福永騎手のワグネリアンは皐月賞(2018年)を好走できるのか?ーー血統や走りの特徴を解説!

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4月15日(日)、3歳牡馬クラシックの第1冠・皐月賞が中山競馬場の芝2000mで行われます。

デビューから4戦4勝のダノンプレミアムが回避したことで、ステップレースを好走したワグネリアン(弥生賞2着)とステルヴィオ(スプリングS1着)のノーザンファーム生産馬2頭が上位人気に押し出されました。この2頭は「ストライド走法+差し・追込み脚質」とあって、小回りの中山コースに不安を抱えています。

今年の皐月賞は上位人気の2頭がスンナリと好走し順当な結果になるのか、それとも、スワーヴリチャードやレイデオロが差し届かなかった昨年のような波乱の決着になるのでしょうか?

 

上位人気の2頭について

今年の皐月賞で1、2人気を分け合うのはワグネリアンとステルヴィオの2頭です。どちらも上位人気に推されるだけの実績と高い競走能力をもっています。

ワグネリアン

デビューから3連勝で東京スポーツ杯2歳Sを制し、「クラシック候補」と呼ばれた素質馬。前走の弥生賞はダノンプレミアムに次ぐ2着と休み明けを考えれば及第点の走りでした。

ステルヴィオ

デビューから(3 - 2 - 0 - 0)と安定感のある走りを見せ、2着に敗れたのはダノンプレミアムが勝ったサウジアラビアRCと朝日杯FSの2つ。この世代ではトップレベルに位置する1頭です。

ワグネリアンとステルヴィオは今年の桜花賞でも1〜3着を独占したノーザンファーム生産馬というのも、より人気を後押しする一因となっています。

ステルヴィオについては先日、皐月賞に向けての展望記事を書いていますので、よければ以下をご覧下さい。今回の記事ではワグネリアンについて解説します。

 

ワグネリアン 3歳牡馬

父:ディープインパクト

母:ミスアンコール(母父キングカメハメハ)

厩舎:友道康夫(栗東)

生産:ノーザンファーム

騎手:福永祐一

中京芝2000mで行われた新馬戦は、良血の評判馬ヘンリーバローズと直線で叩き合い、ワグネリアンは上り32.6の鋭さで差し切り勝ち。

✳︎ヘンリーバローズはシルバーステートの全弟。母シルヴァースカヤの2016が昨年のセレクトセールにおいて2億6000万円で落札されました

中京コースが改修された2012年以降、平地競走の上り3F最速となる32.6をマークしたこのレースは、前半1000mが67.0秒と超のつくスローだったとは言え、後半1000mが12.2 - 12.4 - 11.2 - 10.9 - 11.0と5Fのロングスパート戦。上り3Fの速さを問われる新馬戦ではなく、後半1000mで優秀なレースラップを出したのは、1着ワグネリアンと2着ヘンリーバローズの高い能力を示すものです。3着以下を0.9秒離したこの2頭は、掛け値なくオープン級の馬だと言えます。

ヘンリーバローズが全兄シルバーステートをオーヴァーラップさせるパワーで坂を駆け上がったところを、スイスイとしなやかな走りで伸びたワグネリアンの脚は、祖母ブロードアピールの「鬼脚」を彷彿とさせる素晴らしさでした。エンジンがかかってからグイグイとストライドを伸ばすのがワグネリアンの最大の長所で、現状は直線の長いコースがベターでしょう。

 

課題が山積の上位人気馬

ワグネリアンはデビューから東京スポーツ杯2歳S(GⅢ・東京芝1800m)まで3連勝を飾り、「クラシック候補」と呼ばれました。もし、ダノンプレミアムがサウジアラビアRC→朝日杯FSであれほどの競走能力を見せていなければ、この馬が皐月賞・ダービーの中心馬となっていたはずです。

前進気勢の強さからくる折り合いの難しさ、スタートから好ポジションを取れないこと、休み明けだった弥生賞で大きな馬体の成長がなかったことなど、皐月賞に向けての「課題」は山積しています。だからこそ、「グリグリの1人気」に押されてはいません。

 

血統

ワグネリアンは本馬の馬主・金子真人氏が所有していたディープインパクトとキングカメハメハ2頭の名競走馬がかけ合わされて産まれました。祖母のブロードアピールも金子真人氏の所有馬でしたから、個人馬主とは思えないほどですね……。

祖母ブロードアピールは芝・ダート不問の短距離の追い込み馬。血統表の中にTurn-toやPrinsquilloなどのスピード血脈で固め(✳︎)られ、Northern Dancerをもたないのが大きな特徴です。その仔たちからはまだ重賞級の馬が出ていないものの、好確率で勝ち上がっているように、ブロードアピールは好繁殖牝馬と言えるでしょう。

✳︎ブロードアピールはTurn-to4・4×5、Prinsquillo5×5などスピード血脈を豊富にもちます。また、Turn-toの父Royal Chargerはスピード血脈の代表格Nasrullahと二アリーの血統。

ワグネリアンの血統表 | 競走馬データ - netkeiba.com

ブロードアピールにNorthern Dancerクロスをもつキングカメハメハが配されたのがワグネリアンの母ミスアンコール。そこにディープインパクトがかけられたので、血統表の4分の1にあたるブロードアピールが非Northern Dancerの異系となっています。ワグネリアンの血統表の面白さはこの祖母の血統によるものでしょう。

ワグネリアンのバネは父ディープインパクトとキングカメハメハの母父ラストタイクーン、ブロードアピールから引いています。そして、この馬が柔らかすぎないのも、祖母に入る異系のパワー血脈によるものです。

 

イメージはアルアインとミッキークイーン

福永騎手は皐月賞に向けたインタビューのなかで、ワグネリアンの課題として「エンジンのかかりが遅い」ことを上げています。

近年のディープインパクト産駒で「エンジンのかかりが遅い」のはアルアインとミッキークイーンの2頭。ともに加速に時間がかかるため、小回り・内回りコースだと4コーナーでビュンと反応できません。

ワグネリアン、アルアイン、ミッキークイーンに共通するのは、母系にスピード血脈が多く入っていることです。アルアインの母ドバイマジェスティはNasrullahとRoyal Chargerを計10本、ミッキークイーンのミュージカルウェイはNasrullahとPrinsquilloを計8本引きます。

アルアインが小回りの皐月賞や内回りの大阪杯の4コーナーでもたつくのも、ミッキークイーンが内回りの秋華賞でズブさを見せたのも、この豊富なスピード血脈に由来する「緩慢さ」によるもの。

ワグネリアンが弥生賞で坂を駆け上がってからもう一度伸び返したのも、昨年の皐月賞でアルアインがゴール前でペルシアンナイトを差し切ったシーンとかぶります。ですから、「バネのあるアルアイン」というのが本馬の見立てです。

 

皐月賞に向けて

「ノーザンファーム生産馬+友道厩舎+福永騎手」の組み合わせですから、クラシック・レースを好走するための「準備」はしっかりと整っています。福永騎手はデビューから手綱を取っていますし、人馬の信頼関係の面でも不安はありません。

 

不安点は?

不安点は以下の3つ。

1. 中山コースへの対応

2. ベストは1800m

3. 内枠

 

中山コースへの対応

小回り+急坂の中山コースは、エンジンのかかりが遅く、直線の長いコース向きのストライドで走るワグネリアンにとってはマイナス。また、弥生賞のレースでも直線の坂を駆け上がった後で伸びていたことから、平坦コースがベター。

 

ベストは1800m

「ディープインパクト産駒+友道厩舎+金子真人HD」のダービー馬マカヒキは2000mがベストの中距離馬でしたが、ワグネリアンは前進気勢の強さを考慮すると、それよりもやや距離適性は短めです。皐月賞が重馬場や1.5秒以上の前傾ラップになり、スタミナとパワーを求められるレースであれば、この馬は苦しくなりますね。

 

内枠

ワグネリアンは1枠2番に入りました。スタートの安定しないこの馬にとっては、「インに包まれる」+「後方に下げてから大外へ」というレースになる可能性が高く、やや不利な枠ですね……。すぐ外にコーナーを器用に立ち回れるジャンダルム+武豊騎手が入り、もし、この直後のスペースを取れるなら、大チャンスのシーンも……。

✳︎上位人気馬のなかで前目のポジションからレースを動かせるのは、ジャンダルム+武豊騎手ですから、その直後の馬にはスペースができやすく、レースの流れに乗ることもできます。

昨年はファンディーナがレースを動かしたところを、その周りにいたアルアインとペルシアンナイト、ダンビュライトの上位独占でしたね。

 

重馬場適性は?

競走馬としてのワグネリアンはアルアインやミッキークイーンと似ているため、昨秋の菊花賞のようなスタミナと精神力が切れた馬から脱落するサバイバル戦にならなければ、重馬場にもソコソコには対応できます。ただ、上りがあまりにもかかるようだとマイナスです。

 

ワグネリアンが勝つ理想の展開は?

今年の皐月賞のレースを動かせるのは、武豊騎手のジャンダルムとM・デムーロ騎手のキタノコマンドールが有力。

そのなかでも、El Prado直仔のKitten's Joyを父にもち、コーナーでの器用さとパワーに優れたジャンダルムがレースの鍵を握っており、福永騎手がこの直後のポジションさえ取れれば、昨年のアルアインやペルシアンナイトの走りを再現できるでしょう。

福永騎手は自分からレースを動かすことの少ない反面、レースのキーポイントを握る馬を目標に仕掛けるのが巧みです。そのため、弥生賞のようにジャンダルムを前に置き、中団のインを取りきれるなら、チャンスは大きくなりますね。

 

まとめ

ワグネリアンはダノンプレミアムが朝日杯をハイ・パフォーマンスで勝つまで、クラシックにもっとも近い馬と目されました。

デビューから手綱を取り続けた福永騎手が、この馬を皐月賞馬へと導くことができるのか、今からレースが楽しみですね。

以上、お読みいただきありがとうございました。