競馬界において1年の節目となる東京優駿(日本ダービー)が終わると、来年の3歳クラシックに向けて2歳馬たちが続々とデビューを迎えます。2歳のOP戦はここまで重賞の函館2歳Sを含めて5鞍行われ、カシアス、アマルフィコースト、ステルヴィオ、タイセイプライドといった素質馬たちが2勝目を上げました。JRAの2歳戦はこの後、小倉と新潟の2歳重賞もあり、ますます目が離せません。
GⅢ函館2歳Sを勝ち、この世代で初めての重賞ウィナーとなったカシアスは栗東の清水久詞厩舎の管理馬。清水久調教師と言えば、現役最強馬キタサンブラックを管理していることでも知られています。
清水久厩舎の今年の2歳世代はなかなかに粒が揃っていて、厩舎の勢いそのままに滑り出しが好調です。3戦2勝2着1回のカシアスを筆頭に5頭が勝ち上がると、2歳戦はここまで(8月13日終了時点)で(6 - 3 - 3 - 5)と素晴らしい成績。今回の記事では清水久厩舎の2歳馬に焦点をあて、馬券に行かせるスイート・スポットについて考察します。
清水久詞厩舎の2歳戦の成績 '17年8月13日終了時点
清水久厩舎の2歳馬は8月13日終了時点で計17レースに出走し、成績は(6 - 3 - 3 - 5)。これをまとめたのが以下の表になります。
▼2歳戦の成績(8月13日終了時点)
日付 | 競馬場 | 馬 名 | 着順 | 人気 | 前走レース | コース |
6/18 | 東京 | ウィズ | 7 | 4 | 2歳新馬 | 芝1600m |
6/18 | 東京 | エングローサー | 3 | 3 | 2歳新馬 | 芝1400m |
6/18 | 函館 | カシアス | 2 | 6 | 2歳新馬 | 芝1200m |
7/1 | 中京 | シャルルマーニュ | 3 | 3 | 2歳新馬 | 芝1600m |
7/1 | 函館 | カシアス | 1 | 1 | 2歳未勝利 | 芝1200m |
7/2 | 中京 | ノーボーダー | 3 | 2 | 2歳新馬 | 芝1400m |
7/9 | 中京 | エングローサー | 5 | 5 | 2歳未勝利 | 芝1600m |
7/16 | 中京 | ノーボーダー | 5 | 5 | 2歳未勝利 | 芝1400m |
7/16 | 中京 | キタサンダイドー | 4 | 5 | 2歳新馬 | 芝2000m |
7/23 | 中京 | シャルルマーニュ | 2 | 4 | 2歳未勝利 | 芝1600m |
7/23 | 函館 | カシアス | 1 | 1 | GⅢ函館2歳S | 芝1200m |
7/30 | 新潟 | エングローサー | 1 | 2 | 2歳未勝利 | 芝1600m |
8/5 | 小倉 | キタサンダイドー | 5 | 5 | 2歳未勝利 | 芝1800m |
8/5 | 小倉 | シャルルマーニュ | 1 | 3 | 2歳未勝利 | 芝1800m |
8/12 | 札幌 | ハイヒール | 1 | 1 | 2歳新馬 | 芝1500m |
8/13 | 新潟 | クレバーバード | 1 | 7 | 2歳新馬 | 芝1600m |
8/13 | 新潟 | ビッグスモーキー | 2 | 3 | 2歳新馬 | ダ1800m |
6、7月の2歳戦はレースに出走する頭数が少ないため、大きな着順を取ってしまうことはまれです。とは言え、4着以下になった5回の内、掲示板外になったのはウィズの7着だけと全体的に好走していることが表からもわかります。
また、1番人気の指示を受けたのはカシアスの未勝利戦とGⅢ函館2歳S、ハイヒールの新馬戦の3鞍だけ。平均の人気が3.529、平均の着順が2.765着ですから、しっかりと人気以上に走っていることも大きな特徴です。
ちなみに、単勝をベタ買いすると回収率は100%を超えます。これは8月13日の新潟の新馬戦を勝った7番人気クレバーバードの単勝が1,850円だったから。レースのサンプル数が少ない場合、回収率はちょっとした人気薄が好走しただけで100%を超えてしまいます。また、このような数字(回収率)を見るときには、母数の多少と極端な人気薄の好走には注意しましょう。偏差が大きいと全体の数字が歪むことがあるからです。
それでは、ここまで新馬・重賞を勝ち上がった期待馬のカシアスについて見ておきましょう。
清水久厩舎から勝ち上がった2歳馬
清水久厩舎の管理している2歳馬のなかで1勝以上を上げているのは5頭。まずはGⅢ函館2歳Sを勝ったカシアスを見ておきましょう。
カシアス 2歳牡馬
父:キンシャサノキセキ
母:ラブディラン(母父:ディラントーマス)
馬主:カナヤマホールディングス
カシアスの曾祖母ピュアグレインはアイルランドとヨークシャー・オークスに勝った名牝で、GⅠ高松宮記念を制したファイングレイン(父:フジキセキ)の母ミルグレインの全妹にあたります。カシアスの父はフジキセキ直仔のキンシャサノキセキですから、カシアスとファイングレインは8分の3は同血の間柄。母ラブディランは父父デインヒルと母母父Polish PrecedentのDanzigのクロスが特徴的で、この間にアメリカ血統のMr. Prospector系の種牡馬Gone Westが入るのも好感のもてる配合です。
ラブディランの血統表 | 競走馬データ - netkeiba.com
デインヒルとPolish PrecedentはDanzigを父にもち、母系にBuckpasserが入るところが共通しています。カシアスはこのDanzigをクロスすることで、よりスピードとパワーが発現していると言えるでしょう。
デインヒルの血統表 | 競走馬データ - netkeiba.com
Polish Precedentの血統表 | 競走馬データ - netkeiba.com
カシアスはスプリンターとしては長手の体型で、成長するとともにファイングレインのような1400mベストのスプリンターに成長していくのだと考えられます。3歳の春まではマイルも十分にこなすはずです。
函館2歳Sのレース内容について
函館2歳Sの勝ち時計は1分10秒0(良)、レースのラップは以下の通りです。
12.1 - 10.7 - 11.7 - 11.6 - 11.6 - 12.3 = 70.0
この日の函館はやや時計のかかるコンディションで、1分10秒0はほぼ標準の時計。同日の2歳未勝利戦(芝1200m)が1分10秒5、3歳以上1000万下の潮騒特別(芝1200m)が1分9秒1ですから、3歳以上500万下クラスと同等の時計です。函館2歳Sの過去の勝ちタイムと比較しても時計面での優劣はとくに見られません。
カシアスは直線に入ってゴールまで残り200mを切った地点で左にヨレ、その後は浜中騎手が重心を右に置いてしっかりと真っ直ぐ走らせていたように、このレースはただ勝つだけではなく、「競馬を教える」という側面もあったことがパトロールビデオからもわかります。それだけに、着差以上の完勝というレース内容でした。
ムチも一発しか使用しておらず、しっかりと外を回って走り切ることがこのレースでの最大の目的だったのでしょう。それくらい浜中騎手はこの馬に期待しているのかもしれませんね。現時点では、清水久厩舎の2歳馬のなかでもっとも期待が集まる1頭です。
その他の4頭について
カシアス以外の4頭については新馬や未勝利を勝ったばかりの馬なので、馬主と生産牧場を上げておきます。目立つのは馬主のカナヤマホールディングス。清水久厩舎からはカシアスだけではなくシャルルマーニュとウィズがすでにデビューし、2頭が勝ち上がり。ウィズは現在放牧に出されており、戻ってきて初戦の未勝利戦はそれほど人気にならないでしょうから注目です。
馬 名 | 馬主 | 生産牧場 |
カシアス | カナヤマホールディングス | 谷岡牧場 |
シャルルマーニュ | カナヤマホールディングス | 山際牧場 |
エングローサー | 中村忠彦 | 土居牧場 |
クレバーバード | サンデーレーシング | 社台コーポレーション白老F |
ハイヒール | 石川達絵 | ノーザンF |
社台系ファームであれば、新馬戦が7番人気だったクレバーバードのようにソコソコの人気でもしっかりと走ってくるので、注意が必要。ハイヒールもそうでしたが、ここまで清水久厩舎の2歳馬が1番人気になっている場合はすべて勝ち切っているのも特徴です。
今後はどうなるのか?
クラシックを展望するような期待馬は、夏ではなく秋の開催にデビューすることが多いため、清水久厩舎の好調も夏競馬が終わる札幌・新潟・小倉開催が終わった後はしばらく様子を見た方がベター。反対に、それまでは好調が続く可能性が高いので、新馬戦で調教師欄に清水久の名前を見かけたら、馬券購入を検討してみるのも……。
楽しみな2歳馬をピックアップ
さて、まだデビューしていない馬のなかから、清水久厩舎の楽しみな2歳馬を1頭ピックアップしてご紹介します。取り上げるのは牝馬のプリズマティコです。
プリズマティコ 2歳牝馬
父:Medaglia d'Oro
母:テルアケリー(母父:Tapit)
馬主:サンデーレーシング
父Medaglia d'Oroはアメリカのダート中距離GⅠを3勝したものの、クラシック3冠やブリーダーズC、ドバイワールドカップといった大レースには手が届きませんでした。種牡馬としては初年度から名牝レイチェルアレクサンドラがGⅠを制した他、その後もコンスタントに活躍馬を輩出。日本ではGⅢ愛知杯(中京芝2000m)を制したエーシンメンフィス、今年のGⅢアイビスサマーダッシュ(新潟直線芝1000m)を2着と好走したフィドゥーシアなど芝もOKな産駒が出ています。Medaglia d'Oroの父El PradoはSadler's Wells直仔ながら早熟のマイラー。この馬の母系に入るSir IvorとTom Foolが芝向きの馬を出している要因でしょう。
母テルアケリーはTapit×タバスコキャット×Alydarと北米の一流種牡馬が掛けられており、ここに欧州Sadler's Wells系統のMedaglia d'Oroですから、形としては好配合。
プリズマティコは血統表にディープインパクトと好相性な血が多く配されているため、競走馬としただけではなく、繁殖牝馬としても大きな期待が集まります。Sir IvorやUnblidled(Fappiano直仔)なんて、ディープをつけて下さい!と言いたくなってしまうほどに魅力的な配合。アメリカ血統で固められているものの、しなやかな血も十分に取り込んでいることから、日本の芝で走れる下地は十分。芝の新馬戦でデビューするようなら、その走りに注目したい1頭です。
まとめ
清水久詞調教師の管理する2歳馬たちがこのままの勢いで厩舎の勝ち星を量産していくことになるのか、秋以降のレースに注目です。まだまだ厩舎人気にはなりにくいでしょうから、2歳戦に人気薄の馬が出走していたらシメシメ……ができるといいのですが……。札幌・新潟・小倉の開催が終わるまでは清水久厩舎の2歳馬はしっかりとチェックしておきましょう。
以上、お読みいただきありがとうございました。