ペースが上がった3〜4角では前を見る形でじっと我慢し、各馬が外目に出して行く4角で仕掛けながらもコースロスなく回って来れたのが今回の好走につながりました。

驚かされたのは馬群の中で揉まれてもきっちりと脚を使えたことで、外目に出さないと伸びないタイプの馬だと思っていましたが、今回のようなレースができたのは今後に向けても大きな収穫に。

斬れるタイプのハービンジャー産駒で、高速馬場も合っていたものの、最後にディープインパクト産駒に負けてしまったのは残念……。ハービンジャー産駒のGⅠ初制覇お預けとなってしまいました。

 

血統

父:ハービンジャー

母:オリエンタルチャーム(母父:サンデーサイレンス)

厩舎:池江泰寿(栗東)

生産:追分ファーム

父のハービンジャーはヨーロッパの名マイラー・デインヒルの孫にあたり、産駒には前駆でかき込むパワーを伝えます。種牡馬として洋芝の函館や札幌での勝ち上がり率が高いこともこのパワーから説明がつきますが、雨が降った重馬場やダートはあまり得意ではありません。

ペルシアンナイトがパワーだけではなくストライドも伸びるので、こうやまき賞やアーリントンCなど直線の長いコースで実直に伸び続けるレースが合っています。これは母オリエンタルチャーム(ゴールドアリュールの全妹)に祖母ニキーヤの父Nureyevのパワーと実直なスピードが伝わっているからでしょう。

 

ダービーに向けて

アーリントンCを余力十分に完勝したこと、そして皐月賞でのパフォーマンスからもペルシンアナイトは2000mがベストの距離。斬れるタイプのハービンジャー産駒で上りの速い競馬にも対応できるのが長所です。ダービーは2000mがベストの瞬発力型が勝ちやすい舞台。4角6番手から34.1の上りを使えたのはダービーに向けて視界良好と言ったところでしょうか。

 

ダンビュライト 3着

好スタートから終始楽な手応えで先行。4角手前でファンディーナとともに捲り気味に進出し、直線ではジリジリと伸びて3着を確保しました。先行勢のなかでもっとも外目を回りながらしぶとく脚を使えたのは馬個体としてのポテンシャルの高さを示すもので、今後も持続戦になれば重賞でも好走可能だと思います。

胴長でどちらかと言えば直線の長いコースに向いているのですが、ダービーは瞬発力勝負型に分のある舞台。皐月賞は低評価(12人気)を覆す好走を見せたのですから、ダービーの舞台でどのような走りをするのかは注目したいですね。

 

他の有力馬について

ここでは上位人気に支持されていた、ファンディーナ、スワーヴリチャード、カデナ、レイデオロの4頭について簡単に解説をします。

 

ファンディーナ 7着(1人気)

4角から外目に出して捲ると直線では一旦先頭に立つ走り。前走のフラワーCと違ったのは岩田騎手がゴーサインを出してから、「びゅん」と弾ける脚が使えなかったことです。しなやかでパワーのあるフォームはやはり高いポテンシャルをもっている馬の「ソレ」で、直線で弾けなかったのは能力がどうこうではないと思います。

馬群のなかでもスムーズに追走をしていましたし、岩田騎手は4角でストライドを活かすために外へ誘導したのもファンディーナのことを理解している騎乗だったので、直線でギアが入らなかったのは不思議としか言いようがないですね。

次走がオークスにせよダービーにせよどちらも東京コースで行われますから、長い直線であの雄大なフォームからどのような脚が繰り出されるのかは注目です。

 

スワーヴリチャード 6着(2人気)

好スタートから1角までは先行勢のすぐ後ろに位置していましたが、向こう正面から外目に出して行き3〜4角でもじっと我慢の競馬。4角手前から四位騎手が促し始め、追い出しはほぼ直線に入ってからでした。今日の馬場ではあの位置と仕掛けだと前を交わすのはかなり厳しい展開。ジリジリとストライドを伸ばした走りをしているので、ダービーでは皐月賞よりも着順を上げてくるとは思いますが……。

走るフォームを見ていてもまだ馬体に緩さがあって、小回りの中山ではどうしてもコーナーでスピードに乗せられないのが難点です。東京コースに替われば中山よりもスピードに乗せやすくはなるはず。後はダービーまでにどれくらいの成長があるのかが鍵になりそうです。

 

カデナ 9着(3人気)

スタートは五分に出ましたが、1〜2角にかけて自然と下げて最後方の位置取り。福永騎手は向こう正面で外に出すかどうかを図っている感じの追走に見えましたが、ペルシアンナイトが内をすくって行くのに応じて内へ進路を取ります。3〜4角はスムーズな追走で直線は馬場の真ん中へ出して追うものの伸びずバテずの9着という内容。今日の馬場ではあの位置から前を交わすのは難しかったと思います。それに加えて、道中の追走である程度脚を使いながら最後にもうひと脚を使うというタイプの馬ではなく、こちらもスワーヴリチャードと同じようにダービー向きなのでしょう。

皐月賞よりもダービーで着順を上げるとは思いますが、「勝ちに行く」競馬であれば、もう少し前で流れに乗れないと苦しいと思います。

 

レイデオロ 5着(5人気)

ほぼ最後方の追走から4角手前で少しずつポジションを上げ、各馬が外目に進路をとったので、直線はコースロスなく内目を追い込んでの5着。

競馬の内容としてはいかにも叩き台といった感じのレースで、今日の馬場とペースでは5着まで押し上げるのが精一杯だったと思いますし、ダービーに向けての試走に徹したとも言えます。脚は見せましたが、ダービーでは皐月賞とは異なる乗り方をしないと勝ち負けまでは……。

 

予想

ダンビュライトが……ダンビュライトが……

◯アルアイン→▲ペルシアンナイトの馬単がかろうじて…当たりました。

 

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まとめ

開催最終週にも関わらずレースレコードでの決着になった皐月賞。1:57.8のタイムではマイルの追走力のある馬でないとなかなか上位に食い込むのが厳しかったという内容。

松山騎手のGⅠ初制覇、M・デムーロ騎手の思い切った手綱捌きも含めて見応えのあるクラシックレースでしたね。

終わってみれば、ノーザンファームと追分ファームの生産馬、そして池江寿厩舎のワンツーですから、伝統のある「クラシックらしい」決着でもありました。

これで、ノーザンファームは3年連続で2頭が馬券圏内ですから、来年の皐月賞まで覚えておきたいデータになります。

 

皐月賞が終わり、いよいよ競馬の祭典ダービーへと各馬が向かいます。

 

以上、お読みいただきありがとうございました。